最後の晩餐は酒盛りになった
大っっっ変遅れて申し訳ありません!!
そして短いです!
これからも頑張るので、どうか見捨てないでくださいまし~~~~!!
夕食の時間になるまで舘の中をうろうろしていると、偶然レストリックさんに出会した。
大量の紙束を抱えた彼は、私を認識すると紙束を投げ出そうとするほど驚いた。ひどく心配していたらしく、ベラクローフさんに大丈夫だと言われていても気になっていたとまくし立てる。
「良かった、本当に嬉しいよ。ごめんね、おれ、守れなくて…」
「大丈夫だから、ね! 私こそいなくなってごめん!」
「うん、本当に良かった。副船長じゃないけど、おれも君が死んだら一緒に断頭台に登るつもりで…」
「う、うん」
私、生きててよかったと今初めて心の底から思った。
一人の命でそこまで追い詰められるなんて、この人たちは騎士道精神の塊だな。っていうか海軍兵士は騎士じゃないか。
「あのね、今夜私のためにまた宴会開いてくれるらしいから、レストリックさんも来てね」
「わかった、絶対行くよ」
どことなくハイテンションな彼に別れを告げて、マーニャさんと話しながら徘徊を再開する。また誰かに会えるかも、という密かな期待をして。
◆◇◆◇◆
海軍総統という肩書きのただの腹黒じじいにせっつかれ、仕方なく仕事中の俺に、レストリックから追加資料が届いた。
終わりのない仕事地獄。はまったら抜け出せない蟻地獄。
「今までサボっていたツケだと思え」と、じじいは胡散臭い爽やかな笑顔で去っていったが、サボっていたわけではなく、任務を端から端まで全うしていたに過ぎない。あの船で海軍の資料なんか出したら、ユアにどう思われたか。
「副船長、聞きましたか? 夕食の時間にユアを含めてまた宴会をするって話」
「いや聞いてない。ユアに会ったのか?」
「はい、ついさっき。……呼んで来ますか?」
首を振って、レストリックの気遣いに感謝する。っていかその顔やめなさい。その可哀想な奴を見る目!
「もちろん副船長も参加されますよね。副船長ですしね」
「ああ、うん、そうだね」
なんだか無邪気なプレッシャーをかけられている気がする。
じじいじゃないけど、今まで仕事をしていなかった分のツケが今だと思うとやりきれない。始めから終わりまで皆の居る場所に居るためには、今集中するしかないのだろう。
まんまとじじいの思惑通りに動いているが、それで最良を得られるのならどうってことはない。
「……酒飲みたい」
「昨日もたっぷり飲んだじゃないですか」
レストリックは意外に辛辣だ。
ギリギリ間に合って、食堂へ早足で向かうと、そこではもう宴会が開かれていた。
「あれあれ、予定では始まる5分前に着いているはずなんだけど」
「待ってられなかったんだろうな。まあいいさ、早く行こう」
待ってくれている、とは、最初から期待していなかった。だって彼らにはどうもそういうところがある。適当で、即断即決。磨かれたセンスに常人はついていけないだろう。
かといって、それがそのままでいいという訳では無いのだが。
「あ、ベラクローフさんっ、遅かったですね、もう始まっちゃいましたよ!」
人の輪の中から、機嫌良さそうににこにこしているユアがグラス片手に現れた。長い蒼の髪は頭上で一つに結えられて、動くのに邪魔にならないようになっている。
そんな髪型も新鮮だ。海軍にいる女はだいたい首を隠すほどもない短い髪の女ばかりで、しかも女"らしさ"が少しもない。
いつになく上機嫌な彼女。まさか未成年に酒を飲ませていないだろうな!?
あわててコップの中身を確認すると、アルコールのない酒だった。つまり少しの苦味と炭酸の味がするジュースと変わらない。
「やけに御機嫌だね」
「〜~もう楽しくて! ベラクローフさんも早く! また乾杯しなきゃ!!」
半ば引きずられるように輪の中へ巻き込まれ、無理矢理リブール(ビール)入りのグラスを持たさる。そしてリブールをなみなみを注がれ、それがグラスの半分になるくらい勢い良く「乾杯!!」と音頭を取ってぶつけあった。
リブールがシャワーっていうか、バケツをひっくり返したみたいに上から降ってきて、俺たちは笑いながら酒まみれになった。
隣で腹の底から笑うユアも、もちろん酒をかぶっている。そんな彼女の背後から忍び寄るのは、タオルを持った数人の訓練兵たちだ。
笑うのをこらえて見守っていると、彼女がどさくさに紛れてリブール入りのグラスを掠め取り、今にも喉の奥へ注がれそうになる。
瞬間、訓練兵の一人がタオルを彼女の頭に投げつけ(ええぶん投げるように投げ付けましたね)、そのままそのタオルでごしごしと力強く拭おうとした。
勢いで飛んでいったグラスは、大人しく座って食事をしていた誰かに受け取られた。
きゃーぎゃー喚いて、あははと笑う。ユアはいつだって元気だったけど、今日は元気というより、幸せそうだ。
ふと、飛んでいったグラスをキャッチした男を見てみる。そいつは眩しそうに目を細めて宴会の様子を眺めていた。なんだ、いたんじゃないか。
なぜだかわからないが、少しだけほっとした。
そのままの気分で空いていた彼の隣の椅子に座る。途端、彼はいつものすました顔に戻して杯を煽った。
「マゼレルダ中将、何の用でしょうか」
「お前は入らないのか、あの中に」
と、騒ぎの中心の彼女たちを指すが、ファルマータ中将はそちらに目も向けず「あの中にいても、俺は邪魔なだけでしょう」と淡々と告げた。
「彼らは作戦班で、長い間船でともにいた仲間だ。俺が入り込んでどうするというんです」
すねて、いじけているような声。びっくりして固まり、すぐにそれは笑いに変わった。
「気にすることはないさ、今夜は無礼講だ! それに、ユアを救ってくれたお前を追い出すやつなんて、俺の船にはいないさ」
そうだ、彼はユアを救ってくれた。誰もが呆然とする中、ただ一人だけ。
「……そう、ですか」
「ああ、だから行こう。お前に日陰は似合わない!」
それは関係ないだろう…、とファルマータ中将は渋々と席を立った。
◆◇◆◇◆
彼らは眩しかった。
リブールが反射して光っている訳ではない。
ただ、淡々と、そう見えた。
ユア・デラクールは、見たことないくらい笑顔だった。笑って笑って笑って叫んで叫んで。
ああ、"女神"もそんな顔をするのだな。
屈強な男達の中にいて、なお際立つその神々しさ。
マゼレルダ中将に肩を押されながら近づくにつれ、なぜか彼女の笑顔が強ばってしまった。
違う。そんな顔を見たいのじゃない。
どうして、そんな泣きそうな顔をするの。
笑いかけて欲しいだけなのに。
話しかけて欲しいだけなのに。
いっそ、目を合わせるだけでさえ、俺は…
お前はいつからそうなったのだろう。
……結愛
ハイレさんはトイレにこもりっぱなし。
マーレットさんは厨房でオリジナルおつまみ調理中。
レストリックは……うーん、イメージできない




