10.黒王子登場
「だだ断罪って……?」
嫌な予感がする。
「決まっている。逃げ出したやつら含めて全員半殺しだ。さっきのドアを蹴破るのに今まで貯めていた力を使い切ってしまったんだ。だからダイアナ、私に力を。」
「やっぱり碌なことを考えてない!」
言え、言わない、で押し問答をしていると、クリスティーナが喉から振り絞るような声を出した。
「ユージィン様……!違うんです!私は止めたのです!ですが、あの男達が私を心配するあまりに勝手にやったんです……!」
あ、そういう計画だったのね、と妙に納得する私。
ユージィンはクリスティーナを一瞥すると、
「貴様、悪魔の地獄耳という言葉を知っているか?言い訳はいい、失せろ。」と一蹴する。ユージィンの言葉に弾かれたようにクリスティーナは逃げていった。
「……無事で何よりだ。」クリスティーナがいなくなったことを確認すると、ユージィンは不意に私を抱きしめてきた。
ユージィンの身体が暖かくて、その温もりに安心した私は少し泣いてしまった。
私の涙に気づき、途端にオロオロしだすユージィン。女の涙に弱いのは悪魔も同じなんだと思ったら、妙に可笑しかった。
再びユージィンの胸板に顔を擦りつけながら、その温もりを確かめる。
本当に。助けてくれた。呼んだら、来てくれた。
「ユージィン。助けてくれてありがとうございます。とても頼もしかったわ。」
ユージィンが目を細めて笑う。悪魔なのに天使みたい。
「王たるもの、自分の女は守れて当然だ。」
ユージィンが私の顎を片手で上向かせる。
そのまま見つめ合い――――
「あの~……。すみませんが、学年集会を始めたいのですが良いですかねー?あと、講堂のドアが粉砕されているのですが、何か知りませんか?」
気がつけば、講堂には生徒達の談笑する声がこだましている。見渡せば、もう結構な数の生徒達が講堂に集まってきていた。
「すみませんね~。お邪魔して~。」と、ルノワール先生に壇上から追い出され、よろよろと席に向かう私。
顔が熱くて火を噴きそうだ。
「赤くなってるぞ。ダイアナは可愛いな。」
共犯のはずのユージィンは、まるで他人事みたいな態度で、いたずらが成功した子どもみたいな顔をして私を見て笑っていた。