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日本兵と金狐  作者: ヒューベリオン
3/3

第3、4話 狐が舞う

ここから本格的になっていきます

恋愛もまたしかりです

徹夜をして何とか書き上げました、眠い目を擦りながら書いているので

不自然な点がありましたらすみません

「ん~~~・・・」

午後1時すぎ、昨日「美人さん」から貰った手紙を見ていた

しかし・・・

「字は綺麗なのになんで絵は下手なんだろう・・・」

そう、字はお手本にしたいほど綺麗な筆裁きなのだ

でも絵は「なんじゃこりゃ?」というような感じなのである

山に一本の山道、行き着く先は大きな大木と神社・・・というのはわかる

だが、その肝心の道はどこにあるのか、どこの神社なのか全くわからなかった

ここら辺の山奥に神社なんてあっただろうか?

試しに祖母に聞いてみたが

「しらんよ~?」

の一言

そもそも、なぜ実家の家を知っているのだろうか

助けてもらったというのは包帯代わりに巻いた布でわかる

名前もそれに書いてあったため、わからないことはない

だが、家はわからないはずだ

あるいはその狐に案内させたのか

でも怪我している狐にわざわざ案内させるだろうか?

考えれば考えるほどわからなくなってきた

「・・・どうしよう」

本当にどうすればいいのかわからなかった

場所も道もわからなければ行くことは出来ないし

誘われて行かないというのはその主に対して失礼なことだ

あと、祖母もうるさいだろう

「あーーーーどうしよう」

頭を手で抱え込んでしまう

非常に困った

こうして、悩んでいるうちにも刻一刻と約束の時間に近づいて行くのだった


「あーー・・・・」

結局、結論も出ないまま約束の1時間前、6時前になっていた

私は今玄関に立っている

軍服に着替えさせられ、例の物と大金を財布に入れられ、祖母に追い出されてしまった

「じゃ、ちゃんと行ってくるんよ」

そう言ってニッコリ笑うと勢いよくドアを閉められ鍵を掛けられてしまった

「い、いくら何でもそこまで・・・」

ちょっと泣けてきた

こんな汚い地図が宛になるはずもなく

かといってここにいるわけにもいかず

森に入っても迷子確定

そして、明日の昼に船に乗って北海道まで行き、部隊復帰なのだ

迷って港にいけませんでした、なんて言えない

「もう、おしまいだ・・・」

昨日はあんなに楽しみにしていたのに、今となっては地獄だった

会いたかったな・・・美人さんに・・・

そう心の中で喋り、涙目を浮かべた

まるで、悪いことをして倉庫に1日閉じ込められたみたいな気分だった

サッサササ

「キューン」

聞いた事のあるような鳴き声だった

聞いた直後は固まっていたが、もしやと思い

周りを慌てて見回した

しかし、何もいない

遂には幻聴まで聞こえ始めたかと肩を落とす

「キューン」

「!!?」

今度は幻聴ではない

確信した私は鳴き声の聞こえた方に目を向ける

そこには見覚えのある狐が立っていた

そう・・・この前助けた狐だった

「あ、会いたかったよ」

より、一掃の涙目を浮かべて狐に駆け寄る

すると、狐の方からも駆け寄ってきた

「よしよしよしよしよし」

駆け寄ってきた狐を撫で回す

相変わらず毛並みは整っており、肌触りも最高だった

ある程度撫でているとスッと私の手から離れて森の方へ歩いていった

5メートルほど行くと立ち止まって振り返り

