10月27日 4人の少年とクリーンキャンペーン その3
番外編の一つがこれにて終了です。
清水先生の決闘を見学に行きましたよ。
10月27日 昼
4人の小学生達は午前中に集めたゴミを処理施設に持って行き、その処理を依頼した後、噂の会場となっている体育館へとやってきた。
会場の熱気はすさまじく、本当にこれがただの試合なのかと小学生達は考えてしまう。
「あ、お弁当売ってる」シンヤが会場で売られている弁当を発見し、そしてその売り子である人物にユウキとタツキは見覚えがあった。
「あ、葛西のにーちゃん!」「本当だ」
そこには、町にひっそりと店をかまえるビストロ流星の店主である葛西の姿が見えた。
「やあ、君たちか。今日は清水先生の見学?」
「そうだぜ!すごい盛り上がってるなー。お祭りみてえ!」
「そうだね。みんな、楽しいことは嫌いじゃないんだよ」
そういって微笑む葛西から弁当を4つ購入し、「美味え!」「何だコレ、美味すぎるだろ!」と賑やかに食べ終えてから会場に入る。
会場は暗く、まるでボクシングやプロレスの試合の会場のように主役の登場を待っている。観客席でようやく試合が見られる場所を見つけ出した4人は、反対の観客席に知った人影を見つけた。
白髪がとても目立ち、一目でそれと分かる。
「ユキさんだ」「え、どこ?」「あ、ほんとだ。おーい」「聞こえねえって。この人じゃ」
本当に無事で良かったと4人は胸をなでおろし、その横に賀川の姿があるのを確認する。一声かけに行きたかったが、試合場を挟んで逆の観客席である上にこの盛り上がりである。移動もままならない。
「ま、無事だったんだからいいんじゃねーの?」ダイサクが言う。
「そうだね。それに、僕達は直接助けてないし」
「それもそうだよな」ユウキが笑う。
眼下の試合場では、机が並べられて、何かの準備が進んでいた。様々な機材が置かれている前の長机に座る人物を見て、シンヤが「あーっ!」と声をあげ、机を指差す。
そこにいたのは、まぎれもなく先ほどまで自分たちが行動を共にしていた天狗仮面であった。
「なにやってんだよ、天狗の兄ちゃん……」
「自分なりの応援って、こういうことだったんだ」
思いがけない場所にいた天狗仮面に対して、4人は多少の呆れを抱きながら笑いあう。会場には、その他にも見覚えのある人物がちらほらと見えていた。
「あ、小林センセいるじゃん」
「お、本当だ」
「タッキー、あれコロッケ甚平じゃねえか?」
「ぶら下がってる子は見たことないね。北小の子?」
「多分、見たことねえな」
「南小じゃないの?」
「俺たちも知らねーよ」
「お、あっちにもユキねーちゃんみたいな髪の人がいる」
「名前知らねーけど、陰陽師の芦屋ねーちゃんといつも一緒にいる人だろ?」
「それって付き合ってるってことじゃん」
「僕が思うに、そういうのとはちょっと違うと思うな」
本当に、多くの人が集まっている。それだけ、この試合が注目されているということなのだろう。そろそろ試合が始まろうかという時間になって、4人にふと後ろから声がかけられる。
「今日はゴミ拾いの日ではなかったのかしら?」
「あ、千里さん」タツキがぺこりと礼をし、他の3人も続いて頭を下げる。
「午前中で終わったんだ。んで、暇だったから見に来た!」ユウキが元気に言う。
「そう。おねーさんも一緒に見ていいかしら?」
「もちろん!」
天狗仮面の同居人であるこの女性、猫塚千里と小学生達は何度か顔を合わせており、詳しいことは聞いていないが、天狗仮面ととても親しく見えることは確かだった。
「そうだ、聞いてくれよ。面白いことがあったんだ」
「何かしら?面白いことは大好きよ」
ユウキが雪姫と賀川を指差しながら「あそこにいる賀川の兄ちゃんがさ」と言ったが、タツキがすぐさま「千里さんは賀川さんの事知らないんじゃないの、ユウキ君」とフォローする。
「あら、雪姫ちゃんじゃない。その横の賀川君も知ってるわよ」
「え、ユキさんの事知ってるの?」
「ええ、800年ほど前から“友達”よ」
