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うろなの小さな夏休み   作者: 三衣 千月
うろなの小さな夏休み
6/20

6月9日 4人の少年とツチノコ男 その2

真・6話


キャラが多いと回しきれない…;

6月9日(日) 昼


 うろな高原を出発した一行は、登山道を登っていく。山頂へ向かう本道は整備されて歩きやすく、雨が上がったこともあって和やかにハイキングといった様相であった。


 先頭を川崎、日出が歩き、後ろに子供達が続く。天狗仮面は最後尾を歩いていた。


「少年達はツチノコを知っているか?」


川崎が振り返りながら後ろに問う。ユウキやダイサクが首をかしげたのを見て、彼はコホンと咳払いをして、ツチノコに関する情報やこの町での目撃情報、捕獲の方法や注意点などを語った。


「おじさん、子供達、引いてるんだけど?」


「いや、つっちーさんって、すごい人だなって思って…」


「タツキ君、だっけ。いい子だねー、キミ」


「つっちー!あのさあのさ!捕まえたらお金もらえるんだろ?」


「お金の為に捕まえるんじゃないさ。好きだからだ」


「どれくらい?」


「ツチノコのためなら、世界を敵に回してもいい」


「じゃあ、つっちーって強いのか!?」


「いんやー、あたしの方が強いよー、ユウキ君」


「なんだとこの小娘!」


 登山道で賑やかな応酬が繰り広げられる。モモと、後ろを歩いていたダイサクが口をはさむ。


「何かさぁ、二人ってアツアツだよな」


「ダイサク君もそう思う?あたしも思うな。まつりさん、楽しそう!」


「でもさ、あのやり取り、どこかで見た感じがするんだよね」シンヤが言う。


「僕が思うに、ユウキ君とダイサク君の口喧嘩と同じなんじゃないかな」


「それだ!」


「ちょっと待てよタッキー!それじゃあ、ダイサクと俺がアツアツってことか!?」


「げーッ!俺やだぜー!気持ち悪い!」


「俺だってやだよデブダイサク!」


「んだとチビユウキー!」


「あら、本当。とってもお似合いじゃない!」



 ユウキ、ダイサク、川崎が揃って「お似合いじゃねえよ!」と口にする。日出まつりだけは、やれやれといったようにため息をついていた。





   ○   ○   ○




 天狗仮面が「そこだ、右に入る道があるだろう」と先導する川崎に話しかける。

 確かに、登山道から分かれた道のようなものがあるが、伸びた野草に阻まれてまるで獣道のようになっていた。


「へー、何度かツチノコ探しにこの山に来てるけど、これは気づかねーな」


「ここからが大変だぞ。諸君!気を引き締めてかかるのだ。

 それと、まつり君!シャツの袖は下ろすのだ!

 草も多いのでケガの元だ!皆も軍手をつけるのだ」


 道の端で装備を整える一行。天狗は風呂敷の中からロープを取り出して、それぞれに渡した。


「先頭はそのまま二人に任せたい。後続が歩きやすいように

 道の確保もお願いする」


「子供達は大きな石やつまずきやすい根があれば知らせるのだ。

 大人は平気でも、子供にとっては危ない時もある。

 誰しもが安心して歩けるようにするのだぞ」


「そして、殿(しんがり)はこの天狗仮面が務める。

 見通しの悪い道や危険な箇所があれば指示を出そう。

 ゆっくり歩いて60分程なので気をつけてゆくぞ!」


 天狗仮面が次々と号令を出し、8人は登山道を外れて山道へと分け入る。


「さっそくだが、目印として道沿いのこの木とあの木を

 “バケットヒッチ”を用いて結ぶのだ。上、中、下と

 3本ほど結んでおくと良いぞ」





 子供達の想像以上に、山道を歩くと言うのは大変な作業であった。雨でぬかるんだ地面に足を取られたり、巨大な蜘蛛の巣に頭から突っ込んだり。川崎は何かがガサリと草むらで音をたてるたびに「ツチノコか!?」とそちらへ分け入っていた。ツチノコ愛と言うものは恐ろしい。

