悪事は計画的に
「そうか。神殿は手を引いたか」
「ああ。だからもうユアを女神の乙女として扱うのは終わりだ。神殿に見放された女神の乙女なんて、評判が下がるだけだろう」
夕焼けの陽が差し込む海軍総統の執務室で、難しい顔を隠すように顎の前で手を組むレグロス・ヴィ・ローレンタスと向かい合って報告をする。食えない親父は相変わらずこういうときほど悪知恵を働かせて、自分に都合のいい方向へ人を操作するのが得意だ。
厳しい言葉で人を追い込み、時には優しさという譲歩を見せて。そしていらなくなると簡単に切り捨てる。
いつかそんな親父が嫌いな人間を集めて反乱でも起こしてやろうかと計画を立てているが、実行はもう少し先になりそうだ。
今日は未来を決めたんだ。幸せで、もう一度実現したい過去だけど。それを叶えるための最大の敵は、今目の前にいるこの男だろう。
「ならば彼女は何者として生きる? 一市民として暮らしていけると思っているのか?」
「それは難しいだろうが、絶対にできないというわけじゃないだろう。ここを離れれば少なくとも…」
「いや、無理なのだよ。お前たちがどうあがこうとも、ユア・デラクールは普通には生きられん」
きっぱりと断言した狸親父に違和感を抱き、着地どころのない不安にあおられて眉根を寄せる。
「何故、か? それはな、儂が許さんからだ。決して自由は与えん。あれは儂の手元に置いておく。逃げても捕まえて塔に閉じ込める。あれは手放せないコマじゃ。大事に隠せよ、ベラクローフ。女神は二度と海に還してはならん」
大丈夫、大丈夫だ。俺は海を裏切らない。
笑顔の裏に隠したのは、紛れもない狂気だった。
二章完結いたしました!
三章開始までしばらくお待ちください。