くすくすと笑って言う千里だったが、小学生達は意味がわからないという風に首をかしげた。
「それで、賀川君がどうしたの?」千里が先を促す。
「え、あ、うん。天狗の兄ちゃんとキスしてたんだぜ!」
ユウキのその一言に、千里は「まあ」と驚き、周りにいた観客たちもざわつき出した。
「本当だぜ、なあ、タッキー?」「で、でもあれは違うんじゃないかな」
「そうだぜユウキ。あんまりそういうコト言うんじゃねえ。
大人のじょーじってもんはあんまり言いふらすもんじゃねーよ」
「ダ、ダイサク君……」おろおろとユウキとダイサクを交互に見るタツキ。シンヤは訳がわからずにぽかんとしていた。
周りのどよめきはさらに大きくなり、千里は口許を手で隠しながら笑いを堪えていた。群集のどよめきの中で「鹿島さんとの熱愛疑惑冷めやらぬうちに、新勢力ですって!?」「天狗面の下の素顔をめぐる夜の戦いが!?」「天狗の天狗を巡って……」「うふ、ぐふふ……」と妖しい声が聞こえたとか聞こえなかったとか。
○ ○ ○
いざ決闘が始まると、小学生達の目にはいったい何がおこっているのか、どちらが優勢なのか分かりはしなかった。
試合前のイベンターとして須藤が出てきた時には、「あ、流星までの道教えてくれたおじさんだ」などと不思議なめぐり合わせに驚いていたが、清水の剣の不規則さと、その相手である梅原勝也の剣の激しさに、ただ息を呑んで試合を見守ることしか出来なかったのだ。
やがて、清水が強烈な一撃に吹き飛ばされ、ぐったりと項垂れる。
「負けちゃうじゃん。やばいじゃん」
「大丈夫よ、シンヤ君。すぐに立ち上がるわ。見てて御覧なさい」
千里の言う通り、少し間を置いた後に清水は咆哮と共に立ち上がった。「俺はマゾ清水だー!」の声に、あきれ返る者もいる。当の千里は笑っていた。
「そこでその台詞は予想していなかったわ。
本当、退屈しないわねえ」
くすくすと笑いながら、千里は面白そうに目を細める。
「本当に立ったぜマゾ清水!すげー」
「千里さん、どうしてわかったの?」
「おねーさんは何でも知ってるのよ」
ぽんぽんとタツキの頭に手を乗せて「ほらほら、しっかり見ていなさいな」と試合観戦を促す。
おもむろに清水が自分の防具に手を入れたかと思うと、なにやら大量の紙切れが散らばった。小学生達は何だろうと身を乗り出すが、とてもここからでは見えない。周りの観客たちも清水の行動に注目しており、千里が彼らの後ろで指先をくるりと動かした事など誰も気に留めなかった。
不自然なほどに、清水の撒いた紙は会場に舞う。紙切れ一つ一つが小さな波紋を呼び起こすように、それを手にした者からは「何だこれ!」「いつのまにこんな物を!?」といった驚愕の声が上がる。
先ほどまでの張り詰めた試合の空気は、一変して大きな喧騒に包まれた。
「えー、何だったんだ?さっきの紙」
「何か写真みたいだったけどよ。あんまりこっちに飛んでこなかったぜ」
「千里さん、何だったの?アレ」
「教えてあげない」悪戯っぽくそう笑い、解説席にいる天狗仮面に向かって一つ目配せをした。天狗仮面もまた、千里に向かって一つ、小さく頷いた。
紙切れの正体は写真であり、そこには清水の妻である清水司のあられもない姿が写っていたのだが、それを小学生達が目にする事はなかった。
○ ○ ○
試合は清水の勝利に終わり、4人の小学生達はわいわいと感想を述べながら千里と共に会場から出た。
「最後、どうやって勝ったのか見えなかったなー」ダイサクがこぼす。
「それだけ速い一撃だったってことじゃないの?」
「全然見えなかったじゃん。そんなに速かったってこと?」
「わっかんねーよ。見えなかったんだから。
でも、春からあの先生のいる学校に行くんだよな」
「悪さしたらシバかれるかもな!」
「僕が思うに、あの先生も悪さする側だと思うよ」
4人で笑いあい、春からの中学校生活を思って話をしていると、天狗仮面が会場から姿を現した。天狗仮面は4人と千里を見つけるとつかつかとやってきた。
「どうであったか、お前たち。渉殿は強かったであろう」
「うん、すっげーな!相手のオジサンも強かったけど!
