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転生者の理不尽な義務  作者: あかねあかり
白塔の女神
12/29

私の残念な展開

 塔の中は、何かの苦行かってくらい長い階段だった。いやいや、塔なんだから仕方ないってわかってるけど。わかってるけどさ。


「も、むり、ちょ、きゅうけ……っ」

「またか? 本当に体力ないんだな」


 体力がないのもあるけど、筋肉痛でもあるんですよ。

 捻挫した右足のために、ナギの腕を支えにしてここまで登ってきたけど、無理。ここは多分半分超えた辺りだろう。無理。ギブ。


 階段の前に降ろしてもらってなんだけど、何回目かまたしてもナギの腕にお世話になる。息を整えながら涼しい顔して長い階段を登るナギの横顔を眺めた。


 相変わらず腹立つほど麗しいご尊顔である。王子様も顔負けの王子様らしさだ。心底腹立つ。前世も今世も(ナギ)は見た目に恵まれすぎだ!


 見た目への文句はどうしようもないから、あまり言わないようにしていたけど、こいつは訳が違う。どんな世界にいても『美形』という二文字からは逃げられない運命なのだろう。


 整いすぎた顔立ちは人間離れしていて、精悍さはない優男風なのに、どこか男らしさも漂う。それでいてストイックだから、より手の届かない存在のような気がするのだ。


 前半の半分くらいの時間で着いた塔の天辺にある部屋は、屋根裏部屋みたいな感じで、ちょっと高揚してしまった。

 円錐形の部屋は、思っていたよりも広くて、既に家具が設置されている。乙女の秘密の部屋みたいな雰囲気で、とても可愛らしい。感動して言葉もない私に、ナギは生活環境について説明する。


「浴場は女子寮に備え付けのものを使ってくれ。食事は運ばせるか食堂で食べるかだ。―――ちなみに、あの船の乗組員は本部の北側で働いている」

「みんなが?」

「いや、船で海軍兵だったのは幹部の者だけだ。他は見習いで士官学校から引き抜いてきた者と一般の船乗りらしい。報告が終われば、学校に戻るだろう」


 それなら、帰ってしまう前に挨拶しないと。


「俺は戻るが、じきに世話係が来るだろうから、それまで部屋の中で寛いでいるといい」

「世話係?」

「確か、マゼレルダ中将の屋敷から来ると聞いているが? じゃあまたな」

「あ、うん、また…」


 凪はいつも、『またね』だった。


 扉がナギの背中を追い出して、室内に沈黙が落ちる。

 水色のソファに項垂れるように腰掛けて思うことは、自分はこれからどうすればいいのだろう、という疑問だけだ。



 ◆◇◆◇◆



 じきにやってきた世話係というのは、ベラクローフさんの屋敷にいたときに私の相手をしてくれたマーニャという彼女だった。


 あまり時間の経たない再会に驚いていると、にっこりとこれからよろしくお願いします、と挨拶した彼女は、抱えていた鞄を下ろし荷解きを始めてしまう。

 てきぱきと鞄から物を出していく彼女の手元を見る。その大半は服で、あとは生活用品や小物類ばかりだ。


 マーニャさんが持って来たということは、これはきっと彼女の荷物なのだろう。それにしても、青と白の服しかなくて、彼女はこれから海軍兵士にでもなるのかと思ったら、驚くべきことにこれは私の荷物だったらしい。


 ベラクローフさんのお財布から賄われたそれらは、彼の誠意なのだそうで、断らずに受け取って欲しいと言われると、私は戸惑いながらも受け入れてしまう。

 そういう、義理人情というものに弱いのだ、私は。


 それに、髪留めから洗髪剤、何から何まで青色だったことに一種の恐怖と薄ら寒さを覚えてしまった。彼は一体、何がしたいのだろう。


 そして荷物にあらかた目を通して棚や籠にしまった後、手持ち無沙汰になった私は、お腹も減ってきたしみんなに会いたいしで、塔を降りることにした。


 ぼーっとしていた私が突然立ち上がると、マーニャさんも付いて来るみたいで、鋭さを含んだ柔らかい口調で訊ねてくる。


「お嬢様、どちらへ?」

「船のみんなのところに行こうかと」

「それなら、こちらをどうぞ。私もご一緒させていただきますね」


 そう言って差し出されたのは、私にちょうどいいサイズの杖で。白地に金が散りばめられ、手を置くところを触り心地のいい高そうな布が包んでいる。


 何とも言えない気持ちで黙ってそれを受け取り、ありがたく使わせてもらうことにする。なんでこれがあるのかとかは、聞かない方が賢明であると判断した。お願いだから、誰かあの人を止めてください。


 準備がいいと感心するべきか、いっそ盛大に引くべきか。……何はともあれ、これのお陰で歩きやすくなったことも事実。お礼だけは言っておこう。


 塔を降りて、2時間ほど前にも通った本館への道を行く。てくてく歩いて行くと、お世話になった医務室の前を通り、あの回廊に出くわした。

 やっぱり何度観ても感嘆してしまう彫刻だ。心に響く美しさ、というものだろうか。自分がこんな詩的な台詞を思いつけるとは知らなかった。


 そして回廊が終わり、すれ違う海兵がこちらを見てぎょっとする反応にも慣れた頃、自力で北側に辿り着き、みんなに会うことができた。


 というのも彼ら、中庭と思しき場所で剣を取って訓練していたのだ。そこに偶然行き着き、汗水垂らして頑張っている彼らを発見したというわけである。


 意外なことに、そこにはハイレさんがいて、みんなにつきっきりで剣技を仕込んでいたらしい。訓練生という人たちの話を聞く限り、どうやらハイレさん、意外にも海軍でも五指に入るほどの腕前らしく、戦でも活躍してきたようだ。


 訓練生も頼み込んでやっと教えてもらえることになったのだと目を輝かせて語るものだから、いっそ胡散臭くなった。おいこれ、さくらじゃないだろうな。


 ともあれ、みんなとも再会を果たせて、まだ会おうと約束を交わしたことで、一応私は落ち着いた。聞けば、みんなが帰るのは明日だということで。


「はやっ、お別れ会とかしないの?」

「昨日やった」

「私は!?」

「仕方ねぇだろ」

「ひどい!!」


 仲間外れにされた! ひどい! 私が起きるまで待っててくれもいいじゃん!?


「仕方ないよー、副船長の屋敷であんなにどんちゃん騒いだのに起きなかったのはユアだもん」

「えええぇぇぇぇ」


 だって疲れてたんだもん! 走ったり蹴ったり飛び込んだりして精神と体力消耗してたんだもん!! それに宴会やるなんて聞いてなかったし!!


 憤然として掴みかかる私を哀れに思ったのか、図体のでかい船員から、昨日の余りだというみかん(レジュ)を貰った。

 懐から出したそれは人肌で、訓練中に衝撃を受けたのか、辛うじて皮は破けていないが中身がぶにゅぶにゅしてる。


 言葉の出ない感謝とともに、それを受け取った。なんだか宴会なんてどうでもよくなった。


 こんな態度だけどやっぱりみんなは私に優しくて、今夜の晩餐でまたやり直そうと約束してくれた。乾杯からおやすみまで一緒に居てくれるんだって。


 できれば、おはようまでいて欲しいというのは私のわがままだ。


「仕方ないなぁ。それで我慢するよ」

「ああ」

「むしろ酒盛りの言い訳考えてくれてありがとよ!」



 純粋に喜ばせてくれればいいのに。






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