7月6日 4人の少年と夏祭り その2
7月6日(土) 昼
食べ終わった4人はトレイを片づけ、勝負の続きを楽しむことにした。次の勝負はくじ引きである。
屋台でめいめい、コレだ!と思うくじを選び、誰が一番良いものをもらったかで勝負する。
ユウキが選ぼうとしたくじに、タツキも手を伸ばしていた。
「あ、悪い」「ごめん、どうする?」
少し迷って、「じゃんけんかな」とユウキが提案する。タツキも賛成した。
「小梅の」「旦那は」「マっゾしっみずッ」最後の節でユウキはグーを、タツキはパーを出した。「じゃ、もらうね」とくじを取るタツキ。
「お前ら、今の何だよ?」ダイサクが変な顔で聞いてくる。
「知らねえの?南小じゃこのじゃんけん流行ってるんだぜ」
「わけわかんないじゃん。誰だよ。小梅とか清水って」
「ダイサク君もシンヤ君も見てると思うよ。
ほら、ケイドロ大会で婦警さんの格好してた人」
「あー、いたなあ。中学の先生なんだっけ?
じゃ清水ってのは?」
「その人も、あの日テントにいたぜ。ビデオ撮ってた」新しいくじを探しながら答えるユウキ。
「あー、小林先生の横でビデオ撮ってた人か。マゾなんだな」
「すげえらしいぞ」
「ふーん」
北小の2人は、この数日後実際に学生達を引き連れた清水と梅原に会うことになるのだが、それはまた別の話。
4人それぞれが選んだくじを一斉に開けると、シンヤがモデルガンを当てた。
「やったー!」
「おー!シンヤすげえ!俺、ハズレだー」
「僕も外れだよ。ダイサク君は?」
「ハズレだぜ。ま、くじ引きは合わせて北小の勝ちってことだな!」
三人はもらったペーパーヨーヨーをしゅるる、と伸ばして笑いあった。
○ ○ ○
最後の勝負は射的である。昔ながらの的が並ぶ屋台に、コルクを詰めるタイプの射的銃が置かれている。「おじさーん!一回ね!」「あいよー」ユウキが銃に渡されたコルクの内1つを詰め、身を乗り出して的を狙う。
が、当たらない。タツキが「打つ時は息を止めるんだよ」とアドバイスする。結局、いくつか的には当たったものの、景品をゲットするには至らなかった。
ダイサクとシンヤも似たようなもので、ダイサクが一つ景品をもらっただけだった。
タツキが自分の番だと準備をしていると、後ろから声がかけられた。
「あら、みんなお揃いで。元気かしら?」
「あ、千里さん」「ダレだ?タッキー」「ほら、ケイドロ大会でテントにいたよ」
猫塚が浴衣の帯に付けた鈴をしゃらんと鳴らしながら微笑む。
「仲直りしたみたいね」
「うん。お姉さんのおかげで」
その時、ダイサクとシンヤが叫んだ。
「あー!その狐のお面!あの時の!」「本当だ!」
「あら、ダイサク君。おねーさん、忘れられてなくて嬉しいわ。
またいつでも勝負していいのよー」
天狗仮面が開催したうろな町宝探しの際に、河川敷で勝負した狐面の女性。あの時はなんとかダイサクが勝ったが、もう一度勝負をした所で勝てるとは思わない相手だった。
「どうしたんだよ、ダイサク」
「前に言ったろ。自転車で勝負したって。この人なんだよ」
「え、マジで!?そんなに速そうには見えねーんだけど…」
「あら、ユウキ君もおねーさんと勝負するのかしら?」
「勝負してやられちまえー」
「なんだとー!」
賑やかに盛り上がる中、猫塚はコルクを銃に詰めるタツキに向かってこう言った。
「上から2列目の左から4つ目よ。タツキ君」
身を乗り出していたタツキが振り返り答える?「好きなの?あのカエル」
「百里が好きよ」「わかった」
