俺、ドラゴンの卵に転生した。ただし、ドラゴンではない。
拙い文章ですいません。
その龍は高空を飛んでいた。
青い空と橙色の太陽を背にし、標高8000mはくだらない山脈を越え、優雅に、そして自由に飛んでいた。
その身体は逞しく、その鱗はさながらどんな攻撃も防ぐ装甲だった。
大きな翼をはためかし、その風を一身に受けるその龍の名はーーーーー
「ねえ相棒、さっきからブツブツ何を言ってるの?あなたの声は私の脳に直接響くからうるさいんだけど。せっかく気持ちよく飛んでるんだからさ。」
ったく、これだからお子ちゃまは。
美しい風景を見たらそれをどうにかして表現したくなるのが人間ってもんだろ?
「いやいや、私もあなたも人間じゃないでしょ。私は龍、あなたはその龍のもう1つの人格とやらでしょ?」
うっ、まあそうだけど、いいじゃないか少しくらいカッコつけたって。
「そもそも何を言ってたの?普段と口調も違ったし。」
そんなこともわからないのか?
地の文だよ地の文。
物語とかにある、セリフだけでは伝わらないことを補ったりする文章だよ。
「物語なんて読んだことないから知らないわよ!ったく、あなたは昔人間だったらしいけど、私はただの龍なのよ?本なんてそうそう読む機会ないわよ。」
まあそうだな。
しかしあれだ。このままでは地の文としての最低限の仕事すら出来ていないことになる。
地の文としての最低限の仕事。
つまり状況説明だ。
「あなたは地の文じゃなくて私の相棒でしょ。」
なんか聞こえた気がしたが無視しよう。
なんで俺が龍と脳内で話しているのか。
それを説明するにはかなり時間がかかりそうだ。
どこから話したものか……。
とりあえず無難に、俺がこの世界に誕生した時のことから話そうか。
俺がこの世界に誕生した日。
それは俺の人生が終わった日であり、そして始まった日でもあった。
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気がつくと、俺は何かの巣の上にいた。
木の枝ーーー太さから考えると幹かもしれないがーーーでできた所謂鳥の巣のようなもの。
その上にぽつんと存在していた。
全く身体も動かない。
ピクリとも動かず、微塵も力が入らない身体は、俺に恐怖心や焦燥感を抱かせていた。
それらに押し潰されそうになった俺は、なんとかして自分の状態を確認してみた。
すると、なんということだろう。
自分の身体は、何かの卵であることが判明した。
大きさはダチョウの卵を優に超えており、色はあらゆる光を吸収しそうな漆黒。
そんな卵。それが俺だった。
事態は立て続けに起こるものだ。
俺が理解できない現状に困惑していると、高い青空に1つの点が現れ、それがだんだん近くなりついにはドラゴンの形を成した。
そうして俺のすぐそばに降り立ったのは、真っ黒な龍だった。
漆黒の龍だった。
ーーああ、俺ここで死ぬのかーー
短い、というかまだ生まれてすらいない第二の人生。
それに諦めをつけ、死ぬ覚悟を決めたとき、何か温かいものが身体を包むのを感じた。
そっと目を開けてみるとーーーまあ、目はないんだけどそう表現するしかない感覚だったーーーその龍が俺を優しく包んでいるのが見えた。
曖昧だが少し残っている前世の記憶や、今の状況から鑑みるに、俺は龍の卵に転生したらしい。
ーーどうなってんだよーー
そっと呟こうとしたが、卵の身体では声を発することができなかった。
さて、どうなることやら。
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あれから一週間ほど経った。
依然俺は生まれていないし、かといってモンスターに食われたりもしていない。
つまり、なんの変化もないってことだ。
漆黒の龍、つまり母さんは毎日俺に何かしら話しかけてはいるが、正直に言って唸り声にしか聞こえない。
しかし、それは突然に起こった。
いつも通り、母さんが俺を温めていると、ついに俺にヒビが入ったのだっ!
ーーやっとこの卵視点から解放されて、龍として生まれられる!ーー
その想いを抱きながら俺は割れて………
俺の中から小さな龍が出てきた。
は?