 日出まつりは非常に身軽に山道を歩き、子供達では届かないような場所でもスイスイと他の木々を足場にしたりして目印をつけていた。


 やがて、一行は森を抜けて少し開けた場所に到着した。

 山の中腹よりも少し上くらいになるだろうか。開けた視界からは、うろな町と海が一望できる見晴らしの良い広場だった。

 その広場の山側に、大きな二種類の木、(とち)と桜がその姿を堂々と晒しており、町を見守る大樹の姿に、一行は感嘆の声を漏らす。


「コレはすごいな。俺、やっぱりこの町に引っ越してきて良かったー」


「でっ…けー」


「うわ、シンヤと二人でも手が回らねえ!ユウキ!タツキ!手伝えよ!」


「おう!ほんとでけーな!」


「4人でやっと一周出来るね」


 天狗仮面が風呂敷からレジャーシートを取り出して木の根元に敷く。気を張りながら歩いて疲れただろうと一行に休憩を勧める。


「その栃の木が、この山の長老だ。秋になれば多くの実を落とすぞ」


「栃の木って、国語でやったあの木か!?」


「おう、アレか!俺達も読んだぜ!ポチポチの木だろ!」


「そんなスイッチを押すような木は嫌だよダイサク。モチモチの木だよ」


「子犬がいっぱい集まってくる木かも知れないわね!」


「う、うるせえ!モモまで何言ってんだよ!」



 レジャーシートに腰を降ろし、持ってきたおやつで休憩をとる。川崎と日出も「オクダさんで買ってきた」と数点の菓子を取り出した。 

 野外活動時のおやつには、糖分補給という大切な役割がある。普段と違う行動の中で、脳に負担がかかり、知らずのうちにエネルギーが消費されているのだ。

 こまめな糖分補給と水分補給が、山でのバテを防ぐ大切な行動である。




   ○   ○   ○




 しばらくして、川崎が子供達に声をかけた。


「よし、少年たち!ツチノコを探しに行くぞ!」


「おー!」


「よーし、勝負だぜダイサク、シンヤ!」


「ぜってえ先に見つけてやるよ!」


 南小コンビには川崎尚吾が、北小コンビには日出まつりがつくことになった。

 南小は西へ、北小は東へ進むことになった。


「モモちゃんはどうするの?」タツキが問う。


「あたしは留守番!ケガしたら手当してあげるね」


「百里はどちらの小学校でもないからな。救護班なのだ」


 天狗仮面もレジャーシートの上に胡座をかいて座っている。彼いわく、審判は勝負に参加してはいけない、とのことらしい。


「そっか。じゃあ俺たちがツチノコ捕まえてきてやるよ!」


「良く言ったユウキ少年!その意気だ!」


「僕達だって負けないからね!だよねダイサク!」


「ったりめーだろ!はやく行こーぜ、まつり姉ちゃん!」


「元気だねー。ま、確かにおじさんより私の方が実力は上だからね。

 ちゃっちゃと見つけて、悔しがらせてあげましょーか。

 ダイサク君、シンヤ君、行くよー」


「黙れ小娘!俺のツチノコ愛に勝るものは無いんだよ!

 行くぞ!ユウキ少年!タツキ少年!」





 それぞれの方角へとツチノコを探しに出かけた6人。天狗仮面は風呂敷包みから救急箱を取り出し、レジャーシートに置いた。百里が栃と桜を見上げながら天狗仮面に問う。


「見つかると思う?ツチノコ」


「どうであろうな。ツチノコ次第ではないか?

 しかし、見つかるも見つからぬも問題ではないのだ。

 全力で物事に取り組むことの素晴らしさを

 少しでも知ってもらえるならば、それで良い」


 天狗仮面も、(とち)と桜を見上げながら答えた。

 初夏の風が広場を吹き抜ける。天狗仮面は一言「良い風だ」と呟いた。





   ○   ○   ○





 ダイサクとシンヤは日出に、山でのルールや食べてはいけない野草や山に棲む動物達の事について聞いた。ダイサクが問う。


「まつり姉ちゃんって何でそんなに詳しいんだ?」


「この山は格好の修行場所だからねー。

 将を射んとすればまずは馬を射よ、って言うし、

 ツチノコだけじゃなくて、その周りのことも良く知れば

 目的に近づけるでしょー」


「へー、かっけーなー」


「ま、あいつは全然褒めちゃくれないけどねー」日出は川崎の顔を思い浮かべる。


「あ、さっき言ってたセリってこれじゃん。取っていこうよダイサク」


「あー、シンヤ君。それドクゼリ。毒よ毒。

 抜いてみるといいよ。根が膨らんでるから」


 シンヤが植物を引き抜くと、根の一部がごつごつと膨れ上がった節が現れた。セリの根にはこのような節のある地下茎はない。


「食べたら死ぬ?」


「イ・チ・コ・ロ」


 それを聞いたシンヤが「うわあっ」とドクゼリを藪の中に投げ捨てた。実際は確実に死ぬ、といった類のものではないが、野草採りはなかなか難しい。大げさに危険性を伝えるくらいでちょうど良いのだ。


