33話 祝宴と秘密
長らくお待たせした分腰を据えて書くことができました。
これからも何卒よろしくお願いします。
祝宴と秘密
いよいよ家の引渡しだ。
今日ばかりはワクワクして眠れなかった。
かなり早いが集合場所の飯屋に行く。
やっぱりまだ誰も来ていなかったか。
腰を下ろし誰かが来るのでも待とうか、と思ったとき、扉が開く。
珍しいと思い注視していた。
入ってきた人物は顔見知りだ。とういうよりずっと注視していて飽きない人だった。
「あ、冬くん、おはよう。随分早いね」
白雪だ。最近敬語を止めさせることに成功した。
他人行儀さがぬけて、親しさが増したのだが、如何せん無警戒になった気がする。
前はこう言うときは対面に座る事が多かったのに最近では隣に平気で座る。怖いのが無意識でやっているというところだ。他の男にやっちゃ駄目だぞ?
「おう、何か早く目が覚めてな」
「だよね、凄くドキドキする」
(俺はお前が隣にいるお陰でもっとドキドキするけどな)
「え?」
ヤバッちょっと声に出てた
「いや、やっぱり待ち遠しいよなって。皆で作った家だからどんな風に仕上がってるか想像すると楽しみで楽しみで仕方がなくなって、そこにずっと住めるんだって思うとまたワクワクしちゃってさ」
そうだねと白雪が呟いた。
「私最近考えちゃうの。このゲームをクリアしたあと、たぶんこのゲームは中止、運営側は慰謝料を支払って会社は潰れてしまう」
「いくら頑張ったってそれはほぼ確定だろうな」
「そしたらこのゲームで出会った人達と会えないのは寂しい」
あり得ない。
「馬鹿だな。メールとか、電話とか色々あるだろ?」
連絡の手段はいくらでもある。
「そうだね」
暗い表情と声の彼女。俺、何か失敗した?
「冬くん、私ね、実は……」
白雪が言葉を紡ぐ前に扉が開いた。
「なんだ冬、もう来ていたのか」
「先生、おはよう。で、白雪、何?」
「あ、後で言う」
「そう?」
「虎鉄先生はどうしたんですか?」
「え、何で私が知ってると思うんだ?」
「だって付き合ってるんでしょ?」
「んな!?」
「おい、白雪、先生はあれでもバレてないと思ってるんだぞ?そんなにストレートに言ってやるなよ」
「な、何でばれたんだ!?」
「いや、かなり分かりやすかったので「言わなくても察しろ」ってことなのかなって」
「違う!隠してたんだ!君らに言うとからかうだろ!」
「何か寂しいな。俺は信頼されて無かったんだショボーン」
「すまない」
「いや、たぶんからかってましたけどね」
「よし、そこになおれ、首を切り落としてやる」
「先生、冗談にしては目が笑ってないです!」
「本気だからな」
先生の小太刀を全力でかわす。
「先生の攻撃は避けにくいんですからやめてください!」
「避けなくていいぞ」
「ていうか今のを避けられるのは異常だと思うんだけど」
「お前ら何をやってるんだ?店で暴れるな。ほかの人に迷惑だろ」
虎鉄先生が店の中に入ってくる。
「ほかの人いないよ」
こんな早朝に誰かがいるわけがない。
「あそこで寝てるやつだ」
「え?」
いるじゃん……。てかこれ
「コウ、起きろ」
「はふっ!?ごめんなさい!木材の加工は終わりました!」
変態の部下のコウか。
「寝ぼけるなって。ここは仕事場じゃないぞ?」
「え?あ、すいません。えっと迎えに来たんです」
「いや、いや、早すぎるだろ」
「社長が『あいつらお子様だからきっと早朝から集まるだろうからお前、ここで待機』とか言って置いていったんです」
あいつ酷いな。
「とりあえず朝飯喰ったら行くか」
朝からトンテキ食べました。胃もたれとかないから助かる。
「テステス、あーあー皆さん今日はお集まりいただきありがとうございます…えっとこんな感じでいいのかな?……緊張する……」
モックがぶつぶつと言っている。
「なんか意外な裏面を見てしまった気がする」
「意外と小心だったんですね」
「好感度が爪の先ぐらい上がったな」
「お、お前ら、もう来てたのか!?」
顔を真っ赤にしながらモックがカンペを背中に隠した。
「堅苦しい挨拶とか別にいいだろ?さ、お披露目と行こう」
「いや、だってそこはきちんとしとかないと」
なんか妙なところでキッチリしてるよな。
「A型?」
「みんなよく言うけどなんでわかるの?」
「なんていうかある意味典型的というか」
「拘り派すぎる。めんどい」
「めんどいとかいうな!」
「はいはい、いいからお披露目よろしく。他しかこの辺だったよな?」
近くまで来ているのに姿が見えない。
「ああ、ちょっとカメレオンの魔法使いに協力してもらって消してる」
「なにそれ、すごいな」
先生の木葉隠れに近いのかな?
