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お悩み相談部設立!

---未確認飛行物体(俗に言われるUFO)の目撃情報は数あれど、実際に宇宙人と接触したという人間は少ない。

社会的にも想像の産物と言われているUFOや宇宙人と呼ばれる存在。

テレビ番組でも度々取り上げられては、その存在を否定されてきた。

しかし、なぜこうも世間は宇宙人という存在に対して否定的なのだろうか?

宇宙は広い。その広大な宇宙の中、40億年の歴史をかけて、この地球という星の上には様々な生命が生まれた。

生まれては滅び、環境に適応するため姿形を変え、そして文明を築いていった。

そうして今、この地球上には独自の文明・言語を持った『人類』が生まれたのだ。

これが他の星でも行われていない、と何故言い切れるのだろうか。

宇宙は広いのだ。進化の過程は数あれど、独自の文明、技術力を持った生命が生まれていてもおかしくはないのではないだろうか。---



「ねえ宇宙太、地球人って今の文明を築くまでに40億年もかかったの?」

「おいコラ、人様の文明を馬鹿にするんじゃないよ」

2050年10月号のオカルト雑誌(中古)を読みながら、俺は目の前の女生徒と談笑していた。

俺の名前は鳴海宇宙太、『宇宙太』と書いてそらたと読ませる、少々特殊な名前をしている。

目の前の女生徒はシルキー、金髪ロングの、俗に美少女と言われるであろう部類で、男女分け隔てなく会話できるタイプの子だ。

彼女は日本人ではない。では外国人か?と聞かれると、そうとも言いづらい。

それはなぜか?それは彼女がこの『地球』の人ではないからだ。

彼女は地球のご近所惑星『金星』の生まれ、『金星人』なのである。

なぜ俺がそんな異星人と放課後にオカルト雑誌を読みながら談笑しているのか。

それは約一月ほど前の話に遡る。



西暦2150年3月、突如スカイツリーのてっぺんに宇宙船が現れた。

本当に唐突の事で、当初人類はパニックに陥ったものだ。

「宇宙人が侵略しに来た!」

「宇宙戦争が現実に!?」

「今の技術力なんかで宇宙人に勝てるのか!?」

とまぁそんな感じで誰もがパニック状態、日本政府は緊急で宇宙船対策本部を設置し、自衛隊がスカイツリー周辺に緊急配備されることになった。

しかし、宇宙船は飛来してきただけで、それから一週間ほどなんの音沙汰もなかった。本当に生きてるのか?あれ中で宇宙人死んでんじゃね?と、当時の俺は思ったものだ。

後に当時の事をシルキーに話すと、「勝手に殺すな!」と肘打ちをくらったのだが、この時の話は置いておこう。

この宇宙船が全く動かなかった一週間、様々なメディアがスカイツリー周辺に集まっては、様々な憶測をたてながら報道していた。テレビも新聞も、普段は芸能人のゴシップばかり取り上げているような週刊誌までもが、この宇宙船の話題で持ちきりだった。

アメリカやロシアなどが軍事介入を検討し始めた頃、ついに宇宙船に動きがあった。

世界中の電波がジャックされ、テレビに金髪の美少女が映し出された。

「おはようございます!こんにちは!こんばんわ!この放送は地球上のあらゆる電波を少々お借りして、世界同時配信しておりますわ!」

そんな軽快な挨拶がテレビから流れてくる。世界中がその放送に目を奪われた。放送は続く。

「私は『金星』からやってまいりました、シルキーと申します。突然の地球訪問にさぞ驚かれたことでしょう。しかし警戒を解いてもらえると嬉しいですわ。私たちは地球を侵略しようなどとは考えておりません。」

「(突然現れて一週間音沙汰もなしだったのに、急に世界中の電波をジャックしておいて警戒を解いてくれって言われても無理な話だと思うけどなぁ・・・)」

多分世界中の人がこう思ったことだろう。金星人とやらの話は続く。

「この一週間、地球についての情報を収集していました。地球には豊富な資源があり、独自の文明が築かれている。私たちはそんな星を探していたのです。端的に申し上げますと、私たち金星の民は、地球との交流を求めています。」