「キューン」

と泣くのである

まるで、こっちへ来いと言うように

その行動の意味を何となく理解できた

「神社へ案内してくれるのか?」

「キューン」

まるで、返事をするように鳴いた

確かにその神社で飼われている狐であれば帰省本能でたどり着けるだろう

しかし、わざわざ案内人(狐?)を差し向けるとは

自分の絵の汚さを理解しているのか

それとも親切なだけなのか

それはわからなかった

とにかくありがたい

これで迷子になって軍に干される事も

祖母に殺されることもない

「ありがとう・・・助かるよ」

狐に助けられるとはちょっと軍人としてどうかとは思うが、死ぬよりかはましであった

サッサッサ

リズムよく草を踏む音と共に私は森の奥へと消えた


「三八式が欲しい・・・」

三八式とは日本軍歩兵部隊の主力武器、三八式半自動小銃の事だ

なぜ、その三八式が欲しいかというと周りが暗いからだ

確かに空はまだ少し明るい

だが、木が茂っている森では葉に光が遮られて足元は暗黒の世界となる

そもそも暗闇とは異常に不安感や恐怖がこみ上げてくる

何時、熊や猪に襲われるかわからないからだ

今回は追加で案内狐も見えない

音を何とか追って歩いてはいるが

いつの間にか違う生き物を追っていた

なんていうのは冗談では済まない

いざという時には武器が必要になる

武器に頼ると言うこと事態すでに軍人慣れしてしまっているのかもしれない

しかし、死んでしまっては元も子もなかった

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

懐中時計も見えないため何分、何時間歩いているかわからない

しかも、歩いているのは普通の山道では無く獣道のようだ

幾つもの草や枝や木が身体、頭にぶつかる

帽子と顔を抑えながら何とか進んでいると言った感じだ

暗闇、不安、恐怖、道なき道、山奥

色んな条件が重なり、軍人で鍛えている筈の私でもかなりしんどかった

「はぁはぁはぁ・・・」

いつまで経ってもたどり着けない

遂には狐に騙されているのではないかと疑い始めたほどである

昔話の中にこういう話がある

「狐に騙される」と

話の名前は知らないがそういうことを聞いたことがある

元々、意味は自分が騙されたかのように感じる(催眠術や錯覚)や嘘みたいな、俄には信じられないと言った感じだが

今回は本当に騙されているのでは?

と思うのである

「・・・・・・・」

何かの異変に気付いた私は足を止め、息を潜める

カサカサカササササッサザザザ・・・・

「・・・まずい」

明らかに私と狐以外の足音も含まれている

しかも、それは四方八方周りから・・・

熊は集団行動はしない、猪は親子ならするが

わざわざ人間を囲むような事はしない

だとすると・・・

「狼・・・」

四方八方から音がすると言うことは囲まれている

私は獲物として標的にされているのだ

夜目も効かず、武器も持たない私に勝ち目はない

立ち去るまで身を潜めるか?

いや、臭いで見つかる

時間の問題だ

走って逃げるか?

どこに?神社か?

全く見えない、ここがどこかも分からず、場所も知らない

知っていたとしても狼に、しかも山で走って逃げて助かったなどという話は聞かない

では、ここで死ぬか?

誰にも見つからず、供養もされず、一人ぼっちで

骨だけになるのか?

いや、まだ諦めるのは早い、まだ策がある・・・はずだ

そう信じたい

しかし、どんな策がある?

