5月23日 4人の少年と天狗仮面 その1
うろな町企画参加作品です。
小学生を主人公に、冒険あり、友情ありの王道目指して頑張ります。
見切り発車でも気にしない!
うろな町ではいろんな場所でドラマが生まれているのだもの。
いろいろな作品と交流が持てるといいなぁ。
5月23日(木)
授業が終わり、教師が帰りの挨拶を終えると同時に、彼はランドセルに教科書を急いで詰め込む。プリントはランドセルの奥底に押し込まれ、教科書の表紙にはくっきりと折れ目がついた。
そんなことを、彼―――真島祐希は気にしない。
「早く早く、タッキー!今日も気合いれていこうぜ!」
タッキーと呼ばれた少年―――皆上竜希は教科書をサイズの大きい順に丁寧にランドセルにしまいこみ、プリントを挟んだファイルを入れながら答えた。
「僕が思うに、そんなに慌てなくても時間には間に合うんじゃないかな」
「ダメダメ!北小の奴らより先に中央公園に着かなきゃ負けだって!」
「分かったよユウキ君。でも、ちゃんと一回家に帰ってから来なよ」
「大丈夫だいじょうぶ!じゃ、また後でなー!!」
タツキがランドセルを背負う頃には、ユウキは教室を飛び出して廊下を走っていた。担任の教師が「こら-!廊下は走るな-!!」と叫んでいるのも、いつもの事だった。
「先生、さようなら」先生に会釈しながら、タツキは他のクラスメイト達と教室を後にする。
「はい、さようなら、気をつけて帰るのよー」ひらひらと手を振り、教師は生徒達を見送った。
絵に書いたようなヤンチャな小学生ユウキと全くタイプは違うが、タツキは彼のことをとても大切な友達だと思っている。
もちろん、他のクラスメイトと仲が悪い訳ではない。ユウキとタツキが今までずっと同じクラスであることが、タツキにそう思わせる大きな理由だ。
今年、六年生になってもそれは変わらないし、周りからは「南小のゴールデンコンビ」と呼ばれてもいる。勢いだけでひた走るユウキと、冷静なタツキ。絵に描いたような役割分担だが、タツキはまんざらでもないと思っている。ユウキはそういった所は何も考えていない。
○ ○ ○
ユウキは、愛車「ぶれいぶ号」を駆り、誰よりも早く「うろな中央公園」へと到着した。
北小と南小のちょうど中央辺りに位置するこの公園は、商店街と住宅街の境目にありこの町に住む多くの人達の憩いの場所となっている。
「3時半まであと10分!時間を守るのは偉いってセンセーが言ってたもんな!
じゃ、俺は10分余計に偉いってことだな!」
公園にはユウキの他にも子連れの主婦やベンチに座るお年寄りがいた。公園中央の時計の下で彼は他の皆を待つことにした。
程なくして、二人組が公園へと走ってきた。それは、今日の待ち合わせ相手であり、ユウキのよく知る北小6年生の二人組であった。
「あー!ユウキの奴がもう来てやがる。くっそ、早いじゃねえか」
「へへっ、北小の奴らには負けねえぜ」得意そうに胸をはるユウキ。
「あれ?ユウキだけじゃん。タツキの奴は?」
「もうすぐ来るんじゃねーの。タッキーが遅刻した所、見たことねえもん」
「じゃあ、ドベは南小だからお前らの負けじゃん」
「一位は俺なんだから南小の勝ちに決まってんだろ!
シンヤ、そういう所セコいよなー」
「セコくない!ドベになるのが悪いんだ!だよね、ダイサク」
「そうだそうだ!2対1で多数決だ!ミンシュシュギだ!小林先生が言ってたぞ!」
北小の二人組である彼ら―――金井大作と相田慎也。ダイサクは、習ったばかりの言葉を使いたがる北小のガキ大将的存在である。
ちなみに、小林先生とは彼らダイサクとシンヤの担任の名前である。物腰の柔らかい教師であり、二人は彼のことを非常に慕っている。
三人がわあわあと言い争う中、タツキは平然と中央公園に到着した。時計の下に皆を見つけたが、ユウキとダイサクが言い争っていた。いつもの事なのであまり気にもならない。
二人はタツキが近づいているのにも気付かずに「デブダイサク!」「るっせえ!チビユウキ!」とやりあっている。シンヤだけがタツキに気づき、ダイサクに伝えようとしていた。
「えーと、今日の勝負を始めるにはまだ早いよ?」時計に近づきながら声をかける。
「タツキだ!ねえ、ダイサク、タツキが来たよ」
「おう、遅かったじゃねえか、タツキ。ドベになったんだから、南小の負けだぜ」
「だから俺が一番だったんだから北小の負けだって!そうだろ、タッキー」
「んー」タツキが首を傾けて眉間の辺りを人差し指と中指でトントンと叩く。これは彼が考え事をしている時の癖である。
「僕が思うに、引き分けじゃないかな」
「何でだよタッキー!」
「そうだそうだ!ドベのくせに偉そうだぞ!」
「ドベのくせに!」
「まあ聞いてよ。ユウキが1位で、ダイサクが2位、シンヤが3位で、僕が4位でしょ?
