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日本兵と金狐  作者: ヒューベリオン
1/3

第1話 狐との出会い

小説家になろう「では」最初の投稿となります

単純に内容だけをお楽しみいただけたらと思います

エキノコックス(寄生虫)とか大丈夫なのとか思われると思いますが

そこはご安心してください

今、一つの国が滅びようとしている

1939年に勃発した第二次世界大戦は瞬く間に世界へと波及した

それはたった今滅びようとしている国も例外ではない

その国は大東亜解放というプロパガンダを掲げ、世界を相手に戦ったのである

その国がたどった道は長くつらい道だった

しかし、戦争をしていなくともその国は滅びていただろう

そんな不幸な国に生まれた独りの男がいる

そして、それを好きになってしまったもう一匹の狐

それがこの物語の主人公である

もう、お気づきの方もいるだろうがこの物語は

「大日本帝国」が舞台の物語である・・・


1941年8月22日愛媛県


私は大日本帝国陸軍大尉、山口一政やまぐち かずまさ

この日、私は厳しい訓練から解放され山の麓の母の実家に来ていた

帰るところと言えばここしかない

母は私を産んですぐ亡くなり

父も今、日中戦争に行っている

母が亡くなってからは祖母がこの身一つで私を育ててくれた

小さい頃やんちゃだった私はよく怒られていた

遊びに夢中になって帰りが遅くなったり

学校をさぼったりと

何ともいえない人生だったように思う

怒ったときの祖母はまるで鬼

怒られている間は肩をすくめてお説教を聞いていることしか出来なかったのを覚えている

たが、嫌な思い出ばかりという訳ではなく

楽しい思い出も沢山あった

そんな楽しい思い出も怖い思い出も詰まった実家に帰ると思うと

30近くなっている私でも心が弾んだ

なんといっても半年ぶりの帰宅だ

きっと祖母も喜んでくれるだろう

「ただいま」

「おー!かずちゃんお帰り、元気にしてるかい?」

「はい、なんとかやってます」

「そうかい、それはよかった。この頃は日中戦争だの日米開戦だ、だの物騒やけんね~。あっでもかずちゃんなら心配ないか、はははっ」

そう言って愛想良く笑う

私の知っている祖母はこうやって良く笑うのだ

もしかしたら私は祖母の笑顔・・・いや、日本国民全員の笑顔を守るために日本軍という組織にいるのかもしれない

でも、祖母の顔はどことなく寂しそうな笑い方なのである

「あっそうだ、かずちゃんお腹すいてるかい?ちょうどうどんがあるんだけど」

そう言えば昼ご飯もまだだった

もう13時を回っている

言われてみればお腹がすいてきた

「わかりました、じゃあもらいます」

「うん、ちょっとまっててねー今茹でるから」

奥の台所からはうどんを茹でるコトコトという音が聞こえてくる

うどんが出されるまで何となく部屋を見渡してみた

上の方には神棚、畳の和室、ラジオ、お仏壇

別に珍しい物でも何でもなく子供の頃から見慣れている筈だが

半年も離れていると懐かしみを覚えるのが人と言うものである

そんな特別な感情を抱いていると目の前に大盛のうどんが出てくる

因みにざるうどんだったのだが

「はーい、おまちどうさん」

「・・・・ばあちゃんこんなには食べれないよ」

5玉はあろうかという量だった

兵士といえどもこんなには食べれない

3日間飢えていたなら別だが

「何を言っとるかね、兵隊さんはようけ食べないけんばい」

「なぜ、急に博多弁に・・・」

「ははは、冗談よ冗談。本当は茹ですぎてしまってね。余ったら置いといてちょうだいな」

「あは・・・あははは、いただきます」

苦笑いをしながら手を合わせた

決して悪い人ではないが少し天然な所がある

しかし、見ていて怒れないのがこの人のいいところではあるのではあるのでしょうが


「ふぅ~・・・も、もうだめだ」

結局2玉ほど残ってしまった

