6月7日 4人の少年と商店街
日曜日に向けて準備回。
オリジナルキャラ追加!
王道かもしれませんが、王道には王道の良さがあるのです!
6月7日(金)夕方
ユウキとタツキは学校が終わった後、うろな商店街のアーケード下を歩いていた。
二人の手にはB5サイズの冊子が握られている。表紙に大きく天狗印が書かれているそれは、今週末に控えている「第17回・南北うろな合戦」のしおりだった。もちろん、天狗仮面お手製である。
ユウキの冊子は端が折れたり、しわがついてしまっている。それと対照的に、タツキの冊子は綺麗な状態を保っており、裏表紙に丁寧に「皆上竜希」と名前が書かれていた。
夕方の商店街は雨の日でもとても活気があり、魚屋の客引きの声や八百屋前で集まる主婦達の会話でとても賑わっていた。うろな町には大きなショッピングモールもあるのだが、日々の食材やちょっとした雑貨のようなものならば、住宅地北側にあるスーパーやこの商店街で調達する住人が多い。
二人はしおりに書かれているものを準備するために、この商店街に来ていた。
「なあ、タッキー何買う?」
「何がいいかなあ。遠足みたいで楽しいね」
しおりをめくると、最初のページに『行き先は当日まで秘密だ!』と書かれていて、その下に当日の集合時間や集合場所が書かれている。パラパラとページを進めていくと、諸注意と題された場所にいくつかの事柄が書かれていた。
6月9日(日) 朝10時にうろな駅前広場に集合。
【諸注意】
・服装は、長袖、長ズボンを着てくるのだ!出来れば、半袖の上に長袖の上着が望ましいぞ!
・日射病予防の為、帽子は必ず用意するのだ!サンバイザーは不可!
・両手が使えるように、カバンはリュックタイプのものにするのだ!
無い場合は天狗リュックを貸し出すので、当日言うように!
・靴は慣れた運動靴で来るのだ!新しい靴などがあっても、今回は我慢だぞ!
【持ち物】
・水筒
・タオル数枚
・軍手
・雨具 (カッパにするのだ)
・レジャーシート
・おやつ(200円までだ!商店街の駄菓子屋ならおまけしてくれるぞ!)
「僕が思うに、森や山に行くんじゃないかな」
「でも雨だって天気予報で言ってたぞー。日曜日って」
「昼から晴れるらしいけど」
「じゃあ朝はどうすんだろなー」
「わかんないや」
「な。でも楽しみだな!」
二人は賑わう商店街アーケードを歩いていった。
商店街の中ほどに、二人の目的地である駄菓子屋はある。昔ながらの作りをした店で、うろな町の大人たちから支持を得ている店である。衛生面などの心配から個別包装の菓子が多くなりはしたが、安価で種類の豊富な駄菓子は子供達の間でも人気を誇っている。
店の棚にはカレーせんべいやミルクパン、酢イカに10円ガムなどなどの入ったビンがずらりと並べられ、大人も子供もにこにことビンの蓋を取って中身を小さなカゴに入れるのだ。
駄菓子屋の顔といえば、もちろん店主である。店主は訪れる人の期待を裏切らない気のいい老婆であり、そんな彼女の営む「奥田商店」は町民からは「オクダさん」や「オクダ屋」と呼ばれて親しまれており、店主もまた「オクダのばあちゃん」と親しみを込めて呼ばれているのである。
天狗仮面と同じく、この町を愛し、この町の子供たちを見守る人物であった。
ユウキとタツキが「オクダ屋」に着いた時、店内には数人の子供達が笑顔でそれぞれの手に小銭を握り締めて菓子を選んでいた。
その中にダイサクとシンヤの姿もあった。
「あー、ダイサクとシンヤもこっち来てたのか」
「おう、ユウキにタツキ。お前らもおやつ買いにきたんだな」
「おう。今回は負けねーぜ」
「へへ、カワイイ犬ほどよく吠えるってやつだな。次も北小の勝ちだぜ」
「ユウキは全然可愛くないよダイサク。むしろ憎らしいよ。弱い犬だよ」
「相変わらずバカだな。ダイサクってば」
「う、うるせえ!」
「大丈夫だよダイサク君。ユウキ君も漢字のテストで0点だったから」
「あ、タッキー!ひでえよ!自分が満点だったからって!」
「なんだよユウキ。ダイサクのことバカに出来ないじゃん」
「う、うるせー!シンヤのバカやろー!」
「バカはお前じゃんかユウキ!」
いつものように口げんかが始まってしまうが、それを一喝する声が店内に響いた。
店の奥に座っていた店主がユウキたちに鋭い目線を浴びせる。
「こりゃあっ!ケンカはよさんか!