じゃあ、南小は1位と4位で合わせて5だし、北小も2位と3位でやっぱり5だ。
改めて、今からの勝負で決着をつけようよ」
三人は指折り足し算しながら「確かにそうだな」「なら仕方ないな」と納得したようだった。
南小のユウキとタツキ。北小のダイサクとシンヤ。彼らはよくこうして集まっては何かにつけて対決することを楽しんでいる。
2対2のことが大半だが、友人達を巻き込んで大人数で対決したこともある。
対決と言っても、去年までは缶蹴りや野球、ドッヂボールなど、至って普通の、周りの大人達から見れば仲良く遊んでいるようにしか見えないようなものであった。
そう。去年までは。
今年、彼らが6年になってから、対決に審判が加わった。対決の日程も、対決の方法も、その審判が決定し、公平に判定を下してくれる。
これにより、今まで明確な勝敗がなかった彼らの対決は白熱し、現在の戦績は15戦のうち、南小が8勝、北小が6勝、そして1引き分けと、若干南小がリードしている。
公園の時計が3時半を示す。
4人は辺りを見回したが、審判がやってくる気配は無い。
「あん?来ないな。あの兄ちゃん。おいユウキ、対決って今日だったよな?」
「またケーサツに捕まってんじゃねえの。アヤシイもん。あの格好」
その時、後ろから盛大な高笑いが聞こえてきた。4人は驚いて振り向くがそこには誰もいない。
「あ、いた」
シンヤが指さしたのは少し離れた場所、公園の隅にいくつか植えてある桜の木のうちの一つだった。
その桜の木の枝の上に、威風堂々、仁王立ちをしている人物がいた。自信に満ち溢れた立派な高笑いを続けるその人物こそ、彼ら4人の対決における審判・天狗仮面であった。
「よくぞ来た少年達よ!これより、第16回南北うろな合戦を開始する!!
お互い、正々堂々と全力を尽くして勝利と栄光を掴みとるが良い!
審判はこの私、天狗仮面が公正に行うものとする!」
「今日は木の上だったかー。兄ちゃんも毎回登場の仕方考えるの大変だな」
「僕達を楽しませようとしてくれているんじゃないかな。楽しんであげないと」
「ええい、五月蝿いぞ南小コンビ!それとシンヤ君!木の横にハシゴが倒れているだろう。
それをこちらへ立てかけてくれないか。そう、こっちだ」
「うっわ、だせぇ。降りられなくなってたのか」
「天狗なんだから飛べばいいのに。なあ、タツキ」
「ダメだよダイサク君。天狗の力は人前で使っちゃいけない設定になってるんだから」
彼らの審判、天狗仮面について少し説明しておかなければならない。
その名の如く、大天狗の仮面をかぶり、唐草模様のマントを付けた男、それが天狗仮面である。服装は上下ともに紺色のジャージ、しかも白のラインが入った、いわゆる農作業ジャージと呼ばれるものである。下駄はバランスが悪く歩きにくいのでスニーカーを履いている。
いくらこのうろな町が人間味と優しさに溢れる良き町であったとしても、天狗面の怪しさは消えないのである。善良な住人であればあるほど、警察への通報に躊躇はないだろう。
事実、4人はパトカーに押し込まれる彼の姿を何度か目撃したことがある。なぜ天狗なのか。その理由を4人は知らない。知ろうとも思っていない。
「では、本日の内容だが…」
桜の木から降りてきた天狗仮面はシンヤに礼を言い、今日の対決方法を言い渡した。
「宝探しを行うものとする!宝はこれだ」
天狗仮面が取り出したのは、空き缶を油性ペンで塗りつぶし天狗印のシールを貼ったものだった。
「この天狗印の天狗缶を見つけてもらう訳だが、ただ見つけるだけでは面白くない。
そこで、いくつかルールを決めてある。一度しか言わないから、良く聞くのだぞ」
天狗仮面は腕を組み、高らかに3つのルールを宣言した。
そして4人は勢いよく公園を飛び出して行く。
YLさんの教育を考える会より、北小と南小のw小林先生をお借りしました。
これからもお借りする機会があるかと思います。
6/4日追記
パッセロさんの「くるみるく」と南小の小林果穂先生が
被ってしまったので、相談の上、果穂先生は小1の担任と
いうことにさせていただきました。
混乱を招いてしまいましたらすみません。
次回は宝探し回!
投稿日と作品内の日付が違いますが、ご了承ください。
天狗仮面はアヤシイですが、困った人を助けたり、町内美化に精を出すとっても紳士なお方です。
見た目は変態、中身は紳士!その名は天狗仮面!