そうして自分たちの惑星の説明を始める金星人、どうやら金星にも独自の文化や技術があり、自分たちの技術や物資を提供するから、地球のも寄越せってことらしい。

「突然このようなことを言われても、はいそうですか、と受け入れていただけるお話でないのはこちらも十分承知しております。ですので、一年間私たちをこの地球に住まわせていただきたいのです。一年間という期間の中で、私たちの事を見定めてもらい、その後にお返事をいただけると嬉しいです。」

と、こんな感じの放送があり、その後彼女らは宇宙船から、東京の地に降り立ったわけだ。それから金星人と政府やらの間でどのような会話が交わされたのかは俺の知るところではない。だが当時高校一年生だった俺には関係のない話だろうと、そう鷹をくくっていたのだが・・・。



「それがどうしてこうなったんだろうなぁ・・・」

「ん?なにが?」

俺の独り言に対して可愛く小首をかしげるシルキー。

恐らく彼女たちはこの世界で一年過ごすことを受け入れてもらえたのだろう。現に今こうやって目の前にいるのだから。

「なあ、そういや聞いてなかったんだけどさ、どうしてこの学校、しかもこの学年でこのクラスなわけ?」

「えーっと、ほら、ここ私たちが宇宙船で初めて飛来したスカイツリー?ってところから比較的近いし。学年とかクラスとかは私が決めたわけじゃないから知らないなぁ・・・」

どうやら本当に偶然だったらしい。俺たちが通う『都立星海学園高等部』には各学年ごとに3クラスあるのだが、彼女が『2年B組』なのは本当に偶然だったのだ。当初は本当にびっくりしたものだ。だってテレビで見た子が目の前にいるんだもの。

こうして俺と彼女はクラスメイトになり、たまたま席が前後だった俺が彼女の世話?をすることになったのだ。サヨナラ俺の“平穏な学園生活”。

こうして彼女に学校について教えたり、色々と関わっているうちに、いつの間にか休み時間には談笑をする仲になっていた。別に俺や彼女に友達がいないわけではない。断じてない、いや多分・・・。

シルキーは地球の事については大体把握しているし、勉強についても教わる必要などないほどに熟知している。こうして地球の学校に通っているのは、もっと地球人と身近に触れ合ってみたい、という彼女の願望によるものだそうだ。

「あ、そうだ宇宙太って部活はやってないんだよね?ニート?っていうんだっけ?」

「言わねえよ、勝手に人の事ニート扱いするんじゃないよ。まあ無所属だけどさ」

「だよね!じゃあさ、私が部活作るから一緒にやろ!」

「は?」

唐突に何を言い出すんだろうねこの子は。

ここ星海学園は生徒の自主性を重んじており、部活動の設立についてもそこいらの学校よりはゆるい。一応活動実績などは求められるが、設立に関してはとても甘いので、確かに不可能ではない。

「いや部活って言ったってなにするんだよ。前にも教えたと思うけど、ここかなり部活に関しては充実してるから、運動系でも文化系でも、探せば大体はそろってると思うぞ?」

「いやいや、宇宙太君、あるじゃないの、この学校にも“存在しない部活動”がさ!」

「ほう?申してみよ」

「それは!“お悩み相談部”!だよ!キリッ!」

「お悩み相談部?なにそれ、具体的に何する部活動なのよそれ」

「生徒たちの悩みを聞いて、私たちで解決してあげるの!素敵でしょ?」

「まあ悪くはないと思うけどさ・・・。それ楽しいか?」

「私はこの星の子供が何に悩みながら日々を過ごしてるのか知りたいの。そしてその助けになってあげたい。しかも私たち金星人の株も上がるかもしれない!まさに一石三鳥!WIN-WINってやつだよ!」