顎を掴み、考える

するとある一つの作戦を思いついた

何かを投げ、着弾音を出す

そこに気を取られている間に逃げ出す

と言うものだ

これしか無いと思い、すぐさま実行に移す

一刻の猶予もない

手を周囲に伸ばし、何か無いか探索する

自分の後ろに伸ばすと何かにふれる

それは柔らかく暖かいような感じがしたが気にしない

一度引きちぎるため強く引っ張ったのだが

「きゃ!」

「きゃ?」

人の声が自分の手が伸びている方から聞こえてくる

しかも、間近で

と、次の刹那

「どこ触ってるんですか!バカ!」

「ぐはぁ!」

蹴りだか、殴ったかわからないが強い衝撃が来る

しかも、腹の溝に

私はそのまま倒れて気を失っていく

その際、色々喋っているような気がしたが

そんな事は頭に入らず、あることしか頭になかった

「なんで・・・ここに「人」がいるんだ・・・」

そのまま、私は気を失ってしまった


「人の胸を何だと思ってるんですか、全く、破廉恥な・・・って、え!?大丈夫ですか!大丈夫ですか!?」


「うぅ・・・ここは?」

明るい部屋の中に視界一面に女の人の顔が写っていた

「あ、目が覚めましたか・・・よかったぁ~」

と、胸を撫で下ろす彼女

その彼女の綺麗な黒髪で長く優雅な感じだった

目は日本人特有の茶色ではなく赤

白と赤の巫女姿でとてもよく似合っていた

美しい女性だった

「あ!」

そんな彼女をほったらかしにして懐中時計を取り出して時間を見る

時間は7時10分を指していた

「ま、間に合わなかった・・・か」

しゅん・・・っと肩を落とし残念そうにする

「間に合わなかったって・・・祭りに?」

「はい、実は・・・」

懐から例の物を出し、見せる

「この祭りに参加するつもりだったんですが・・・え?祭りのこと知ってるんですか?」

「知ってるも何も私達が主催でやるので・・・しかも、それは私が書いたものですから」

「え・・・」

気がついて早々だからか頭の回転が追いつかない

一度整理しよう

この女性が祭りの主催者で神社の巫女ということ

巫女姿なのでそれは確定だろう

巫女さんがいるということはここは神社で私の目的地であるということ

結果的に10分遅れというだけで余り問題はなかったということか

そして、目の前にいる巫女さんが私をここに招待してくれた人であの手紙を書いてくれたということ

と言うことはあのよくわからん地図もこの巫女さんが書いてくれたのか

それと狐の飼い主もこの人なのか

「あの~・・・」

すると手紙を届けてくれたのはこの巫女さんというわけか

確かに、祖母が美人と絶賛するだけのお人柄ではある

「考えごとは終わりましたでしょうか・・・」

「あ、あぁ、はい終わりました。すみません」

「今回は私を・・・いえ、我が家の狐を助けていただきありがとうございました」

「いえ、当然のことをしただけで・・・」

今、私って言い掛けてなかったか?・・・気のせいか

「そんな事はありません。狐は寄生虫がいる可能性がありますから、普通は怖がって助けたりしませんよ」

そ、そうだったのか・・・知らなかった

今度から気をつけよう

狂犬病と同じような一種かな?

「ですから、深く感謝しております」

礼儀正しく手を添えて頭を下げる

さながら巫女さんだと思った

「あ、頭をあげてください。そんな大したことしてませんから」

「それと、もう一つ謝らないといけないことが・・・御座いまして」

少し、つらそうな顔をする

「殴ってすみません!突然の事でびっくりしてしまって・・・」

と言うことは、この人があの時の人か

「いえ、私の方こそすみません。何かいけないことをしてしまったようで・・・」

そう、あの暖かくて柔らかい物は何だったのか気になるが敢えて聞かないでおこう

「ねえ、そろそろだよ」

後ろの敷居からもう一人の巫女さんが顔をのぞかせる

何かあるようだ

「あ、うん。わかった」

振り返って軽く返事をして承諾した

返事をしたらこちらに向き直って

「それでは一政様、私は舞を踊らなければならないので行きます。この建物の裏に裏門が御座いますので、そこから出て正門でその札を渡してからもう一度入ってきてください。7時30分から30分間踊りますので良ければみてください」

