9話 青年とシスター
まさかの書き終った文章を消してしまうというミス・・・。
気をつけないといけませんね(苦笑
ブラックアウトした世界から次に青年の目に入ったのは白い天井であった。
少しぼやける視界の中、ベッドから身を起こす。見知らぬ部屋だった。四方を白い壁に覆われ、ベッド以外の家具は隣にある椅子ぐらいだろうか。
『目が覚めましたか?』
声をかけられた方を向くと修道服を身に纏った20代前半ぐらいの女性が一人部屋に入ってきた。首に手のひらサイズの十字架をぶら下げているのが印象的だった。唯一ベッド以外の家具である椅子に腰掛ける。
『ここ・・・は?あなたは・・・一体?』
いまだにぼんやりとした思考の中、頭を抱えながらも目の前の女性に尋ねる。
(俺・・・確か死神に殺されたはずじゃ・・・?)
あの状況の中自分が生き残れたとは考えずらい。ふと青年は今まで当たり前のようにあるはずの、だがしかし無くしていたものがあることに気づく。
(腕!?ついてる・・・。)
とっさに頭痛を感じ頭を押さえていたが、本来ならそんなことできるはずがなかった。だが、現に今青年には頭を押さえることができている。
『大丈夫ですか?ここは城下町の治療院です。私はこの治療院に配属されている教会のシスターノエルというものです。びっくりしましたよ?急に疾風雷神のメンバーが血まみれで転移装置の入り口に現れたらしです。急遽治療院に担ぎこんで、処置をしていましたら、今度は全身血まみれのあなたが担ぎこまれてきたんです。本当に驚きましたよ。』
『・・・・!!アクトさん達は無事なんですか!!?』
脳裏には血まみれで自分の前から姿を消した三人の光景。
『はい。意識はまだありませんが三人とも無事です。三日ほどは安静にしなくてはいけませんけどね。』
シスターノエルは青年の険しい顔を見たためか、落ち着かせるように優しく微笑みながらそう答える。
それを聞き明らかに安堵した青年は、一つ小さくため息を吐く。
そんな様子を微笑みながら見守るシスターノエルはやはり聖職者なのだろう。その微笑みは誰にでも分け隔てなく元気を与えられる。そんな力を持っているように青年には感じられた。
『えっと、質問をしてもいいですか?』
『あぁ。はい。ちょっと頭がごちゃごちゃになってるんで上手く説明できるかはわかりませんけど。』
気にしなくてもいいですよと、相変わらず微笑みを絶やさないシスターノエル。
『それでは・・・一体何があったんですか!?あなたは確かに全身血まみれでしたが傷らしい傷は一つもありませんでしたよ!?それにあの疾風雷神のメンバーが全滅ってどんな化け物と遭遇したんですか!!??』
『シスターノエル!!近い近い近い!!後怖いです!!』
突如豹変したかのように椅子から身を乗り出し、凄い勢いで迫るシスターノエル。顔の距離がほぼ0距離だ。青年の目にはシスターノエルの青い瞳に映る困惑した自分の顔を映し出していた。
鬼気迫るシスターに焦りながらも青年は一つ疑問を感じずにはいられないところがあった。
(怪我がない?いやいやいや。俺両腕失くしてたはずなんだけど・・・。)
自分の腕を見てみる。切断された後のような傷は全く見当たらない。ちゃんと指も動かすことができる。
『どうかしましたか?』
『いえ。少しまだ頭が混乱しているみたいです。すいませんがアクトさん達が目を覚ましてからにしてもらっていいですか?今は上手く説明できそうにないです。』
青年の様子に気づいたのか、それとも自分の暴走に気づいたのか、先ほどの表情がなかったかのように青年の身を心配するシスターノエル。
そんな彼女の変わり身の早さに内心驚愕を隠せない青年だが、今はまずあの三人に何が起こったのか。まずそれがわからないとあの状況を一人で説明できそうになかった。一度情報をまとめたほうがいいと青年は結論ずける。
『・・・わかりました。ではあなたの名前を教えてもらってもよろしいですか?残念ながらギルドカードは迷宮に落としてしまったのか、あなたの所持品にはなかったので。』
シスターノエルは少し残念そうにしながらも、青年の名前を尋ねた。現状彼のことは何もわからないのだ。担ぎこんできた冒険者に彼の名前を尋ねても、疾風雷神と一緒に行動していたことぐらいしか情報がなかった。まぁ迷宮に入るのはほとんど冒険者ぐらいしかいないため、シスターノエルが青年を冒険者だと勘違いしたことは仕方ないと言えるだろう。
