夜汽車
カタッ、ガタン。 ガタッ、カッタン。
カタッ、ガタン。 ガタッ、カッタン。
一定のリズムを刻みながら通り過ぎていく夜汽車の音に
わたしは耳を澄ます。
それはわたしの病室に届く、とても小さな音。
毎晩届いていたはずの、その音に
わたしは初めて耳を澄し、音を感じる。
カタッ、ガタン。 ガタッ、カッタン。
カタッ、ガタン。 ガタッ、カッタン。
とても心地の良いリズム。
とても小さく、そして途切れず、鼓動のような音。
夜汽車ではなく、夜間の貨物列車だろうか?
それは次第に、
わたしの心臓の音とシンクロしていく。
( とても気持ちがいい・・・。
そうだ、あれは・・・・・あれは、すべて夢だったんだ。 )
10か月間の人生の消失なんて、ありえない。
第一、わたしの家族がいないじゃないか。
こんな状況なら、家族の付き添いがあってもいいはず・・・
わたしは先生にも会っていないし、あの可愛らしい看護婦さんにも会っていない。
!!!!
いや、可愛らしい・・・と感じた記憶が、ある。
タッ、ッタン・・・・。
夜汽車の音が遠ざかっていく。
わたしは、先ほどの心地良さを求め
さらに耳を研ぎ澄ませる。
しかし、その深追い気味な行為は
わたしの邪心を呼び起こし、
妙な考えが頭を過ぎる。
あの夜汽車は・・・
近くの誰かが 何処かに向かい、
遠くの誰かが こちらにやってくる。
カチャッ。
『 !? 』
漆黒で無音である わたしの病室を開ける大きな音に
わたしの心臓がイヤな音を立てる。
わたしは、断りも無しに入室する人物を、
黒々と重なり合う影を追う。
そして、
そんな わたしの気持ちとは裏腹に、
とても甘く優しい息遣いが聞こえてくる。
『 ・・・ 』
( だれ? )
『 ・・・・・ だいじょうぶ。 』
『 ・・・・・。 』
『 心配しないでね。 』
『 ・・・・・。 』
『 わたしが、いるから・・・ね。 』
その人は、少し湿度を帯びた手で
横たわっている わたしの手を取りだし、擦ってくれた。
肌と肌が重なる音。
それはとても小さく、音なんて しなかったかもしれない。
そんな、
鼓動のような緩やかな感覚に身を任せ
わたしは再び、眠りについた。
~つづく~