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うろなの小さな夏休み   作者: 三衣 千月
うろなの小さな夏休み
9/20

7月6日 4人の少年と夏祭り その1

やっと書けるよ夏祭りー。遅れましたがお楽しみいただければ幸いです!


7月6日(土) 昼


 とても良く晴れた空。照りつける太陽。夏が近づいていると言うが、これはもう夏なのではないだろうか。むしろ夏のヤツ、本気を出してんじゃねーのと感じるユウキは半袖のシャツを着て、タツキの家へと来ていた。

 愛機・ぶれいぶ号を家の前に止めて、呼び鈴を押す。今日はうろな町の夏祭りだ。彼らは昼ごはんを食べてから合流と約束していた。

 少しすると、タツキが家から出てきた。数日前は少し仲違いのような事をしてしまったが、すっかり仲直りをして今日の祭りを楽しみにしていた。


「よー!タッキー!早く行こうぜー!」


「お祭りは逃げないよー。ユウキ君」


「わっかんねえだろ!わたあめとかたこ焼きとか、売り切れるかも!」


「ホントは早く型抜きしたいだけなんじゃないの?ユウキ君は」


 タツキがくすくす笑う。ユウキは数ある出店の中でも、型抜きが好きだ。ひょうたん、傘、つばめ、消火器…大抵のものならば難なく完成させることができる。

 ちなみに、タツキは射的が得意である。


「去年はカカシだけ失敗したんだよなー今年は全種類制覇だぜ!」


「成功するといいねえ」


 何気ない会話を交わしながら中央公園へと向かう。途中、クラスメイトや近所の下級生達とも会った。やはり、みんな祭りに興味をしめしているようだ。

 ユウキはふと気になった事をタツキに聞いてみた。


「そういや、モモって結局さー、祭りにくるのかな?」


「どうだろうねえ」はにかみながら返事をするタツキ。


 ツチノコ探しの時に天狗仮面が連れてきた少女、猫塚百里と再会できる事をタツキが望んでいるのだとユウキは思っていたが、当のタツキはそれほど気にしていない様子だった。会えたら良いなとは思っていたが、それよりも祭りそのものへの気持ちの方が大きいのが正直な所である。



 公園に近づくに連れて、がやがやとした雰囲気が二人にも伝わってきた。同じように公園に向かう人々や逆に戻ってくる人もそれぞれだ。出店の食べ物の香りを持つ人々とすれ違いながら、二人は公園へと入る。

 

「いっぱい並んでるぜー!なあなあ!どこから行く!?」


「あ、僕わたあめ食べたいな」


「おっけー!じゃ、食券買いにいこうぜ!」


 食券売り場では綺麗な女性が笑顔で食券の販売を請け負っていたが、少年たちの頭の中はわたがしのもたらすふわふわとした幸せでいっぱいであった。女性に負けないほどの笑顔で「ありがとう!」と述べて二人はわたあめの屋台へと走る。

 甘いにおいが近づく。屋台では箸で器用に糸状のザラメをすくい取って形にしていく青年の姿があった。


「にーちゃん!わたあめ2つ!」


「はーい、いらっしゃい」


「作るのうまいな!にーちゃん!」


「今日はずっとこればっかりだからね。慣れちゃったよ」


 そういって青年は2つ、わたあめを手渡してくれた。礼を述べて二人はステージ前の机の一つに座って、足をぶらぶらさせながらわたあめを食べる。

 そこに、聞き慣れた声がかけられ、二人は声の主を見た。


「よう、南小コンビじゃねえか」ダイサクとシンヤが立っていた。


「やっぱ来てたのか。…なあ、それ、なんだ?」


 ダイサクが手に持っていたのはきゅうりに割り箸を挿してあるものだった。


「きゅうり、か?それ」


「冷たくてウマイぜ?」


「おっさんくせえ」手に持ったわたあめを一口かじるユウキ。


「んだとコラー!」「やんのかー!?」


「はいはい、ダイサク君もユウキ君も落ち着いて」


 まったくいつも通りの光景に苦笑しつつ、タツキは提案する。せっかくの祭りなのだ。祭りらしいことを楽しんだとてバチは当たるまい。


「何かで勝負する?」


「お、いいじゃんタツキ。じゃ、まずは型抜きにしようよ」


「うん、分かった。ユウキ君もそれでいい?」


「おう!こてんぱんにしてやるよ!」


 北小組の二人は、ユウキの型抜きの腕前を知らなかった。




   ○   ○   ○




 結果は、ユウキの一人勝ちとも言える状況だった。


「ずりぃぞユウキ!得意だったんなら先に言えよなー!」ダイサクが吠える。


「悪い悪い。でも、コツ教えてやったろ?」


「来年には教えたこと後悔させてやらぁ!