「じゃあ早速、見ようか」
「ちょっと待って、お前らが速すぎてまだみんな集まってないから」
「誰か来るんですか?」
「嬉々とアテナとニコラ」
「みんな来てくれるのか!」
「君のみんなは少ないな」
「ぐっ……他にもいるもん!桜花とか!とか、とか……」
「あとは肉親だけか……さびしい奴……」
「いや、本当は建設に係わってくれた人もいるけど今日は来れないだけだから!だから!」
「わ、わかったからそんな情けない顔するな」
「おう、馬鹿野郎、何を暴れてんだ?」
「きき~……」
「なんで半べそ?」
「あてなぁ……」
「少年、それは新しい変顔かのう?」
「ニコラじい……」
「よかったな、冬、友達だぞ」
出てきそうだった鼻水をすすった。
「よかったよ、俺ボッチじゃなかった!」
「なんだろう、こんなばかばかしいのに逆に涙が出てきた」
「とりあえず誰か私たちに状況の説明してよ」
「裁縫娘よ、察しておやりなさい」
みなさん、俺には仲間と友達がちゃんといます。だからいい加減NPC扱いしないでください。
居るんだよ!いまだに俺をNPCだと思って話しかけてくる人。「よし!見つけた!イベント!」とか、「あの、貴方プレイヤーですか?もし違ったら何か困ってますか?」とか。ふざけんな!だから嫌がらせで「頼む!山のボスを倒してきてくれ!」とか言ってやった。あいつら慌てて、逃げ出してたな。
「では、落ち着いたところでお披露目!」
モックは何かを掴み、ぐっと手前に引くと、大きなウッドハウスが姿を現す。
「おお!」
「でかい」
「てかどうやったんですか!?」
「さすがに家全体に魔法をかけることは出来ないから、大きな布に掛けてもらったんだよ」
ステルス用の魔法なのか、触れると布は元の色になっていた。
「広さとしては200坪中100坪が家に使った坪数だ。残り半分はそのほかの施設になっている」
「4階建てですか?」
「それに加えて地下室も一部屋、倉庫として使えるように用意してある」
「てことは1人一階として使えるってことだな」
「ザンネン、違うんだな。まぁ見て貰えばわかるから行こうか」
なんか得意げなモックがムカつく。
扉を開けると森の香りがする。
「いい匂いだ」
「落ち着くいい香りですね」
「本当にこのゲームはゲームということを忘れさせられるな」
入り口のそばの部屋は食堂とカウンター。
「これは皆で決めたやつだな」
「ギルドっぽい感じにしたかったからな。どうせなら料理人とか入れたいよな」
「確かに。あそこの料理はおいしいけど、そろそろ追加効果とか欲しいし」
ある一定のレベルに達した料理人のスキルの一つにステータスを付与するスキルがある。これがまたえらく戦闘に貢献している。しかも魔法使いのAアップなどと重複しない。(つまり攻撃力がアップしていてもさらにアップするということだ。そんな能力もはやチート級だ。多くのボスがこの付与スキルのおかげで倒された。
もちろん欠点がないわけではない。料理を作るときコマンド画面から作ると成功確率が格段に下がる。成功率を上げるにはきちんとプレイヤー自らの手で作らなければいけないのだ。
しかしその欠点も料理好きの人からすれば些細なことでしかなかった。おかげで初めは低評価だった料理人が今や生産職の中でも上位の人気職に代わっている。
「それより早く2階に行きましょうよ」
「そうだな。馬鹿野郎、早くしろ」
「さて、2階はどうなっておるのかの?」
