第2話 狐の誘い
第2話目です
不甲斐ない点がありましたらすみません
では、本編どうぞ
「ん~~~・・・ん?」
朝起きると異変に気付いた
隣にいたはずの狐がいなくなっていたのだ
「帰ったのか・・・よかったな」
そう思う反面、残念に思う自分もいた
狐が珍しいということもあれば
あれだけ懐いてくれるのも珍しい
てっきり自分に懐いてしまったと思っていたばかりに
ちょっと寂しい気持ちになっていた
「いや、これが正しい・・・きっと」
元々あの狐は自然界で生きていたものだ
それをわざわざ人間の手で壊すこともあるまい
これが正しいのだ
自分に納得させるように自分に言い聞かせた
でも・・・それでも寂しいという気持ちは収まらなかった
「可笑しいな、半日過ごしただけなのに」
自分でも可笑しいと思った
まるで、恋人と別れるように寂しいと思うとは・・・
「まあ、恋人なんていませんがね」
そう、私には恋人はいない
女友達を作る・・・と言うことは一切してこなかったし
作ろうとも思わなかったからだ
だが、今回はちょっと訳が違った
それは昨日、嫁作れという祖母からの命令があったからだ
30歳までに嫁を作れという任務・・・
私は今年既に29歳
余命はもう、1年もない
女友達は1年あればできる(多分)
でも結婚してくれる人はいない、絶対にいない
自分でもわかるが大体諦めている
もう、祖母がいい人を連れてくることを祈るしかない
だが・・・
祖母のことだ、絶対鬼嫁を連れてくる
何時もにこにこ笑って大盛のご飯を出してきたり
悪いことをしたら縄で縛り付ける人だ
私は神に祈りを捧げることしか出来なかった
「南無阿弥陀物南無阿弥陀物・・・」
「何を独り言いってるんだい、朝ご飯食べるよ」
「は、はい・・・」
朝から気が重い今日この頃であった・・・
「ぐぬぬぬぬ・・・・はぁぁ~~」
朝ご飯を終えた私は外にでて太陽の光を浴びた
「あー太陽の光は素晴らしい!」
と、少し大きめに叫ぶ
ストレスを吹き飛ばすには太陽の光を浴びることと
大声で叫ぶこと
おかげで朝のどんよりした気分は晴れ、気持ちのいい朝となっていた
「さて、どうするか」
実家に帰ってきたといってもやることがない
訓練から解放されたのはうれしいが、暇なのは退屈で何かはしたかった
「取りあえず適当に散歩しよう(狐にも会えるかもしれないからな)」
ふと気がつけばあの狐のことが思い浮かんでいた
「はぁ・・・なに考えてるんだろう」
狐のことは忘れなければならない
でも、頭に残った凝りのような物はなんなのだろうか
気分転換したはずなのにまたどんよりしてしまう
肩を落とし、立ち止まって溜め息をつく
ふと気付けば目の前には狐と子供たちに出会った木陰があった
「あ・・・」
そう、昨日は狐の面倒をみていてやれなかったことがあった
思い出巡りだ
そういえば今日は平日、昨日あった子供たちは学校だろう
ここらにある学校といえば一つしかない
あそこにいけば子供たちにも会える
狐が助かったと言う報告だけでもしておこうと思った
そして、何より自分の母校でもある
かれこれ20年位前の話ではあるがあの頃の面影はあるだろうか?
早速、学校へと足を向ける
朝にもかかわらず太陽の光は強かった
「おお、変わってないな・・・あの頃のままだ」
その学校の校舎は私が通っていたときと同じもので
何処か懐かしみのある感じだった
肝心の子供たちは
今はちょうど体育の授業のようで運動場で元気に子供たちが走り回っていた
「みんな元気だなぁ」
少し感心している山口であった
さて、本題の子供たちはいるのだろうか・・・
「ん~~~」
かれこれ10分程探しているがあの子供たちは見つからなかった
どうやら違う学年らしい
「貴様、何か用か!?」
突然、横から柵越しに怒鳴られる
どうやらこの学校の教員らしい
昔、私もよく怒鳴られたっけ
今となっては位が位なのであまり怒鳴られる事もないが
「あぁ、いえ、何も特にはありませんが」
「なら、貴様はここで何をしている!良からぬ事だったらただじゃ・・・大尉殿!?」
どうやら襟元の階級証で私が大尉ということに気付いたらしい
念のため軍服で来てよかった
そうでなければ色々面倒ごとになっていただろう
陸軍大尉の階級証といえば
真ん中に一本の金色の線が通り、桜のマークが3つあるのが特徴だった
まあ、とにかく大尉であることに気がついてくれてよかった
出来るだけ面倒ごとは避けたい
「こ、これは失礼致しました」
「いえ、わかってくれたなら結構です」
帽子を脱いでペコペコ頭を下げる教師
「ささ、どうぞ中にお入りください」
「い、いえ、そんな悪いですよ」
どうやらこの学校に用事があるものと勘違いしているらしい
特に用というものは無く、ただ見学しにきただけなのだが
「いえ、遠慮なさらずに」
と、柵を開けて中へと無理やり連れ込まれる
まあ、ついでだ中も見せてもらおう
「大尉殿はなぜ我が校に?」
無理やり連れ込まれた私は運動場を歩き、教師に中まで案内されていた