「慣れないと間違えやすいから、野草を採る時は絶対に大人と行くこと。

 まつり姉ちゃんとの約束だよー」


「わかったー」



 がさがさと音をたてながら、3人は山の中を掻き分け歩く。





   ○   ○   ○





 その頃、川崎一行は山を流れる川沿いを歩いていた。大きな石をよじ登ったり、枝をかき分けながら進む。


「大丈夫か、ユウキ少年、タツキ少年」


「へーきへーき!」「大丈夫です」


「根性あるなー、ツチノコを探し隊のチームリーダーに任命してもいいな。

 あ、名誉会長は俺ね。ツチノコを一番愛してるのも俺だから」


「つっちーには誰も勝てねーんだよな!」


「そうとも!誰にも負けないんだよ!」


「つっちーさん、まつりさんもツチノコ好きなの?」


「あいつは良くわからん。ま、あいつの山の知識には何度か助けられてるから

 感謝はしてるんだけどな。変なやつだよ、ほんと」


 盛り上がる一行のテンションとは裏腹に、なかなかツチノコは見つからなかった。いや、盛り上がっているのが悪いのかもしれないが、ユウキとタツキにとって、山を歩く体験は非常に楽しいものであり、自ずと心が弾むのであった。


「あ、綺麗な石」川沿いに丸い石が落ちていた。石の模様が特徴的でタツキの目を引いた。


「おー、いいなータッキー。俺も探すぜ!」


「む。チームリーダー失格だぞユウキ少年。

 しかし、時間も無くなってきたから

 今日はここまでにしとくか」


「あいつらが見つけてたら悔しいなー」


「大丈夫だよ。きっと、この町で一番先にツチノコを見つけるのは

 つっちーさんだよ。これだけ好きなんだもん」


 川崎が大きく頷いて、タツキの頭を撫でる。タツキは頭を大きく揺らされながらも「えへへ」と笑っていた。




    ○   ○   ○




 帰りの電車内では、疲れのためか子供達はうつらうつらと揺れていた。


「二人共、今日は本当に助かった。感謝している」天狗仮面が川崎と日出に話し掛ける。


「いーよいーよ。しっかし、何でそこまで熱心になるんだ?」


「あ、それあたしも気になるー」


「ふむ。自分のため、だな。それが一番大きいのだ」


「自腹で子供達を山登りに連れて行く事が自分のため、ねえ」


「はー、おじさんもだけど、天狗も大概だわコレ」


「この子らに人として大切な事をもっと知ってもらいたい。

 その為には、この町をより良いものにせねばならんのだ。

 前町長と約束したものでな。天狗たるもの、約束は守らねば」


「うあ、予想以上に真面目だった!おじさん、負けてるよ?」


「ツチノコへの愛では負けてねえよ。一点豪華主義なんだよ俺は」


「うむ。そんな川崎殿の力を見込んだからこそ、今回は手伝って

 もらったのだしな。子供達も楽しかったようだ」


「よかったねおじさん。おじさんみたいな人間でも役に立ったってさ」


「お前はあれか?俺に何か恨みでもあんのか?」


「べっつにぃ」



 うろな駅に着いた一行は電車を降り、駅前広場で解散の号令を受けた。


「それでは、第17回南北うろな合戦は引き分けとする!

 通算、南8勝、北7勝、2引き分け!これにて今回は終了とする!」


「天狗兄ちゃん、次はいつだー?」


「少し用事があるのだ。それが終わったらまた開催しよう。

 それまでは日々、一生懸命過ごすと良い。」


 子供達が元気に返事する。


「少年達よ、今日は楽しかったよ。

 またツチノコ探しに行こうなー」


「うん!次は絶対見つけような!」


「ツチノコのエサとか、調べておきます」


「ん、よろしい。じゃーなー」


「あたしともまた遊ぼうねー。またねー」


 川崎と日出は「飯でも食いにいくか」「おじさんのおごりでしょ?」「お前ね、ちょっとは遠慮しろよ」などと言いながら去っていった。


解散しようとしている時にタツキがモモに話しかける。


「モモちゃん、コレあげる」


「え?あたしに?」


「今日、探検できなくてつまらなかったでしょ。途中で見つけたんだ」


「いいのかタッキー。その石、めちゃくちゃキレイじゃん」


「うん、僕らだけ楽しんじゃってごめんね」


「ううん、あたしも楽しかった!ありがとう!」


「またモモの弁当食いてーな!いつでも遊びに来いよ!」


「次は一緒に探検しようね!」


「ありがとう!またね!」



 子供達が別れの挨拶をした所で天狗仮面が宣言する。


「うむ。それでは解散だ!家に帰るまでがうろな合戦だ!

 交通ルールを守って、気をつけて帰るのだぞ!」





 4人の少年達はめいめいの方向へと帰っていく。勝負の内容であるツチノコこそ見つからなかったが、子供達の笑顔が今回の内容を物語っていた。

 この町には、まだまだ彼らの知らない出来事がある。それらすべてと出会えるかどうかは分からないが、天狗仮面は出来るだけ多くの出会いを彼らに与えて、繋がりを作ってやりたいと、そう思うのであった。


ここもとさんの川崎さんと日出さん、ありがとうございました!


お二人も6月23日(日)の「うろなケイドロ」に参加しませんか?(笑




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