「おい私欲混じってるじゃねえか」

「いや最後のは結果論としてだよ?それにほら!もう部活動申請書も書いてきたし!宇宙太の名前も書いといたよ!」

「余計なお世話なんだよなぁ・・・。」

「なにぉう!?こんな美少女が誘ってあげてるんだからもっと喜びなよ!」

「自分で美少女とか言っちゃうのね。ま、暇してたしいいけどさ。」

「やった!じゃあこれ出してきちゃうね!明日から頑張るぞ~!」

「・・・お~」

なにやら面倒ごとに巻き込まれてしまったようだ、こうなったらシルキーが満足するまで付き合ってやることにしよう。



あくる日の昼休み、俺は教室でシルキーと机を向かい合わせて昼飯を食べていた。

「で、昨日の話だけど、さっそく今日の放課後から始めるよ!」

「結局あれ受理されたんだ」

「もちろん!顧問の先生にはクラス担任の先生の名前書いといたし、完璧!」

「・・・あの、それって先生の許可は」

「え?とってないよ?まあなんとかなるでしょ」

「先が思いやられる・・・」

しょうがなく俺はシルキーを連れて職員室を訪れ、担任であり被害者である天乃先生に事情を説明した。

「・・・ということなんですけど、どうですかね」

「どうといわれても、既に出しちゃったんでしょ?本人もやる気満々みたいだし・・・」

「ですね・・・」

俺の隣では目をキラキラさせたシルキーが先生を見つめている。

「うん、ま、今はなんの部活も受け持ってないし、やってあげてもいいよ?顧問」

「本当ですか、助かります」

「やったね!先生ありがとー!」

「でもシルキーさん、もう他人の名前を勝手に書くのはやめてね?」

「はーい!以後気をつけまーす!」

「本当にわかってんかなこの子・・・」

こうして、とりあえず先生に許可を貰うことができた俺たちは、職員室をあとにする。

「目先の問題はこれでどうにかなったかな」

「私は先生のこと信じてたし、こうなることも織り込み済みだよ!」

「調子よすぎだからね?少しは反省しようね?ついでに俺の件も」

「よし!頑張ってお悩み解決するよ~!」

聞いちゃいないよこの子、こんなんでやっていけるのか、先行きがとても不安です。



そして放課後、俺たちは“お悩み相談部”に割り当てられた教室へ移動した。以前に文化系の部が使っていた部屋なのか、中には長机や椅子、ホワイトボードなどがすでに置いてあった。

「ここが私たちのアジトか~」

「俺らはいったい何をやる気なんだよ」

そんなことを呟きながら、傍にあったパイプ椅子に腰かけた。

シルキーはホワイトボードの前に立ち、なにやら書き始めている。

「とりあえず、まずはこのお悩み相談部を学校中に広めるところから始めないとね」

「そうだな、なにか具体的な案でもあるのか?」

「そこは部員である宇宙太が考えるんだよ」

「初っ端から人任せかよ、大丈夫かこの部長様」

「ほら、早く、なにか画期的な案ない?」

「急に言われてもなぁ・・・。あ、前みたいにシルキーが電波ジャックして校内放送で呼びかければ?」

「あれはもうやらないよ!あんなこと何度もやってたら政府の人達に危険分子扱いされかねないでしょ?」

「じゃあ地道にチラシ配って校門で配るとか?掲示板にポスター掲示したりしてもいいかもしれないな」

「なんか地味だね・・・宇宙太みたいに」

「シルキー一言余計だって言われたことない?」

「とりあえず扉に看板でもつけようかな」

俺の言葉をさらっとスルーしたシルキーは、鞄から取り出したルーズリーフに色とりどりのペンで“お悩み相談部♡”と書いて教室の扉にセロハンテープで貼り付けた。

「これでよし!」

「すっごい怪しい部活っぽくなってない?大丈夫?それ」

「第一印象は大事だよ!フレンドリーさを演出して入りやすくしないとね!」

そんなやり取りをしていると、不意に教室の扉が控えめに開けられた。小柄な女生徒が立っている。

お?さっそく依頼者か?