だがその質問は予想外の返答で返される。
『わかりません。』
『・・・・・・・・え?』
特に考えるまでもなくそう答えた彼に、シスターはなにを思ったのか少しあわてたように、
『もしかして頭を強く打ってしまわれたのですか!?ちょっと待ってくださいね!!』
そういうと左手を青年の頭の上に、首に着けている十字架に右手をあてる。
『おお。神よ。今ひとたび私に力をお貸しください。』
青年には宗教といった概念は全くわからなかったが、目の前の女性が祈る姿は何か神聖なものを感じる。
(おお!なんか身体がぽかぽかする。)
自分の中に熱い、けれど優しい何かが身体中を包んでいくのがわかる。青年は驚きながらも不快ではないその不思議な感覚を感じる。
『どうでしょうか?思いだせましたか?』
『いや全く。』
青年が驚くその顔にはきっと記憶を取り戻せたと確信したのだろう。シスターノエルは微笑みながら青年を見る。
だが彼の返答は残酷だった。確かに何か身体が軽くなった気はするが、そもそも彼が名前を思いだせないのは、別に怪我をしたからではない。
『まぁ・・・なんてこと!?おお!!神よ!!あなたはこの少年を見捨てるというのですか!!!それとも私の祈りが足りなかったのでしょうか!!ならば・・・この髪をあなたに捧げましょう!!!!』
『ちょっと待ったーーーー!!!!!!!!』
シスターノエルは床に崩れるように膝をつくと、どこから出したのか短剣を取り出すと、フードから伸びる長く綺麗な青い髪に手を掛ける。だがそんなことをされたら、青年の責任感が耐えられそうにない。急遽これまでの経緯をシスターに伝えた青年だった。
『そうだったのですか・・・。私の早とちりだったのですね。申し訳ありません。・・・・・・・おお!!神よ!!!あなたのことを疑った私はシスター失格です!!!どうか罰にこの髪を・・・。』
『ストップ!!!!ストーップ!!!!!』
このシスターはどうやら少し暴走癖があるようだ。この後も何回か暴走を起こし即座に自分の髪を犠牲にしようとするシスターを全力で阻止する青年であった。
(あれだな・・・やっぱ名前がないって超不便だな!!)
改めて名前の大切さを実感した青年だった。
ちなみにシスターや神官などは、主に回復系統、補助系統のスキルを持っている人が多いらしい。
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現在時刻は朝9時。青年が目を覚ましたのはだいたい朝の7時半。日付は一日変わっていたので、迷宮に入っていたのは昨日だったことがわかる。ちなみに日付や、時間は元の世界と同じだ。
現在青年は借りた宿屋に戻っていた。お金を部屋に置いていたことと、もう一つ理由がある。青年が昨日寝ていた治療院。実は有料だったのだ。
正確に言うと青年だけが有料だった。なんでもギルド員や国に仕える騎士などは緊急事態のような怪我を負ったとき、無料で治療を受けることができるらしい。ギルド員の場合はギルドカードがその保険代わりになるのだそうだ。
今回の件はまだ確定したわけではないのだが、おそらくその条件を満たしているだろうとシスターノエルは言っていた。
だが現在青年にそういった物はない。ついでに言うとお金もない。アクトに銀貨数枚を貸してもらっているが。
(ギルドカードやっぱいるよなぁ・・・。)
シスターノエル曰く今からギルド登録すれば多分大丈夫とのこと。なんともアバウトだ。
(ふむ・・・。とりあえずギルド登録しに行くか・・・。一人で行っても大丈夫かな。俺ってあの人達いないと現状何もできないような気がする。)
今の青年の服装は治療院から借りている。白い服。つまりはこの世界の病人用の服みたいなものだ。いまから行くのは冒険者ギルド風の谷。一言で言うならば違和感しかなかった。まぁどのみち青年の初期装備の服はこの世界ではどっちみち違和感を感じるようなものだったのだからあまり変わりがないのだが。
青年は一応宿屋を三日分(銅貨24枚)を追加で払い、宿屋を出るのであった。
(あれ?そういやギルドってどこだっけ?ごついおっちゃんとかに絡まれたら嫌だなぁ。)
ちょっとした休息回てきな感じですかね。
拙い文章ですが応援してくれるとうれしいです。