他の子らが怖がるじゃろうに」
「あっ、ごめん。ばあちゃん」
「あう…。大声出してすまねーな、みんなゴメンな」
「よろしい。おんしゃらあ、6年生じゃろう。
ちゃんと他の子の事も見てやらにゃあ」
「分かったよばあちゃん。ダイサク、悪い」ユウキがすっと頭を下げる。
「いいって事よ。シンヤもちゃんと謝らねーとな」
「うん、ユウキ。ゴメン」
「気にしねえよ。だから気にすんな!」
「でも、ユウキ君は漢字の点数を気にしなきゃね」
「言わないでくれよタッキー!!」
オクダ屋の中が朗らかな雰囲気で満ちていく。この空気を作り出しているのは、間違いなく店主である老婆の優しさであり、また厳しさであった。しっかりと叱るべき所で叱ることが子供達のためになることを老婆は良く知っているのだ。子供達も、それが優しさから来るものだと言うものを心のどこかで理解していた。
200円分の菓子を買い、老婆から「あと好きなもん、一つ入れときなぁし」と言われ、菓子を追加した4人は口々に礼を述べる。
「タツキの家で遊ぼうぜ」と話しながらオクダ屋を出ようすると、店にスーツを来た男性が入ってきた。にこやかに老婆に挨拶をすると、老婆のほうも「ああ、こりゃあ。町長の坊かえ」と返す。
「ばあちゃん、元気してるかい?」
「あぁ、おかげさんでなぁ」
小学生達が老婆に問う。
「ばあちゃん、この人だれだー?」
「挨拶しときなぁ。この町の町長さんだぁ」
「うお、俺、町長さんって初めて見たぜ」「こんにちはー!」
「あれー?町長ってじいさんじゃなかったか?」
「こないだ変わったんだよユウキ君。町長さん、こんにちは!」
町長も子供たちに挨拶を返す。まだ町長というものがよく分かっておらず、とりあえず町で一番エライ人、という認識ではあるが、4人は町長のことを見て、優しそうな人だという印象を抱いた。
元気に手を振りながら、駆けていく子供たち。「転びなさんなよぉ」「はーい!」
「元気な子たちで嬉しいね」
「天狗が世話ぁ焼いてる子たちだ。いい子たちだよ」
「あー、天狗仮面か…」町長が複雑そうな顔をする。
「アレも、悪い奴じゃにゃあで」
「ん、じいさんも言ってた」
他愛もない世間話をしながら、町長はいくつかの菓子をカゴに入れる。
昔から、この場所は変わらない。変わらないものがあると安心するものだ。
「80円」「んー」
「坊、好きなもん一つ入れときなぁし」
「その呼び方、恥ずかしいなあ。じゃ、ミルクパンで」
「なぁんも。いつまでも、あんたは坊さ。しっかりやんな」
「……ありがと。ばあちゃん」
優しい大人たちに見守られながら、小学生達はこのうろな町で過ごしていく。
もうすぐ、梅雨もあける。降り注ぐ太陽の下で元気に走り回るのは、子供達の仕事だ。
シュウさんの『うろな町』発展記録より町長をお借りしました!
ご多忙の中を町の見回りに来て頂きました。