 アイはアイより出て…あれ?アオはアイよりアホで…ん?」


「言えてないよダイサク!」


「新しいパターンだね」


 型抜きは一枚一枚をこなすのに時間がかかるものだ。いつの間にやら時計は3時を回っていた。4人はお腹が空いたこともあり、テーブルで何か食べようかと話していたが、不意にシンヤがステージを指さして言った。


「あ、町長だ」


「ん?おー、ほんとだ。何やってんだ?あれ」


「手品じゃないかな。トランプ持ってるし」


「へー!見たい見たい!お、始めるみたいだ!町長がんばー!」


 町長のマジックショーは子供達にとって新鮮なもので、「おお」とか「今のどうやったんだ!?」などと4人でわいわい言いながら楽しんだ。

 ショーに夢中になっていた4人は何か食べようと話していたことをすっかり忘れていたが、ステージが終わり精一杯の拍手をおくった後でまた空腹に気づき、今度こそ何か買おうと屋台を見渡す。

 ソースのいい匂いが漂っていることに気が付き、そちらを見るととても威勢のいい2人組みが鉄板を前にして客の呼び込みをしていた。


 その誘惑に勝てるはずもなく、また半ば勝つ気もなく、吸い寄せられるように屋台に並ぶ4人。


「らっしゃい!何にしましょ?」

「材料も追加したよって、なんぼでも言うてや!」


「すっげえ美味そう!」ユウキが目を輝かせる。


「ちゃうちゃう、美味そう、なんやあらへん。美味いんや!」

「当たり前のコト言うとらんと、はよ作れ。お客さん待たしてどないするんや」

「ボクはしっかり精魂込めて鉄板と会話しとるから平気や。

 返しのタイミングは見逃さへんよ!…ここやぁッ!」


 そういって鮮やかな手つきでお好み焼きを返す姿に見惚れるユウキとダイサク。列に並ぶ客からも「おお」と歓声が上がる。


「すっげえ!兄ちゃん、プロだな!」「かっけー!」


「せやろせやろ!君ら、よお分かっとるやないの!」

「ええから早よ。まだまだ注文あるんやさかい口より手ぇ動かせ」


もう1人の青年も、野菜が山のように盛られた生地をバランスを崩すことなくふわりと返した。蒸された野菜が、別に焼かれていた麺と合わさって、その真の姿を見せる。


「麺と合体したよタツキ。すごいなコレ」

「広島焼きって言うんだって。美味しそうだよね」


 そして机に並べられたのは、焼きそば、たこ焼き、お好み焼き、そしてお好み焼きだった。1つに決めるなど出来る訳がなく、4人いるんだからと4種類すべてのメニューを頼んだのだ。

 この日、4人のお好み焼きと言うものに対しての見方はがらりと変わることとなった。お好み焼きのふわりとした生地の中には、様々な具材の味が閉じ込められており、一口ごとに口の中には別世界が広がるようであった。

 広島焼きと言うものも初めて食べたが、麺のしっかりした味と、野菜の甘味、そしてソースの織りなす味は最早芸術と呼ぶべきものであった。

 しかし、小学生達がそれを的確に言葉で表すことは難しかった。ただひたすらに食べることに集中したのである。




「やっぱあの兄ちゃん達、プロだぜ」


「だよなー。サイン貰いにいこーかな」


「お仕事の邪魔しちゃダメだよユウキ君」


「焼きそばもたこ焼きも美味しかったねえ」



 空腹を満たして幸せ気分いっぱいになった4人はしばらくその場を動けずにのんびりしていた。

 ステージでは何やら一段落ついたようで、あれこれ道具を片づけたりしていた。


 まだまだ空は明るく、楽しむには十分である。4人の祭りはまだまだ盛り上がることだろう。





シュウさんの町長&食券売り場の秋原さん、ディライトさんのマサムネ君、弥塚泉さんの香我見、佐々木コンビ、お借りしました!


目指せ、屋台全制覇!ビールは無理ですけれども(笑



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