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絲し心を染めて  作者: ちか
仮縫い
32/49

三十二



 わた飴、かき氷、りんご飴にチョコバナナ。祭定番の甘いものを一通り食べる彼方と駿の横で、玄一と宗司はフランクフルトを食べている。


「お前ら、よくそんな甘いの連続いけるな」

「だって美味いじゃん!」


 呆れる玄一に彼方はチョコバナナを突き出す。苺チョコでコーティングされたバナナにはカラースプレーがかかり、女子供が喜びそうな仕様である。


「玄ちゃんも食べれば分かるしっ」

「いや、いらねえよ。フランク食ってるのが見えねえのか」

「じゃあ味見!」

「あ、てめっ」


 言うなりフランクフルトを齧りとられ、玄一は危うく落としそうになった串をしっかりと握る。


「彼方テンション高いね」

「お祭りだからねえ」

「てめえらのほほんとしてねえでこの馬鹿とめろっ」

「ばかりゃれーもん」

「食いながら話すなっつの。つか、串で喉刺したらどうすんだよ……」


 むしゃむしゃとフランクフルトを飲み込んだ彼方が「食う?」と差し出すチョコバナナを、玄一は疲れたような声で「いらねえ」と断った。


「あ、射的だ」


 悠々と自分のチョコバナナを食べ終えた駿が、裸電球に照らされた屋台を指差した。

 高校生になってしまえば魅力に感じる景品も少ないが、射的そのものが楽しいのかいい年した大人も次々と参加している。


「玄一こういうの得意そうだよねー」

「いや、あんまやったことねえ」

「じゃあ、試してみたら?」

「やるならフランク持ってる!」

「……お前食う気だろ」


 彼方はさっと顔を逸らしてわざとらしい口笛を吹く。なんやかんや、甘いもので口の中がだるいらしい。

 玄一はじとっとした目で彼方を見たが、フランクフルトくらいいいか、と彼方に渡した。途端、彼方の目がきらきらするのだから現金なものである。


「食いすぎじゃねえか?」

「そんなことないもーん」


 玄一は肩を竦めて屋台のおやじに金を払う。

 弾は一回五発。進めておきながら玄一以外は少し離れたところで応援に回っていて、玄一は少し釈然としないものを感じながらコルク製の弾を銃口に詰めた。

 特に欲しいと思うものはなかったが、ゲームソフトは売れば小遣いくらいにはなるだろう、と玄一はメイン扱いで一番遠いそれを狙う。

 外れる。

 また外れる。

 さらに外れる。

 案外難しいもので、玄一はあっという間に残弾一発になった。後ろでげらげら笑う彼方たちに誤射しそうだ。


「ああ、くっそ!」


 やけっぱちな声を出しながら撃った最後の一発は、シュシュの通された紙コップにあたり、見事それを撃ち落した。


「お兄さんおめでとー!」

「……どーも」


 おやじに手渡された紙コップには全部で四つのシュシュが通されているが、玄一には当然使い道などない。


「玄ちゃんおつかれー!」

「飛びつくな」

「全部空振りじゃなくてよかったね」

「空振りのほうがまだマシだろ……」

「まあまあ、なんか使い道あるって!」


 いったいどんな、と思いながらシュシュを胡乱な目で見た玄一は、ふと思い立って彼方の髪をひっつかむ。


「いだっ」

「お前なら使うだろ」

「ちょ、なにっ、玄ちゃんなにしてんのっ」


 作業の邪魔だからと彼方が髪を結うことは珍しくない。ボンボン付きのゴムを使うこともあるくらいだから、シュシュでも文句はなかろう、と玄一は彼方の髪を一部まとめて結った。


「あはははは! 彼方ちょんぼりっ、ちょんぼりできてる!」

「似合うんじゃない、よかったね」


 びよん、と前髪の一部と合わせて側頭部で揺れる髪を引っ張り、彼方はひまわりの種落として固まるハムスターにも似た顔を玄一に向ける。


「似合ってるぞ、よかったな」


 一つ頷いて歩き出そうとした玄一だが、思い切り襟首を引っつかまれて仰け反った。


「おまっ」

「まだあるの知ってんだ、出せっ」

「おい、人混みっ」

「うるせえやいっ」


 三つのシュシュが通された紙コップを玄一の手から奪い、彼方は玄一の前髪に自分がされたのと似たようなちょんぼりを作った。宗司と駿が指差して笑っているが、彼方の手にはまだ二つのシュシュがある。


「お前らもじゃあ!」

「えっ」

「秋田、止めてっ」

「カナ、やっちまえ」


 ちょんぼり仲間は嫌だとばかりに言う宗司と駿に襲い掛かる彼方を、ふたりに散々笑われた玄一が止めるわけがない。

 あっという間にシュシュでちょんぼり作った四人組ができあがり、祭のテンションがなければなんともいえなかっただろうが、否が応にも高揚する空間。四人は爆笑した。

 そのまま「視界がよくなったから金魚すくいやろうぜ!」と走り出した彼方を追いかけて、四人は金魚すくいの屋台へ詰め寄り若いアンちゃんからポイをもらう。


「玄ちゃん、出目金とって!」

「お前、自分のポイは」

「とっくに!」


 穴どころか枠しか残っていないポイに胸を張る彼方の隣、駿が五匹目の金魚を椀に入れる。宗司は出目金を狙ってポイの真ん中に穴を空けた。


「あー、だめだ」

「案外急ぐとだめだよ」

「玄ちゃん、ファイトー!」

「ああやって騒ぐのもね」


 冷静に七匹目を救う駿は、さりげなく彼方から距離をとる。


「とるのはいいが、お前うちに金魚鉢とか虫かごあったか?」

「バケツならある!」

「やっぱ飼うのかよ……」


 ため息を吐きながら玄一はひらひらと泳ぐ出目金にポイを向け、さっと掬った。


「あ」


 ぽちゃり、音をたてて出目金は椀に移ったが、玄一のポイには穴が空く。粘り強いひとならばまだ続けただろうが、玄一は潔くあんちゃんにポイを返した。


「持って返るんだっけ?」

「そう!」

「んじゃ、気をつけて」


 水を入れた袋に玄一のとった出目金が泳ぐ。一応は玄一に渡された袋だが、玄一はそのまま彼方へ渡した。


「あんがと!」

「へいへい。ところで大槻、お前いくつとる気だ」

「もう十五匹目だよ……」


 呆れる三人をよそに駿は結局四十匹まで掬う。

 苦笑いするあんちゃんに袋入りされた金魚は、掬うだけ掬って満足した駿から羨望の眼差しで見ていたちびっ子へと譲られた。


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