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うろなの小さな夏休み   作者: 三衣 千月
うろなの小さな夏休み
2/20

5月23日 4人の少年と天狗仮面 その2

宝探し回!

に見せかけた他のうろな町民との交流回になってしまった…



 5月23日(木)夕方


 ユウキとタツキは自転車を停めて、手渡された一枚のボードを眺める。

ボードには、宝の在りかが書かれていると天狗仮面は言った。

 表にはうろな町北小校区の略地図。地図の一部にトマトの絵があり、

そこから矢印が伸びてオフィス街の外れへと結ばれ、矢印の先には流れ星の絵が書かれている。


「ちぇー、俺、南小の地図の方が良かったなー。

 この地図、ドコのことか全然わかんねえよ」


「ダイサク君とシンヤ君も同じ事を考えてるんじゃないかな。

 まずはこの、トマトの場所に行ってみようよ。」


「トマトの絵の中に書かれている漢字さあ、【海】と、もういっこ何て読むんだ?」


「【尻】だね。逆さまに書いてあるのが何かのヒントかもよ」


「とにかく行こうぜ!タッキー。迷ったら周りの人に聞けって天狗兄ちゃんも言ってたしな」


 天狗仮面は、出発前に3つのルールを伝えた。

その1、天狗缶を見つけて中央公園に戻って来ること。交通ルールは絶対に守れ!

その2、迷ったり、分からなくなったら宝の地図を見せて周りの人に相談すること。

その3、戻ってきたら今日最後の勝負が待っている。途中で起こった出来事は宝の地図にメモすること。


そういって彼は4人に水分補給用のお茶と緊急連絡用のテレホンカードを渡し、高笑いと共に見送った。

 南小ペアには北小校区の地図を、北小ペアには南小校区の地図を持たせたのは、有利不利をなくすと共に、彼らの行動範囲が少しでも増え、様々な町人との交流がとれるようにとの天狗仮面の計らいであった。

 ちなみに、宝の地図と天狗缶は、彼がせっせと夜なべして作ったものである。そうした真剣さが伝わっているのだろう。4人の子供達は誰も茶化すことなく用意された勝負に臨んでいる。

 ある種の信頼関係がそこにはあった。





 ユウキは地図を見るのが苦手である。トマトマークへ向かうにはタツキの力が必要不可欠であった。


「なあ、タッキー、こっちの道行ってみねえ?」


「ダメ、遠回りになっちゃうよ。ユウキはすぐそうやって他のことをしたがるんだから」


「なんだよー、北小の方にはあんまり来ないから、探検したくなるだろ、普通さ」


「僕はダイサク君とシンヤ君に負ける方が嫌だよ」


「あ、そっか。じゃ急がないとな!速く行こうぜタッキー!!」


 やれやれと微笑み、タツキはユウキを追いかける。「次の信号、右に曲がるよー」と声をかけながら。

 




 トマトマークの場所に着いてみたが、畑に天狗印の立て看板が置いてあるだけで他にはなにも無い。畑では持ち主であろうおじさんが畑仕事に精を出していた。

 看板には、「3をつけて呼ぶのだ!」と天狗印からフキダシが書かれている。


「僕が思うに、漢字が暗号になってるんだよ」


「【海】と【尻】が逆さま…なんだろコレ。【みう】とか【りし】みたいな感じかな?」


タツキが人差し指と中指を眉間にトントンとあてて考え込んでいる。【海】が逆、きっと【山】のことなんだろうな。【尻】の逆ってなんだろう…。そう考えるタツキの頭の中を無数の尻が飛び交い、彼の思考の邪魔をする。