あたかも見に来てほしいような言いぐさではあったものの、丁寧な言い回しで品格のある物だった

「了解しました」ビシ

そんな彼女に自然と敬礼をしてしまった

軍人ならではの反応なのかもしれない

なぜか、そうさせる力が彼女にはあったのだった

「ふふふ、面白い方なのですね一政様は。それでは、失礼いたします」

そう言って彼女は廊下へ消えていった

懐中時計を見るとすでに20分だった

急がねばなるまい

少々だるかったがその舞とやらを見たいので彼女らを見送ると

すぐに裏門に向かった


「ねえねえ、思ってるの?」

「何を?」

「何って、あの「人間の軍人さん」に助けて貰ったんでしょ?」

「え、ええ、まあ」

「普通ならあのまま恋に落ちても可笑しくないんだよね、私なら落ちてる」

「な、何を言い出すのよ!」

「だって、あの人のこと話すときのあずさは何時も楽しそうだから。半日しか過ごしてないのにね」

ニヤリと悪戯のように顔を歪める

「ば、ばれてた?」

少し恥ずかしそうに聞き返す

「うん、分かりやすい。あ~あ、遂に梓も恋・・・か。応援してるよ」ニヤニヤ

「あ、ありがと」

「ただ「人間と」だからね、乗り越える壁は大きいと思うよ」

「うん、わかってるつもり」

「梓が人間じゃ無いって分かったときに彼は逃げないでいてくれるかな?」

「・・・」

答えれなかった、それは全くもってわからないからだ

怖がって逃げるかもしれない

狐なんかとは結婚しないといわれるかもしれない

「しかも、軍人でしょ?あえる機会も少ないし、戦争になって戦死するかもしれない」

そう、そもそもの問題は恋愛まで持っていけるかの話だ

もし、恋愛までもっていけても戦死しては意味がない

それからの将来、ずっと悲しみだけを抱えて生きていかないといけない

軍人を想うというのは思いの外デメリットも多いのだ

「うん、わかってる。でもね、あの「人間」は私の「初恋」の人だから・・・そう簡単に諦めたくないの」

「そこまで言うなら止める必要もないかな、じゃあ、頑張ってね」

「ありがとう!」

応援してくれる親友に感謝する梓だった


「ええっと・・・人間ですか?」

私は正門で札を渡していた

受付の人も巫女さん姿で変な狐の仮面をしていた

あの、手紙のマークと同じで

やはり、この神社は狐に関する神社なのだろうと思った

そして、この受付の人が可笑しなことを聞いてくる

「はあ、まあ」

人間以外だったら何なんだ?

そう思ったが、聞き返してはいけない雰囲気だったので

そのことは伏せようと思う

「と言うことは、梓が言ってた人か・・・」

「え、梓?」

「いえ、何でもありません。ではお祭りをお楽しみください」

ここにきてからというもの変な質問をされたり

変なことをいわれたりした

そんなに軍人が珍しいか?

しかし、ここは山奥

もしかしたら軍人はここにはほとんど来ないのかもしれない

それと、もう一つ変わったことが

「クンクン」

よく匂いを嗅がれる

そ、そんなに臭いのだろうか・・・

自分の服やら腕やらを嗅いでみるが

あまりわからない

「美味しそう・・・」ジュルリ

一人の女の子が私を見ておいしそうという

舌なめずりもしていた

「お嬢ちゃん、私を食べても美味しくないよ」

「えーだって、美味しいじゃん「人間」って」

「え・・・?」

この女の子はなんていった?

美味しい?人間が?