「あ、あの・・・お悩み相談部って・・・」

「そうだよ!ここはお悩み相談部!悩める子羊たちの悩みを聞き、それを救済する!みんなのお悩み相談部!」

「怪しい紹介の仕方やめろ?えっと、とりあえず入っていいよ。何か悩みがあるんじゃない?」

「はい・・・失礼します」

そう言うと女生徒はおずおずと教室に入ってきた。近くにあったパイプ椅子を彼女に差し出すと、少し緊張した面持ちで控えめに腰かけた。

「とりあえず自己紹介しとくと、俺の名前は鳴海宇宙太。宇宙に太いって書いてそらたって読ませるんだけど。で、このテンション高い方はシルキー、テレビで見たことあると思うけど、金星人」

「私の紹介雑じゃない!?間違ってはないけど」

「えっと、私は高等部一年の美空翠って言います。翠って書いてみどりって読みます」

「それで、翠さんの悩み事って何かな?私たちがズバッと解決してみせるよ!」

「あ、えっと、私の飼っている猫が、いなくなっちゃったんです・・・。二日ほど前に、学校から帰ったらいなくなってて・・・。いなくなる事はたまにあったんです。でも多分散歩でもしてたのか、ちゃんと家には帰ってきてたんですけ、二日前にいなくなってからは帰ってこなくて・・・。」

