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うろなの小さな夏休み   作者: 三衣 千月
うろなの小さな天狗たち
19/20

10月27日 4人の少年とクリーンキャンペーン その2

10月27日 朝



 4人の小学生達は、賀川と天狗仮面が去っていった方角をじっと眺めていた。賀川という男の知り合いが攫われ、それを追うためにユウキの自転車に乗って賀川は駆けた。天狗仮面もまた、追うようにダイサクの自転車に乗って走っていった。


 付いてくるなと天狗仮面に厳命された小学生達だったが、知り合いでもある人物の危機に、そうそうおとなしくなどしていられないのである。

 夏に小天狗達が少女、雪姫と会った後、タツキは図書館やインターネットで雪姫のような出で立ちの少女を『アルビノ』と呼ぶことを学んだ。タツキには、雪姫が攫われたことと彼女の容姿が無関係だとは思えなかったのだ。

 珍しい容姿のモノは、その容姿ゆえに捕獲されたり、売り買いされたりする事がある。にわかには信じられないが、動物だけでなく、人間に関してもそのような事が起こりうるのではないか、とタツキは考えた。

 この辺りでも珍しい、透き通るような白髪に、紅い瞳。森で会った時にも、その容姿故にタツキはしばし見とれたほどである。

 

 それが攫われた原因ではないかとタツキは仲間達に告げ、


「ユキさん、悪い人に狙われてるのかな」と言った。


「許せねえよ。そんなの。なあ、やっぱ俺たちも行かねえ?」


「おう、だよなユウキ。俺もそう思ってたぜ」


「え?大丈夫?天狗兄ちゃんは来るなっていったじゃん」


「危ないって言ってたけど、やっぱりユキさんは心配だよね」


 「雪姫が心配。」そのタツキの言葉にユウキが力強く頷き、「やっぱりほっとけねえよ!」と他の3人に同意を求めた。ダイサクはすぐさま頷き、タツキは迷いながらも首を縦に振った。シンヤだけが「でも…」と弱腰だったが、ダイサクが声をかける。

 人攫い。そのような非人道的な行為を許しておくことは出来ない。それが自分たちの顔見知りであるならばなおの事である。

 ダイサクの中の『正義』が燃える。


「お前だってユキねーちゃんが心配だろ?

 危なくなったら俺に任せとけ。行こうぜ、シンヤ」


 シンヤの肩を掴み、まっすぐにその目を見る。


「……分かった」


 ダイサクの言葉に、シンヤは眼鏡をしっかりとかけなおしてそう言った。


「ひゅー、さっすがボス」ユウキがダイサクを肘でつつく。


「るっせ、早く行くぞ。シンヤは俺の後ろに乗れよ」


「タッキーは俺の後ろな。自転車は借りるけどさ」


 それぞれ、二人乗りで天狗仮面を追いかけることにした。




   ○   ○   ○




 小天狗たちも走り出す。小さいとはいえど、彼らもまた正義の心を持っているのだ。二人乗りもしかしながら小さな悪ではあるが、この際それは見なかったことにしておこう。

 天狗仮面の足取りを追うことは彼らにとって容易だった。道行く人々に「天狗仮面見なかった?」と聞けば十人に一人は「ああ、すごい勢いで走ってたよ」と小天狗達が進む道を教えてくれるからだ。

 舗装中のがたがたした道を抜け、商店街も抜けて、彼らは一路、うろな町の南へ向かって進んでいた。


「このまま行くと、南の工場とか倉庫とかに着くぜ?」


「おー、ドラマみてえ。人のいない倉庫とかあるぜあそこ。

 タッキーと探検で行ったことあるから知ってる」


「大丈夫?悪い奴らがいっぱいいたりしないかな?」


「心配すんなって。俺が全部やっつけてやる。

 一門打尽にしてやるよ!」


「なんか違うんじゃないの?ダイサク」


「うん、でも、そっちの方が強そうだけどね」


「あん?どういうことだよ、タツキ」


「いや、網一つ投げるより、一族みんなやっつける方がボスっぽいなって」


 いい間違いを敢えて正さず、4人を乗せた自転車2台は町の南、倉庫や工場が立ち並ぶ地帯へと進んでいった。今日は週末であり、ここいら一体で働く人影も見えない。

 そこで4人の小天狗達は行き先の手がかりを失ってしまう。ここまでは、町の人たちに尋ねながら、天狗仮面の後を追ってきたが、人気の少ない工場地帯ではそもそも聞く相手がいない。