「なあ、タッキー。【尻】の反対って【口】だよな。口は食う場所で、尻は出す場所だもんな」


「【口】、…あ、そうか!ありがとう、分かったよユウキ!あそこで畑仕事してるおじさんを呼ぶんだよ!」


タツキの頭から尻が消えて、ある解答が浮かび上がる。ユウキにも答えを告げ「おお、なるほどな!」と納得する。二人で声を揃えて、大声で叫んだ。


「やーまぐーちさーん!!」


 【山】【口】に【3】をつけて呼ぶ。きっと、あのおじさんが山口さんなのだろう。

畑で仕事をしていたおじさんが手を止め、二人の方へ歩いてきた。


「おうおう、元気でいいな。ユウキ君にタツキ君、だったかい?」


「こんにちは。うろな南小6年、皆上竜希です。

 こっちは同じクラスの真島祐希です」


「すっげぇ、俺ら、そんなに有名人なのか!」


「ふふふ。天狗君から聞いた噂どおりで楽しい子たちだ」


 天狗仮面は宝探しをするに当たって町民に協力を求めていた。子供達を楽しませることに全力を注ぐ。

それが天狗仮面なのである。ちなみに畑の看板はうろな商店街の雑貨屋で彼がペンキと共に調達したものである。


「じゃあおじさん、宝物はここにあるのか!?」


「いや、ないよ」


「えー!はずれってこと…?」


「そう慌てるものじゃないよ。ほら、これを持っていきなさい」


 そう言って、山口さんが持ってきたのは袋に入った数個の大きなトマトだった。

つやつやに光るトマトにユウキが感嘆の声を上げる。山口さんは、この辺りだと5月頃のトマトが

本来一番甘くて美味しい時期なのだと二人に教えてくれた。食べていいよと言われたので、

ユウキは山口さんと一緒に畑に入り、良いトマトの見分け方を聞きながら二つもぎった。

 畑の横に座り、トマトにかぶりつくと、ぎゅうぎゅうに詰まっていた果肉が二人の口の中で弾ける。

「すっげえ!なんて言うか、すっげえ!」「すごい!本当に甘いね」と旬のトマトを味わい、ヘタは山口さんに言われた通り、畑の中に戻して土をかけておいた。



 『野菜の話をしている時の山口さんは、とても楽しそうだった』と宝の地図に書き込んで、二人は畑を後にする。山口さんにお礼を言い、次の場所のヒントを教えてもらった。

 山口さんにもらったトマトを、流れ星マークの場所まで持っていくのだと聞き、ユウキがトマトの袋を自転車のハンドルにかけた。


「つぶしたらダメだからね、ユウキ君。お店で使う大事な物だって山口さんが言ってたでしょ」


「大丈夫だって!それより、その『流星』ってお店、場所分かるのか?」


「うん、曲がり角ごとの目印をさっき書いてもらったから」


「美味しいのにあんまり人が来ない店だったっけ?変な店だなー」


「すごく見つけにくいお店なんだって。僕が思うに、隠れた名店なんじゃないかな」


「隠れてるんなら絶対に見つけてやるよ!よっし!行こうぜタッキー!」


「あ、トマトの袋、揺らしちゃダメだってばもう!」






   ○   ○   ○






 隠れた店というものは、なかなか見つからないからこそ隠れた店と呼ばれるのである。

 そんな隠れた店を見つけるためにはどうすれば良いのだろうか。答えは簡単である。


「すみません、この辺りに『流星』というお店はありませんか?」


「おじさーん!俺達、『流星』っていうカクレタメイテンを探してるんだけど知りませんか?」


略地図では限界であったので、天狗仮面の教えに従って道行く人々に声を掛けていく。

夕刻前の大通りは人も多く、ユウキとタツキは手当たり次第に聞き込みを行った。


「お、坊主達、『流星』に行くのか?おじさんが案内してやろうか」


「ホント!?ありがとう!俺、真島祐希!こっちは皆上竜希ね!おじさんは?」


「俺か?須藤慶一、真面目に仕事中のサラリーマンだ」


「僕が思うに、道案内は仕事をさぼる口実に見えるんだけど…」


「良く分かったな。覚えとけ坊主達。サボるチャンスは見逃したらダメなんだよ」


「うっわ、ダメな大人ってやつか?着いて行って大丈夫かな、タッキー」


「ダメな大人と悪い大人は違うよユウキ君。須藤さんは怪しくないよ」


「タツキ君、だっけ?君、大物になるよ。さ、こっちだ」


 須藤が細い路地をすいすい歩いていく後ろで、ユウキはタツキに小声で話しかける。

学校でも最近は不審者に気をつけるようにとの指導が多くなってきているのだ。

仕事をサボることがイケナイ事だというのをユウキは知っているので、

堂々とサボり宣言をするこの男性に不信感を抱いていたのだった。


「おい、タッキー。どうして須藤のおじさんが怪しくないなんて言えるんだ?」


「簡単だよユウキ君。須藤さんと天狗仮面を比べてごらんよ」


「あ、須藤のおじさんがすっげーまともに見えてきた」


「坊主達、何をボソボソしゃべってるんだ?ほら、そこの角を左に曲がれば店の…」


 突然、須藤の携帯が鳴り響く。一瞬身を震わせた彼は。恐る恐る携帯を取り出して液晶を見た。

表示されていたのは、彼に雑用を命じた上司の番号であり、帰りの遅い彼にしびれを切らせたが故の

帰社命令の電話であった。

 須藤は素早く身を翻し、ユウキとタツキに「すまん、でも、もうソコだから」と言い残して路地を戻っていった。


