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第7話 そして始まる学園生活



学園生活が本格的にスタートです!

初日なのでやりたい事を色々と抑えました。

今回は自己紹介と少しだけです。



クラスのやり取り、生徒会、学食、学園巡り、放課後の買い物等々はこれからどんどんと展開していく予定です!


汐咲市巡りなんかもこれからやっていきたいですね。



では第7話、始まります!



 


四月中旬の汐咲学園。

高等部一年A組の教室で、朝のHRの時間に転校生がやって来る筈だったのだが。


「あ、ども……」


「「「………」」」


何と教室に入ってきたのは顔面が自主規制のモザイクで隠れている制服姿の何かだった。


いきなりの変なものの登場に男子は勿論、先程まで色めき立っていた女子達もドン引きである。

教室中が一斉に言葉を失っている中……


「え、えっと……貴方月ノ宮君、よね?」


「はい。そうですけど?」


紗香が何とかそう尋ねた。顔面自主規制はさも当たり前のように頷く。

正確にはモザイクなので頷いたかは分からないが返事からして頷いたようだ。


「………天城さん?

これは一体どういう事?」


「いや、まぁ本当に色々あって。私は何もしてないんですけど……」


彼女は教壇からジト目でそう言うと真ん中の列の後ろの方の机に座っていた晴香が苦笑混じりに答えた。


「まぁ良いわ。時間も無い事だし……

取り敢えず、自己紹介できる?」


「はい」


紗香はため息を吐くと扉付近に立っている顔面自主規制に話しかけると、彼は教壇の前まで歩いてくる。

そして黒板に比較的綺麗な字で名前を書いてゆく。


「月ノ宮駿です。

西側の方から越してきました。好きなものはしず……じゃねーや、まぁ何かアレ、色々あるアレ的な感じですかね。

趣味は……アレです。アレしてアレする感じのアレです。

まぁとにかく、一年間よろしくお願いします」


(((アレって何!?

ていうかほとんど自己紹介になってないよ!?)))


転校生は案の定駿だった。

彼はよく分からない説明を連発した挙げ句、勝手に紹介を終わらせてしまう。


それだけでも困惑してしまう生徒達。

更に彼のいつもの容姿は見る影もなく、めちゃめちゃになりモザイクがかけられているという悲惨ぶり。自己紹介の最中も勿論生徒達はドン引きしていて、一体何があったのかとそればかりが気になってしまう。


「あ、はい。ありがとう月ノ宮君。

えっと……誰か彼に質問とかある?」


(((その顔の理由……!!)))


紗香がひきつった笑みを浮かべて尋ねると、生徒達は一斉にそう心の中で叫んだ。

だが何か恐ろしくて、実際に口に出来る者はいない。


「じゃあ、月ノ宮君は窓側の列の後ろの方、あの空いてる席に座ってくれる?」


「あ、はい」


駿は言われた通り、その席に向かって歩きだす。

生徒達はそんな彼を何とも言えない表情で見送った。


(あ、隣だねミヤミヤ)


(ん?おお)


駿がその席まで行くと、右隣に晴香が座っていてこっそり声をかけてくれた。

二人はちょうど机が隣同士だ。


(何かと迷惑かけるかもしれねーけどよろしくな)


(うん……でもその前に病院に行った方が良いと思うよ)


若干表情をひきつらせて囁く晴香に彼は軽く首を振る。


(心配ねーよ。ギャグ補正で暫くしたら元に戻るから)


(え?その顔のこと知ってたの?)


(さっきトイレの鏡で見た)


(…………)


だったら何故教室に入る前に何とかしなかったのか。

やる気が無かったのか或いは対処のしようが無かったのか。



「はい、それじゃあ転校生君も来た事だし寝てる馬鹿も居たからもう一度簡単に連絡事項を言うわよ」


紗香が名簿を教卓にトントンと置いてそう口を開く。

時間ギリギリの朝のHRはこうして過ぎていった。

 




 

第7話 そして始まる学園生活

 




 