アテナ、嬉々、ニコラがそわそわしている。
「?なんで?2階は普通に部屋だろ?」
「各部屋ガ ドウナッテルカ 気ニ ナルダケダヨ?」
「なんかカクカクしてるぞ?」
胡散臭さ倍増。まぁいいか。
「2階に行くぞ」
2階には大きな部屋が一つだけのようだ。
「で、この部屋は何?」
「聞いてないのか?ここは作業場だ」
「作業場?何それ?」
「まぁ、いいから入りましょう!」
無理やり押し込まれた。
「おお!ここか!」
「すごい!広い」
「そりゃあ、100坪中、90坪が作業場だからな」
本当に階段と廊下以外は完全に作業場になっていた。
「こりゃあ、驚いたわい!ただの変態ではなかったか!」
「おい、お前ら。これはいったいどういう事だ」
「えっと……私たちって生産職じゃん?」
「まぁ、そうだな」
「で、今俺たちは作業場を運営から借りている状態だ。そしたら普通に自分の施設が欲しいじゃん?」
「意外と金もかかるしのぅ、お主らが一番の客じゃから近くに作業場と住むところがあった方がええと言って作ってもらったんじゃ」
「他人の金で?」
4人が武器を取り出す。
「違う!それは誤解だ!ちゃんと自分たちで金を集めて作ってもらったんだ!」
「その代りギルドに入って貢献するし」
正直ありがたい。
「良いのか?生産ギルドじゃないぞ?」
生産ギルドは生産職のみで集まったギルドだ。新しいものを生産するときにほかの人からアイディアをもらったり、自分の持っていないスキルを持っている人に手伝ってもらうことができるのが長所。
うちはみんなで話し合ったがなるべく戦闘系ギルドに近い形にしようとしていた。
「俺はお前らからの仕事がほとんどだから問題ない」
「あんた達と一緒の方が防具のメンテナンスが早くできていいでしょ?」
「おぬしらといると最新素材が手に入りやすいしの」
「まぁ、何よりこの馬鹿と一緒だと楽しいからな」
嬉々……。
「ツンデレ?ごめん俺、そっちの気は無いんだけど」
「友達辞めるぞ?」
「ごめんなさい!」
「それは良いとして別に良いでしょ?」
「ああ、私は腐属性も持ってるぜ」
「ちょっと、モックは黙っておこうか。ギルドに入っても問題ないでしょ?」
「うちとしては入ってもらえると助かる。やってもらいたいことがあるからな」
「なんとなく解るけど何?」
「後で話す」
うちもいろいろ人材不足なんですよ。
で、3階へ
「ここは?」
「基本的に個人の部屋5部屋に大部屋が1部屋だな。先生たちの希望通り、和室を2部屋作った。大部屋も和室だ」
「おお!よかった!ベッドは寝にくくて仕方がなかったんだ」
「うむ、助かる」
2人とも実家は和室だそうです。
「じゃあ、残りは?」
「こいつらで使うって、寝るだけのスペースがあれば良いって。それでも3階は150畳あるから一部屋当たり平均25畳。かなり広い」
後で聞いた話だが1坪=2畳だそうだ。4畳半でも十二分に生活できるのに、こんなにスペースいるのか?トイレとか風呂を入れても広すぎる気がする。
「そんなにスペースいらない。寝て、トイレがあって、シャワーがあれば良いんだけど」
「右に同じ。どうせ寝に来るだけだし」
「この年になると掃除はちと面倒でのぅ」
「だからお前らには6畳+トイレ風呂の15畳の部屋しか用意してない」
「ちょっと見てくる」
先生たちがバラバラ別々の部屋に入っていく。
「なんだこれは!!?」
村雨先生の怒号が響く。なんかフラグかな?