どうせ、子供の悪戯か何かだろうかと思った

そう、ただの悪戯だ、そうに違いない

人間が人間を食べるはずがない

狼ならまだしも

・・・気がつけば私は一点に視線の集中砲火を浴びていた

しかも、その人たちの口元には少しの笑みが見える

私はここにいてはならない

そう、直感的に思った

回れ右をして急いで正門に向かう

「どこ行くの?「人間」」

恐る恐る振り返る

そこに写った少女の顔は・・・

「おい、君」

誰かに呼び止められた

だが、間髪入れずに

「こっちに来たまえ」

手を強引に引っ張られ

とある建物の中へと連れ込まれる

手を引っ張って中に連れ込んだのは男の人だった

この人も神社固有の服を来ていた

「何なんですか、あの人たちは」

ちょっと、強気で言う

怖いことがあって少し興奮しているのだろう

「何って、なにがですか?」

「いえ、あの人たちですよ」

と、指を人混みの方に指す

「祭りの参加者ですが」

「でも、人間が美味しいのどうの」

「何言ってるんですか、皆さん舞台の方に集中されていますよ」

舞台の方では和風の曲が流れはじめ、仮面を付けた巫女さん3人が入場し始めていた

それを見つめる人混みの中で一人だけこちらを見ている少女がいる

その口元は微かに・・・笑っているように見えた

いや、一人だけじゃない・・・数名こちらに目を向けているものがいる

「くっ!・・・」

「・・・まあ、安心出来るまでここにいてください」

「そうさせてもらいます・・・」

「では、もしここからでられる場合はこれを持って行ってください」

手渡された物は例の狐が描かれた御守り

これも、少々恐怖材料ではあるが

御守りというのは持っているだけで安心するというものである

御利益があるかどうかは別として

「ありがとう御座います」

「では、仕事がありますので失礼いたします」

一つ礼をすると部屋から出て行ってしまった

「いったい、何だったんだ」

先ほどあった怪奇現象のような物を思い返していた

ここにきてからというものおかしなことだらけだ

人間かと聞かれたり、変なことをいわれたり

人間が美味しいと言った少女・・・

集める視線、不気味に笑う人々

もしかしたら、この参加者全員が敵で神社に関わる者は見方

あるはどちらとも敵か・・・

色々な考えが巡り巡って困惑してきた

「はぁぁ~」

深いため息をつき、頭を抱え込む

すると今まで気にならなかった音楽が頭に入ってくる

窓越しに音楽が聞こえてくる舞台を見ると

華麗に巫女が踊っていた

「上手だな・・・」

それ以降はそれに見入ってしまい

終わるまで、瞬きすら忘れてみていた

これまで抱え込んでいた悩みも忘れて


舞台の舞が終わって周りは少し落ち着いた雰囲気からにぎやかになった

音楽と入れ替わるように

しばらくすると、外へでる反対側の扉が空いて巫女さんが入ってきた

そう、起きたときにいた巫女さんだ

別にびっくりするようなことは無かったのだが

例の件があるため過剰に反応してしまう

「ん?どうかされましたか?」

「・・・・・・何でもありません」

一瞬、この人も敵ではあるまいかと思った

しかし、その純粋な瞳に負け

敵では無いことを悟った

これで敵だったら、相当な偽装技術である

「祭りの行事はあらかた全部終わってしまったのですが・・・この後、時間ありますか?」

懐中時計を見ると8時を軽く越えていた

しかし、時間はあるかと聞かれているので

多分、この後も何かしらあるのだろう

「はい、大丈夫ですよ」

「本当ですか?」

踊っていたからか疲れた顔をしていたのが

一気に明るくなっていった

「じゃあ、行きましょう!」

手を取って外に連れ出そうとする

それに少し躊躇って抵抗してしまう

「行くって外に・・・ですか?」

あの怖い出来事があり、極力外に行きたくない

軍人たるもの戦闘で死ぬのは恥ではないが

こんなところで無駄死にはしたくない

「外にはきつねうどんとか、お賽銭とか御守りとかあるのですけれど・・・いやですか?」

いきたくなさそうにする私を彼女は上目遣いで聞いてくる

そんな彼女に胸が高まるのを感じつつも、冷静に保とうと努力する

「・・・・・」

「はぁ、わかりました、わかりましたよ」