 途方に暮れた彼らはどうしたものかと立ち尽くす。


「どうしよう、どこにいけばいいか全然分からないよ」


「ちっきしょう。何か手がかりねえのかよ……」


 その時だった。


 空から一羽の鳥がひゅるりと滑空し、少し向こうの方へ降りていくのをユウキは見た。


「あっちかも知れねえ!」


「どうしたんだよ、ユウキ」シンヤが言う。


「前に探検に行ったボロ倉庫、確かあっちだ。

 悪者が隠れてるなら、そこだと思う!」


「他に手がかりも無え。案内しろよ!ユウキ!」


「おう!」


 そうして自転車は鳥の降り立った方角にある廃倉庫へと向かう。




   ○   ○   ○




 廃倉庫の近くまでたどり着くと、そこにはユウキの『ぶれいぶ号』とダイサクの『大金剛』が止めてあるのが見えた。近くに天狗仮面と賀川がいることを確信し、自転車へと近づく。

 そこには、見慣れた自転車と共に、なにやら変な物が落ちていた。ところどころ塗装のはげた、金属製の人形の頭。小天狗達は知らないことだが、これは廃倉庫で戦闘を繰り広げている賀川の敵の頭部であった。

 

「なんだありゃ?」


「工場とかで作ってるマネキンの頭とかじゃない?」


 不用意に近づいた4人に警告するかのように、その頭部はぱちりと目を見開きむき出しの眼球でぎょろりと彼らを見た。


「うわぁっ!」「動いた!!」


 キリキリと機械の動く音がしたかと思うと、頭部だけのそれはノイズ交じりの無機質な音を吐き出す。


 ―――敵の増援を同様のシンボル『天狗』で確認デス。損傷甚大。単独での殲滅は不可能デス。

 ―――敵の増援を同様のシンボル『天狗』で確認デス。損傷甚大。単独での殲滅は不可能デス。

 ―――救援を要請しマス。


 そう繰り返し音をこぼすのと同時に、大きなブザー音で警告を発する謎の頭部。


「天狗が敵ってことか?なあタッキー、それって……」


「ユウキ、タツキ。きっと悪いヤツに違いないぜコレ」


「僕が思うに、これを持って逃げた方がいいと思う」


 言うが早いか、タツキがその銀色の頭を抱え「ユウキ君!」と叫ぶ。その意図を読み取ったユウキが自分の着ていたジャケットを脱ぎ、銀色の頭部をくるみ、音を遮った。

 そのまま自転車のかごに入れてゴミ袋で覆うように隠した。まだ警告音は響いているが、その音もだいぶ小さくなっている。


「多分、あの廃倉庫で天狗さんが戦ってるんだよ。

 仲間を呼ばれたら大変じゃないかな」


「なるほど、そういうことか!」ダイサクもそう叫び、4人はばたばたとそれぞれの自転車に跨ってその場を離れようとする。


「でもタツキ、それ持ってたらこっちに敵が来るんじゃないのかよう」


 シンヤが心細そうに言うが、ペダルを漕ぎながらユウキが口を開く。


「大丈夫だって。ちょっと離れた所に行ったら壊しちまおうぜ」


「どうやって?」


「わっかんねえけど、とにかくぶっ壊す!」


 この時、小天狗達がこの場を離れたのは非常に正しい判断であった。なぜならば、彼らが去ったそのすぐ後に、その鈍色の頭部を求めて残虐な悪人が辺りを探し回っていたからである。

 よもや頭部が持ち去られているとは考えなかったその人物は、どこか手の届かぬ所へ転がり落ちてしまったのだろうと見当をつけて頭部探索を打ち切ったのだった。




   ○   ○   ○




 危険を寸前の所で回避したことなどつゆ知らず、工場地帯の端、埠頭まで自転車を走らせた小天狗達は未だ警告音をかき鳴らす頭部を取り出し、くるんでいたジャケットから転げ落とすようにがつんと地面にぶつけてみた。

 いくつか小さい金属片が飛び出すものの音は鳴り止まず、持っていた掃除用具の火挟みで打ち据えてみても結果は変わらなかった。


「くっそう、頑丈すぎるぜ」


「海に落とすのはどうかな?機械なら、水には弱いじゃん」


「おお、名案じゃねーかシンヤ!」


「なら俺に任せろよ。遠くまでぶん投げてやる」


 ダイサクが腕をぶんぶんと振り回し、頭部をがしりと掴もうとしたが、急に突風が吹いて4人は思わず目を閉じた。遠く、海の方からどぶん、と何かが落下した音がした。

 

