6話 青年と死神
青年回です。
感情を表面に書き出すのも難しいものですね(苦笑
少しでも皆さんに伝わったらいいなと思います。
扉が閉まってからは戦闘音などは全く聞こえなかった。どうやら防音機能のようなものがあるらしい。あれから何分たったのだろう。5分か10分ぐらいか?まだそこまで時間はたっていないはずだ。こちらの世界に手ぶらで来た青年は時計のような物は持っていない。推測でしかなかった。
(これは失敗したなぁ・・・。)
っと一人苦笑いしながら待っていると、
『ギギッ・・・・・。』
扉が少し開いた。どうやらボスは撃破したらしい。青年は岩場から扉の前に移動すると三人を待つ。だが一向に扉がそれ以上開く気配はしない。疑問に思いながら扉の隙間を覗いてみるが、いまいち視界が狭く何も見えない。ただ扉が開いたということはボスは撃破したということなのだろう。青年は少し考えてから問題ないと結論し、両手に力を入れ扉を押し開けた。
そこは、白い空間のような場所だった。だいたい左右は25mほど。ここまでは別に青年は特に驚きはしなかった。
部屋の端で血まみれで倒れる三人をみるまでは。
『アクトさん!!!レインさん!!!オルトさん!!!』
青年は担いでいた袋を放り出すと急いで三人に駆け寄る。だがそれは叶わなかった。三人の周りが光りだすと三人の姿が突然消えた。青年には何が起こっているのか全く理解できていない。
そして混乱もつかの間それは突然出現した。
青年の行動は速かった。それが出現した瞬間姿も確認せずに青年は出口の扉まで一直線に走り出した。
(何がどうなってんだよ!?だけど・・・あれはヤバい!!なんでか知らないけど、あれにかかわったらいけない!!)
青年の考えは正しい。その行動も正しい。ただ唯一の間違いはこの部屋に入ってしまったことだった。その時点で青年の未来は変わることはない。それと相対しなければならない未来から。
『ギギーッ・・・・ガーン!....バーンッ!!!』
扉は何かの力を入れられたかのように閉まられた。だが扉の前まで走っていた青年はその目の前の光景を無視し勢いそのまま扉にタックルする。凄まじい衝撃音が鳴り響いたが、無情にも扉が動く気配は全くなかった。痛む肩を無視し、すぐさまジーパンのポケットから転移石を取り出し念じるが、いっこうに発動する気配もない。
(『ボスの間に入ってしまえば扉もこういった脱出アイテムなどもそのボスを倒すまで扉は開かないし、使えなくなってしまうんですよ。』)
(『殺すか殺されるかのどっちかだ。』)
脳内で再生されるのは出会って間もない自分にとって最強の冒険者達の言葉。
アクトに借りた腰に差していた剥ぎ取りようのナイフを抜くと、青年はゆっくりと振り返る。この時点ですでに青年は絶望を感じていたが、それと同時に覚悟をした。だがそれを見た瞬間・・・彼の心ははやくも砕けかけた。
それは一言で表現するならば黒。形は人のように見える。全長も170cmぐらいだろうか?全身を真っ黒なローブが包みそこからかろうじて見える細長い手首でさえも黒い手袋のようなもので覆い隠されていた。唯一白い能面のような仮面すらも全身から漂う黒いナニかに覆われそれが余計に歪に見える。そして何よりもその手に握る赤黒い鎌。この白い空間にそれはただ唯一異質なもの、そう感じさせるように浮いていた。
死神。青年にはその言葉以外浮かび上がらなかった。見せ掛けではないその存在が。その姿が。その雰囲気が。その鎌が。なによりもそれから発せられる強烈な死の匂い。思わずナイフを落とし、膝をついてしまった彼を責めることはできないだろう。
青年は武器の使い方を知らない。戦い方を知らない。そして何より彼はこの世界の冒険者においては最も大事な覚悟・・・命を殺すことを知らないのだから。それは彼にとって致命的だった。
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だが、ここで諦めること・・・すなわちそれは死だ。
青年はここに来て、一つのことを思う。理不尽だと。記憶を無くし、わけのわからないこの世界に突然送られ、今こうしてまだ一日も立っていないのに自分は死の恐怖を与えられている。
(俺が・・・何したってんだ・・・!!)