スッと照準を定め、小さなカエルの人形を撃ち落とすタツキ。景品としてもらったソレを猫塚に渡そうとすると、彼女は「自分で渡しなさいな」と言ってひらひらと手を振ってどこかへいってしまった。
タツキは、カエルの人形を大切そうにポケットにしまった。
「なあ、タッキー。自分で渡せってことはさ、モモ、祭りに来るってことだよな?」
「え?モモのヤツ来るのか?」「じゃあ皆で花火しようよ」
ダイサクとシンヤが言う。
「うん、そうだね!ツチノコ探し以来だから、1ヶ月ぶりくらいだね!」
少年達はわいわいと射的屋を後にした。勝負の結果のことなどはすっかり忘れている。元々、決着をつけたいがための勝負でもないのだ。いわば、勝負というものは彼らなりのコミュニケーションの方法である、とも言えるだろう。
○ ○ ○
シンヤが、花火をするならモデルガンの箱が邪魔だから一度家に置きに帰ると言い、ダイサクも一度晩御飯を食べに帰ると言うので、一旦解散となった。
戻ってくる頃には花火が始まるので、4人は遊具前で待ち合わせて一緒に花火をすることにした。
「タッキー、今何時?」
「6時半だね。ダイサク君達も、もうすぐ帰ってくると思うけど」
「そういや、もうすぐ夏休みだなー」
「僕が思うに、今年もまた宿題をギリギリまでやらないんじゃないの?
ユウキ君は。今年こそ見せてあげないからね」
「う…、今年はちゃんとやるよ」
「ほんとかなぁ」
「ホントだってば!」
テーブルでジュースを飲み、何気ない会話を交わしながら、南小の2人は友人達が戻ってくるのを待った。遊具の方が賑やかで、ちらりとそちらを見ると天狗仮面が子供たちを引き連れて走り回っている。
その後ろには黒い仮面と黒いマントを羽織った男もいて、二人は首をかしげた。
「何だろうね、あれ」
「類は友を呼ぶって言うし、同類なんじゃねーの?」
○ ○ ○
ほどなくしてダイサクとシンヤが再び祭り会場に戻ってきた。
大人たちに手持ち花火をもらい、遊具のある方へと移動する。
「へっへっへ、覚悟しやがれ!ユウキ!」
ダイサクが花火を両手に持ってユウキを追う。「ちょ、危ねーだろデブダイサク!」
逃げようとするユウキだったが、遊具の近くにある小さな丘のうえから
「こらあッ!花火を持って走り回るのではない!危ないであろう!」
と天狗仮面からの叱責が飛んだ。
「やーい、怒られてやんの。でも、ほんとに危ないぞ」
「悪い。なんかテンションあがっちまってよ」
「仕返しすんぞこのヤロウ」
「ユウキ君、やめときなさい」
「ユウキも怒られてんじゃん」
夜空に打ちあがる花火と、手持ちの花火を楽しんでいると、小さな丘の上から一人の少女が浴衣を着て歩いてくる。4人はその姿に見覚えがあった。
「みんな、久しぶりね!」
「おう、モモ!久しぶり!」「元気にしてた?」口々に挨拶を交わす子供たち。
「モモちゃんの浴衣、千里さんとお揃いなんだね」
「あら、タツキ君、気づいた?カワイイでしょう?」
「うん、とっても」笑顔でそう答えるタツキ。
モモはついさっき祭りの会場に来たのだと言う。ユウキが「じゃあ、七夕の短冊書いてないのか?」と問いかけた。
「短冊?」
「おう、向こうに飾ってあるんだぜー」
「僕達もまだ書いてないんだ。ダイサク君たちは?」
「考えてなかったぜ」「そういえば明日は七夕じゃん。忘れてたよ」
それならば、と、5人は手持ち花火を楽しんだ後に短冊にお願い事を書きに行く事にした。
途中、傘を持った天狗仮面に会ったが、なぜ雨でもないのに傘をもっていたのだろうかと少年達は不思議に思った。