なるべく食べようとは努力したのだが

流石に無理だったか

「ばあちゃん、ここに置いとくよ」

「は~い」

外から声が聞こえる

多分洗濯物を干しているのだろう

疲れているのでもなく、眠たくもないので

思い出巡りとして外を出歩く事にした・・・のだが

玄関を出るとまず目に止まったのが数十メートル先の木影の下に集まる子供達の集まりだった

数人で円を作っている、あの中心には何があるのだろうか

気になった私は声をかけてみることにした

「やあ、どうしたんだい?」

中腰になって子供たちに話しかける

子供なんて久しぶりに見たな

「あ、兵隊さんだ!」

「兵隊さんだ!敬礼!」

敬礼されたので敬礼で返す

やはり子供はこういうところで無邪気なのだ

見ていて飽きない、そう私は思った

「で、何をしているのかな?悪戯かい?」

「僕たち、何も悪いことしてないよ」

「きつねが怪我してるんだ」

「狐?」

子供たちの集まりの中心を見ると怪我をしたきつねが横たわっていた

結構傷が深い、血も染み出ていた

「キューーーン・・・」

何とも弱々しい鳴き声だった

大方、日本狼にやられたか何かだろう

私はこういうのを見ていると放っておけない性分だった

助かる命なら助けてあげたい

そう、思う

「ねえ、兵隊さんどうにかならないの?」

「んーーーー・・・」

助けたいのは山々だが、本当に助かるだろうか

傷も深いし弱っている

助かるという保証はなかった

「わかった、出来ることをやってみるよ」

「本当に?」

「ああ、そうだよ」

「わーい、よかったなお前。兵隊さんが助けてくれるぞ!?」

「じゃあ、後はお願いします」

そう言って立ち去ろうとする子供たちに待ったをかける

すると不思議そうな顔をして、小走りで近づいてくる

「生き物を大切にする君達に・・・飴をあげよう」

「ほんとに~?」

「ああ、好きなのとっていいよ」

ズボンのポケットから缶に入っている飴を子供たちに差し出す

余程嬉しかったのか満面の笑みで

「ありがとう兵隊さん!」

「いつか兵隊さんみたいな立派な軍人になります!」

「ははは、そうか・・・でもね」

「ん~?」

予想外の返答だったのか首を傾げる子供たち

「君達が大人になるころには軍人になる必要はないんじゃないかな」

「どうしてなのですか?」

「何となくだよ」

そういうともっとわからないというような顔をする子供たち

でも、それでいい

そう何故か思うのであった

子供たちと別れた後、急いで狐を近くに流れる川に連れて行った

まず、傷ついた所の菌を洗い落とさないといけない

「キャン!」

さぞかし痛そうに鳴いた

だが、ここで止めるわけにはいかない

菌を落とさないとそこから傷が悪化するかもしれないからだ

そこら辺は素人の私でも分かった

「キューーキューーキューー」

「もうちょっとだ、我慢してくれよ」

「キューーーーン」

あらかた菌と血は落とせたと思う(素人なのでわからない)

後は傷口を押さえて出血を止めるだけなのだが

程よい布がない

仕方なく自分のハンカチを傷の大きい横腹に当て

更なる手当てをするべく実家に駆け足で戻った

家に祖母はおらず、買い物でもしているらしかった

問題の狐を玄関に下ろして、家の中を探す

「古い布、古い布はないか?」

ぶつぶつと独り言を言いながら

タンスや物置、押入などを探す

すると物置から程よいタオルが見つかった

昔、私がおけ風呂に入っていた時に使っていた物だった

長いタオルなので包帯替わりにちょうどいいだろう

その包帯替わりのタオルを濡らして狐を寝かせてある玄関へ向かう

「さあ、もうちょっとだぞ」

横腹に添えてあったハンカチをのけて替わりにタオルで包帯を巻くように巻きつける

これで応急処置(?)は完了した

「ふぅ・・・これで、大丈夫か?」

何分素人なのでこの手の手当てはわからない

人間であれば赤い消毒液でも塗ればいいのだが果たして狐にもこの手当てが出来るのか?

