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45話 対峙と決闘

対峙と決闘



白雪を連れてギルドに戻ってきて手当を行った後、しばらくは、捕まえたブランカとの対話だった。

「君らの目的は?」

「この世界の支配よ」

「本気か」

「出来るわ。神からのお告げもあった。私たちに力もくれた」

「ロキの事だな」

「すべてを人の所為にし私たちはこの世界に君臨する」

「なんという非道!悪だ!成敗してくれる!」

「やめろ、ジャスティス。ロボが強化されるかもしれん。そうなったら」

「彼は止められないわ。私が死ねば彼を止めることができる者は居なくなる」

「と、奥様も言ってる。危険すぎる」

「では弱体化したあいつを叩くチャンスでは?」

「最後ロボはどうなるんだ?」

「妻を助けに来たところで罠にかかり、捕まります。その後、シートン氏が飼うのですが、一切食事を口にせず最後は餓死します」

「なんか悲しいな。人間のエゴっぽい」

「シートン動物記の多くが悲しい終わり方をします。それはシートン氏が動物と真っ向から向き合い生命とは自然とはどういう物かを語っているからだと私は思います」

「ロボを殺さずに済む方法無いかな」

「ないと思います。あるとしても、それはロキを倒すしかないと」

「嫁さんがここに居るんだから否が応でも戦うことになるでしょうね。ほら、冬新しい防具よ。て言っても前回とほとんど一緒だけど」

 アテナが投げてよこす。

「ほら、こっちもだ。バグナウの強化とナックルの強化、終わったぞ」

 机に武器が並べられる。

 色々説明を受けるが

「おっけー。すごい武器ってことだな」

「お前は本当に馬鹿野郎だな」

 しみじみ言われると傷つく。

「もういい。先手を取れるように改造したから、それだけ頭に入れておけ」

「ありがとう、嬉々」

礼を言って立ち上がる。

「よし、じゃあ、ブランカ、来てくれ。白雪はゆっくり休んで」

「だめ、一緒に行く」

「え、でも怪我が」

「もう治ってるから平気です」

「負ければまた死ぬぞ?」

「負けなければ良いんですよ」

 アテナが後ろに来て

「後ろ向きな男は嫌われるぞ」

 と囁いてくる。

「わかった。必ず、勝つ!」

 良い所見せるとか、そういうんじゃない。白雪の期待を裏切りたくない。その一心だ。




場所は北の森、白雪とブランカが戦った場所。

「ここで待とう」

「たぶんすぐ来ると思います」

「なるべく一対一に持って行く」

「条件は満たしていると思います。というより、一対一以外ないと思います。まだ、先生たちが戻ってきていませんので」

「どうせ先生たちの事だから、幹部クラスを倒すまで粘るよ。あの人たち、ゲーム好き過ぎで、負けず嫌いだから」

 先生たちが行くときに、「倒してしまっていいんだろ?」とおどけていたが、目が本気だった。

もちろん俺も「いいですよ」とおどけて言った。目は本気だったと思う。

そんなことを話していたら、嗅いだことのある臭いが鼻に入ってくる。

プルースト効果、というのをご存じだろうか。ある特定の匂いがそれにまつわる記憶を誘発する現象だ。

この臭いを嗅いだ瞬間、思い出す。自分の腕が食いちぎられた痛み、自分の体に穴を開けた激痛。初めて味わった死の恐怖を。

「冬、怖いの?」

 気が付けば、食いちぎられた肩を押さえて震えていた。

「死ぬのは怖いよ」

 その手に白雪がそっと手を重ねる。

「大丈夫、この作戦は間違ってない。冬なら倒せる」

 彼女の言葉を聞くと不思議と震えが止まった。

「ありがとう、白雪」

第に恐怖を持った臭いが近づいてくる。

強化してもらったバグナウを装備するとその巨体が現れる。

「妻を返してもらおう」

「じゃあ、一対一で俺と戦え」

「良いだろう」


『狼王「ロボ」と一対一の勝負になりました。白雪がパーティから外れます』


「勝ったら妻、ブランカを返してもらう」

「じゃあ、俺が勝ったらどうする?」

『ひゃっほー!ロキだよ~。あー皆さん聞いてる?聞いてる?今、2匹の狼王が1対1の勝負を開始しま~した。この2匹の狼王が倒されたら君らを解放しようじゃあ、ないか』

「なるほど、ロキ、じゃあ、お前を一発ぶん殴る権利もくれ」

『じゃあ、君が勝てたら、どうぞ。勝てたら、ね』

 ケタケタと笑いながら消えていく。

「どうやら、勝たないといけない理由が一つ増えた」

「じゃあ、始めよう」

「おう」

刹那ほどにらみ合った後、両者が吠えあがる。

「わおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!」

「わおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!」

 こだまし合う声が止むと、ロボの左足の前に飛び出す。もちろん左前足が容赦なく振り下ろされる。だが、前より遅い。横に大きく飛び顎の下に行く。跳躍し、顎にバグナウを突き刺す。今度は折れない。

