表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/57

無益






もし、ドア先の相手を知っていたら、入室の許可を躊躇ったかもしれない。


それは、先日の面会での件があった後に

奇蹟の看護婦・比奈那谷ひななたさんと、こんな会話をしていたからだった。




■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■




『 昨日は失敗しちゃったなぁ。 途中で寝ちゃうなんて・・・ 』 

『 ふふふ。 』 

『 今度来たら、謝んないと・・・ 』 

『 ・・・気にしないと思うよ。 』 

『 でも・・・。 あ、それに これから面会がある度に寝ちゃう

 なんてことがあると、困っちゃうよなぁ 』 

『 ふふふ、そうね。 』 

『 あ。 社長さんたち、自分が昏睡中も来てくれていたのかな?

・・・今度、ちゃんと感謝しないといけないなぁ。 』

 

『 そんな優しさ、いらないわよ。 』

『 え? なんで、さ? 』 

『 だって・・・。   

あなたが昏睡状態になった1週間後には・・・

その・・・誰も来る人はいなかったから 』

『 !!! 』


『 最初から診ているのは、・・・・わたしだけよ。 』 



「 ごくっ。 」


わたしの喉が、大袈裟でなくゴクリと音を鳴らした。

わたしは とんでもない告白を聞いたような感じがした。


ほどなく、

わたしの心が少しずつ騒めき始める。


( 落ち着け! )

わたしは、騒ぎ始める感情に自制を求めた。


やがて、彼女の表情が無口で

憂いを帯びた顔になっていくのを感じる。

なにか・・・

なんとか、この空気を変えないと・・・・。


わたしは慌てて口を開いた。


『 じゃあ・・・きせき・・・

奇蹟を起こしたのは、ひななたさんってこと?

す、凄すぎる・・・・ありがたや・・・・なむあみ・・・ 』 

『 !? ちょっと、なに拝んでいるの!?  』 

『 だって、ありがたいんだもん。 ・・・・・本当にありがとう。 』 

『 ぅ・・・そう言ってもらえると、正直・・・すごくうれしい。

でも、やりづらくなるから・・・あまり、言わないでね。 』

そう言うと、 

彼女は口元を緩ませ 少しはにかんだ笑みを浮かべてみせた。




■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■





先日の彼女の笑みを思い出し

わたしは少し自身の顔が緩んでしまうが、

目の前の花本和夫はなもとかずお氏の顔を再度確認し、気を引き締める。

全細胞の真面目な部分を掻き集め

わたしは、予測不能な相手の発言に心を備えた。



『 ちょっと、今後のことも兼ねて話をしようと思ってね。 』 

『 はぁ・・・。 』 

『 あれから、考えてみたんだが・・・ん、その前に確認なんだが

君は事故の事や事故前の私たちのことを 本当に覚えていないのかい? 』 

『 ご、ごめんなさい。 』 

『 いや、謝らなくていい。 君のせいじゃない。

事故だったんだし・・・ 』 


( ちょっと、いやな時間になりそうだな )


『 それで本題なんだが、少し解かりやすいように

短く君に説明をしていこうと思う。 』 

『 ・・・はぃ。 』 

『 君は、そう・・・私の跡取りに考えていたんだよ。 』 

『 へ? 』

わたしは その大胆発言に、我ながらマヌケな声が出てしまった。


『 まあ、驚くのも解かる。

私には一人息子がいたんだが・・・・結婚後、美瑠璃あのこが生まれて

すぐに事故で亡くなってね。

しばらくは 息子の嫁と孫の美瑠璃みるりを養っていたんだが・・・

まぁ・・・恥ずかしい話・・・・・

息子の嫁が子供を置いて逃げてしまってね・・・ 』 


少し照れたように頭を掻きながら、話を続ける花本氏に

わたしは慌てて口を挟む。


『 だ、大丈夫なんですか? そんな話を私なんかにして! 』 

『 ははは・・・。 それも、そうだな・・・・。

でも、以前の君には その事実は伝えてあるんだ。

君との付き合いは もう5年になるからね。 君が21歳の時だ。

君と駅前の食堂で同席したときからの縁だからね。 』 

『 同席? 』 

『 そっか、まぁいい。 君とは家族ぐるみの付き合いでね。

まぁ、孫の美瑠璃も懐いてね・・・。

仲良くやっていたんだよ。 あの日までは・・・・。 』 


そう言い惜しみながら、花本氏は少し涙を浮かべ

力無く俯いた。


わたしは、黙っていた。


彼の発言を聞いても、まるで記憶の細胞が返事をしない。

全く動じない壁のような 知らぬ存ぜずの無反応ぶりに

わたしの落胆も隠せなくなり、力無い吐息が静かに漏れる。


そして・・・

その音に反応するかのように

花本氏の独り言のような本音が漏れ聞こえた。



『 随分と、無益な時間を過ごしてしまったようだ。 』 








~つづく~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