「ほう、つまりそのいなくなった猫を探し出してほしいってこと?」

「そうですね・・・。自分でも探してはいるんですけど、全然見つからなくて・・・。」

「ペット探しか~、最初に受ける依頼にしては悪くないかも・・・。分かった!翠ちゃんの猫は私たちが絶対に探し出してあげるよ!」

「本当ですかっ!ありがとうございます!よろしくお願いします!」

「そんな啖呵切っちゃって大丈夫か?」

その後翠ちゃんからいなくなった猫の特徴や、自分で探していた場所などを聞き、連絡先を交換して翠ちゃんは帰っていった。

「さて、どうすんだシルキー、あてもなく探しても見つかるとは思えないけど」

「うん・・・でも大丈夫!私には秘密兵器があるからね!大船に乗った気持ちで構えてるといいよ!」

「イマイチ信用ならないんだけど、シルキーがそこまでいうなら・・・。」

「明日は土曜日で学校はお休みだし、私も今は秘密兵器が手元にないから、捜索は明日から!今日は解散!」

そして俺たちは明日の集合場所を決めて、今日の活動はお開きとなった。



土曜日、時間は午前九時。集合場所でシルキーを待ちながら、俺はスマホをいじっていた。

「(しかし、シルキーの言ってた秘密兵器ってなんなんだ・・・?)」

「お待たせー!秘密兵器持ってきたよ!」

「おう、おはよう・・・ってなにそれ」

「これは生物探知レーダー、登録されてる生物の中から、探し出したい生物を探知することができる機械なの。」

「便利なもんだな。それで探し出そうってわけね。」

「そうそう!地球上の生物情報は大体登録されてるから、このレーダーで翠ちゃんの猫も探し出せるし、この依頼楽勝だね!」

「でも野良猫っていっぱいいるから、そんな簡単には見つけられないと思うわ・・・。特徴とかも交えて探知できるなら可能性も上がるけど」

「それは無理」

「ダメじゃん・・・」

仕方なく俺たち二人はレーダーに映った猫の居場所を一つ一つ巡っていくことになった。

一ヶ所二ヶ所と捜索を続けていくが、肝心の翠ちゃんの飼い猫の姿はどこにも見当たらない。

「なかなか見つからないねぇ翠ちゃんの飼い猫さん」

「そんな簡単に見つかったら苦労しないしな。それにしても猫多いなここら辺」

探知レーダーに示されている探索個所は十ヶ所ほど。

こんなに多いとは思わなかった。

「まだまだこれからだよ!これだけ候補があるんだもん、どこかにいるはず!」

「その謎の自信はどこからくるんですかね・・・」

その後もレーダーに示された箇所を二人でまわっていった。

途中、猫の井戸端会議に遭遇して、近づいていったシルキーが一匹のしっぽを踏んでしまい、二人して追い掛け回されたり。

別の場所では木の上から降りられなくなっていた猫と遭遇し、俺が木に登って助けようとしたところ、驚いた猫に頬を引っ掻かれたり。

それはもう散々な目にあっていた。

「はぁ・・・どこにいるんだ翠ちゃんの飼い猫・・・」

「なかなか特徴に合った猫が見当たらないね。レーダーに表示されている箇所は大体まわったと思うんだけど」

「だよなぁ・・・」

「えっと、確か特徴って、毛の色は灰色、背中の方に渦巻きみたいな模様があって、赤い首輪をしてる小柄な猫って言ってたよね」

「そんな感じ、でも赤い首輪をしてる猫なんて見かけなかったよな」

「うん。・・・あっそういえば・・・」

「ん?なんか心当たりでも?」

「えっとね、私地球に来る前にもいくつか他の星を見て回ってたんだけど」

「うん、それで?」

「その時にさ、確か木星だったかな・・・。そこで似たような感じの、背中に渦の模様のある猫によく似た種族を見たことがあったんだよね」

「・・・は?え?じゃあもしかして、翠ちゃんの飼い猫って、実は猫じゃなくって、木星に住んでる宇宙・・・種って言えばいいのか?そうゆうこと?」

「いやわかんないよ?でももしそうだとしたら、猫探知じゃ引っかからないよなぁって思って。だって猫じゃないんだもん」

「確かにそういうことになるけど・・・。でも、仮にその憶測が当たってたとして、なんで地球に?」

「それは私にもわからないかな。本人に直接聞いたわけじゃないし。そもそもあの猫モドキが星間移動できる技術持ってるとも思えない・・・」

「そもそもの話、木星ってガスだらけの星って聞いたことあるんだけど、生物が存在できる環境なの?」

「あー、地球の人達はそう思ってるみたいだね。でもあれって割と表面だけの話だよ?中心の方に行けば普通に陸地あるし。ただ太陽の光は地上には届いてないから、いつも夜みたいな感じ。だから木星に現存してる種族って暗闇でも周囲の確認ができるように、暗闇でも見通せる独自進化した目を持ってるか、音波みたいなのを周囲に飛ばしたり、様々かな」

「へぇ・・・知らなかったわ・・・」

「ま、宇宙は広いからね。ってそんな話してる場合じゃないよ!翠ちゃんの飼い猫さんだよ!」

「そうだった。じゃあとりあえず探知だけしてみてくれよ。その木星で見かけた種族で」

「おっけー、ちょっと待ってね?」

シルキーは何やら謎言語が表示されている端末画面に触れると、慣れた手つきで画面を操作していく。すると、レーダー画面が一ヶ所だけ赤く点滅していた。俺たちがいる場所からそんなに離れていない。

「シルキー、これって・・・」

「うん、行ってみよ!」

俺たちは二人、画面に表示されている場所に向けて駆け出していた。



辿り着いた場所は一軒の民家だった。今は誰も住んでいないのか、庭の草木は荒れ、ツタは伸び放題。放置されていたせいで枯れ葉がそこいらに散っている。まるでこの世界から忘れ去られたかのような状態で放置されていた。そんな家の中から、翠ちゃんの飼い猫の反応がしている。

「ここ、か?」

「レーダーによると、この中みたいだけど・・・。ここ、中入れるのかな?」

「どうだろ・・・とりあえず入ってみるか」

二人で玄関の扉の前に立ち、恐る恐るドアノブに手をかける。ドアには鍵がかかっておらず、予想に反してあっさりと開けることができた。

「開いちゃった・・・」

「これはもう行くしかないね!お邪魔しま~す、誰かいますかー・・・?」

「誰か居ても怖いんだけどね?」

中の様子も、外と同様荒れ放題・・・というわけではなかった。家の中は意外と綺麗に掃除がなされているのか、目立った埃などは見られない。今でも誰かが住んでいると言われても違和感のない中の様子に、少々拍子抜けしてしまう。外の様子から考えて、もっとゴーストハウス的なのを想像していた。律儀に靴を脱いで奥へ向かっていくシルキーに続き、俺も家の中へと進んでいった。