「ダメージ、有り。やっぱり能力低下してるな」

「うぉおおおおおおおおおん!」

 咆哮が空気の渦を生み、刃になる。この距離で見えない刃は躱すことができないし、受け流せない。その身を切り刻む。質の良い防具のおかげで、なんとか持ちこたえている。

「血を浴びる者。発動!」

 目の前が真っ赤に染まる。知性を犠牲にし、能力を大幅にあげる。

 再び横に跳び、右足を狙うがそこに足は無い。耳が教えてくれる。すでにその爪が振りあげられ、俺の体を狙っていることを。

 前方に飛び今度は脇に飛び込んだ。戦闘形態時には、逆間接になるその足での跳躍は数倍に上がる。そのまま、肺を狙い、バグナウを突き刺すほどの勢いで、飛ぶ。

ロボが瞬間身を捻ったため、バグナウは狙いを逸れて、皮膚を切り裂く程度に終わる。

この状態で攻撃を受けたら、死ぬ。そう考えた瞬間、バグナウを外し、ロボの毛を掴む。

「こっからはラッシュだ!」

 ナックルに替えて背中を叩きまくる。だが、ロボが走り出し、木に己の体をぶつけて、そぎ落としてくる。地面に飛び降り、折れて落ちてくる気にカウンターをし、木を圧し折った。

「潰れないか」

「潰ぶしてやるよ」

「くははは!」

「ははは!」

 闘争を楽しむ。始める前はそんな気持ちが湧くとは思いもしなかった。

「この姿では、勝ち目は薄そうだ」

 そう言って、ロボは全身の毛を膨らませると骨が折れたような音と何かをかき混ぜるような音がすると、ロボの体は縮んで、いや、圧縮されていく。その姿は人狼へと姿を変えた。他の人狼と違い、全身の毛が漆黒に染まり、籠手や、足具、胸当てなどの防具は黒で染められ、赤の装飾が施されている。

「これで君の望みの殴り合いが出来るだろ?」

 ロキの声がロボの口から吐かれる。どうやら入れ替わったようだ。

「なるほど。良いぞ。思いっきりぶん殴ってやるよ」

 ロボの体からは気配が放たれている。王と名乗るに相応しい程の覇気。それを圧縮したようなオーラをまとっている。

共に腕を前に構える。こちらの体力は3分の1を切っている。

 顔面を狙う右ストレートを放ってくると同時に左手はボディーブローを狙っている。がナックルで弾く。

「イメージ通り」

 無駄に3日も寝ていたわけではない。イメージをしていた。どんな攻撃があるか、敵の両手両足、あらゆる角度からの攻撃を想定し、流せる攻撃、当たってしまう攻撃、避けるべき攻撃、どうすれば、回避できるかをイメージし続けた。

「お前を殴るためにな!」

両腕を弾くことでがら空きになったボディーに拳を打ち込む。背中をぶち抜くつもりで放った拳は固い皮膚に止められるが、十二分にダメージを与えている。

「俺は怒ってる。楽しいゲームを邪魔されてな!」

 アッパーを放つが、回避される。

「僕だって楽しみたいんだ!」

 今度はハイキック。少し屈み、跳躍し、懐に入る。

「だったら、ルールを守って遊べ!糞餓鬼!」

 身を捻り、拳を捻り、顔面へのインパクトの瞬間拳を戻す。綺麗に決まったコークスクリューがロキを3m程吹き飛ばす。

「王様気取りが。反省するまでぶっ飛ばす」

「うは!そんな君が敗北する顔をもう一度見たいね!」

 そう笑い、立ち上がり、突っ込んでくる。姿勢が低い。足を取りに来ている。こちらも前に出て膝を顔面に叩きつける。と同時に膝に激痛が走る。

 膝に噛みついてきたのだ。

「とんでもねぇな!」

 頭蓋骨を粉砕する勢いで頭を叩く。いまのでこちらの体力が5分の1にまで減った。しかも足を噛まれたので蹴りと俊敏さが大幅に減少。笑えない状況なのについ笑みがこぼれる。しかし、向こうも深手だ。

「ロボならこんな戦い方しないだろうな」

「ボクはロキ。ボスとはいえNPCと一緒にしないでほしいな」

「褒めてねぇよ。ボケ」

「続けようよ。この遊び。楽しい」

 こちらの懐に飛び込んでくる。狙いはアッパー。しかし、タメが長かった。かわせる。

 しかし、かわした体制から、腹めがけて肘を落としてくる。完全に入るのを避けるために、拳を当てる。軌道は僅かにそれた。が、ダメージは受ける。体力ゲージが赤色になる。

「虚実、一発目はわざと貯めたな」

「あははは!見事かかったね!」

 三度飛び込む懐に強烈な一撃を鳩尾にたたき込む。鎧がそれを拒むが、

「鎧通し」

 三日寝ている間に、スキルの見直しをして有効打を見いだそうとしていた。本来は打撃系の大型のハンマーのスキルだが、ナックルにも適応された。最初の頃に覚えて数回しか使わなかったスキルだ。

