レール
人生をレール、線路に例えることがあるが
わたしの場合は どうだろうか?
わたしは ある程度引かれた短いレールを進み、
途中で無くなっている先のレールを補うように
過去に遡って、軌条や枕木を毟り取っている。
雑な作業が祟ってか、いつの間にか
手持ちの材料も少なくなり
先にも進めず、元にも戻れず
結果・・・今いる場所さえも わからなくなっている。
人は、駅に寄ったり、誰かと出会い笑ったり泣いたり・・・。
一人が二人、三人と増えたり、減ったり
見たことのない景色に感動したり、共感したりする。
わたしは、独りで悩み考え・・・
元の場所は、完全じゃないが
少しずつ見えてきた気がする。
でも、完全じゃないのに
先に進むと、どうなるのか?
また、同じことを繰り返すのだろうか?
一定のリズムを奏でながら
夜汽車がまた、近づいてくる。
わたしのレールには汽車は、やってくるのだろうか?
それとも、このレールを捨てて
夜汽車のある方へ、渡ってしまうのだろうか?
わたしは、居た堪れなくなり 爪をかじってしまう。
ダメだ。
どうしたら、いいんだろう・・・・。
『 國北さん、何処へ行くの? 』
『 え? 』
『 消灯時間は過ぎていますよ。 』
『 ・・・ちょっと、緊張して眠れなくて。 』
わたしは、夜汽車の音に考えを馳せ、
病室を抜け出し、夢遊病患者のようにフラフラと
ナースステーションの前を通り過ぎようとしたところを
ある看護婦に呼び止められた。
『 明日、退院ですけど・・・勝手なことは困ります。
まだ、大事な患者さんなんですからね。 』
『 す、すいません。 』
『 それに・・・ 裸足じゃない?! 』
『 重ねて、すみません。 』
『 もう・・・。 』
『 ・・・その。 』
『 なに? 』
『 昼間は怒らせてしまって・・・ごめんなさい。 』
『 ・・・・・。 』
『 今日は、夜勤? 』
『 ・・・違うわよ。 もぅ、24時間働かせるつもり?
あと、5分で上がりよ。 今日は、残業3時間・・・いい方よ。 』
『 お、お疲れさまです。 』
そう言うと、わたしは改めて彼女の顔を覗き見た。
いつもの美し過ぎる横顔が見て取れて、少しホッとした。
もう、怒ってはいないようだ・・・・。
『 あの・・・。 』
『 なに? 』
『 ぼくの財布とかって、預かっていませんか? 』
『 何に使うの? 』
『 下の自販機で、珈琲でも買おうかな・・と。 』
彼女は やはり不機嫌だった。
無言で露骨な態度にそれは表れていた。
ビニール袋に包まれた わたしの貴重品を
奥から無造作に取りだすと、受領書と一緒にわたしに差し出した。
わたしは、無言で自身のサインをし、
袋を受け取った。
ビニールの中には、
革のベルトの腕時計と合皮(合成皮革)の柔らかそうな折畳の財布が
入っていた。
指輪はしないが、腕時計はするんだ・・・。
自身のスタイルに少し驚きながら、
わたしは財布を手に、彼女に頭を下げた。
『 ありがとう。 』
『 ・・・・・。 』
『 飲み物買ったら、すぐ戻るよ。 』
『 そうして。 ・・・っ、ぁ・・もう、待って。 』
『 え? 』
『 これ、貸してあげる。 』
わたしは、彼女から院内用スリッパを受け取り
再度、頭を下げた。
ありがとう、は 言わず
無言で その場を足早に立ち去った。
1階のとても広いロビーには、人影は無く
薄暗い間接照明と自動販売機の明りが
無人で静まり返った場所を 文字通り機械的に灯している。
わたしは、自動販売機の前に立ち
財布を開けてみる。
札入れに1万円札が1枚。 (おぉ!)
小銭入れに十円玉と一円玉が数枚・・・62円?
あれ・・・?
( 買えないじゃん。 )
何で、よりによって千円札とか入っていないんだ?
わたしは、
御預けになったホットコーヒーのボタンを恨めしそうに見つめ、
自販機に一番近い3人掛けの椅子に、トスンと腰を下ろした。
改めて、財布の中身を確認してみる。
金銭のほかにカードの類が数枚出てきた。
どれも初めて聞く名前の商店のスタンプカード、ポイントカードなど・・。
腕時計に視線を移し、自身の左手首に装着してみる・・・が
残念ながら、愛着が湧いてこず
すぐに外し、ビニール袋に財布と共にしまう。
貴重品って、他には無かったのかな?
手帳とか・・・貰った名刺、自身の名刺とか・・・。
ケータイは、やっぱり今も持っていないのかな・・。
過去・・・
記憶・・・
不眠・・・
いつまで、こんなことに悩まされるんだろ・・。
やっぱり、
専門の・・・精神科、心療内科とか受診しないとダメなのかな
せっかく、退院して自由になれるのに・・・ヤダな。
でも、神名さんは・・・心配してくれたんだよな。
あんな能天気に、はしゃぐんじゃなかった。
でも、・・・
それだけじゃない気がする・・・・。 なんで怒っていたんだろ・・。
カタッ。
『 え? 』
わたしは、背後に物音を感じ
小さく振り向いてみると、そこには
制服を脱いだ私服姿の美しすぎる女性が立っていた。
顔周りに低めに段差を施したレイヤースタイルのセミロングの黒髪、
優しさを持ち合わせた左右対称のシンメトリーな顔立ち。
グレイのスウェットと明るめのチェックシャツに、
深い色合いのタイトスカートとストッキング、そして、
ショートのエンジニアブーツを履いている美女が
わたしを言葉なく見つめていた。
わたしは、暗闇からでも解かる その私服姿の美しい姿に
言葉なく、見とれてしまい・・・・
そして、ほどなく・・・わたしは 後悔した。
本当に・・・イヤになってしまう。
心を躍らすことを、やめたはずなのに・・・。
『 わたしも、少し休んでいこうかな・・・。 』
その言葉に、わたしは大いに動揺し・・・
なにか勤務中では言えない、秘めた彼女の想いも
微かに感じ取った。
それは決して、淡い恋心なんかじゃない。
ある哀しみを秘めた、誰も知らない彼女の胸の内だった。
~つづく~




