31話 錬金と賢者
錬金と賢者
「アテナ!アテナ!」
「うるさいわね!今交渉してるんだら黙ってて!」
アテナは露店街に仮店舗を出店していた。NPCから一定期間、店を借りれるシステムだ。このシステムはある程度まとまった金が必要だが家一軒買うよりマシだ。寝泊りもできるし、ここで作業もできるのでお得らしい。
交渉相手はローブを着た老人だ。
「で、どうですこのローブいかにも錬金術師って感じでしょ?それで、この防具の特性で錬金術の成功率が2割アップするの。それで素材なんだけど」
「ちょっとアテナ!その人もしかして錬金術師か!?」
「そうよ、だから何?うるさいからすっこんでて。それで材料なんですが」
「ちょっと待ってくれ!!錬金術師さん!これ、これ見てくれ!」
「うむ、割引券か?それがどうしたのじゃ?」
「ちょ!冬!邪魔しないで!」
「これで割引券竹を作ってほしい!」
「なるほど、大きな買い物をするようじゃな」
細かく買うのであれば別に一つにする必要性はないのだ。
「で、お主、報酬は?」
「あ、お金無いや。どうしよう」
「はいはい!お金がないならあっち行ってようね~!」
悔しいが反論できない。店の隅に追いやられました。
「で、材料なんですが、こっちだと夜のモンスターの素材が必要で、オオカミの毛皮とヘビの鱗、それから牛革、羽毛ですね」
どんな装備だよ。と思いながら会話を聞くことしかできない。
「うむ、持っておる。しかし、儂はこっちが欲しいのじゃが……」
「こっちは……正直お見せしておいてなんなんですが、まず素材が集められないと思うんですよね。私もデザインだけは用意したんですが……材料が足りなくて作れないんですよね」
「何の材料じゃ?儂が作れるかもしれん」
「いや、モンスター素材なんで錬金では無理ですね」
「うむ……なんのモンスターじゃ?」
「砂漠のサソリとキメラです」
「なんと……いやしかし、納得じゃ。サソリはあれじゃが、現状キメラは不可能じゃのう。討伐されたという噂も訊かん」
あれ?チャンス到来?
「ははは、ですよね」
「うむ、仕方がないのう、こっちで手を打つかのぅ……」
「ちょっと待った!」
「何よ!うるさいわね!商売の邪魔する気!?ブラックリストに入れられたいの!?」
「違う!むしろ商売の助けだ!キメラの素材ならあるって」
「何言ってんの。どうやってあの化け物を倒したっていうのよ。あんたがたったレベル2で参餓狼を倒したのは認めてるけど、今回のはありえない。キメラはレベルが20以上のパーティが5つも全滅してるのよ?」
「俺だって死にかけたけど倒せたんだよ。これを見ろ!」
キメラの素材をカウンターに置く。
「どうよ、どうよ!」
「鑑識眼。おお!確かにキメラの素材じゃ!なるほど、これはこれは、ほほう!おお!」
「この爺さんどうしたの?」
「鑑識眼っていう鑑定スキルの上位よ。素材アイテムからモンスターの情報や物の情報を調べることができるの。スキルの○○術と鑑定で習得可能なんだけど、まぁ、普通なら鑑定に毛が生えた程度なんだけど、あの人のはレベルが高いからいろんなことができるのよ」
「うむ、持ち主よ、キメラの特徴が分かったぞ」
メモを渡された。
そこにはキメラの大きさ、体力、弱点、属性、攻撃の種類、致命傷になった技までしっかりと書かれていた。
有用スキルか。まぁ、生産職なら必ず持っていると言ってもいいスキルの上位版なら間違いなく有用スキルだとは思っていた。が、レベルが高いとそんなにすごくなるのか。
「これで少しは攻略の役に立つじゃろう。もちろんお主が情報を公開すればじゃがな」
「公開する相手がいないから爺さんが公開しておいて。で。その素材やるから錬金してくれよ!」
どうよ!最近俺、交渉上手になってね?
