7.魔王VSヒロイン
本日5回目の更新です。
次の更新は明日になるかと……ブクマ&評価くれた皆様、ありがとうございます!!
昼休みにぼっちで―――いや、正確にいうと、ぼっちの私とぼっちのユージィンのぼっち同士で―――昼食を取っていると、クリスティーナが話しかけてきた。
「ユージィン様、ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
「良い。話せ。」
言われたクリスティーナは、私の方を見て困ったような顔をした。
私が居ては困るのだろう。
「ダイアナはこのままだ。早く話せ。」
察したユージィンがクリスティーナを再度促す。クリスティーナも私がいることを諦めて話し出した。
「ユージィン様とダイアナ様の婚約は解消されているのですよね?」
何だって?!
「ユージィン様は私にお約束なさいました。必ずダイアナとの婚約は解消すると。そうしたら2人は、ユージィン様と私は、正式に結ばれるのだと。」
何てこと……。ユージィンとクリスティーナの仲がここまで進んでいたとは……。私がユージィンに嫌味を言ったり、クリスティーナを虐めたりしている間に2人は愛を育んでいたんだ……。今まで、クリスティーナが邪魔者だと思っていたけれど、邪魔者は完全に私だった。邪魔者のくせに1人で空回って酷いことを沢山した。なんて最低なんだろう。
1人打ちのめされている私にお構い無しにユージィンがクリスティーナに言った。
「気が変わった。婚約破棄はしていない。ダイアナを手放すつもりはない。」
これにはクリスティーナの方が顔面蒼白になった。
「どうしてですか?!だって確かに……」
何だかクリスティーナが可哀想になってきた。これは、もしかしなくとも修羅場というやつでは……。
「わからないか?お前では私の興味は惹かれないのだ。」
クリスティーナを一瞥する瞳のなんて冷たいことか。
「ダイアナのこと、我儘で底意地が悪いって言ってたじゃない……!」
「その上自分勝手だな。そこが私の愛しい人の可愛いところだよ。」
ちょっと幸せそうに笑っているユージィン。
えーと、とりあえずここに私の味方はいない、という事だろうか。
「ダイアナと別れた暁には、一緒にイチャついて見せつけてやろうって約束したのにぃ……!」
え……。そんな事約束してたの?ユージィンってそんな人だったの?これにはさすがの私も正直ドン引きする。
「貴様はそういうのがお望みなのか。いいだろう、私のものに手を出そうとした罰を受けるがよい。」
言うが早いか、ユージィンは私を抱き寄せて、わざわざクリスティーナに見せつけるように私の唇の周りを指でなぞった。
「望み通り、見せつけてやる。ただし、貴様に、だ。」
……何を言ってるんだこの人!いや、この悪魔!
怖くてクリスティーナの顔が見れない。気配だけで怒り狂ってるのがわかる。
ユージィンは冷たい瞳でクリスティーナを睨みつけながら――――あ、これ、キスされる!私の直感がそう言ってるわ!
ゴン!
私は頭を思いっきり前に繰り出してユージィンの顔に頭突きをした。
「………………。貴様、将来の伴侶の顔に、頭突き食らわせるか?」
あ、怒ってる。
「だって、今キスしようとしてたでしょ!!」
「何を恥ずかしがっている。1度したというのに……。」
恥ずかしいというか……。それに1度した、だって?
私は夏期休暇中のあの日の出来事を思い出す。
「違う!あれは触れてない!ノーカン!ノーカン!」
「そうか?確かに触れたと思ったのだが。」
不貞腐れるユージィン。
何だかちょっと可愛い……とか思ってしまった自分の気持ちを打ち消して。
「そういえば、クリスティーナは?」
「逃げたようだな。」
見れば、クリスティーナはどこにもいなくなっていた。
「なんでキスで逃げるの?」
意味がわからない、と不思議がっている私にユージィンが言った。
「ああ、鏡の法則だ。人間にはな、そいつがやろうとしていることを鏡のように返してやると効くんだ。覚えておくがよい。一部の悪魔にも有効だ。」
「鏡の法則……?」
「そうだ。例えば、悪魔達の晩餐会があったとしよう。乾杯も済んでアルコールが回った頃、必ず『その杯に泡酒を注ぎしましょうか?』と聞いてくるやつがいる。そういうやつはな、泡酒を注ぎたいのではない。本当は注いで貰いたいのだ。見れば大抵そいつの杯は空になっているし、『いえいえ、注ぎしますよ。』といえば断るやつはまずいない。
善事にしろ悪事にしろ、鏡の法則は作用する。あいつは嫌がらせで見せつけてやると言っていた。ということは、見せつけるという行為は、あいつには嫌がらせとして有効だということだ。」
「はあ。そんなもんですかねえ。」
この前ようやく人間の心の勉強をはじめた一年生としては大変ためになる。って、悪魔に教わっているようじゃ全然ダメだ。
「そんなもんだ。」
実際にクリスティーナはいなくなっているので、そんなもんなのだろう。
こうして、この日は他に何が起こるでもなく平和に過ぎ去っていった。