今「は?」って思ったやつ居るだろう。
安心しろ、俺も思った。
俺が割れて、ついに龍としての俺が生まれると思いきや、俺は卵のままだった。
卵の、殻のままだった。
カランコロン。
そんな音とともに俺は転がった。
真っ二つになった俺は、半分に割れた卵の殻は、なんのことはない。ただの「物」なり下がった。
今まで母さんが愛情を注いでいたのは、俺の中の子龍に対してだった。
今まで母さんが温めていたのは、俺の中の子龍だった。
今まで俺が夢想していた第二の、龍としての人生は、俺の中の子龍が歩む道だった。
俺は、龍なんかじゃなかった。
俺は、生き物ですらなかった。
俺は、新しい命が生まれるのを守るだけの、ただの殻だったのだ。
その命が生まれた今、俺はただただ空だった。
空っぽだった。
そして、そんな卵の殻である俺を囓ろうとしている子龍を見て、俺はこの世界2度目の死の覚悟とやらを決めた。
いや、実際そんな覚悟もいらなかったかもしれない。
だって俺はそもそも生まれてもいない、生き物ですらない、ただの物だったのだから。
走馬灯と言うにはあまりにも短く、内容のない空っぽなこと考えている間に、子龍の顎門は迫り、そして噛み付いた。
噛みつき、嚙み砕き、咀嚼し、飲み込んだ。
どんどん、どんどん、どんどん。
バリボリ、バリボリ、バリボリ。
俺がの意識がだんだんと薄れていき、遂に一欠片もなく食べ切られたとき。
プツン、と。
俺の意識は途切れた。
まるで、最初からなかったかのように。
まるで、最初から生まれていなかったかのように。
あまりにも自然で、あまりにもスムーズに、俺の意識は消えて無くなった。
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次に目覚めた時、俺はなぜか子龍になっていた。
いや、この表現は正しくないか。
俺は、俺の意識は、子龍の中に入っていた。
子龍の視点で景色を見て、子龍の鼻で匂いを嗅ぎ、子龍の肌で風を感じていた。
しかし、依然俺の身体は俺の意思では動かなかった。
子龍の意思で動き、子龍の意思で生きた。
つまり、なんだろう。
俺は子龍の中に宿る第二の意識となったようだ。
どうしてこうなったんだか。
でもまあ、なったものは仕方ないか。
こうしてテレビを見るかのごとく、子龍の人生を見守ってやろう。
どうせ何もできないんだし、傍観に徹するか。
そうだ、俺は物語の地の文だ。
見るだけ見て、表現するだけ表現して、何も行動はしない。
そんな地の文になろう。
といったことを考えていると、俺の意識に直接声が響いた。
「あなたはだあれ?わたしのなかでなにをしゃべっているの?」
思えば、それは言葉じゃなかったのかもしれない。
しかし、同じ体に宿る意識どうし、なにを考えているかはそれこそ手を取るように理解できた。
なるほど、異なる人格どうしで会話ができるということか。
こんなに不思議な事態だったのに、俺の頭はやけに冷静だった。
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「へえ。やるじゃない。今のがジノブンってやつね。私とあんたが一緒になる前に、あんたはそんなこと考えていたんだ。」
まあ、そうだけど、案外恥ずかしいものだな。こうして誰かに自分の言葉を伝えるのは。
「なに言ってるの?私とあなたは一心同体よ?そんなの今更じゃない。」
ああ、そうだな。
あの日決めたんだ。俺は君のサポートをするって。
俺は君に一生を捧げるって。
「はぁ?あんたが死ぬ時は私が死ぬ時でしょ?どうせ一緒なんだから、本体である私にあんたが尽くすのは当然でしょ?」
そうさ。
これからもよろしくな、相棒。
「こっちこそ、一生よろしくね、相棒!」
いかがだったでしょうか。
どんな内容でも励みになるので、コメントお願いします。
他にも書きたいシリーズがいくつかあり、とりあえず全て1話は書いてみるので、これの次話を投稿するのはかなり先になるかもしれません。