 言われた通り二人が角を曲がると、洒落た外観の店が姿を見せ、『流星』の文字が見える。

「ここかー!」「着けてよかったねえ」などと話をしながら入り口を見ると、仕込中と書かれたプレートが

ぶらさがっていた。


「どうしようユウキ君。まだ開いてないって書いてあるよ」


「トマト、届けるのが遅かったから準備が出来ないのかも知れない」


「怒られるかなあ」 


 不安に思っていると、店の横にある裏路地へと続く道から猫の鳴き声が聞こえた。

人の話し声も聞こえてくる。ユウキがひょいとそちらを覗くと、猫に話しかけている男性が見えた。


「すみませーん、俺、真島祐希って言います。『流星』の人ですか?」


「え?あ、うん、僕は葛西。『流星』は僕のお店だよ。

 あ、君たちがトマトを持ってくるっていう小学生か。天狗の奴に聞いたよ」


「ごめんなさい、持ってくるの遅かったですか?」


「大丈夫だよ。じゃあ、トマト、確かに受け取ったよ。少し待っててね」


 そういって葛西は裏口から店に入る。二人は少し安心して裏口の前で葛西が戻ってくるのを待つことにした。

二人の足元には、前足の先だけが白い野良猫がいて、はぐはぐと何かを食べていた。


「首輪がないから野良猫だろーな、コイツ」


「でも、ここの葛西さんからエサをもらってるみたいだね」


 猫の様子を眺めながら待っていると、葛西が戻ってきた。その手には天狗缶を持っており、ユウキは「お宝だー!!」と叫んだ。

その表紙に野良猫ばぴくりと体を震わせたが、すぐにまた食べる作業へと戻る。


「ずいぶん慣れてるね。人間に」


「コイツは食べてる時はめったに動かないよ。特に今食べてる海老の尻尾が好物みたいなんだ」


「へー。でも、何か元気ないみたいだ」


「そうなんだよ、病気なのかも知れないね」


 話す三人を尻目に、エサを食べ終わった前足の白い野良猫は静かに路地裏の置くへと姿を消した。

タツキは宝の地図に猫のことも書いておいた。もちろん、さっきの須藤さんのことも書いてある。

文字や絵でどんどん賑やかになっていく地図を見るのは楽しかった。

 葛西はお店のおすすめメニューや、ビストロとレストランの違いを、二人に分かるような言葉で教えてくれた。


「聞いてたら腹減ってくる!葛西兄ちゃんの料理、食べてみたい!」


「ごめんねユウキ君。僕も何かご馳走したいんだけど、天狗の奴に止められたんだ」


「天狗兄ちゃん、そんな意地悪する奴だったのか!見損なったぜ!」


「それがね、『もうすぐ晩御飯の時間だから変に食わせるのはいかんのだ』って」


「うー、ハンバーグ、エビフライ、オムライス…」


「代わりにこれをあげてくれって頼まれたよ。うちのオムライスの無料チケット」


「いいんですか?葛西さんもお仕事で料理を作ってるのに」


「大丈夫だよタツキ君。天狗からもうお金はもらってるから」


「じゃあ、チケットのお礼に、皆にこのお店のことを宣伝します!」


「それはうれしいなあ。でも、ふたりとも1つだけ約束してくれるかい?

 また今度僕の料理を食べて、君たちが美味しいと思ったら宣伝してくれて構わないよ。

 食べてもいないのに美味しいなんて言うのは、おかしいだろう?」


 美味しい料理を食べてもらう為にビストロを開いた葛西にとって、噂の一人歩きは好ましくなかった。

立地が悪いのだから集客のための手はあれこれうつべきなのだろうが、料理人の矜持はある。

人気や話題だけではなく、やはり味で勝負したい。


「ゼッタイ食べにくるから、そん時はよろしくな!葛西兄ちゃん!」


「いつでもおいで。火曜日はお休みだから気をつけてね」


 葛西に礼と別れを告げて、天狗缶を手に入れた二人は中央公園目指して走りだした。

公園に向かう中で、二人は今日出会った人たちのことを話しながら自転車を漕ぐ。


 うろな町で一生懸命野菜をつくる山口さん。

 その野菜をつかって、皆においしい料理を作ってくれる葛西兄ちゃん。

 会社をサボって怒られていた須藤のおじさん。

 『流星』の裏でエビフライの尻尾を食べていた前足が白い野良猫。


宝の地図は、隙間なく埋め尽くされている。今日の冒険で手に入れたものが、二人の心を満たしていた。


「早く戻って、北小のやつらに自慢してやろうぜタッキー!俺、トマト大好きになっちゃったかも」


「僕が思うに、ダイサク君とシンヤ君も色んなことをしたんじゃないかな。

 向こうが何をしていたかも聞きたいなあ」


「そっか、あいつらは南小校区を回ってたんだもんな。面白い場所に行ってたら、

 俺達も今度一緒に行こうぜ!クラスの皆も誘ってさ!」



西日が彼らの頬を照らす。天狗仮面の待つ中央公園が見えてくると、

二人とも知らず知らず、ペダルを踏み込む力が強くなるのだった。




綺羅さんの、六等星のビストロより『流星』葛西さん、農家の山口さん、常連の須藤さん


とにあさんの、時雨より拾われる前の野良時雨


をお借りしました。

訂正、キャラ崩壊などありましたらお知らせください。迅速に対応いたします。


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