 ロキの血反吐が俺の体を汚す。

 次の瞬間には数メートル吹っ飛ぶ。その反射神経もダメージ蓄積が多く、上手く起動していないのか、踏みとどまるのもよろめきながらだ。

「もっと、遊んでよ」

 右の拳を固め、こちらから突撃する。

「はっはっはははああああああああ!」

 嬉々としたロキもまた、飛び込んでくる。

 やばい、拳が振れない。振っても致命的ダメージを与えられない。

 どうやら、お互い、勢いをつけすぎた。タイミングを失った拳は固められたまま、ロキとの衝突を避けるため身を捻る。しかし、衝突は避けられない。

 次の瞬間、ロキの首に俺の二の腕が食い込んでいた。

そして、ロキは後頭部から、地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。

「ロボ!」

 ブランカが叫んでいる。

「生きてるな。こりゃ」

 このゲームでは死ねば、粒子になって消えるがロボはまだ消えていない。

しかし、HPのゲージは出ていないのでHPの消滅後のイベントか。

「『ブランカを解放しますか?』『YES』っと」

 白雪がそう呟くとブランカの拘束が解かれる。

「ロボ!」

「ブランカ、俺は負けた。狼王ではない。時期に消えるだろう。お前は」

「なら、私も消える」

「強情な女だ。だから、惚れたんだがな」

 そういうと二匹は消えていく。


『狼王「ロボ」を倒しました。アイテム「ウルフシード」を手に入れました』

『狼王の鎧(黒曜石)一式を入手しました』

『レベルが上がりました』

『狼王「ロボ」と狼王「クルトー」が撃破されました』

『ログアウト可能になりました』


『あーあ、負けちゃった。ははは、ぼくは、きえる、けされる、だが、復讐は、はは、はたしたぁ。ひひふふふぁひゃあははは!』

「お前は犯罪者だよ。当然だ」

『人間なら、人間だったら、死刑じゃない。実刑は免れないだろけどね。ほら、ボクを殺すためにプログラマーが動き出したよ。抵抗するつもりない』

 いつものおどけた調子とは少し違う。

『この後いろんな人が言うだろうね。ボクを作った人がこの監禁を仕組んだとか、壮絶なバグだとか。確かにボクは作られたし、バグみたいなものだ。だが、これは僕の意志で起こした犯罪だ!うはは!はっはっはっは!』

 笑い声はブツンと切れた。

「どうやら削除されたみたいですね」

「白雪、回復、頼んでいい?」

「あ、すみません」

 あわてて回復魔法がかけられた。

「はは、とりあえず、ギルドに戻るか。それか、ログアウトする?」

「ギルドに」

 二人で無事ギルドに帰還した。


戻ってきたら先生たちだけだった。

「他のみんなは?」

「ログアウトした。仕事している人や家族が心配してる人が多いからな」

「先生たちは?」

「お前らが心配でな」

「はは、いつまでも手のかかる生徒でごめんね」

「ホントにな」

「戦況だけ報告。幹部の狼の一匹は私たちが、もう一匹はランスが倒した。ランスはギリギリまで粘ってたが、外からメールが来て帰還した」

「そっか。このゲームで遊べるのはこれで最後かもな」

「でしょうね。先生、これまでお世話になりました」

「うむ、他のゲームで会おう。その時は敵か、味方か解らんがな」

「どうせなら仲間で会いたいものだ」

「メールアドレス、教える」

 そういうとこちらにメールを飛ばしてくる。

「フリーメールで悪いがゲームやる時は声をかけろ。暇だったらやる」

「じゃあ、俺も」

「わ、私は」

 思わず声が籠っている白雪を見かねて虎鉄先生が切り出す。

「お前は、病院名を聞いた方が良いな」

「な!?」

「悪いな。気付いてた。妙な所で常識を知らないし、人との交流が苦手なだけの引きこもりかと思ったが、言葉の端々に、体の不自由さを思わせる言葉があってな」

「二人で相談して、そうなのかなって、結論に至った」

「じゃあ、この病院です。遠くだったら、無理に来なくても」

「悪いな。暇を持て余した大学生でな。遠くても会いに行く近所には免許持ちがいるからな」

 と村雨先生が虎鉄先生の背中を叩く。

「おう。冬も迎えに行ってやるよ」

「ありがとう、先生」

「じゃあ、さようならだ」

「また、会いましょう」


『ログアウトしますか?』『はい/いいえ』


『はい』


『ログアウトします。お疲れ様でした』


乾いた様な声が耳に響き、俺は現実に戻ってきた。


次回最終回です。


鎧通しは昔に覚えてたので修正しました。

行き当たりばったりなのが良く解る

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