授業は大丈夫なのかと思ったがもう一人いるようで変わらず授業を続けている
「ただの思い出巡りと子供を見にきただけです」
「はぁ、そうなんですか」
少し不思議そうにした教師ではあったが
何かを思いついたのか一気に明るい顔になる
「この後、何かご予定はありますでしょうか!?」
「いや、特にはありませんが」
「ならば、子供たちに特別指導をしてはいただけないでしょうか?」
「は、はあ」
また面倒くさい事になった
まあ、どうせこのまま帰っても何もやることがない
何だったら一日特別教師というのも悪くないだろう
「まあ、私でよければ」
「そう言ってくれると信じておりました、では早速校長に許可を取ります、ご一緒願います」
「はい、わかりました」
そうやって連れてこられたのは職員室の横の校長室だった
相変わらず外からの見た目も変わらないように
中も20年前と同じだった
だが、校長室に入ったことは無く
ちょっと新鮮だった
「野々村 哲入ります。どうぞ、後に続いてください」
私は校長室に入ると小さく礼をし、ドアを閉めた
外観の割には校長室は意外ときれいだった
さすが校長室、といった感じだ
「で、要件は何じゃね?」
そこには優しそうな笑みを浮かべる校長室の姿があった
ほとんど白髪で、結構年が行っているように思える
優しそうに見えて怖いというのが、よくあるシチュエーションだが
「はい、この大尉殿がここに見学に来まして、次いでといっては何ですが特別指導をしてもらおうかというのもです」
「ふぬーー・・・大尉殿は了解しておるのかね?」
「はい、本人はよろしいとおっしゃております」
「・・・では、頼もうかの。短い間じゃが子供たちを頼むぞ」
「はい、了解しました・・・のですが、具体的には何を?」
「ふぬーーー・・・そうじゃな、体育でも教えてやってはくれぬかの」
「はぁ・・・体育でありますか」
「いずれは彼らも軍隊に入る・・・そのために基礎を教えてやってはくれんかの」
「は、了解致しました」
「よろしく頼みましたぞ」
「では、大尉殿、こちらに。失礼致しました」
ぺこりと礼をして校長室を後にする
「もう10分すれば休憩時間になります、なので特別指導は次の3時間目からお願いします」
「はい、授業は先ほどと同じく運動場で?」
「そうです、何とぞお願いします」
それから休憩時間の10分も挟み
20分後の合図をきっかけに授業が始まった
今回は4年生の授業らしい
この20分間で色々授業内容を考えた
基礎と言っても、射撃訓練から、体力作り、集団行動など色々あるが
結局、無難な集団行動の行進をする事にした
「今回は急遽授業を変更して、特別指導を行う事になった。そして特別に現役の大日本帝国陸軍大尉殿にきてもらった。この人が・・・」
「山口一政」
子供たちにばれないようにそっと告げ口する
「山口一政陸軍大尉である、今後私語を慎み、この大尉殿に従い、いつも以上に努力するように」
「はい!」
「では、大尉殿よろしくお願いします」
「(結構緊張するな)」
大尉なので師団副隊長として1000人程の前に立つことはあるが喋ることは師団長で、基本的に副師団長はしゃべらない
今回は30名×3クラスで100人ほどだが、演説をするのは初めてだ
「始めまして、陸軍大尉山口一政と言います、今日一時間だけですがよろしく」
「よろしくお願いします!」
元気のいい子供たちの返事に頷き
「今日は軍隊の中の基本、集団行動の行進をやりたいと思います。基本といっても射撃訓練や、接近戦訓練などありますが、4年生という事なので簡単な行進をやります。ですが、行進は簡単に見えても団結力や士気、集中力が必要です」
こうやって講座をしている間、何も私語を話さず一生懸命聞いてくれていた
ここまで真剣に聞いてもらえるとは思わず、少し驚いたが
気分はとてもよかった
「では、右向け右!」
基本動作はやっていると言うことなので
ここらは確認動作とウォーミングアップ程度にやる
「左向け左!」
ザッザッ
遅れている人はいない、完璧な動きだった
「よし、上々だね。この学年の長は手をあげてください」
「はい!」
私から見て、手前の一番左の子が手を挙げた
「では、君の合図で行進をしてみましょう」
そう言って号令の内容を書いた紙を渡す
「君達の右側(子供たちから見て)を先頭にして行進してください、止まるのは今の位置です。さあ、運動場一週、がんばってください」
「右向け右!行進・・・」
結局、この場で教えることは余りなく
所々の微修正や偽装銃を持っての行進や
私の合図で色々方向転換をしながら行進する複雑な事も少しぎこちないながらもやってのけた
時間も頃合いなのでそろそろ終わりとなる
「よく頑張りました、どうでしたか?簡単に見えて難しいでしょう?歩くだけなのに体力も使います」
子供たちのほとんど・・・いや、全員が頬に汗を這わせている
息も少し荒かった
「これよりしんどいものがあなた達を待ち受けています、ですがあなた達はもう・・・」