「はい……それではここまで」


キーンコーンとチャイムが鳴って教師が教壇から降り扉から教室を後にする。

一時間目の終了である。


「ふぅ……」


教室の後方の席に座っていた駿は息をついて持っていたペンを机の上に放った。あのモザイクトーンはすっかり取れて、顔は元に戻っている。


因みに。

転校生は初日クラスメートに囲まれるという光景がありがちだが、彼の周りに集まってくるクラスメートは居なかった。

いきなり顔面モザイクで登場したのだから当然と言えば当然だろう。

皆このとびきり変な転校生に引いていて、まだまだ声をかける勇気など無かった。


しかし、声をかけるクラスメートが一人もいないという訳ではなく……


「お疲れ〜、ミヤミヤ」


「本当に疲れたな……」


隣の晴香がそんな彼に声をかけていた。

彼はため息をついて疲れた様子を表すが、彼女もやや眠そうに目を擦っている。


駿は今日が始めての授業なのでまだ授業日程は知らない。だから教科書も持ってきてはいない。

故に彼は黒板に書かれた文字を一文字も漏らさずにノートに写していく作業を行っていたのだ。

そりゃ疲れるだろう。


その様子に晴香はうんうんと一人で頷いてみせる。


「まぁ、現代社会は難しいからね〜」


「何を言っている。後半ずっと眠っていただろ晴香」


しかし、駿のすぐ後ろから聞き覚えのある女子の声が晴香にかかってきた。

彼が振り返ると……


「神代!

同じクラスだったのか」


「ああ、奇遇だな月ノ宮」


その声は綺麗な赤い髪をポニーテールにした制服姿の神代紫だった。

彼女は駿と同じA組でしかも真後ろの席だったのだ。


彼が少し驚いたように言うと紫は薄く口元を緩めてみせた。


「それにしても、とんでもない登場の仕方だったな君は。

自己紹介するまで誰だか分からなかったくらいだ」


「まぁ……色々あってさ」


彼女の言葉に駿は苦笑して言葉を濁す。

お金を取ろうとしたらダストシュートに落っこちたとは中々言い辛い。


「大方、晴香がまた何かやらかしたのだろう。

彼女が迷惑をかけたな」


「どーゆう意味よ!

しかも『また』って!!

