13.魔王覚醒
地響きがして、黒いオーラのようなものが地面から一斉に噴き出す。オーラの中心にいるのは、ユージィン。その背中からメキメキと黒い翼が伸びてくる。
大聖堂とまではいかないが、学園の生徒全員が入るには十分な規模のある礼拝堂に、黒い3枚の翼が広がる。
私は、目の前で起きているこの世のものとは思えない光景に釘付けになっていた。
ユージィンは静かに立ち上がると、私とフランシスの方に手のひらを向けた。
バチン!と音がして、私を拘束していたフランシスの手が離れた。
「いってぇ……」
苦痛に顔を歪ませているフランシスの腕には、内側から電気が走ったような跡がついている。
一瞬、浮遊感のような不思議な感覚がしたかと思ったら、気がついたら私はユージィンの腕の中で横抱きにされていた。
「これであなたを取り戻した」
にっこり笑うユージィン。
嬉しいけど、どうしよう。
ユージィンが助かって良かったという気持ちと、私はとんでもない事をしてしまったという気持ちが混じり合い、混乱する。
これから、どうなるのだろう。
「ダイアナ、怖かったら目を閉じていろ」
ユージィンが礼拝堂の高い天井に視線を移す。
時間が止まったかのような静寂。
次に、轟音と共に周りの全てが暗闇に包まれた。自分の手すらも見えないような闇。轟音は地面から天井に突き抜け、続いて礼拝堂のガラスやシャンデリアが割れる音がする。遠くから――おそらく礼拝堂の外から――、騒然とした生徒達の悲鳴が聞こえた。
ゾッとすることに、真っ暗闇の中で確かに何か蠢く者達の気配がする。人ではない何者かたち。
怖い。
心細くてユージィンにしっかりしがみつく。
今更ながら世界征服は冗談じゃなくて本気だったんだと骨身にしみる。
「ユージィン……。駄目。やめて、お願い!!」
「ダイアナ……。いくらあなたのお願いでも、こればかりは聞けぬ」
私を抱くユージィンの腕に力が入る。
もうどうしたらよいのかわからない。
誰か助けて。
また都合よくそんな事を考えていると――――
目の端に光が見えた気がした。
その光は徐々に大きくなり、闇が消えていく。
しばらくすると、あんなにあった闇は全てどこかへ行って無くなってしまった。
「え―――――?」