15話 能力と馬鹿
能力と馬鹿
誰もいない裏路地にぽつんと露店があった。
「嬉々さん、こんにちは」
「やあ、アテナ。君の方からくるなんて珍しいね」
オールバックにサングラス、無精ひげに顔の十字傷、つなぎの作業着、腰には作業用の道具がびっしり。全身から怪しいオーラが出ている。
「うん。今日はお客の紹介よ」
「ん~?その服、その獲物、あんた噂の謎のナックル男か」
「は?いや、確かにナックルは使っているが」
「昼は街にいないのに4時ごろからフラッと現れて危険な夜の森に入っていく。その武器は爪の様なナックル。防具は誰も作ったことがなかった狼系」
防具の話が出た瞬間、アテナがニヤッとする。
「見たことのない奴はモブじゃないかよか、イベントキャラとかいろいろ言われてるけど、やっぱプレイヤーだったか」
確かに人と交流の出来ないプレイスタイルになっているが何もそこまで言わなくても……。
「で、そんな人間が俺のところに何の用だ?」
「酷狼の爪」を差し出す。
「こいつの修理を頼む」
「ん?こいつは、修理不可だな」
「何!?」
「自分の作ったことのないアイテムは修理できないなんだ。ましてやレアアイテムじゃ更に難易度が上がる。今の俺じゃ確率はゼロだな」
「じゃあ、どうするんだよ」
「武器の種類はナックルだな。なら、強化は出来るはずだ」
ナックルなら?
「俺はナックルとか不遇武器を造るのが好きでな。ほら」
露店に並んでいるのはナックルに隠し武器、大盾に大鎌、手裏剣やクナイ、スプーンにナイフのネタ武器の数々だ。
「ここに並んでいるのはその癖の多さに使う人がいない武器ばかりだ。だがな、俺はこういう武器を使い続ける馬鹿が大好きでな。なんていうかチャレンジャーだよな。熱いよな!そういう熱いバカに俺は武器を提供してやりたいんだ」
おお、まさに変人だ。だが、
「別にナックルは不遇ではない」
「お前はそうじゃないかもしれんが世間一般では不遇なんだよ。たとえば敵との近さ、これは何もリーチだけの話じゃない、恐怖だ。敵と真正面でしかも至近距離で相対するというのはかなりの恐怖を感じるんだ。ましてやVRじゃ、痛みやにおいが伝わる。なるべく、近づかず、なるべく敵を倒したいっていうのは心情として出てくるもんさ」
そういうものなのか?
「もちろん、ゲームだと割り切ったやつもいるし、痛みはシステムで切ることもできる。でないと接近戦職が減って困るからな」
「じゃあ、別に不遇じゃない」
「それ以外にもまだあるから不遇なんだよ。威力の小ささだ」
「そんなことないって。攻撃力+10だぞ?」
「馬鹿か?剣なら初期で+15だ」
そんな馬鹿な……。
「手数が多い分ほかの武器の半分以下に設定されている」
「えぐい……」
「もちろん、ステータスなんかにも左右されているがやはり武器の威力っていうのは重要なんだ。まぁでなけりゃ武器職人なんていないんだがな」
「だが現に冬は夜の森のボスの体力をゴリゴリ削っていたぞ?」
「おい、あんた、ステータスを見せろ」
「お、おう」
ステータス画面からすべて表示を選択。
名前 冬
性別 男
レベル 17
類 哺乳類系
種族 オオカミ
個体名 なし
LV17
HP200+10
MP60+10
STR90+20
VIT75+60
DEX60+45
AGI70+35
INT30+15
防具頭:狼のフード。狼の頭を模したフード。VIT+5、DEX+5、INT+5。
防具胴:狼の軽鎧。狼の皮と骨でできた鎧。VIT+20、DEX+5、AGI+5。
防具腕:狼の小手。狼の骨と爪と皮でできた小手。VIT+5、DEX+15。
防具腰:狼のベルト。ヘビの皮と狼の皮でできたベルト。VIT+5、DEX+5。
防具脚:狼の脛当て。狼の牙と爪と骨を鉄鉱石でまとめたすね当て。VIT+5、DEX+5、AGI+20
防具首:狼の首飾り。狼の牙をまとめて作った首飾り。一部ヒスイを使用している。STR+10。ヒスイのおかげで麻痺耐性アップ。
