8話 青年と夢
短めですが伏線回ということで入れさせていただきました。
気づいたら青年は公園にいた。目の前には少年と少女。その公園は砂場やブランコやシーソーなどといった遊戯物は置いていない。草木のような自然に生えた木々が多く、公園というよりは広場といったほうがいいのかもしれない。
いきなりのことで少し戸惑った青年だが、周りを見回すと納得したかのように視界を少年と少女に戻す。
(これは・・・夢か。)
この光景は青年には身覚えがあった。彼がまだ小学生ぐらいの時に、良く遊んでいた同い年の少女だ。黒髪に珍しい赤い瞳、学校も違うし、家も違うが何故かよく遊んでいたのを思い出す。名前は思い出せなかったが。
『〇〇君今日は何するの?』
その子供特有の無邪気な笑顔と、綺麗に伸びているストレートの黒髪をいじりながら少年に尋ねる。
なぜだかわからないが、名前の部分だけぼかしたように聞き取ることが青年にはできない。
『うーん。そうだなぁ。〇〇ちゃんは何がしたいの?』
少年は特に考える素振りを見せるわけもなく、少女に今日の遊びを決めてもらおうと少女に返答を投げ返す。
(俺って結構こういうこと考えるの苦手だったんだよなぁ。)
青年は苦笑いしながらも少年を見る。この世界では特に珍しくもない黒髪黒目の少年。幼き日の自分だと一目でわかった。
『もう。またすぐ私に決めさせるんだから。たまには〇〇君が決めてよ。』
少女は困ったような、少し怒ったような曖昧な表情で少年を見ている。
いつものことなのだろう。少年は苦笑いをしながらも一応考えるつもりはあるか、顎に手をあてうーんっと唸る。
(そういえば俺の初恋ってこの娘だったんだよな。・・・ってか初恋の人の名前忘れるって・・・。)
青年は唸ってはいるが全く閃かなさそうな少年を見ながらぼんやりとそんなことを考えていた。
そんなときだった。
『んー思いつかないなぁ。・・・なんか面白そうな遊びないかなー。お前も何か考えてくれよ〇〇。』
少年がこちらを見てそんなことを言ってきた。
(・・・・・え?)
戸惑う青年。幼き日の自分は確かにこちらに目を向けている。
『そうねぇ。〇〇君だったら何か思いつかない?』
それと同時に少女も青年に目を向ける。
(どうなってんだ・・・?)
困惑する青年を見つめる二人の少年少女は青年の様子がおかしいことに気づいたのか、
『おいどうしたんだよ?すっげえ変な顔してるぜ〇〇?』
『どこか具合が悪いの〇〇君?大丈夫?』
心配したように青年に声を掛ける。
青年自身何が起きてるかがよくわからなかったが、ここにきて一つの違和感に気づいた。自分の目線が二人とそう変わらないことに。
青年は自分の身体を見てみるとその理由がわかった。自分自身が子供であるということに。明らかに手足が縮んいるし、着ている服も子供服だった。
(そういえば・・・。いつも三人で遊んでいた気がする。)
なるほど。自分もこの夢の中の世界の登場人物だったわけではある。だが青年には大きな謎があった。
(目の前にいる俺は・・・俺だよな?じゃあ・・・・。)
(今の俺は誰なんだ?)
青年には三人で遊んでいたことは何となく覚えている。だがこの三人目だけは、顔も姿も名前も・・・・何も覚えてはいなかった。青年はそれがとても不気味に思えた。そんな正体不明の存在が今、夢の中とはいえ自分がその役を演じているのだ。
(おかしいだろ。なんで俺が俺じゃないんだ?)
青年の疑問が解消されることはなかった。木々が風に揺れサーッと静かに三人の髪をなびかせる。
それが合図だったかのように途端に目の前の景色が歪み始める。少年も少女も周りの木々もそして自分自身も。世界がネジ曲がったかのようにすべてが歪み始めた。
目の前の光景が真っ黒になる瞬間・・・それは聞こえた。
『君は何時か必ず全てを知るときがくる。そのときにまた会おう。・・・・・・・・バイバイ。名も無き青年。』
そんな子供の声が聞こえた。
(今の声どこかで聞いた気が・・・。)
そんなことを青年は一瞬思ったが、思いだすのもつかの間・・・青年の意識はブラックアウトした。
(必ず出会う運命なのさ。遅かれ早かれ必ずね。だって僕と君は・・・・・・・・・・・。)
黒い世界の中そんな呟きが聞こえる。
青年の運命の歯車は加速する。それは彼の意思ではどうにもならない。なぜならばそれは運命なのだから・・・・・・・・。
ちょっとミステリアス&ホラーを取り入れてみました。皆さんに少しでも伝わってくれたら良いなと思います。
評価してくださった方ありがとうございます。より面白い作品になるように頑張ります。
拙い文章ですが応援してくれるとうれしいです。