8.見せかけの平和
「何あれ!!信じられない!!」
可愛い顔を醜く歪ませて廊下を足早に歩くのはクリスティーナ。
「あのバカップル、絶対に思い知らせてやるわ!」
クリスティーナは、先刻のユージィンとダイアナのやり取りの一部始終―――それこそ、ユージィンがダイアナに顔を寄せてキスをしようとしている所から、前回のキスをカウントするかしないかのくだらないやりとりまで―――を見て、完全にプッツンした。
怒りのまま、クリスティーナが向かった先は、とある教師のいる部屋。
「ルノワール先生!!」
勢いよくドアを開け放ったクリスティーナに少々驚きつつも、ルノワール先生と呼ばれた男は穏やかな態度を崩さない。
「おや、どうしましたか?クリスティーナ。」
「私とユージィンの親密度を見てもらえませんか?」
*説明しよう!*
ルノワール先生は、乙女ゲームによくいる攻略お助けキャラだ。先生に相談すれば、気になる彼との相性や現在の親密度がまるわかり!クリスティーナは乙女ゲームのヒロインの本能で、先生に相談すれば色々わかることを知っていたのだ。
ちなみにルノワール先生は、飄々としていて掴みどころがない。その先生らしからぬ適当な感じが生徒に受けて人気者だ。
*説明終わり*
「いいですよ~。この間見た時は熟しきっていましたからねえ。若者は良いですよね。先生も恋人が欲しいですよ……おでん一緒に食べてくれる人もいないんですよ……おや?」
「どうしましたか?」
クリスティーナが緊張の面持ちで聞く。
「親密度が……地に堕ちています!ゼロです!クリスティーナ、あなた、何かやらかしました?何だか黒い気配まで漂っているようです!」
覚悟していたとはいえ、まさかゼロとは。
私に落ち度はない。原因は絶対にあのダイアナ様だ!!
クリスティーナは何かを決意した野獣のような眼をして言った。
「わかりました……。では、他の殿方たちとの親密度を教えてください。」
*****
あれから数週間、クリスティーナが私やユージィンに話しかけてくることはなくなった。
私は相変わらずぼっちで、ユージィン以外の友達などできやしない。ユージィンがいなかったら、完全に孤独だ。
夏期休暇前は、毎日誰かとお昼ご飯を食べたり授業に移動したりしていた。
今思えば、権力を傘に他人に無理強いをしていたのだ。
ユージィンは、王たるものは孤高にして孤独なものだとか言って、ぼっちをむしろ誇りに思っているようだけど。
「ユージィンは悪魔だからそれで良いのかもしれないけれど、私に関しては人としてどうかと思うわ。」
黒髪を風に揺らしてユージィンが笑った。
「気にしなければよいのに。私がいるのだから。」
悔しいことに、確かにユージィンがいるのといないのとでは、今の私の学園生活はまるで違う。でも、ユージィンは友達という感じがしない。友達でなければ、何なのだろう……と考えてみたが、よく分からなくなってくる。
ううむ、と考え込む私を見て、ユージィンが言った。
「可愛い使い魔を召喚できないこともない。子猫のようにふわふわの毛をして、ぬいぐるみのようにあざとい顔をした使い魔がいる。」
「本当!?見てみたいわ!」
「ただし、私の本来の力が戻らないと無理だ。ダイアナが『大魔王様』と呼んでさえくれれば良いのだが。」
「またそれ!」
「そうして、世界を征服していつまでも幸せに暮らそう!」
「すごい事考えてる!」
ダメだ……。使い魔見たさに悪魔に力を与えてしまってはいけない。
今ある平和を大切にしよう……。
そう思った矢先の出来事だった。