まあ、結局心が折れるんですけどね

この少女が見方であるということを信じよう・・・

「ありがとう御座います!それじゃあ、行きましょう」

再び顔を明るくして手を引き、外に連れ出す

正直結構怖く、恐る恐る肩を縮めながら歩いていたのだが

前みたいな事もなく、気軽に祭りを楽しめる雰囲気だった

「・・・これのおかげか?」

この神社の関係者らしき男性から貰った狐マーク入りの御守り

案外これが利いているのかもしれない

外へ出てまず連れて行かれたのがうどんの所だった

無料で配られているらしく、結構な人で賑わっていて

うどんを取るにも時間が掛かるし、席もちょうどいい所が無かった

やっとの事で2人座れる場所を見つける

「この、狐うどんは我が神社お手製の物なのできっと好きになると思いますよ?」

「それにしても狐うどん1択なんだね」

「まあ、狐に関する神社ですから」

無料で配られているうどんなので文句は言えない

それに、自分の好みはざるうどんではあるが

うどんであれば大歓迎であった

別に香川県出身ではないがうどんは好物な方である

「「いただきます」」

2人で手を合わせ先に彼女が食べ始める

「ん~~♪」

彼女が口にうどんを運び、堪能しているところを見てから食べ始める

ズルズル

「お・・・美味い」

「お褒めに預かり光栄です」

それから2人の会話は続かず

うどんが食べ終わるまで、話すことなく

味を堪能していた


「君の名前は梓って言うんですか?」

「え・・・」

うどんが食べ終わり、話を切り出したのは私の方からだった

「何で、知ってるんですか?」

「いや、受付の人が梓とかなんとか言っていたので」

「そ、そうなんですね~(怒)」ニッコリ

顔は笑っているが多分怒っている

彼女の背後に炎のような物が見えたような気がする

可愛いほど、綺麗なほど何とやらと言ったものである

「で、他には何か言っていませんでしたか?(怒)」

「いえ、何も言っておりません!」

余りの気迫に背筋を伸ばして答える

顔は綺麗なのに、内側は怖い

普段は大人しいのであろうが・・・

「そうなのですか、それなら構いません」

何とか彼女の機嫌を取り戻すことに成功したようだ

「そうです、私は狐神きつねがみ あずさです、今後ともよろしくお願いします」

「私は・・・」

「山口一政様ですよね、存じております」

「あははは、でも一様自己紹介をさせてください。私は大日本帝国陸軍第188歩兵師団所属、山口一政陸軍大尉副師団長です、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

まるでお見合いでもしているかのようだった

まあ、初対面なのでそうなるのは普通な事だ

「一政様はけっこn・・・いえ、何でもありません」

「え?」

「次、お守りを置いてあるところに行きましょう」

何かを言いかけてやめ、強く私の手を引っ張る

なんだかはぐらかされたようで心に凝りが残ったまま、彼女に連れて行かれる

「そう言えば、狐神ってめずらしい名字だね」

彼女に手を引かれて歩いている最中に尋ねる

正直言えば珍しいというより聞いたことがない

少なくとも歩兵師団の中にはそんな名字は無かった

「珍しいも何も我が家だけだと思います」

「そうなんですか」

どうりで、聞いたことないはずだ

ここに来るまでこの神社の事自体知らなかったのだから、知っている訳がないのだ

「はい、ここが御守り売り場です。売場といっても無料なのですが、寄付をしていってくれる人もいますよ」

「ふむ・・・」

懐から財布を取り出し、何を買おうか選んでいた

そして10分悩んだ末に

戦運、武運長久、健康×2、長生き×2、安全、恋愛

計8つ買った

代金(寄付)として8円を巫女さんに渡す

「え!」

「え!」

「ん?」

彼女と巫女さんには互いに驚いた様子で、私は?を浮かべる

「あ、ありがとうございます!!」

「え、あぁ、ありがとう」

紙袋に丁寧に包まれ渡される

私と彼女が立ち去るまでペコペコ頭を下げていた

「み、巫女である私が言うのも何ですが、あんなに大金渡してよろしいのですか?」

「御守りって1円位するんじゃないんですか?」(昔1円=現在1000円)