「レーダーの反応はどうだ?」

「えっと、この辺りのはずなんだけど・・・。いないね」

「一階に居ないとなると、上じゃないか?」

「そうかも。行ってみよ」

二人で階段を上がり、反応のある部屋の前で足を止める。レーダーによるとこの中に反応があるようだが・・・。

「そ、それじゃ開けるぞ?」

「う、うん・・・ゆっくりね?思いっきり開けちゃだめだよ?いざとなったら私逃げるから」

「おまっずるいぞシルキー、俺は捨て駒扱いかよ」

と、なんとも悲しくなる会話をしつつ、俺はゆっくりとドアを開けた。

「なにこれ・・・」

中には想像を絶する光景が広がっていた。部屋のいたるところに謎の機械が鎮座して、中心のデスクを囲むように何枚も配置されたスクリーンには、地球の文字ではないであろう謎の文字列が流れては消えていく。そして、その中心に置いてある椅子に、小柄な猫が座っていた。俺たちの気配に気づいたのか、その猫は椅子を回転させて俺達に向き直ると、

「何者ですかな?」

と、聞きなれた言葉で問いかけてきていた。



「いや、えっと、俺たちは星海学園高等部の者で、美空翠ちゃんの依頼で消えた飼い猫を探していたんですけど・・・ってかなにこの状況」

「あなたもしかして木星の?」

「そうです。私は木星から派遣された地球の調査員でして。この星には我々と容姿がとてもよく似た種族がいるとのことだったので、その生態を調査しに来たのです。しかし、異星の者と知られてはこちらの調査に支障が出ると思い、秘密裏に調査をしていました」

「シルキーの他にも宇宙人が・・・」

「そうゆうことみたいだね。申し遅れました。私、金星人のシルキーと申します」

「存じております。我々はあなたがたが地球に来られる以前からこの星におりましたので」

「そうでしたか。しかしなぜ木星の調査員がこの地球へ来られたのですか?私が以前訪問した時には、あなたがたにそのような技術力があるとは思ってもみなかったのですが・・・」

「その時はあなたがたの接近を察知して技術を隠していたのですよ。私たち木星に住む種族は戦闘には長けていませんでしたので、もし侵略目的だったとしたらきっと敵わないだろうと思いましてな」

「それはとんだ失礼を・・・お詫び申し上げます。」

「いえいいんです。結果この星で再びあなたがたをお目にかけることができましたし、侵略を目的としている種族でないことも知ることができました。次にわれらの星へいらっしゃる時は歓迎しますよ」

「ありがとうございます。それで、話を戻すのですが、なぜ二日間も翠ちゃんの元を離れていたのですか?」

「あぁ、ここ最近、地球の猫と呼ばれる種族を調査した結果を、報告書としてまとめていたのですが、その作業がなかなか終わらなくて・・・。ふがいない話ですが」

この翠ちゃんの飼い猫、もとい木星からの調査員さんは、どうやら報告書を書くのに忙しくて帰宅できなかったらしい。社畜か。

「しかし報告書もやっとまとめ終わりましたので、星に帰るかどうかを検討していたのです」

「えっ、帰っちゃうんですか?」

「元々調査のために訪れていた星でしたので。居心地はなかなか悪くないんですけどね」

「でもきっと翠ちゃん悲しむと思いますよ。俺たちのところに相談に来た時も、すごく落ち込んでいましたし」

「そうですか・・・。彼女にはとてもよくしてもらっていましたから、私としてもこのまま星に帰るのはなんだか残念な気はしていたんです・・・」

「でしたらこのまま翠ちゃんの傍にいてあげてください、きっと喜びますよ?」

「しかし星の調査委員会が許すかどうか・・・」

「私に任せてください!同じ異星人として、私が協力しましょう!」

「えっ、シルキー何する気だよ」

「まぁまぁ、見ててよ宇宙太。私だってやるときはやるんだから!えっと、すいません、お名前教えてもらえますか?」

「あぁ、これは失敬。私は異星調査員のユピテルと申します」

「ではユピテルさん、木星との交信ってできますか?」

「可能ですが・・・」

「ではお願いします。私から調査委員会に交渉します!」



そしてユピテルは手元の機械を弄ると、木星との交信を開始した。しかし、当たり前のようにこの場にいるが、俺今けっこう大変な場に居合わせているんじゃないだろうか・・・。星間交信なんか地球の技術じゃまだまだ夢の話だと思う。世界中の科学者が教えてほしい技術だろうなぁ・・・俺も教えてほしい、理解できないと思うけど。