いつも私がトラブルを起こしてるみたいに言うなー」


「自覚が無いのは考えものだが……」


「何だとーー!」


先程の件は晴香は全く関係ない。完全に駿個人の責任である。

それを彼は伝えようとするが白熱する二人の言い合いの前に成す術なし、最早彼は見えていないようだ。


「そう言うゆかりんだって去年のストーカー騒ぎの時、勘違いの連続で無実の男子を三人も縛り上げてたじゃない!」


「い、今その話は関係ないだろう!!」


「ふふーん、どうだか。

ゆかりんの方がよっぽどトラブルメーカーかもよ」


「……上等だ。

これはもっと“話し合い”の必要がありそうだな」


「望む所よ!」


二人はそう言ったかと思うとゆらりと席から立ち上がる。

周りの生徒達は慣れているのかそんな様子にただ苦笑しているが、二人に挟まれた転校生はとにかくこの場を納めようとゆっくり口を開くが……


「あの……お二人とも少し落ち着いた方が……」


「月ノ宮は黙っていろ」

「ミヤミヤは黙ってて」


彼の言葉はバッサリと切り捨てられてしまう。

更に口論は白熱するか、あわやそれ以上になるかという時……


「全く……朝から随分と騒がしいですね」


「「?」」


後ろの扉の方から男子の声が聞こえてきた。

二人は勿論、駿もその方向に顔を向けるとそこには……


「あ、ゆっ君」


「相良か」


生徒会書記、相良悠一がやれやれと肩を竦めながら教室に入って来た。

彼は駿と同じ黒いブレザーに黒いズボン、手には学生用の鞄を持っている。


彼は窓側までやって来ると立っている二人交互に見て、その後に


「朝から元気なのも結構ですが、挟まれた彼が困っていますよ」


「「あ……」」


彼女達は席に座っている駿に目を向けて声を洩らす。


「す、済まない月ノ宮。

忘れていた……」


「いや〜、ごめんね。ついつい……」


二人は慌てて彼に謝ると大人しく席についた。

どうやら熱くなっていたので先程彼の言葉をバッサリと切り捨てたのは無意識だったようだ。

駿は二人に大丈夫だと返すと悠一に顔を向ける。


「助かったよ、ありがとう」


「いえいえ、お気になさらず。

しかし、駿君の転入先はうちのクラスだったんですね」


悠一はこのクラスの人間なのに駿が先程A組に転校してきた事を知らないような口振りだ。

彼はそう言うと、駿の左隣の席まで来て机の上に鞄を置いた。

そういえばそこの席はHRと一時間目は空席だったが、もしかして……


「え?相良もここのクラスなのか?」


「ええ。

今日は生徒会の用事でどうしても外せない仕事がありまして、朝のHRと一時間目は欠席していたんですよ」



なるほど朝のHRに居なかったのならば、駿が来たのを知らなかったのも頷ける。

彼も駿達と同じ一年A組だという。

どうやら駿の左隣の席が彼の席のようだ。


「おや?ミヤミヤはゆっ君と知り合いなの?」


「ああ、昨日学校は案内して貰ったんだ。

もみじ先輩と一緒に」


晴香の質問に駿は昨日の事を思い出しながら答える。それに悠一コクリとも頷いてみせた。


彼女達も悠一とは知り合いらしい。

その口振りからは比較的長い付き合いようだ。



「しかし珍しいな。

相良が授業に出ないとは。それほど忙しい仕事だったのか?」


「いえ、本来はいつも通りの仕事だったのですが……まぁいつも通り長引きまして」


紫の言葉に彼は微笑しつつもため息をつくと、自分の席について体を三人の方に向けた。


「それにしても、転校初日からとんでもない登場だったそうですね。

さっき廊下で聞きましたよ」


「マジでか」


ニヤッと笑う悠一にもう噂になっているのかと反応する駿。


「おお、早くもミヤミヤ話題になってるんだね」


「まぁ、あれだけ衝撃的な登場だったらな」


晴香と紫もそれに釣られるようにクスリと口元を緩める。



「授業始めまーす」


と、授業開始のチャイムが鳴り担当の先生が教室に入って来た。

生徒達は急いで席について教科書やらノートやらを取り出す。


(静は無事にやってるだろうか……)


駿も同じくノートを広げながらぼんやりとそう考えるのであった。




・・・・・・




キーンコーン……


「あ〜、疲れたよ〜……

午前中に数学とか日本の教育は間違ってるよね」


「どんな所で文句言ってんだよ」


三時間目の授業が終わると同時、晴香がそうぼやいて机に突っ伏した。

駿もペンを机に置いてノートを閉じようとしたが……


「ん?」


周りの生徒達は何故か帰り支度を始めていた。

よく見ると隣の悠一や後ろの紫もだ。


「え?今から昼休みじゃないのか?」


「いや、今日は三時限で学校は終わりだぞ。

先生方の定例研があるそうだ」


周りをキョロキョロと見回してそう尋ねる駿に後ろの席の紫はそう教えた。



「もしかして、駿君はまだクラス日程を貰っていませんか?」


「あ、そういやそだな。

教科書とか授業予定とかは今日の夜届くって言ってたけど」


悠一の言葉に彼はポンと手を打ってみせた。

言われてみればクラス日程が無ければ知らないのも当然だ。


「だったら職員室まで貰いに行った方が良いですね。付き合いますよ」


「済まん、助かるよ。

後、名前呼び捨てで良いぞ?男同士で何となく堅苦しいのって苦手でさ。いや、無理なら良いんだけど」


駿はお礼と共にそう付け加えた。

男子に君付けで呼ばれるのは慣れていないのか。

そんな彼の言葉に悠一はなるほどと頷いてみせた。


「確かにそうですね……分かりました。

では、会長に便乗する訳ではありませんが僕の事も名前で」


「ああ、んじゃ改めてよろしく悠一」


「ええ、よろしくお願いしますね駿」


同じクラスとなったので改めて挨拶を。

二人は軽く握手を交わした。


「おお〜!

男同士の熱い友情が芽生える瞬間だね!」


「それは友情とは違わないか」


そんな二人を見て何故か友情と捉える晴香にすかさずツッコむ紫。



そんな訳で三時限が終了し、いつもより早く放課後を迎えたので四人は帰り支度を済ませて立ち上がる。


「おやおや……

相也はまだ寝てるんですね」


「あ、ホントだ。

しのっち、授業終わった事に気付いて無いね」


悠一がふと気付いた様に前の席に目を向ける。

晴香も頷くその席には突っ伏して寝息をたててる男子生徒がいた。

赤みがかった茶髪を伸ばした男の子だ。


「全く……相変わらずだな篠田は」


そんな男子を見てやれやれと腰に片手を当ててため息をつく紫。


「知り合いか?」


「中等部からの腐れ縁だ。ただの馬鹿だから気にしなくて良い」


「あはは、ゆかりん辛辣だね」


駿が尋ねると紫は肩を竦めてそう答えた。

この男子生徒は彼女達の中等部からの知り合いだという。


「気持ち良さそうに寝ていますし、そっとしてあげましょうか」


「だね〜」


男子生徒はすやすやと眠っているのでそっとしておく事にした。

四人は各々鞄を持って教室を後にする。


「じゃあまた明日ね!