「お主、正気か?」
「これをほかのユーザーに売ったらかなりの金額になるんじゃない?因みに店売りだといくらよ」
「ん?400ぐらいだな。別にレアリティは高くないし、二人で10は持ってる」
「あんた馬鹿ね。今までの経験からその10倍、いや100倍で取引されるわよ。しかも単価あたりでね」
「え……」
4000M?え、トータル4万M?そんなのがあと10種類あるからざっくり40万Mか?
「それでもくれるって言うなら貰ってあげるけど?」
だが甘いな。
「この紙には50万Mの価値があるんだ」
「そんなに大物を買うのか?ざっくり150万ぐらいの買い物をすることになるんじゃぞ?」
「あ、あんたまさか、もう?」
「おう。土地を買うんだよ」
「なんと……もうそんなに金が集まっているのか」
「おう、で、どうする?作ってくれる?」
「うむ、よかろう。作ろう。その代り素材を頼むぞ」
交渉成立!
「まぁ、いいわ。ほら、材料よこしなさい」
カウンター越しに請求されたアイテムを積んでいく。
「ほら、これでいいんだろ?」
「うわ♡これで私のスキルのレベルがまた上がる♡」
「お前もあれだよな。変人だよな」
「あんたに言われたくないわよ!仕上がりは2時間後になります。それぐらいにまたお越しください」
そういうとアイテムを持って奥へ入っていく。なんて変わり身だ。
「じゃあ爺さん。これ渡しておくからよろしく」
「コラ!君は何でそんなに簡単にアイテムを人に渡すんだ!」
「え?別に問題ないでしょ?いい人そうだし」
「名前も知らない相手だぞ!何を考えているんだ!」
「そこの少女の言う通りじゃ、フレンド登録を行っておくかの。これで名前と連絡先ができたじゃろう」
「さすが爺さん助かる」
「ほほほ、気にするでない。それに逃げる気はない」
そういって爺さんはその場に釜を置いた。
「ほれ、ここに割引券を入れなさい」
俺が3枚紙を入れると爺さんはそこにねばねばしたアイテムを入れる。
「これはサソリの体液とスライムの体液と羽虫の体液を混ぜた。謎の体液を入れる。これが接着剤の役目を果たすのじゃ」
「材料は知りたくなかったです」
「ほほほ、わざとじゃよ」
良い性格してるな。
「これが錬金術の弱点でもあるからの。女性や若い男が少ないのじゃ」
現代っ子や都会っ子には厳しいかもな。
「ここにお主の血を少し入れて銀の匙で混ぜる。少し血をくれ」
親指の先を噛み、血を出す。
「うむ、これで完成じゃ」
出来上がった紙をこちらに渡してくる。
「どれ、鑑識しておくかの。ほれ、これでお主らにも詳細がわかるじゃろ」
割引券竹:NPCの商品を3割引にする。
「おお!ありがとうな!爺さん!」
「ニコラじゃ。ニコラ・フラメル。それが儂の名前じゃ」
「賢者の石の人ですね」
「お嬢ちゃん詳しいのう」
「読書が好きなので何度か名前を見たことがあります」
おかしいな。俺の読んできた本には一切出てこなかったんだけど。え?マンガじゃダメなの?
そろそろ2時間か。行ってみるか
「いらっしゃい。できてますよ」
出てきたのは黒のローブだ。それに同色の帽子と腰ヒモにマント、靴は革靴。腰ヒモはベルト状になっており、金具の色はシルバー。ヒモの先は金で締めくくられている。よく見ればローブの後ろと帽子にはグレーでウロボロスの刺繍がなされている。帽子はまだしも背中のやつはマントで隠れるだろうに。
「ほほ!これはこれは!さすがの腕前じゃのう!わしの注文通りじゃ!」
「デザインは単純でしたからね。問題は扱う素材が高難易度で苦労しましたよ。さっそく装備してみてください」
ニコラは一度自分のアイテムボックスにすべてしまい、画面を出していじっている。
「完了じゃ!」
おお!なんか錬金術師らしさが上がっている。
「これでまた器用さが上がったわい。礼を言う」
「いやいや、俺たちも助かったし問題ねーよ」
これで100万近くまで落とせた。土地は先に買っておいて、前金50万Mを払って、また金を集めれば問題ないだろう。
さぁ、建築の時間だ!




