プロローグ
大きな大陸の中央に位置するケカルノと呼ばれる国。
分断された国境の中心に位置する事から市場として賑わっており、人々の往来が絶えることはない。
食料や衣類、工芸品をはじめ、果ては銃火器や魔術道具に至るまで、手に入らないものは無いとすら言われる程に何もかもが潤沢であった。
そんなケカルノは他国に比べ国土が在るとは言い難く、属国すらない小さな国だ。
しかし領内の治安と運び込まれる物資のコントロールを徹底し、絶えず中立を保ち続けていた。
周辺国の強大な国力を以ってしても覆す事は適わないほどまでにケカルノの経済力は強大で不動だった。
その事実として各国での取引すらケカルノの貨幣で行うほどに周辺の国はケカルノに依存している状態であった。
今や領地の隅々まで建築物が犇めき合っているケカルノは、かつてうっそうと広がる平原に一人の名の知れぬ商人が住み着いたことが始まりだと言われているが、長い時を経た今となってはその事実を知る者は殆ど残っていない。
人々はそこを『商売の要石』と呼び慕い、ケカルノは長い商業の歴史を刻んできた。
ここはそんなケカルノの中でも特に人の行き来の激しい中心部に位置する広場。中央に騎士の像が置かれ、敷き詰められた色違いのレンガによるグラデーションがほのかな気品を漂わせている。
陽が上り、人々が目的の場所へと移動し始める頃、その場所に不釣合いな大きな声が響いた。
「さぁさぁ!そこ行く街の皆様!仕事の前に今日一番の話題を提供だ!世界のケカルノが誇るラウル新聞社から速報だぁ!」
頭に『Raul』と金色の刺繍がされた鍔つき帽を被った街頭の売り子が、商品と思わしき両手いっぱいの大きさの紙を高らかと周りに見せつけながら意気揚々に声を張り上げ人寄せをする。
「速報だー!ラウル社からの速報だよー!部数はある限りだ!買った買った!」
どうやらその紙には最近の出来事が細かに記されているらしく、ラウル社を名乗るその青年は、それを指して新聞と呼んでいるようだった。
まだ陽の傾きが強く、建造物に残る影を拭い切れていないにもかかわらず大勢の人々で賑わう街の中心部は、小銭と新聞の擦れる音が目まぐるしく飛び交っている。
「なんと!あのルガーの賞金が800万Btに値上がったって話だ!ケカルノからの公式発表!詳しくは読んでからのお楽しみだよー!」
『法廷荒らしのルガー、賞金800万Btへ!』
紙面にはこれでもかというほど巨大な文字で書かれている。
どうやらルガーという人物に関する続報が、今回の目玉であるらしい。
「ほぅ、あのルガーもとうとう1000万近くなったか」
「やぁねぇ物騒で、早く誰か捕まえてくれないかしら…」
「こういう男はすぐさま処刑すべきね!なんで国はもっと積極的に動かないのかしら」
「おいおい、捕まえた後に何度も逃げられているから問題なんだろう?」
その男に対する批判は様々で、殺戮を生き甲斐とした極悪人、悪魔に取り付かれた男等、近くの人々とあれやこれやと終わりの無い論争をしている。
しかしそんな中でやり取りを小耳にはさんで悪態を吐く、いかにも紳士風の男がいた。
その風貌は一見すると名のある家の主とも取れるが、近くで見れば着こなす燕尾服は寄れており、裾が擦り切れボロボロで、長い間着ているのであろうがなんともだらしが無い。
「毎度毎度嫌になるね、書いてある事だけを信じる輩ってのはどうにも……品がねぇ」
男は機嫌が悪そうに咥えていた葉巻をふかすと、色褪せた山高帽を被り直し、細い路地へとゆっくり消えていった。
人の雑多する街へと溶け込んで行く彼の名を知るものは居ない……
初投稿となりますが如何でしたでしょうか。
乱文になりがちなのでゆっくり書いていきたいと思っております。
粗のご指摘や雑感等お気軽にお寄せいただければと思います。
ごきげんようそれではまた。