「お前たち!着いてくるなと言ったであろう!」


 再び目をあけた時、聞き覚えのある声が聞こえた。少し離れた所から、唐草模様のマントを揺らし、天狗面を被り番傘を持って歩いてくるジャージ姿の男。


「天狗の兄ちゃん!」「ユキねーちゃんは!?」


 つかつかと歩み寄った天狗仮面は、ユウキとダイサクの問いに答えることなくすうぅ、と大きく息を吸って、「正座ぁッ!」と小天狗たちを一喝した。


 びくりと体を震わせ、おずおずと天狗仮面の前に正座する4人を見下ろしながら、天狗仮面は口を開いた。


「あの娘ならば無事である」


 その声に、小天狗たちは安堵の表情を見せる。


「おおかた、あの娘が心配でここに来たのであろう。

 その優しい心は素晴らしい。天狗の名に恥じぬものだ」


 天狗仮面は大きく一つ頷き、そして言葉を続ける。


「しかし、今回は非常に危険と判断した故、着いてくるなと言ったのだ。

 いくら心構えが立派であっても、まだ未熟な部分もある。それは仕方のない事だ。

 それ故、町のために、そして自分たちのために、まだまだお前たちは

 強くならねばいかん。私は、お前たちに期待しているのだ」


 そう天狗仮面が言い、ゆっくりと4人を見渡す。仮面の奥の眼差しは真剣そのものである。小天狗たちは俯いた。


 今回は、非常に危険で、そして残虐な事件であった。これを子供たちが見ずに済んだのは僥倖であったが、一歩間違えればこの子らを巻き込んでいたかも知れないという点において、天狗仮面は後悔していた。それと同時に、何とか無事であったことに大きな安堵も覚える。


「しかし、先ほどの頭部……。あれを一体何処で?」


「ぶれいぶ号の近くに落ちてたんだ。

 何か天狗が敵だとか言うから、壊そうと思って……」


「敵が増えるといけないと思って、運んできたんだぜ」


 先ほどの不思議な突風で海に落ちてしまったらしい頭部のことについて、ユウキとダイサクはそう答えた。シンヤは横で「ほら怒られたじゃん……」と呟き、タツキは神妙に大人しくしていた。


 ふむ、と一つ天狗仮面が頷き、「その気遣いと行動力は賞賛しよう」と言った。ずいと小天狗たちに一歩近づき、左手に番傘を持ち替えて、拳を硬く握り締める。


「着いてくるなとの言いつけを守らなかった分は、拳骨一撃で勘弁するのである」


「えー!やだよ、天狗兄ちゃんの拳骨、すっげー痛ぇんだもん!」


「ぼ、僕はみんなを止めたんだよ!」


「あ、シンヤずりぃぞ!自分だけ!」


「駄目だよシンヤ君。言いつけを守らなかったのは本当なんだから」


 そういうタツキも心なしか顔が青ざめていたが、4人は仲良く一撃ずつ天狗仮面の拳骨をくらい、頭をさすりながら涙をこらえていた。


「もうこのような時間である。ゴミ袋は処理施設に持っていってくれるか?

 私は体育館で少しやらねばならぬ事があるのでな」


 今日の昼から、天狗仮面は体育館で行われる盛大な親子喧嘩の実況を依頼されていた。喧嘩に実況とはいかがなものかと思うが、これも今日の喧嘩の主役、清水渉の築いた人脈あってのことである。


「なんか、清水って先生の決闘があるんだっけ?」


「あー、マゾ清水の?」「面白そうじゃん」


 天狗の面を天狗仮面に返し、4人の小学生に戻った子供たちは、昼からの予定に決闘見学を組み込み、わいわいと話し合っている。

 来年の春からは、この子らも中学生である。世話になる教師の勇姿をやきつけておくのもいいだろうと天狗仮面は面の奥でにこやかに頷いた。



 満足にゴミ拾いこそ出来なかったが、4人の小学生達は誰かを守るために行動する気持ちを少しだけ覚え、また一つ互いの共通の思い出を増やしていく。

 無邪気に笑いながら「じゃあ後でな!天狗の兄ちゃん!」とそれぞれが手を振って工場地帯から町へと再び駆け出していくのだった。



今回も活動報告にて天狗仮面から見た小話を書いてみました。

よろしければご覧下さいませ♪


天狗仮面の拳骨はかなり痛いです。なぜなら、愛がこもっているからwww



コラボ作品URL

うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話

http://ncode.syosetu.com/n2532br/


該当リンク話

『追跡中です』~『続・終結中です』

http://ncode.syosetu.com/n2532br/179/

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