3.変身
「キャ―――――ッ!!」
あまりの事に、私は絶叫した。
「うるさい。何だと言うのだ。」
ユージィンが不機嫌顔で睨みつけてくる。顔の造作はユージィンなのに、髪の色と目の色が違う。
「髪が!黒い!目が!紅い!」
叫ぶ私の言葉に反応してユージィンが鏡を覗き込む。
「ほう…。私の本来の姿に近くなった。何故だ?貴様の言葉に反応したのか……。貴様がユージィンの中の私に気がついたからか?」
なんだかブツブツ言っているが、勘弁して欲しい。こっちは、今まで自分が成してきた事の意味に気づいて傷心だというのに。
黒髪のユージィンは、ツカツカと私の目の前にやってくると、真剣な顔で言った。
「貴様に興味がわいた。その傲慢な心根に加えて、見せかけの虚構に騙されない真実を見抜く力を持っているとは。」
「ななな何を仰ってるんですか。」
そうして、あろうことか、私の手の甲にキスを落とした。
「――――!?」
真っ赤になって、とられた手を奪い返す。婚約者だけど、ユージィンにはこんなことされた事は1度もない。
「貴様が私の本当の名を口にすれば、私は私の姿で現世にいられるのかもしれない。」
何を言い出しているのだろう。訳がわからない。
「さ、言うんだ!大・魔・王・様と!」
「えっと、何かの冗談でしょうか?」
「冗談なわけあるか!さあ、早く!」
「絶対に嫌!それよりも、私の好きな人を、ユージィン様を返してよ!」
私の言葉に、黒いユージィンは、はたと考え込んだ。
「……そうであった。貴様は見た目には騙されぬ人となりだったな。」
いや、もはや明らかに見た目も違うのですが。
「まあよい。いずれ貴様の方から言いたくなるはずだ。貴様の身も心も、全てがいずれ私のものだ。」
「――――ッ!?」
顔が赤くなるどころではない。心臓が嫌な音を立て、頭がガンガンする。
「私と貴様は婚約しているのだったな。都合がいい。」
そういうと、黒いユージィンは、さも愉快そうにハッハッハと笑った。
約束の時間が過ぎると、メイドがドアを開けてそれを知らせてきた。青ざめている私を見て、メイドは若干嬉しそうな顔をしたが、すぐさま取り繕うように無表情になった。
ふと、ユージィンを見ると―――金髪碧眼に戻っていた。これでは、私が騒ぎ立てした所で私が変な人になるだけだ。
それに、自分で言うのも悲しいが、ここでの私の評判は地に堕ちている。誰も私なんかの言うことに本気で向き合ってはくれないだろう。
それにしても、さっき、あんなに悲鳴をあげたのに、どうして誰も来てくれなかったんだろう。
この日は何故かユージィンの両親も見送りにきた。今までありがとう、と何故か感謝の言葉まで貰った。
こうして私は、落ち着かない気持ちで家に帰った。