「モック!貴様!なんてことをしてくれたんだ!!」
先生がモックに詰め寄る。
「な、なんでわざわざ虎鉄の部屋とつなげたんだ!」
「いや、だって和室が離れてるとバランスが悪くて。後は私なりのサービス」
「モック」
虎鉄先生がモックに手を差し出している。そしてがっちり握手。
「貴様らはバカだ!!愚か者が!き、切り殺す!!」
「いやか?」
「い?いや、別にそういうわけじゃ……はっ!?」
もう皆ニヤニヤが止まりませんわ……。
「しばらくそうやって話しててくださいな。俺たちは上に行ってるから」
「あ、ちなみに風呂も共同だから」
「も、モック貴様ぁあああああああああああああああ!」
「待て、村雨、落ち着け」
「お前もか!このスケベがああああああああああああ!」
刀と刀のぶつかる音が聞こえ始めた。あの夫婦怖いわ。
「さ、今のうちに4階に行きましょう」
「白雪も随分図太くなったな」
「そうですか?夫婦喧嘩に巻き込まれるのは嫌だったので」
「あ、いやだったんだ」
「なんかイチャイチャしてるようにしか見えなくて」
「おお、仲間、仲間」
「だよね、どうせ今頃、抱きしめあってるから」
「え?抱いてる?お前ら卑猥だな」
「そこの難聴が原因だけどな」
ここで「私褒められた?」と言ってるからこの変態は困るんだ。
「で、4階は?」
「狼の部屋だな。基本的にはギルマス用の部屋とサブマスの部屋だ」
「へぇ、で、私室はどこですか?」
「ギルマスの部屋とサブマスの部屋の中にあるぞ」
「え?私の部屋は?」
「だからサブマスの部屋の中だって」
「え、私がサブマスなんですか!?先生じゃないんですか!?」
「あれ?言ってなかったっけ?じゃあその話も後程」
おかしいな、言ったと思ったんだけどな。
「まぁ、私室は言われたとおりに作ってあるから」
「うー……気になってそれどころじゃないですよ……」
「ちゃんといい部屋にしてあるから」
「ほら、ご注文のモフモフ人形ですよ」
「あ、アテナさんありがとうございます!」
アテナから白雪の手に渡ったのは黒い犬と白い犬のぬいぐるみだった。
「ふふ、モフモフだ。見て!これが冬くんで、こっちが私なの!今先生たちも作ってもらってるの!」
「ふふっふ。完成してないと思ったのかね?すでに完成しているのだ!この通り!」
「蜥蜴と松の木なのにモフモフだ~」
何とも形容しがたいのだが、モフモフなのだ。
「部屋に飾ってきます!」
白雪はパタパタと走って行った。
「白雪、意外とああいうのが好きなんだな」
「女の子だったら大抵好きなんじゃない?私は作るのが好きだけど」
最近夕方(寝起き)にちまちまとアイテムを集めに行ってると思ったらこれの材料集めだったのか。
「これの請求は?」
「あ、未だだった。……もしかして?」
アテナがにやにやしている。
「俺が払うよ。けど、俺が払ったことは黙ってろ」
「なんで?格好つけたいんじゃないの?」
「別にそんなんじゃねーよ。白雪にはサブマスとしてこれからいろいろ迷惑かけるからな」
別に好かれたいわけじゃない。ただここ最近あまり元気がなさそうだったから少しでも良い事が増えると喜ぶかと思っただけだ。
「ふーん。ま、黙っておいてあげるわ。一つ800Mね。材料はもう貰ってるから安心して」
「安いな」
「あんた金銭感覚狂ってるわよ」
「?そうかな?」
ひとつ800円ぐらいだから安い方だろ?