「寄付しても1銭位ですよ、年に一度の祭りでの御守り寄付で1円集まるかどうかです」

「あ、そうなんですね・・・」

結構損した気分だった、前に行った神社での御守りが1円だったが為に

まさかの総売上金額の8倍支払ってしまうとは・・・


次に向かったのはお賽銭箱のところだった

この頃になるとだいぶ空いてきていた

あれだけ賑やかだった神社内は少し静かになっていた

「これが我が神社のお賽銭箱です、好きなお願いで結構ですよ」

「狐はどんな願いを叶えてくれるんですか?」

「大体ほとんどのお願いを叶えてくれるので、何でもいいと思いますよ」

「そうですか、では・・・」

カチャンコロン

1円と30銭投げ入れてお願い事をする

パンパンという音を立てて頭を下げて拝む

「(いいお嫁さんが出来ますように)」

今の私が神頼みをするような事はこれぐらいしかない

と言うより、これが一番かなってほしい願いだった

「お狐様が善意の塊ならどうかお願いです、私の願いかなえてください」

お願いを済ませ、振り向き彼女を見たのだがまたもやびっくりしている様子だった

「軍人って・・・お金持ち何ですね・・・」

「いや、必ずしもそうじゃないんですけど、これだけは絶対に何が何でも叶えたいので・・・神頼みです・・・」

「お狐様だったら、叶えてくれますよ、きっと・・・(多分)」

一円三十銭(1300円)も払っておいて、叶わなかったらすみませんなんて言えなかった

今はこの人の切なる願いが叶ってくれることを願いたい

「そんなに払ってまで叶えたい願っていったい・・・」

「それは秘密です」

ですよねーという感じでそれ以上聞いてくる事は無かった

そして、当の本人も大きく言えることではない


「それでは、祭りの宴会があるのですが一政様はどうしますか?」

「え、参加してもいいのですか?」

まさか宴会まで誘われるとは思わず

少しびっくりする

懐中時計はすでに9時を回っていたが

船は午後2時に出るので、朝遅く起きても問題は無さそうだ

「では、せっかくなので」

「わかりました!では、あちらです」

相当嬉しかったのか目を輝かせていた

まあ、女性に喜ばれるのは悪いことではない

と言うことで案内されたのは神社施設内の大きな和室だった

そこには既にみんなが集まっていたらしく

端に2つ机の空きがあった

その上には日本酒や赤飯、味噌汁、五目寿司など豪華なものだった

「どうも、失礼します」

入ったとたん宴会参加者全員の注目を浴びる

慣れないところで妙に困っていたところ

向かい側にいた男性が声をかけてくる

「あんたが私の可愛いむs「ごっほん・・・」・・・狐を助けてくれた人か?」

「まあ、そのようで」

むと言い掛けたところで彼女が妙に大きい咳払いをして止めた

その若干の合間の後話の続きをする

「へえ・・・なかなかいい男じゃないか」

「あ、ありがとうございます」

いい男と誉められ少々照れる

誉められていやな思いをする人なんて余りいないだろう

その後、色々なことを神社の関係者達と話し合った

軍隊にいるときの生活や今の現状、位の話などなど

世間話もまたしかりである

しかし、妙なことに余り私の質問には答えてくれないのだ

いつも何らかの形ではぐらかされてしまう

何か、知られたらまずいことでもあるのだろうか?