そうこうしているうちに何やら謎言語で会話が始まってしまった。後ろで見ている俺には何を言ってるのかさっぱりなので、そのことをシルキーに小声で話すと、

「ユピテルさん、この会話、日本の言語に翻訳することってできます?」

「できますよ」

あっさり解決した。つかもしできなかったらシルキーはどうするつもりだったんだよ・・・。

「私には惑星言語翻訳機あるし♪」

とのことだった。つか人の心勝手に読むなよ・・・。

「シルキーさん、今繋がっているのが調査委員会のリーダーです」

「ありがとうございます。初めまして、私金星人のシルキーと申します。今は訳あって地球に住んでいます」

「私は異星調査委員会で代表を務めさせております。イオと申します。それで、お話というのは?」

「はい、ここにいるユピテルさんの調査は先ほど終わったとのことですが、その調査を延長していただきたいのです」

「延長、ですか?しかし我々の目的は既に達成しましたので、これ以上調査員を置いておく必要はないかと思うのです」

「確かに、そちらの目的である“猫”の調査は終わったのでしょう。しかし、その他の調査はされていないのではないですか?」

「ええ、その通りです。ですが、それはこちらが必要ないと判断したことでして・・・」

「せっかく水の豊富な惑星である地球に調査員を送っているのです。あなたがたの住む木星は確か、浄水設備を整えることに難航していたはず」

「そうですね、我々の星では液体がとても貴重な物であるのは事実です。」

「地球、もっと言えば今ユピテルさんのいる日本では、浄水設備がとても発達しています。各家に必ずと言っていいほど水を出すための設備が備えられており、いつでも浄水された水を使用することができるのです」

「それは本当ですか?いつでもきれいな水を出せる設備が?」

「そうです、その設備を、ここにいるユピテルさんに調査させてみてはいかがですか?きっと更なる星の発展に繋がると思いますよ?」

「そうですか・・・。すいませんがユピテルと話させてもらえますか?」

「ええ、分かりました。さ、ユピテルさんどうぞ」

そして会話を引き継いだユピテルとイオによって二、三の会話があった後、交信は終わった。

「どうでしたか?ユピテルさん」

「調査委員会が、このまま地球に残って、次は浄水設備について調べるように、と」

「やった!これでもうしばらく、翠ちゃんの傍にいれますね!」

「はい、シルキーさん、本当にありがとうございます!」

「それじゃ、これで今回の依頼は達成、ってことでいいのか?」

「うん!それじゃユピテルさん、翠ちゃんのところへ帰りましょ?」

「はい!」



その後、俺が翠ちゃんへと連絡を入れ、二人(と一匹)で翠ちゃんの待つ公園へと向かった。

既に翠ちゃんは公園のベンチで待機していたようで、シルキーの抱きかかえているユピテルを確認すると、笑顔で俺たちの元へ駆け寄ってきた。

「シエルー!どこ行ってたの!?心配したんだよ?」

「よかったね翠ちゃん!無事にユピ・・・シエルくんが見つかって!」

「はい!ありがとうございますシルキー先輩!宇宙太先輩も、ありがとうございます!」

「翠ちゃんの悩み事を無事解決できてよかったよ」

「それでね、翠ちゃん。あのね、シエルからお話があるんだって」

「お話・・・?シルキー先輩、いったい何を言って」

頭に?マークを浮かべながらシルキーの事を見つめる翠ちゃん。そりゃそうだ、自分の飼い猫から話があると言われて、はいそうですかと聞ける人間はそうはいない。これはシルキーのような“異星人の存在”が明らかになっている今の世の中でも変わらない。俺はたまたま普段からシルキーと行動を共にしたりしているせいで、この手の事象に対して慣れてしまっているが、翠ちゃんは違うのだ。この“異星人が同じ学校に通っている”現状でも、彼女からしてみれば、まだまだ宇宙人というものはオカルトの域を出ないのだ。そんな彼女が、果たしてこのあとのユピテルの話を受け入れることができるのか・・・。俺とシルキーは黙ってユピテルと翠ちゃんの行く末を見守ることにした。

