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転生者の理不尽な義務  作者: あかねあかり
船上の復讐者
4/29

誘拐犯はシバかれる

 次の日から、私のダイエットならぬデブエットが始まった。しかし、同時に運動もするので、バランスよく太ることが目的とされている。ちなみに、最優先でどこを成長させるのかといえば、脚である。


 私の希望はまずほねほねな胸に膨らみを持たせることだったのだが、それは脂肪がついてくると同時に起こることだろうから、とやんわり却下された。


 やはりまずは筋肉が必要だ、というわけで。


「ちょ、待って……死にそ……」

「お前、まじで哀れだな」


 余計なお世話だい。


 膝に手をついて、ぜーはーぜーはーと荒々しく酸素を取り込む私に、煙草を吸って不健康なはずのマーレットさんが、余裕綽々で哀れみの言葉を投げてきた。


 私たちが何をしていたのかといえば、鬼ごっこである。参加者は2人。私と、マーレットさんだ。保護者であるベラクローフさんは、あちらで呑気に眠っている。彼の周りだけ暖かい空気が漂っていて、見ているだけで心が暖まるのだが、いかんせん今は酸素の取り込みが最優先だ。


 最初は私が鬼だったのだけど、あまりにも足が遅いしすぐに体力に限界が来て追いかけるのは嘲笑レベルで無理だった。だから選手交代で、マーレットさんに鬼役をやってもらったのだけど、結果は見ての通りである。失笑レベルだ。


 しかも甲板での鬼ごっこだったために、船員たちが手を叩いて腹を抱えて野次を飛ばしながらこっちを見ていた。私の筋トレは見世物じゃないっちゅーの!

 羞恥心とかその他もろもろで真っ赤になった頬を冷ましつつ、マーレットさんに首を振って見せる。


「無理。死ぬ」

「だろうな。俺も最初で無理をさせたな。まあ5歳以下の体力を見せつけたお前には感心するが」


 呆れた顔で馬鹿にされた。わかっていたことだけど、私は本当に基礎体力がないらしい。

 呼吸が落ち着いたころ、マーレットさんは私を木の床に寝転がらせた。そして両足を大きな手で楽々と床に縫い付ける。これはもしや……


「腹の力で起き上がれ」


 腹筋か(正確には上体起こし)!

 いやでも、今の私には正直できるかどうか……。どうせならスクワットからがいいなあ、なんて。


「10回、できたらアファトで好きなもの買ってやる」


 まかせろ。



 ◆◇◆◇◆



 なんでも買ってやる、と言ったマーレットさんの言葉は、結果から言えば嘘だった。私は見事に騙されたのだ。


 アファトはベラクローフさんの言葉通り、人に溢れて物に溢れて、とても活気があり賑やかな街だった。ただ、それだけ人がいるということは、その分多くの犯罪が横行しているということにもなる。


 もちろん、見るからに売れそうな私も攫われかけたが、そこは街でお目付け役として傍にいたマーレットさんが、いち早く気づいて助けてくれた。

 だがしかし、私はただでは喜べない。


「マーレットさんのケチ!! あほ! すかぽんたん!!」

「何言ってんだよ。お前が"欲しい"って言ったんだろ」

「言ったけど違うから! マーレットさんが脅すから!!」

「知らねーよ。欲しいっつったのはお前なんだから責任もって世話しろよ」

「いーらーなーいー!!」


 現在、マーレットさんの小脇に抱えられているのは、みすぼらしい男だ。今は気絶していて、どんなにマーレットさんが乱暴に扱おうとも目覚めない。


 人通りのない裏通りを実りのない言い合いをしながら、船まで歩く。2週間の運動の成果か、息は切れるものの、マーレットさんにギリギリついて行けるようになった。


 このマーレットさんに抱えられた男が何かと言うと、誘拐犯である。まだ若く、やせ細った細腕は、私ほどではないにしても非力そうだ。そんな様子で誘拐なんかしようとするからこうなるのである。


 この男、私とマーレットさんが人混みの中でちょっと離れた隙に、近くの物陰に私を引っ張り込んで捕らえようとした。私は叫ぶことも出来ず、目を白黒させたまま動けないでいたところ、早々に犯行に気づいたマーレットさんが、この人を取りおさえてくれた。


 そのときのマーレットさんの台詞↓


『こいつ要らねぇなあ。よし、殺すか』

『何言ってんの!? 要るから! 必要!! あなたも命が ×欲しい(○惜しい)よね!?』


 そんな感じで、何でも欲しいもの買ってやると言ったマーレットさんの約束は果たされた訳だ。ものの見事に流された私は、マーレットさんに唆されて、この男の命を救ってしまった。それに後悔はないけれど、やはり悔やまれることに違いはない。