「そう言えば一政様は結婚とかされてないんですか?」

隣にいる梓がなぜか反応する

「結婚どころか恋人もいませんし婚約者もいません」

「あら、そうなんですか」

「はい、ですから祖母が結婚しろとうるさいのですよ、30歳になったら無理やり婚約者つれてくると聞かなくて」

「今、何歳ですか?」

「29歳です、もう1年も無いんですよ・・・ここ一番の願いは祖母がいい嫁さんをつれてくるか、それまでに婚約者が出来るか・・・それだけですね」

この時梓は確信した

きっとあの時大量のお金を払ってでも叶えたかった願いはこれなのだと

だったら、自分がかなえてあげますよ

なんてことを言いたかったが、言えるはずもなかった

「(よかったじゃないの、結婚も婚約者もいなくて)」

梓の横にいた親友が肘で腕をつつき、こそこそ話をする

「(うん・・・)」

「(少なくとも相手も望んでるんだし・・・今夜、落としてみる?)」

「(そ、それは無理だよ・・・)」

「(ん~つまんないの)」

横でこそこそ話をしているのを山口は気付いていたが

男には余りの聞かれたくない話題もあるだろうということを察し、ふれないでおく

察したというより、わからなかったので触れなかっただけだが

「そうだねぇ・・・」

チラッと梓の方を見る

相変わらずこそこそ話をしているようだった

「一政様、良ければ梓を貰ってはくれんだろうかね」

「え?」

「は?」

突然の話で二人とも驚き

梓に限ってはこそこそ話も中断して、祖母とおもしき人に目線を向けていた

「ちょっと、ばあさま何を言ってるのですか?」

「梓ももう25だ、もうどこかに嫁入りしてもいい時期だよ」

「でも、なぜ一政様を・・・」

「軍人だが、大尉とそこまで位も悪くないし、人柄も良好なようだ。しかも29で婚約者も居らず、年も近いし、何より梓、あんたの命の恩人なんだろう?」

「・・・」

「そして、何より・・・梓も一政様の事は悪く思っていないようだからね」

こちらを向き微笑みかける

「は、はぁ」

「で、でも、ばあさま・・・いきなりすぎませんか?会ってから3時間ほどしか経っていませんけど」

「そ、そうですよ、私は狐を救っただけで何も彼女は救っていませんし・・・」

「たかが狐、されど狐だよ。我が家は狐を代々祀ってきた。しかも、助けてくれたのは我が家の狐、しかも飼い主は梓ときた、これはもう命の恩人と同じだよ」

「そ、そういうものですか・・・」

「そういうものだよ。それに、3時間あれば人柄だってわかるさ。大丈夫だ、一政様の人間性は私が保証してあげるよ」

「で、ですが」

「まあ、無理には勧めんさ。私はあくまで提案として、いっているまでさね。だけど、婚約者で困っているなら梓を中に入れてやってはくれんかのう、我ながら外見も性格もいいと思うのだが」

「まあ、それについては否定はしませんが・・・」

「ははは、一政様も素直ではないのう」


「(ばあさま・・・ありがとうございます)」


「今日はもう遅い、ここで泊まっていくといい。梓、一政様のこと頼んだよ」

「は、はい・・・」

恥ずかしそうに俯いて返事をする梓

時計を見ると既に11時を過ぎている

約2時間に及ぶ宴会は楽しい物だった

食事やお酒もおいしかったし、何より話も途切れることなく進んだ

神社の人とも仲良くなれたし、何時でもおいでということなので帰ってきたら

毎度ここによろうかと思う

理由というのも特にないが、強いていうなら彼女・・・梓に会うためだろうか・・・

もう少し梓と話していたいが

正直もう結構な眠気が来ている

「と、取りあえず寝るよ、お休み」

毛布に潜り込んで寝る体制に入る

「はい、お休みなさいませ」

梓は隣に座ったまま答える

「あ、その前に・・・」

何かしてほしいことがあるらしい

「梓と呼んではくれませんか?」

「え、まあ、それくらいなら」

妙なお願いではあるが、出来ないこともない

少し恥ずかしいが

「あ、梓」

「はい・・・」

自分から誘っておいて照れるというのも可笑しいような気がするが

初めて下の名前で呼ぶというのは恥ずかしいものらしい

余計に雰囲気がそうさせていた

「お休み・・・」

「お休みなさいませ・・・・」

2度目のお休みを言って眠りにつく

今日はぐっすり眠れそうだ

明日に備えてもう寝よう

祖母は喜んでくれるだろうか

仮にも「恋人、許嫁」が出来たのだから・・・

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