「えー・・・こうして話をするのは初めてだね、翠ちゃん。私はシエル、改め、木星から来た異星調査員のユピテルです。」

「えっ、ユピ、え?」

「急に私が話し出したらそれは驚くだろうと思ったよ。なにせ、この星に生息する“猫”と呼ばれる種族は我々のように話すことはできないから」

「シエル・・・じゃなくてユピテル?は猫じゃなかったって、こと?木星?木星人?」

「翠ちゃんの分かりやすい言葉で説明すると、そうだね、木星人かな。今まで黙っててごめんね?」

「う、うん・・・。」

「あと、ここ二日間家に帰れなかったことも。本当はもう翠ちゃんには会えないと思ってたから、あのまま黙って自分の星に帰るつもりだったんだけど」

「え!?いや、ダメ!ダメだよ!!シエルは私の大事な家族だもん!勝手にいなくなっちゃうなんて!!」

「ありがとう、翠ちゃん。でも、ここにいるシルキーさんと宇宙太さんのおかげで、私は自分の星に帰らなくて済んだんだ。でも、このまま猫と偽って翠ちゃんの傍に居続けるのは、翠ちゃんを騙してる気がして」

「・・・」

「だから、自分の正体を明かすことにしたよ。でも、もし翠ちゃんが異星人と一緒になんか生活できない、と思うなら、私は・・・」

「そんなことない!正体が宇宙人だからって、これまで一緒に過ごしてきた日々を忘れることなんかできない!さっきも言ったけど、シエルは私の家族なの・・・。だから、これからも傍にいてよ・・・」

「翠ちゃん・・・。ありがとう!改めて、これからもよろしく」

シルキーの腕から離れ、翠ちゃんの腕の中にダイブすると、まるで抱き合うようにしてその場で二人は泣き崩れた。

「よかった・・・。ユピテルさんの想いがちゃんと伝わったんだねぇ・・・」

そして俺の隣ではシルキーがガチ泣きしていた。なんだこの展開、俺も少し影響されてしまいそう・・・。

「ぐすっ・・・、よし!それじゃあ今回のお悩み相談は無事解決だね!ぶい!」

「途中はどうなることかと思ったけど、無事解決できてよかったな」

「さて、それじゃ帰ろっか。あとはお二人の時間ってことで!」

「そうだな、それじゃあね、翠ちゃん。ユピテルさんも元気で」

「はい!お二人とも、本当にありがとうございました!」

こうして、俺たちお悩み相談部は、初のお悩み相談を無事解決したのだった。



さて、この話には後日談がある。

無事再会できた翠ちゃんとシエル(本人がこっちで呼んでほしいと言っていた)は、次の日、日曜日の一家団欒の場で、シエルの事を家族にも打ち明けることにしたらしい。もちろん、最初は驚いていたようだが、シエルがこれまで地球でしていた調査の話や、今後の調査についての話をしたところ、偶然にも翠ちゃんのお父さんが浄水施設で働いていたらしく、シエルとすごく話が合ってしまったそうで、両親ともシエルが家にいることを快くOKしてくれたそうだ。それにしてもすごい偶然があったもんだ。

そして、ここお悩み相談部にも大きな変化が一つ。

「シルキー部長、宇宙太先輩、これからよろしくお願いしますっ!」

なんと翠ちゃんが入部することになったのである。本人に聞いたところによると、『自分も二人みたいに悩んでる人の助けをしたくなった』のだそうだ。

そしてシエルも、放課後になるとどこから入ってくるのか謎だが、たまに部室へ訪れるようになった。地球人二人に、金星人と木星人、なんとも奇妙なこの集まりであるが、不思議と悪くないと思っている自分がいた。いいよね、こうゆうのって青春って感じ!ちょっと異質だけど!!

「翠ちゃんも仲間に加わったことだし、これからはもっとバンバンお悩み解決していくよ~!えいえいおー!」

「おー!です!」

「お、おう!」

俺とシルキー、そして翠ちゃん(時々シエル)のお悩み相談部活動は、まだまだ始まったばかりだ。

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