逆にその手当が原因で死んだりはしないだろうか

それが怖くて、結局消毒液は塗らなかった

「まあ、しないよりはまし・・・多分」

やっぱり医者にみてもらった方がいいだろうか

いや、狐の医者なんて聞いたことがない

知っている動物の医者なんていない

・・・・・・

あれこれ考えていると急に眠気が襲ってきた

考えても埒がない、寝てから考えよう

そう、吹っ切れてしまった私は

和室に別のタオルを置き、そこに狐を寝かせ

私はその横で座布団を枕替わりに横になってしまった

薄くなっていく世界

その目線の先には例の狐の姿があった


「ちょっと、かずちゃん!?」

祖母の怒った声が聞こえる

祖母の怒った声なんて久しぶりに聞いた

何か怒られているようなので眠たい目を擦りながら身を起こす

「なに、ばあちゃん」

「なに、じゃないよ、この狐は何なのさ」

どうもこの狐のことを言われているらしい

まあ、当然といえば当然だが

「怪我してたから、手当中・・・」

眠たい頭を必死に持ち上げながら何とか答えることが出来た

そう言えば昼寝なんて久しぶりだなと頭の隅の方で思った

だが、そんな私をよそに祖母はまだ怒っている

怒っていると言うよりかは呆れているといった方がいいかもしれない

「かずちゃんはそういう性分っていうのは知ってるけど・・・でもねぇ」

「だめ・・・かな・・・」

「ん~~~・・・」

「キューー・・・」

二人の目線が狐に向く

狐は起きていなかったが、何とも可愛らしい声をあげていた

昼間の苦しそうな顔ではなく、安らかな可愛い顔をしていた

「もう、仕方ないねぇ」

「え、ばあちゃん・・・」

「こんな可愛い子、ほっとける訳ないじゃないか」

先程とは正反対で微笑む祖母

たしか、祖母はかわいいものには目がないんだった・・・

「あ、ありがとう」

「いいえ、それよりお腹すいてるでしょ。今から作るからちょっとまててな」

そういうと立ち上がって台所に消える

今は夏だから余り気付かなかったが

すでに6時を大きく回っていた

まだ、外は光無しでも歩けるほど明るかった


作り始めが遅かったからか7時を過ぎての夕ご飯だった

子供の頃なら色々文句を言っていただろうが

軍人となったこの身ではご飯が自動で出てくることは結構ありがたい

「「いただきます」」

祖母と一緒に手を合わせ食べ始める

今日の夕ご飯は鯖の味噌煮、青菜の卵閉じ、味噌汁、白米ご飯だった

やはり、軍隊にいるときに出てくる食事より豪勢だった

「ばあちゃん、今日は豪勢だね」

「せっかく帰ってきたんだから美味しい物を食べないとね」

何時も帰ってきたときには沢山のご飯を出してくれる

軍隊にいる自分の為だと思うと少し胸にこみ上げてくるものがあるのだった

「そう言えば今階級はいくつだい?」

「大尉だよ、陸軍大尉」

「あらまぁ・・・あんなやんちゃだったかずちゃんがもう立派な大人だねぇ」

「ははは、それはどうも」

大尉・・・この年で大尉ならいい方なのかもしれない

昇進出来ずに退役する人もいるのだから

「上司から気に入られてるからね」

「そうかい、なら心配ないね・・・ところでかずちゃん」

「ん?」

「お嫁さん候補はいるのかい?」

「っぶ、げっほげっほ・・・」

「おやおや、大丈夫かい?」

余りにも突然変なことを聞かれるので

口の中に入っている食べ物を吐きそうになって急いで飲み込む

それを祖母は背中を叩いてくれる

「ばあちゃん、何を急に言い出すんだよ」

「その様子じゃいないんだね?」

「ま、まあ・・・」

「はぁ、情けないねぇ。あの誇り高き大日本帝国陸軍大尉ともあろうお方がお嫁一つ見つけられないなんて、それでも男かい?」

「は、はあ・・・」

言い訳を言うなれば

ずっと基地に籠もっているのに女探しなんて出来るわけがない

そもそも、結婚ということ自体そこまで魅力的な物ではないと思っていた

祖母からすると曾孫が見たい、という事なんだろうけれど

「30になるまでに候補がいなかったらこの私が決めるからね」

そんな理不尽な!

