1.転生
グオオオオオォォォ――――――ッ!!!
悪は倒された。
勇者たちは、魔王としてこの世界に君臨していた私を討ち果たした。
地面が避け、溶岩の中に最終形態の禍々しい巨体が沈んでいく。
これで私は死ぬのだろう。
天寿をまっとう出来なかったのは残念であるが、それもこの身の激情ゆえ。
悔いなどない。何にも屈することなく自分を貫いたよき人生であった。
…………
……柔らかな光の中、目が覚めると、私はベッドの上にいた。
「ユージィン様、お目覚めですか?今日は随分とお寝坊でしたね。」
「……ユージィンとは、私のことか?」
「おやまあ、随分とねぼすけですこと。ユージィン様と言ったら、ユージィン坊っちゃま以外に誰もいないじゃありませんか。」
のそのそとベッドから起き上がり、大きな鏡の前に立つ。
鏡の中には金髪碧眼の、歳の頃17~18歳くらいの目の大きな少年が映っていた。
黒髪で赤い目をしていた私とは大違いで可愛らしい。大変不服だ。
「なるほど、これがユージィンか。」
「さあさあ、今日はダイアナお嬢様がお見えになる日ですよ。早くお着替えください。」
魔王だった私だが、何故か今はユージィンという青年になってしまったようだ。ただ、ユージィンの生きていた17年分の記憶も持ち合わせている。確かに私は一度死んだはずなのだが、どこかでこの青年に取り憑いたという事なのだろうか?
奇怪なこともあるものだ。まあいい。折角なのだから、この身体、活用させてもらおう。
「坊っちゃま、何ブツクサ仰ってるんですか。早くお着替えください!それとも、私が服を引っペ剥がしましょうか。レディを待たせたら大変ですよ。特にあのダイアナお嬢様なんて、何を言われることやら。」
ダイアナお嬢様――――
それは、ユージィンの記憶によると、ユージィンの許婚らしかった。
産まれた時に決まった婚約者。
そして、その婚約者を、ユージィンは大層嫌っていたようだ。
ユージィンの父親も母親も、ダイアナを自分の息子の婚約者にしてしまったことを大変後悔していた。
「だって、誰があんなに我儘に育つと思った?」
「ユージィンが可哀想だ。」
ダイアナお嬢様とやらに会った日は毎晩、両親は嘆きながらワインの瓶を何本も空けている。
ダイアナお嬢様とは、よほどの人物なのだろう。私の子分にしてやらないこともない、と私は期待を胸に、支度を整えダイアナお嬢様の待つ応接室へと向かった。
魔王が転生したのは、乙女ゲーム「ときめきプリンセス2」の世界。ヒロイン クリスティーナの数いる攻略キャラの1人になってしまった魔王。しかし、そんな事はつゆ知らない魔王だった。