死神は先ほどからこちらに近よってはこない。不気味な能面はこちらに視線を向けているが、青年がどのような行動をするのか興味があるように広場の中心に佇んでいる。
青年はナイフを取り立ち上がった。その切っ先を黒い死神に向けて。
(生きるためには・・・殺すしかない!!!)
その眼には強い力と覚悟があった。自分の元いた世界では決して見せたことのない覚悟。殺すという覚悟を。
もしこれが、そこらの冒険者や、一般的な魔物であったならば変化は起きたかもしれない。だが残念ながらここにいる存在はそんなレベルではなかった。青年の覚悟を見た死神は・・・
ニターっとまるで笑うように、何か良いものを見るように能面が変化したのだった。
さらにその瞬間だった。死神の姿が消え、青年の目の前に急に現れた。あまりにも唐突だったために、青年はとっさにナイフで死神を突こうとするが既に死神はまた中央に佇んでいた。
あまりにとっさのことだったために青年は内心動揺しつつも死神を睨みつける。
(なんだ今の・・・錯覚か?あれあいつ何持ってるんだ?ナイフ握ってる腕?・・・・・・・・え?)
青年はゆっくりと自分の右腕を見る。
そこには本来自分についていなければならないものがなくなっていた。
『あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!??????????????』
肘付近から下が綺麗になくなっていた。思いだしたかのように血が溢れてくる。
(熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い)
絶叫と狂ったような思考が止まらない。切断された右腕からは止めどなく出血し、ものすごい熱を青年は感じていた。左腕で右腕を支え天に捧げるように座り込んでしまう。
だがその状態も長くは続かなかった。右腕が急にだらんと力なく下に落ちる。
『え?』
力なく視線を左腕に向けると、左腕すら消えていた。
『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!』
再びの絶叫。両の切断された腕から血が溢れだす。
青年は叫ぶことしかできなかった。本来ならショック死してもおかしくないのだが、青年にはまだ意識があった。
(なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!?!?)
だが最早思考回路ですらあやふやだった。もう床は自分の血だまりで染まりきっている。
やがて支えを失った青年は地面に倒れ伏す。徐々に体温が低下していく。さっきまでの絶叫が嘘のように、静寂が訪れる。もう青年には叫ぶ余力すらなかった。
(寒い・・・・・・・。)
おそらく自分はもうすぐ死ぬのだろう。身体の間隔はもうほとんどない。青年は最後に死神を一目見ようと地面に顔をこすりつけながらも前を向いた。
白い能面はこれでもかというぐらい歪に歪んでいた。右手には鎌を左手には青年の両腕を。青年にはその光景は笑っているようにしか見えなかった。今まさにその命の火が消えようとしている自分を。
(・・・・・・・・・・・・ふざけんなよ。)
青年の中の何かがぷつんと切れた。
青年がこの世界にきてから特に混乱もなく、ショックで喚いたり、絶望したりしなかったのはもともと記憶が無いことや、割とあっさりと物事を考えることができる性格であったりもするのだが、何よりも生きていける環境ができていたことが大きい。
本来ならば青年は問題なくボスを撃破した、あの親切で優しくも強い三人の冒険者と帰還していたはずだ。それからこの世界で生きていく術を学び、そこから自分の記憶と向き合っていけばいいと考えていた。それなのに、今自分の命は後わずか。三人の冒険者も生死不明である。
この考えはこの世界で生きている人からすれば甘い考えなのかもしれない。だけどこんな死に方は絶対納得できない。何よりも笑われて死んでいくなんて惨めすぎる。
(お前さえいなければ・・・・。お前さえお前さえお前さえお前さえお前さえお前さえお前さえお前さえお前さえお前さえお前さえお前さえお前さえお前さえお前さえお前さえお前さえお前さえお前さえお前さえ・・・・・・・・・・・・・。)
青年から再び熱い何かが灯る。腕からの血が止まり、青年の周囲の血だまりが震えだす。
死神も何かを感じ取ったのだろう。青年の腕を投げ捨てると、一瞬で青年の前に踊りだし、鎌を振り下ろす。だが鎌が青年を貫くことはなかった。変わりに死神の目に映ったものは辺り一面に宙に漂っている青年の血だった。
『お ま え さ え いなければ!!!!!!!!』
青年のこれまでにない瞳が死神を映し出す。その眼は赤く、殺意が滲み出るように彼の周囲には霧のような血液が漂うのであった。
少し無理やりだったかなぁと書き終えて思ってみたり(笑
拙い文章ですが応援してくれると嬉しいです。