防具飾:狼のマント。狼の毛皮を使用している。STR+10、VIT+10、DEX+10。
セット防具のためすべてのステータス+10。
スキル:連打LV1、回転打撃、スラッシュLV4、かみつきLV2、波動LV1、鎧通しLV1
パッシブスキル:対アンデットLV1、カウンターボディLV1
オオカミのパッシブスキル:睨み、夜行性、危機察知、肉食
俺が成長をかみしめているのにみんなはだんまり。
沈黙を破ったのは嬉々だった。
「あんたいかれてやがるな!」
げらげらと笑っている。
「このステータス。どんだけパワー押ししてんだよ。頭使ってねーな。馬鹿だバカ!」
だって、魔法なんて使わないし、手数で押さないと敵が死なないし。
「スピードと器用さも高いな。意外と技巧派ってことか」
それは回避しまくってるからで、器用さもたぶんカウンターしまくってるから。
「たぶん、直感だな」
「直感バカ!」
またしても嬉々が馬鹿笑いしている。
「スキルも見たことがないのが多いな」
「連打ってのはあのラッシュの上位系だろうな」
いわく、ラッシュはせいぜい2~3回当てるのが精いっぱいなので誰も使わないらしい。
「回転打撃とか、ハンマー使いのスキルだろ。スラッシュは、剣士だろ。矛盾してやがる!」
だって、爪が斬撃扱いになってたんだから仕方がないだろ。
「てかかみつきってなんぞ。お前モンスターにかみついたのか?バカだろ!」
あれは成り行き上仕方がない。
「波動とか、鎧通しなんて聞いたことねぇwwww」
いじめか。
「くそっ!泣くぞ!」
「わかった、悪かった。いやしかし、ステータスに関してはレベルのせいもあるな。おそらくお前らはトップレベルだな」
「なぁ、嬉々、ナックルの強化は出来るんだよな?」
「ああ、できるぞ。貸してみろ。スキル『鑑定』」
そう唱えるとサングラスの奥で嬉々の目が光った。
「なぁ先生あれ何?」
「あれは鑑定ってスキルでアイテムの性質や特性を見ることができるスキルだな。たとえば私の刀なら」
小太刀+:刀より短く、短刀より長い刀。派生が多く存在する武器。
「まぁ鑑定のスキル力が少ないときに見てもらったものだからあまり詳しくは解らないがプラスが付いたり派生の有無、さらにレベルが上がれば強化に必要なアイテムが解る」
おお!すごいな!
「まぁ、武具に限らず、普通のアイテムも見ることができる。生産職ならだれでも持っているだろう」
生産職のたしなみってやつだろう。
「終わったぜ」
「なんの素材が必要?」
「中ボス参餓狼のアイテムだな。爪、牙、骨がそれぞれ3つってところだ。それと金も5000ほどもらう」
「ほら」
「あっさり出てきすぎだろ!」
「まだ余ってるからOK」
「うわっ……まぁこれがあれば20分ほどでできるだろう。っとそっちのあんたのも作るか?」
「私のは小太刀だ。できるか?」
「これもまた不遇だな」
「なんで?」
「帯に短し襷に長し。威力では刀に負け、手数では短刀に負け、中途半端と言われているが、この小太刀は良い小太刀だな。手数を増やすための付加が付いている。これなら短刀なみの手数で威力もそこそこだな」
「なるほど」
「それを強化してほしい」
「派生が多いな。蝙蝠の小太刀か、蛇の小太刀、狼の小太刀、蜥蜴の小太刀、怪鳥の小太刀、香魚の小太刀だな」
「最後の3つは知らないな」
「うむ、蜥蜴は持っている。昼の森の雑魚と中ボス。怪鳥は西の町から行ける砂漠、香魚は東の町から行ける川と海で出るらしい」
「なら蜥蜴でいいか?蜥蜴の皮が3と蜥蜴の骨が5と小太刀。金は4000Mで」
「か、金……」
防具の代金を払ったのでもう空っ欠のようだ。
「出そうか?」
「……ダメだ。ちょっと素材売ってくる」
「うちで買い取るぞ?あんたら相当夜の森に入っているみたいだからな」
「ああ、そうだ落ちてるアイテムとか売れば……あ、そっかクエストだ」
「?」
おまけ
冬「そんなバカバカいうな!お前は〇橋留美子先生のツンデレヒロインか!」
嬉々「いや、違うけど」
冬「解っとるわ!」