軍隊に入らなくてもいいと言いかけて口を閉ざす
教師のいる前でこんな事を言ったら絶対に非国民沙汰になってしまう
ここは適当にごまかそう
「ですがあなた達は誇り高き、大日本帝国巨民の大和男児です。きっと過酷な訓練を乗り越え国のために天皇陛下のために立派な軍人となることでしょう。ここで私の授業は終わります」
「起立!礼!」
こうして3時間目が終わった
子供たちは終わったと当時に校舎へ戻っていった
そして、運動場には教師と私しか居なくなる
「素晴らしい授業と演説でした大尉殿、それでこそ我々が誇る大日本帝国陸軍現役軍人というものそのものでした」
「あぁはは、お褒めに預かり光栄です」
少々控えめに返事をする
「(そんなこと言われてもなぁ・・・)」
正直返答に困るのであった
そうしている間に次の授業の生徒の5年生が運動場に入ってきていた
昼ご飯を学校でご馳走し午後の授業を終え、懐中時計を見ると4時に近くなっていた
あまり帰りが遅くなると祖母が心配してしまう
適当に言って帰らせてもらおう
もう、授業もすべて終わっている
私がこれ以上ここにいる理由も無いだろう
「では、私はここらへんで失礼します」
「そうですか。今日はご指導ありがとうございました、大尉殿。お気持ちだけですがもらっていって下さい」
そう言って紙に包まれた物をくれる
それには羊羹とかかれていた
「よろしいのですか?」
「はい、今日のお礼です」
「では、ありがたく頂きます、またのご縁があることを願っております」
「は!それでは道中お気をつけ下さい」
これで会話は途切れ、学校を後にする
帰る途中で気付いたのだが
「あの子供たちに会わなかったな・・・」
あの子供たちというのは
昨日、あの木影の所で狐を囲っていた子供たちのことだ
だいたいのクラスは回ったはずだが・・・
もしかしたら、見過ごしていたクラスがあったのかもしれない
「・・・またの機会、かな」
取りあえず今日はここまでだ
というより今後あの学校に行くかどうかわからない
もし、縁があるのなら道中にばったりと会うだろう
だから、今日はそのまま家に帰った
気付けばすっかり狐のことは忘れていた
何かの幻を見たかのように
「かずちゃん、お嫁さん候補がいるのなら言ってくれればいいじゃないか」
「え?」
時間は6時過ぎ、夕食を食べ始めた時だった
いきなり祖母が意味不明なことを言い始めたのだ
正直、祖母が言っている意味が分からない
「あんなべっぴんさん、かずちゃんにはもったいないくらいだよ」
「ちょっとまって、ばあちゃん。何のことだか全くわからないんだけど」
「え?違うのかい?かずちゃんを訪ねて一人の女性が家にきたよ?」
隅においてあったなにかしらの布と手紙を持ち出す
「これ返しにきたって」
それは確かに山口一政とミシン縫いされたタオルと山口一政様へと綺麗にかかれた手紙があった
「かずちゃんがいないって聞いたらさぞかし残念そうな顔をしたから、彼女かと思ったんだけど。違うのかい?」
「全く身覚えがありません」
「そうなのかい、それは残念だね。あんなに美人さんなのに」
そんなに綺麗な人なのか・・・
祖母が絶賛するほど綺麗な人か・・・どんな人か気になった
「それ、かしてください」
「あいよ」
早速手紙の内容を読む
「今回は我が家の大切な狐を助けていただき、誠にありがとうございます。お礼と言っては何なのですが、我が神社で行われる祭りに参加していただけないでしょうか?。そこで改めてお礼とおもてなしをしたいと思っています。詳しい場所は別紙の地図をご覧ください。尚、同じ封筒に入っている札をお持ち頂かないと入れませんのでご注意下さい。開始は午後7時です。参加をお待ちしております」
という内容だった
下には狐の判子が押してあり、奇妙なマークだった
そして、手紙が入っていた封筒を裏返すと手紙に書いてあったとうりの札があった
地図もあったのだが
「なにこれ・・・」
それは汚い絵で、何が何だかわからない
ただ、わかるのは山の麓から続く一本の山道でそこに神社と大きな木が描かれているだけだった
これをみていて思う
招待してくれたのはいいが無事たどり着けるのかと
「まあ、招待してくれたんだせっかくだから行きなさい」
「行けたら・・・ね」
「何を言うとるんや、あんな美人さんのお誘い断ったらあかんよ」
「わ、わかってますよ」
私は見ていないので何も言えないのだが
それは明日、行ったら(行けたら)わかることだ
それより・・・
「あの狐・・・飼われてたんだな」
どうりで人懐っこいと思ったがそう言うことかと納得する
しかし、飼われていると言うことは今後、気軽に会いに行けるということだ
しかもそれは祖母がいう超絶美人さんの所で飼われているらしい
「明日が楽しみだ」
こうして今日も終わっていく
明日の祭りとやらが楽しみで夜が寝付けなかった
そして、山口はまだその女性との出会いが運命を変えることになるとは
まだ、知らなかった・・・