どうやったらあんなに強くなれんの?天狗兄ちゃん」
天狗仮面は腕組をして大きく笑った。
「日々の鍛錬である!それ以外に強くなる方法はない!」
「修行ってことだな!」「俺も負けねえぞユウキ!」
張り合うユウキとダイサクを見ながら、タツキはシンヤと「相変わらずだねえ」「そうだよね」と話をしていた。その様子を仮面の奥から微笑ましく見守る天狗仮面。
思い出したように、千里が手をぽんと打って小学生達に話しかける。
「そういえば、あなた達は町の掃除をやっていたのよね」
不意にそう言われながらも、「お、おう」「そうだよ、千里さん」と返事をする。彼女が一体何を言おうとしているか分からず、天狗仮面もまた訝しげな表情で彼女を見た。
「なら、ちゃんとお掃除しましょう。さっきの紙切れが残っていたら、
後で使う人の迷惑になるのだから」
「せ、千里よ!心配はいらぬぞ!館内の掃除は私に任せておくのである!」
焦ったように言葉を挟む天狗仮面に対して、ユウキが親指を立ててびしっと答える。
「何言ってんだよ兄ちゃん!出来る事には全力を出せっていつも言ってるくせに!」
「だよな!それに、あれが結局なんだったのか知りてえしよ。行こうぜユウキ!」
「それは渉殿や司殿に悪いのである!いや、お前たちにも良くないのである!
ええい!待てと言うに!千里め!余計な事を言うものではないぞ!」
どたばたと館内へと駆け戻っていくユウキとダイサクを追って、その唐草模様のマントを揺らしながら賑やかに後を追う天狗仮面。残されたタツキとシンヤは、何となく周りの会話から紙切れの内容が理解できていたので、無理に後を追うようなことはしなかった。ただ天狗仮面の背中を見送った。
「ユウキ君もダイサク君も、困ったねえ」
「タツキだって知ってて止めてないじゃん」
「うん、言うタイミング逃しちゃった」
あはは、と頭をかくタツキに、千里は言う。
「教えてあげるわ。そういう時はね、
“そっちの方が面白いから”と言えば許されるのよ」
口の端をにやりと上げて、不敵に微笑む千里に対して、それはどうなのだろうかと苦笑するタツキとシンヤだった。
4人はこれからも天狗の面をつけ、天狗仮面の意思をその身に宿しながら行動していくことだろう。まだ見ぬ先の世界に、清水のような者がいる。「強さ」を背中に背負い、自分たちに見せてくれる者が。それを知った事は、未来の世界へ大きな期待を抱かせるに充分だった。
少年達はこれから、様々な者の背中を見て育ってゆくに違いない。今日見た大きな背中は、いつか越えたい背中となっていくだろう。
さわやかに吹き抜ける秋風がとても心地よい午後だった。
本編内の小学生の耳に入ってはイケナイ言葉は、彼らには聞こえていなかったことにします。これで情操教育にも悪くないwww
悪乗りの悪魔が三衣にやれと囁きかけてきました。
コラボ作品URL①
"うろな町の教育を考える会" 業務日誌
http://ncode.syosetu.com/n6479bq/
該当リンク話
『10月27日 決戦編その1 勝負の朝がやって来た!』以降、決闘編と。
http://ncode.syosetu.com/n6479bq/90/
コラボ作品URL②
うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話
http://ncode.syosetu.com/n2532br/
該当リンク話
『着席中です』
http://ncode.syosetu.com/n2532br/193/
 




