拘束者
町中を数名の衛兵と思わしき集団に連行される者が一人。
体つきは若い男のようだが、両手には手錠が掛けられ、頭は麻袋で覆われており、その上屈強そうな衛兵3人がかりでの連行と、一見して並みの扱いではなかった。
「手間かけさせやがって、貴様を海牢送りにしてやる。いいか、絶対だ!」
麻袋を掴み耳元で張り裂けんばかりの怒声を張り上げる一人の衛兵。
ケカルノより北西にあるエリオス・ベル領内の北部、ジコールという小さな町でそれは起こった。
町民の通報により指名手配されていた逃走中の『法廷破りのルガー』が拘束されたのだ。
「いい加減気付け、俺は殺してないし他の奴も……っ」
背後からの鈍い衝撃と共によろめき、思わずくぐもった声が漏れる。
「なあ兄弟、ジコールにも法廷はあるんだ。そして既に準備は出来ている。そこで素晴らしい結末を待つとしようじゃないか。お前も俺たちと同じ気持ちだといいんだがなぁ」
先程とは打って変わって麻袋ごしに囁く衛兵。
「…これが兄弟への扱いとはさぞかし兄弟仲は良いんだろうな?」
「ああ、もちろん。勇者ごっこでもするか?お前なら魔王役がぴったりだろうな。遠慮するなよな、仲良しなんだからよ?」
時折“なだめられ”ながら法廷へと連行されて行く様を遠くから眺める男女が1組。
「アレがルガー?」
「ああそうだ、あいつは今まで随分悪い事してきたからな。今は相当な額だぜ」
「それで、お目当ての懸賞金はいくらまで伸びたの?400万?」
「そりゃ一つ前だ。ついこの間出てた新聞には600万Btになったって書いてあったぜ。新聞くらい読んどけよ。時代の最先端を生きる者の必須アイテムだぜ?」
「いやよ面倒くさい……。それにどうせ私達以上に知ってる事なんて書いて無いじゃない」
「そりゃそうだ。だが世間様の最新情報って奴も知っとかないと相手とオハナシ出来ないだろ?」
「あなたのするオハナシなんてベッドの上だけかと思ってたわ」
焦茶のキャトルマンから覗く薄ら笑いを手で隠しながら、突き倒される男を眺める手の甲には数字の7の刺青が伺える。
「へっへ、ああはなりたくねえな、いったいどんな事やったら海牢に入れるんだ?」
「あら~?貴方がやった事と同じじゃないかと思うのだけど?」
女は占い師を髣髴とさせる出で立ちだが顔を覆うベールによって顔つきはわからない。しかし目つきや口調から笑っている事は窺い知れる。
「だがアイツは捕まり、俺はここに居る。決定的な違いはアイツがマヌケだって事だ」
「それで、いつ捕まえるの?」
興味無さ気に刺青の男へ質問を投げる。
「いつも通り決行は判決が下される直前、夕日が沈む直前だ」
「まだ時間あるわねぇ、ちょっと用事片付けてくるわ~」
インクが滲むかのように景色に溶け込み、女の姿は消えてしまった。
「遅れるんじゃねえぞ?」
“7”の男が言葉を投げかけるも既にそこに女の姿は無い。
「相変わらず消えるのだけは早いねえ。さて、俺もオメカシしなくちゃあな」
キャトルマンを深々と被り直すと根城にしていた宿へと戻っていくのであった……
書き溜めがまだ少しあるので投稿頻度はしばらく高めかと思われます。
粗のご指摘や雑感等ございましたらお気軽にお寄せいただければと思います。
ごきげんようそれではまた。