5.婚約破棄?
本日3回目の更新です。
夜にまたいくつか順次アップしていくつもりですので、よろしければお付き合いください。
ではでは。
昨日は色々なことがありすぎた。
午前中から午後までぼーっと過ごしていると、邸宅の外から馬の蹄と馬車の音が聞こえる。
今日は来客の予定だったかな……まあ、私には関係のないことである。
そう思っていたら、勢いよく部屋のドアが開き、母親が飛び込んできた。
「ダイアナちゃん!ユージィン様がお見えよ!早くお支度を整えなさい。」
ユージィンが来た?!
一体なんの話をしに……。
優しい、白いユージィンは、私と婚約破棄をするつもりだった。昨日会った黒いユージィンは、私を自分のものにすると言う。
どっちの話が出るのだろう。まったく予想がつかない。
支度を整え、ユージィンのいる応接間に入ると―――ユージィンはお父様に肩をガッチリと抱えられていた。
「卿には必ず我が娘の魅力が伝わると思っていたわ!いやあ、よかった!」
「当然です。ダイアナのような女性はめったにいるものではありません。私が彼女に相応しいのか不安になりこそすれ、私の方から婚約破棄などある筈ありません。」
なんてことだ。現れたのは黒いユージィンだった。いや、見た目は金髪碧眼のいつものユージィン様なのだけれど。
何やらお父様と意気投合しているではないか。
「おお、私の可愛いダイアナよ。」
私に気づくと、お父様は「後は若い2人でな。」といって、そそくさと部屋を出ていってしまった。
二人きりになると、早速黒いユージィンが迫ってくる。
近い近い、顔が近い。
「言っただろう。私は貴様を逃す気などないと。婚約破棄の話なぞ、へし折ってやる。」
えーと、元々破棄したがってたのはそちらの方なのですが。
「……ユージィンの御両親はどうされてますか?」
昨日の、お見送りの際の御両親のほっとした顔が忘れられない。
「今頃はまだ二日酔いで寝ている。昨日はワインを2人で6本も空けて享楽の限りを尽くしていた。我が身の復活に相応しい日であった!」
ああ、よくわからないけれど、気の毒なことになっている!
私は意を決して黒いユージィンに向かって話しかける。
「優しいユージィン、戻って来てください。お願いです。」
言いながら十字を切る。黒いユージィンの中にいる本物のユージィンに届くことを願って。
黒いユージィンは鼻で笑うと、
「そういう意味では、貴様の好きだったユージィンは最早いない。私も初めはユージィンという青年に自分が取り憑いたのかと思ったのだが、それにしては、ユージィンの17年間の記憶が感情を伴って生々しいのだ。時が経つにつれて、その感情も覚醒した私に馴染みつつある。つまりは、ユージィンは私自身。貴様の好きなユージィンは、覚醒前の私だ。」と言い放った。
「納得したか?好きな男の全てをありのまま受け入れるがよい、ダイアナよ。」
黒いユージィンは、私の手をとると、両手で包み込み、そのまま身を屈めて私の唇に、触れるか触れないかの、かするようなキスをした。
あまりの事に固まった私から出たのは、
「黒い…ユージィン…が、本物のユージィン様……」という、嘆きとも何ともいえない呟きのみ。
その瞬間、ユージィンの髪が昨日のように黒く染まる。
「ふむ。ダイアナの''黒いユージィン''という言葉に反応したか。ダイアナの言葉なら、間接的な言葉でも効くのだな。昨日、使用人に大魔王様と言わせた際には何も起こらなかったが。」
ちょっと待て、そんな事したの!
「ああ悪魔!私なんかより、あんたには、殺人鬼とか詐欺師とか、とにかくもっと相応しい女性がいるでしょう!」
悪魔という言葉に反応して、今度はユージィンの目が紅く妖しく煌めく。
ユージィンは、困ったように首を傾けると、
「私はあなたが良いのだ。ほかの誰でもなく。」と言った。
「でもユージィンは私の事が嫌いだったはずよ!!」
ああ、言ってしまった。昨日、私の心を打ち砕いた言葉を、自分でも。
ユージィンは私の目を覗き込むと、ゆっくりとその形のよい唇で言葉を紡いだ。
「確かに、覚醒前の私はあなたを大層嫌っていた。憎しみも抱いていた。しかし、私は悪魔だ。覚醒前に抱いていた嫌悪、憎悪、それらが全て今の私の糧となって、私にはあなたがとても愛しい。」
そうして、私の手を捕らえた手に少し力を込めると、再び顔を寄せてくる。
2度目のキスの直前でユージィンを思いっきり押しのけると、私はそのまま逃げ出した。
何?何だって?
憎悪が愛に変わったと?
ていうか、それほどまでに私はユージィンに憎まれていたんだ……。
そうして、逃げながら、思った。
何てこと―――人生で初めて口説かれたわ。しかも悪魔に。