会場に置いてあった大きな笹には、様々な短冊が吊るされており、飾りつけもされていてとても綺麗だった。
中には真面目な願い事やふざけて書いたであろう願い事などもあった。
「なんて書こっかなー」ユウキが短冊と睨めっこそながら考えている。
七夕の願い事を本気で書くような年齢でもないのだが、書くだけならばタダである。
『給食が毎日カレーになりますように』
『視力がよくなりますように』
『秋休みができますように』
『天狗さんがもう警察につかまりませんように』
それぞれの願い事を書き上げて笑いあう。
「なんだよ、秋休みって!」
「春休みも夏休みも冬休みもあるのに、秋だけ不公平だと思ってさ」
「天狗の兄ちゃんは…どうだろうなー」
「僕が思うに、お願いするだけなら、いいんじゃないかな」
「あら、それなら織姫や彦星よりも警察に言ったほうが早いんじゃないかしら?」
「なんか逆に捕まりそうだよな」
「だよなー」
猫塚も願い事を書き上げて、短冊をそっと吊るす。
『もっと、おもしろくできますように』と書かれた短冊は風に揺られて、笹の葉と共にしゃらしゃらと鳴った。
「なんだよモモ、学校つまんねーの?」
「じゃあ、うちの学校来いよ、きっと楽しいぜ」
「今でも楽しいわ。でも、あたしもっと楽しい事が好きなの!」
満面の笑みでそう言ってのける猫塚。「だから、また遊びましょ」と言う彼女に対して、少年達はもちろん、と返事をした。
「ねえ?知ってる?」猫塚が少年達に問う。
「西の山のどこかにね、天狗仮面の宝物があるの」
「宝物?天狗の兄ちゃん、またなんか用意してんのか?」
「ううん、大切にしてたんだけど、山で無くしちゃったんだって」
「へえ、じゃあ僕達で見つければ天狗が喜ぶじゃん」
「じゃあ、探検だな!」
ダイサクの一言に、少年達は盛り上がった。夏休みにしっかり準備をして短剣に行こうとわいわいはしゃいでいる。「天狗にゃナイショだな!」「そうだな!見つけて持っていってやろうぜ!」
これが、少年達の夏休みの大きな冒険になることを、この時の彼らはまだ分かるはずもなかった。猫塚はニヤリと笑って、その様子を眺めていた。
「じゃあ、お姉ちゃんが待ってるからそろそろ行くね。
今日はありがとう!」
間もなく祭りも終わる。猫塚が手を振って走り去っていった方向を見つめるタツキの肩を、ユウキがコツンと叩いた。
「いいのか?カエルの人形」
「…うん」
なんとなく、追いかけて渡すのがためらわれた。確かにモモにあげようと思って射的で得たものだったが、これを持っていればまたモモに合えるような気がしたのだ。
○ ○ ○
少年達は祭りの活気が徐々に薄れ行く公園を出てそれぞれの家を目指す。
「じゃあな!ユウキ、タツキ。今度、西の山探検のこと決めようぜ」
「おう!1日じゃ足りないかも知れないなー。じゃまたなー」
手を振って、交差点で別れる。街中には、公園から帰る人の波がゆるやかに続いていた。公園から離れるにつれて少しずつ、いつもの町の風景に戻っていく。
いつもより少しさみしく感じる家までの道で、少年達は祭りの後の雰囲気を感じていたのだった。
七夕飾りは、町の役場に飾られるという。少年達の無邪気な願い事も、夏の風に揺られてさらさらとなびくことだろう。
うろな町はもうすっかり夏の気配である。
終わりましたよ夏祭り編!
え?やっと?とか言うツッコミはなしの方向でお願いしたい千月でした!
とにあさんのカラスマント、少しお借りしました!