「まぁ、いいわ」
彼女は800×4=3200Mを受け取った。
「あんたほんとダメ人間ね」
「?」
「まぁいいわ。私からの完成祝いってことにしておいてあげる」
「助かる」
彼女が戻ってくるとアテナは声をかけた。
「どう?気に入った?完成のお祝いでタダで良いわ。家の中に勝手に作業場作っちゃったし」
「そんな!悪いです!むしろアテナさんが来てくれてうれしいですよ!」
「もう、白雪は可愛いなぁ!」
くそっアテナめ。あてつけか?俺がそういうことできないと解っていてのあてつけなのか!?
「気にしなくていいのよ。思わぬところで臨時収入もあったし。私は誰かさんと違ってちゃんと財布の管理は出来てるもの」
む?俺の事?俺も自分の財布くらいなら管理できてるぞ?ちゃんと金庫に入れて保管したり、装備に括り付けて掏られない様に対策もしてたり、いろいろ管理してるんだけどな。
「良いんですか?ありがとうございます!」
こっちまで笑顔になりそうな笑顔がアテナに向けられている。羨ましいがまぁ、喜んでくれているだけで満足だな。
「あ、冬君の部屋は?」
「ああ、見に行くか」
自室の前に来たわけだが。金属で出来たオオカミの装飾のドアノブにほかの部屋とは違い両開きになっている仰々しい扉だ。なぜ?
「ギルマスだから?」
「いや、ここは会議室としても使うからちょっと格好良くしてみた」
「え、俺の部屋会議室の奥なの?」
「当たり前だろ。ギルマスなんだから」
その当たり前はお前の当り前であって俺の当り前じゃないぞ、嬉々。
「ギルマスなんだから一番忙しくて苦痛の多い所にいないと」
え?会議室ってそんなところなの!?※おまけ2参照
「部屋も一番大きくしてある。ベッドもキングサイズでトイレも広い。すぐ近くにデスクワーク用のデスクも用意してある」
「ひ、広すぎない?俺一人なんだよ?」
一般家庭で育った俺には落ち着かない広さである。
「確かにちょっと広めに作ってあるけどこれぐらい普通じゃね?」
最近思ったけどこのゲーム金持ちが多いよね。高々ゲームに10万以上積む人なんて金持ちだよな。家みたいな例外はあるだろうけど。
「うちは庶民だからその感覚は共有できない」
「?みんな庶民だろ?」
そういう事って自分を基準にするから解らないんだよね。
「まぁ、いいか」
あとでこっそり狭くしよう。
「家の中は以上だ。で、異論は?」
「ない」
「なしです」
「ない」
3つ目の声は会談の方から聞こえた。声の主は虎鉄先生だった。
「あれ?村雨先生は?」
「説得した。今は動けない」
「何やったの?」
「虎鉄先生、なんかすっきりしてる?」
「気のせいだ」
何があったかは俺には分からない。
「よかった、説得してくれたの?」
あからさまに安堵の表情をしながらモックが言う。
「当然だ。俺は気に入っている。むしろよくやった」
「お、おう……」
虎鉄先生が珍しく感情を表に出してモックがたじろいでいる。
「なら、宴だろ!」
一階の食堂でどんちゃん騒ぎが始まった。
「飲め!喰え!あ、お前ら未成年は呑むなよ?飲むのは良いけど」
「先生!二人はどこまでいったの!?」
「大きな声じゃ言えないところ度までだ」
「コラ!虎鉄!」
そんなどんちゃん騒ぎの中、白雪が話しかけてくる。
「冬くん」
「ん?どうした?」
「今朝の話の続きなんだけど、いいかな」
そうだ。浮かれていて忘れるところだった。
「ん、ここだとまずいか?」
周囲を気にする白雪の様子から外へ出ることを提案した。
「ごめんね、あんまり、他の人に聞かれたくなかったの」
「ああ、それは別にいいよ」
これって告白フラグ?