と言いかけて止めた

そう、祖母を怒らせると怖い

取りあえず適当に頷いて流すのが一番めんどくさくないやり方だった

しかし・・・本格的に決めないとまずい

この祖母が選んだらどんな鬼嫁を連れてくることか・・・

かと言って頭に思い浮かぶ人もいない

私の身は重くなるばかりだった

「あんたのお父さんはね2等兵の時からお母さんを捕まえてたんだよ?かずちゃんもお父さん譲りのいい男なんだから・・・」

あ、始まった・・・説教だ

私の身は更に重くなるのであった・・・


9時頃、ようやく説教を終え夕飯を終えた

説教で疲れた私はどんよりして座っていた

サッサ

服を誰かが引っ張った感覚があった

後ろを振り向くと

「おお、起きたのか」

例の狐が此方に眼差しを向けていた

それは「元気出して」と言わんばかりの表情だった

うぅ、俺の気持ち分かってくれるのか?

心の中で狐に語りかける

そして、それが通じたかのように頭をすり付けてくる

「よしよし」

たまらず顎を掻いてやると気持ちよさそうに裏がえった

おお、狐ってこんな表情見せるんだ・・・

っと感心していた

しかし、自分で動けるようになったということは一応の峠は越したということだろう

元気になってなによりだった

この分だとすぐに自然へ返してやれるだろう

だが、心の中では何か寂しいという感情があった

何しろその狐は結構可愛いらしいからだ主な色は黄色、白、黒だが

黄色は金色、白は白銀、黒は夜の闇のように黒く美しい毛並みで肌触りもよかった

これが人間だったら相当な美人だったろうなと勝手な妄想をする

「さ、これを食べさせてやりなさい」

持ってきたのはうどんだった

多分、私が昼に食べ残したうどんだろう

だからか、干からびたような水々しいような

微妙な感じのうどんだった

「私は銭湯に入ってくるからね、かずちゃんも適当に入るんだよ」

「はい」

そう言って祖母は玄関の方に向かって消えていった

しばらくすると玄関の開閉の音がする

「さあ、うどんだぞ。全部食べていいからな」

うどんの入った器を狐の前に持って行く

うどんなんて狐が食べるのか?

と思っていた

少し警戒してうどんの匂いを嗅いでいたが

食べ物だと理解したのか

食べ始めた

「おお、美味しそうに食べるな」

数分足らずで2玉程を食べ尽くしてしまう

余程お腹がすいていたのだろうか

無事、狐も食べて終わったことだし

私も銭湯に入りに行こうと思い立ち上がってそのまま玄関に出たのだが

「おい、ついてきたらだめじゃないか」

「キューー」

どこまで行ってもついて来る

何度怒っても側について離れず結局銭湯まで来てしまった

「んーーー参ったな・・・」

完全に懐かれてしまった

これだと自然に返せなくなる

かと言って飼えるわけでもない

非常に困ったことになった

「取りあえずここにいてくれよ、すぐ出てくるからな」

「キューー♪」

その声は何となく機嫌の良いように聞こえた

それを横目に私は銭湯へと消えた


案の定、狐はお行儀よく座って待っていた

個人的には何処かへ行ってしまうことを期待していたのだが外れたらしい

「じゃあ、行くぞ」

そう言って実家への帰路に就いた

道中もぴったりと私のそばを離れずついて来る

律儀な狐だな~と思った

これが人だったらなぁ

と、また妄想に入る

あれこれ考えながら歩いていると直ぐに家についた

「ただいまー」

・・・返事がない

灯りがついているということは祖母は帰っているはずだ

ということは多分もう寝ているんだろう

と言うことで上がろうかと思ったのだが

「ちょっと待ててくれよ」

狐を玄関に待たせ、家の中から小さな布を持ってくる

「さあ、足拭くからな」

流石に土を付けたまま家に上がらせる訳にはいかなかった

後から思えば別に玄関にいさせればいいのだが

血の匂いに誘われて日本狼がまた襲ったらいけないとか

自分で勝手に理由を付けて上がらせることにした

実を言うと一緒に寝たいというのが本音ではある

例の和室に向かい、狐をタオルの上に寝かせて

電気を消す

そして、私は座布団を枕代わりにして寝転がった

昼寝と同じような体勢だった

「それじゃあな、お休み、また明日」

狐の頭を軽く撫でてやる

こうして、休日の一日目が終わるのであった・・・




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