深更
わたしは、かなり・・・寝苦しい夜を迎えている。
もう、軽く100回は寝返りを打っただろうか。
あまりにも考えることが多くて、
わたしの頭の中はオーバーヒート気味に熱を帯び
頭だけでなく身体自体も火照って、
なかなか身体を休めることができずにいる。
「 悲観するな 」
医師は、そう言って
わたしを応援してくれていたが・・・
そんな後押しも空しく、
わたしは、いま・・・ネガティブの塊だ。
このままでは、いけない。
解かってはいるが、
負の焦燥が止まらない。
わたしはベッドから身体を起こし、しばし考えを巡らせた。
そして、少し頭を休息させ
寝返りではなく 身体を動かそうと、
裸足のままで室内を 少しグルグルと廻り始めた。
冷えた床の感覚が火照った自身の身体には ちょうど良かった。
しかし、
その後 わたしは足を汚してはマズいと思い、
スリッパ等の履物がないか、辺りを探してみたが
まるで隠されたかのように何処にも見当たらず、
わたしは
ヒタヒタとドアの付近まで移動した。
ゆっくりとドアノブを廻し
闇の廊下に顔だけ覗かせ、辺りを確認する。
( 真っ暗過ぎ・・・そして、すごく静かだ・・・ )
それにしても、
スリッパが無いとは・・・どういうことだろう?
あと、
わたしの服や財布などの大事なモノは何処にあるのだろう?
わたしは暗闇に染まりながらも、ほんのり存在している
自分の患者着を少し引っ張ってみる。
あと、下着とかも・・・そう言えば、誰が用意してくれていたのかな?
病院が? 下着まで・・? まさか・・・・・ね。
わたしは廊下から顔を引き戻し
ドアを静かに閉め、火照った身体を
その冷たいドアにくっつけた。
そして、わたしは
担当看護婦だった比奈那谷さんのことを思い浮かべる。
彼女が、わたしの全ての面倒を看ていたと仮定すると
全てが丸く収まる。
でも、いまは・・・ここにはいない。
( いや、元々存在していないのかもしれない。 )
わたしは、そんなことまで考え始めている。
あれから考えてみると・・・
彼女が誰かと話をしている所を見たことがない。
なかった。
彼女はわたし以外の誰かがいるとき・・・
決まって無口だった。
・・・・・これって、偶然だろうか?
わたしは記憶だけでなく、頭までおかしくなっていて・・・
存在しない、比奈那谷さんという
わたしが作り上げた架空の女性と会話をしていたのだろうか?
今思えば
医師の説明は、なんだか・・・ あらかじめ
答えを用意をしていたかのような、回答だった気がする。
考え過ぎなのかもしれないが・・・・
あの出来事が、わたしにとって かなりのショックで・・・
その後、
わたしが全く彼女に出会えていないことが その衝撃に拍車を掛けている。
まったく・・・・・。
なにが起こっているのだろう・・・。
トン、トン。
『 ひゃっ!!! 』
暗闇の中、
不意に届いた その不気味で乾いた音に
わたしは戦慄を憶えた。
わたしの病室をノックする闇の手。
わたしは音も無く近づいた訪問者に
気絶しそうになった。
『 ちょっと、イイかなぁ? 』
( 女性の声? )
『 ・・・・だ、だれ!? 』
『 バカねぇ・・・ わ、た、し、よ。 』
『 え? 』
『 奇蹟を呼ぶ看護婦さん、よ。 』
『 ひぃ、ひななた さん!? 』
わたしは、バカみたいに裏返った声を出してしまった。
そして、わたしは それまで
尻もちを付いたように動かなかった腰を
慌てて 少し膝が付くように浮かせ、ドアを凝視した。
カチャッ。
ドアが静かに開き、そして
暗闇からでも解かるくらいの、あの・・・
少し勝気で少年のような、馴染みの顔立ちが現れる。
『 ハロー。 また、会えたね。 』
悪戯っぽい声を出し
わたしの前に再び現れた彼女は
とても可愛いらしい笑みを浮かべ
そして、
とても嬉しそうに わたしの手を取った。
彼女の手は、その・・・
とても柔らかく、優しさを帯びた
体温にも似た感触で・・・
とても
非現実的なモノには思えなかった。
~つづく~