「見て、冬くん!ほら、星がきれい!」
空には本物と見紛うほどの満天の星空、いや、これほどの星空は明るすぎる現実では見れない。
「ギルマスの冬くんにだけ、話しておきたかったの」
白雪は背中を向け、ただ、空を見て、つぶやくように言葉を漏らす。
「私、星空を見たのこれが初めてなの」
俺は耳を疑った。
「それは、どういう意味?」
「私、現実ではずっと病気で外に出たことがないの」
「な!?……いや、少し心当たりがある」
不思議に思っていたことが何点かある。まず不思議なほど白い肌。彼女は肌の色をいじっていないとモックが言ったのだ。外に出歩けば多少は日焼けする。ましてや今は夏休み真っ盛りだ。まぁ、女性なので日焼け止めを塗っているのかのかと思った。
「暴走族をしらない」と聞いた時も不思議に思った。ほぼ絶滅しかけているとはいえ、友人と会話で1回や2回ぐらい出てきても不思議じゃない単語だ。ドラマや漫画でも出てくる時もある。もちろん、彼女がお嬢様だったら知らなくても不思議じゃないんだが、それにしても、と思ってしまったのだ。
「さすが、冬くん。ばれてないと思ったんですけどね」
「でも、初め会った時は、友人と待ち合わせしてたって。……ああ、そういう事か」
「リアルでの友人ではなく、前のゲームでの友人です。そこで身に着けた常識も少なくなかったです。女性同士の格闘ゲームだったのでお父さん以外の男性とも話したことが無かったんです。あの店で何回か食事をした時に冬くんを何回か見かけました」
「え!?全然気が付かなかった!」
「でしょうね。私、怖くてすぐ隠れてましたから」
ちょっとへこんだ。でもすぐに仕方がないと割り切った。
「でもあの時は隠れなかったんだ?」
「ええ、あんまりにもおいしそうに食べてて、つい隠れるのを忘れちゃって」
「なるほど」
「私、ずっと病院食で、食事って楽しいものだっていう感覚がほとんどなかったんですよね。たまに見るテレビや雑誌の情報だけしか解らなくて」
「こっちに来てもあのゲテモノじゃあ仕方がないか……」
「あれ、つらかったんですよね。だから余計に……。そしたら、冬くんの方から話しかけてくれて、ちょっと怖かったんですけど、話し方も優しかったし、奢ってくれるって言うし、いい人なんだなって」
純粋すぎ。そこから間もなくして下心が出てくるなんて言えないな。
「ちょっと話がそれちゃったけど、たとえ、このゲームが終わっても会えないの」
「……そんなことない。病院の名前教えて。みんなで行くよ」
「クリアしたら教えるね」
彼女は笑っていたが少し、悲しそうな目をしていた。
「なら、絶対クリアしないとな!」
「ふふ、楽しみにしてるよ」
「そろそろ戻るか」
あんまり長居していると戻った時に茶化される。
「私、冬くんに出会えてよかったです!」
「ああ、俺もだ。でも死亡フラグ作ってないで、さっさと中に入ろうぜ」
「ふふ、そうね」
白雪と中に戻った。ちょっとだけ茶化されたけど、それよりも先生たちの話題で持ちきりのようだ。俺たちが居なくなったところで18歳以上禁止の話題になっていたようだ。ちょっと混ざりたかったかも。
おまけ1
アテナ「ふーん。ま、黙っておいてあげるわ。一つ800Mね。材料はもう貰ってるから安心して」
冬「さすがアテナ!俺たちにはできないことを平然とやってのける!そこにしびれる憧れるぅ!」
嬉々「それ、言いたいだけだろ?」
おまけ2
営業マン用語講座
会議室
会議を行う部屋。
別名、時間の無駄部屋、睡魔の住む部屋、お説教部屋。
営業成績を発表したり、今後の方針を決める会議をしていることがあるが、
長い会議に限って対して中身がないことが多い。また、関係のない会議に
立ち会うと非常に強力な睡魔に襲われる。空いている会議室は先輩からの
ありがた~いアドバイスが聞ける部屋に変わることもある。