 船に着くと、見知らぬ男を抱えたマーレットさんは驚かれたし、私も動き回って疲れたので早々にベットのお世話になった。






「さて…」


 船についてすぐさま具合が悪いと訴えた彼女をマーレットに託して、ベラクローフ・マゼレルダは縄で頑丈に縛られた男を見下ろした。


 気を失っているようだったが、彼は気にせず、無抵抗の相手の腹を、硬い靴で思いきり穿った。うめき声を上げて、男が目を覚ます。

 甲板には船員たちがたむろして、彼らを静かに見守っている。彼の暴行を止めるものはいなかった。


 やがてはっきりと目を開け、辺りを見回し顔色を変えた男は、最後に頭上を見上げて悲鳴を上げた。見下ろしていたのは、日に焼けた茶髪の、男もよく知る海の有名人だった。


 ベラクローフはにっこりと笑い、片手で男の両頬を挟み掴んだ。強制的に目線を合わされた男は、恐怖で体を強ばらせ、逃げ出そうともできない。


「なあ、なぜあの子を狙った? 理由があるか? 言ってみればいい。許すかどうかは俺が決めるから」

「む、むん~!!」

「なんだ、喋れないのか。ああそうか、答えたくないってことか。よしわかった、俺、実は特技が拷問でな。大丈夫だ、あの子には聞こえないように特別な部屋へ連れて行くから」


 話せないように口を塞いでおきながらそう言う彼に、男は青ざめ冷や汗をかく。暴れようと足をばたつかせると、どこからか投擲されたナイフでズボンが床に縫い付けられ、身動きが取れなくなった。


 もう少しずれていたら肉が裂けていただろう。それを想像して鳥肌が立つ。ベラクローフは一瞬だけ後ろを振り返ると、男の口を開放し立ち上がった。


「そろそろ真面目に話をしよう。お前はどこから来た?」

「り、隣国だ。……リシュエトから」

「見たところ商人ではないな。痩せているように見えるが、鍛えられてる。気絶している時に取り上げたが、暗器が体の至るところに仕舞われていた。これらから導き出される答えは……」


 愛用のナイフを手に、ベラクローフの後ろにいたレストリックが言葉を継ぐ。


「暗殺者、ってことですか?」

「そうだろうね。狙いはユアだろう?」


 男―――暗殺者が身の芯から体を固まらせる。緊張状態が長く強過ぎて、限界が近くなっている。この身を焼かれるような威圧感は、今まで味わったことのないものだ。


 ベラクローフは1ヶ月前、海を漂っていたところ保護した少女を思い出す。綺麗な蒼の髪と碧い瞳が美しい彼女は、あまりにも虚弱で、稚かった。


 船員と無邪気に話す彼女に癒されたのは彼だけではなく、砂漠に咲いた一輪の花というベタな例えも、まさしくその通りと肯けるような。


 彼女が自身に纏わる事情を話してくれたとき、彼は激しい怒りを覚えた。海に敬意を払うこともなく、彼女を棄て沈めた隣国の者たち。許されざる、悪だ。


「それで、お前は誰に依頼された? 正直に答えれば情けをかけてやってもいいけど、嘘をついた場合、楽に殺してはあげないから」

「こ、この…野蛮な海賊共が……」


 暗殺者の右太股に、鋭利な刃物が突き刺さる。叫び声を上げようと口を開いた瞬間、その口に布が突っ込まれる。


 血に塗れたナイフを彼の足から引き抜いたレストリックは、今度は刃先を暗殺者の耳に削ぎ落とそうとするかのように添えた。いつもの庇護者の貌を脱ぎ捨てた、冷たい無表情で。


「海賊ではないな。俺らは海軍総統直属特務師団。つまり、お前を取り締まることも仕事の内という訳だ」

「ひ、ひぃっ」

「逃げられると思うなよ? 傷口を増やしたくなければ、さっさと答えるといい」


 最後にもう一度笑みを見せ、ベラクローフは男を地下牢に入れるよう指示を出す。ナイフに付いた血を拭うレストリックに彼女の居場所を訊ねると、すぐさまそちらへ向かおうとする。少年はそれを呼び止め、気になっていたことを聞いた。


「副船長、あの子の名前、ユアと言うんですか?」

「ああ。聞いていなかったか? ユア・デラクールと言うらしい」

「聞いても教えてくれなかったので。―――ああ、なるほど、これは教えたくもなくなりますねぇ」


 ユア・デラクール―――海の女神と同じ名。


 名付け親が何を思ってこの大層な名にしたのか知らないが、的を射ていると、ベラクローフは思った。



 ◆◇◆◇◆



 ユアは夢を見ていた。懐かしい夢だ。

 寺久(てらく)結愛(ゆあ)だったころの、夢。


 結愛は成長するにつれて、凪のことを嫌いになっていった。大きくなるとそれに比例して、できることもできないことも増えていく。

 だから、私にできないことを楽々とやってのけてしまう凪のことが、結愛はだんだん嫌いになっていった。


 字が綺麗な凪が嫌い。

 話が上手い凪が嫌い。

 歌が上手な凪が嫌い。

 好き嫌いで怒られない凪が嫌い。

 国語も算数もできる凪が嫌い。

 いっぱい賞をもらう凪が嫌い。

 恰好いい凪が嫌い。

 女の子に好かれる凪が嫌い。


 私に構う、凪が嫌い。


 今となって振り返れば、それはすべてただの嫉妬で、何でもできる凪が、何をやっても平平凡凡な私を嘲笑っていると思い込んでいたのだ。


 だって凪は、すぐに私を追い越すくせに、いっつも私を振り返って、一緒に行こうって手を引くから。


 何も出来ないくせに、嫉妬だけは一人前にできる私に、いつも笑いかけてくれたのは凪だけだった。


 実の親も『凪が良かった』『結愛じゃなくて凪だったら』って私を見捨てるのに、凪だけは、隣にいてくれようとしたから。


 思えば、本当に私は、凪が嫌いだった。






やっと名前が出せました。

女神様は3人います(ง •̀ω•́)ง✧

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