ミヤミヤ、ゆっ君」


「ああ、また明日」


教室を出てすぐ、晴香と紫は駿達と反対方向に別れる事に。

晴香は帰宅、紫は部活だが駿と悠一は職員室に向かうからだ。


また明日と手を振る晴香と紫に駿達も頷いて返すと職員室のある西側校舎に向かって歩き始める。



「しかし、今朝も思ったけど生徒数が多いよなこの学園」

高等部校舎から真ん中の建物の廊下を歩いている時、窓から学食を眺めていた駿が不意にそう口を開いた。

今は放課後だが、学食には多くの生徒がいた。家で昼を食べるよりここで食べる方が友達もいて良いという人が沢山いるのだろう。


「そうですね……

高等部だけで一学年平均210名、全体で600名以上になりますから同じくらいの中等部と併せて1300人以上は在校しますね」


「へぇ〜」


それは中々の数だ。

殊、それ程大きくはないこの街に置いてはそれは顕著に感じられる。

街のほとんどの中高生がここに通っているのではないか、そう思える程に。



そんな会話をしている内に二人は職員室前に到着。


「では、先生を呼んで来ますね」


「あ、悪い」


転校生は慣れるまで職員室には入り辛い。

それを知ってか悠一は率先して職員室に入っていってくれた。



数分後……


「ゴメンね〜、待った?」


「いえ、大丈夫です」


担任である紗香がクリアファイルを片手に廊下にやって来た。

その後ろから悠一も続いて出てくる。


「えっと、A組の日程プリントね。

取り敢えず四月分」


「ありがとうございます」


彼女はファイルからプリントを取り出して駿に手渡す。


「それから、妹さんの担任にも貰ってきたわ。

これは中等部C組の日程プリント」


「あ、わざわざすみません。ありがとうございます」

彼女はついでに静の分の日程も貰ってきてくれたようだ。

気を回してくれた事に感謝をして頭を下げる駿。

紗香は気にしなくていいと笑って言ってくれた。


「ま、転校生って色々大変だと思うけど頑張ってね」


彼女は片手を上げるとそう言い残して職員室に戻っていった。

再び廊下に残る駿と悠一。


「では、僕は生徒会がありますからこれで」


「ああ、今日は色々とありがとな」


そう言って軽く会釈する彼に駿はお世話になったお礼を言った。


「あ、いつでも生徒会室に遊びに来て下さい。

会長も喜ぶと思いますし」


「ああ、分かった」


「では」


悠一は職員室前から階段を上がって生徒会室へ。

残った駿は息をついて中等部のある方向に顔を向ける。


「んじゃ、妹を迎えに行くか」


そうして彼も職員室の前を後に、校舎を後にした。




・・・・・・・




「中庭にも昼を食べてる生徒も結構居たな……

気のせいかカップルが多かったような……いや、全然羨ましくないケドネ」


一人呟きながら中庭を通って駿は学園の敷地内を歩いていた。

後半の語尾は片言になっているが。


「あ〜、何だか早く静を抱きしめたい気分だ。

さっさと中等部に行こう」


思い切りシスコンな発言をしながら彼はうんうんと頷いて南側校舎に足を進めようとする。

と、その時……


「ん?月ノ宮じゃないか」


「え?」


後ろからつい先程まで聞いていた声がする。

というか……


「神代?何でここに?」


神代紫であった。

胴着姿で左腕には布にくるまれた筒状のものを抱いている。


「これから部活なんだ。

剣道場に向かう所だ」


「ああ、そういや剣道部だっな」


彼女の胴着姿はよく似合っていた。

凛とした美しい容姿は勿論、その堂々とした出で立ちもまた剣道に相応しい格好良さと美しさがある。


「ん?」


しかし、駿はもう一人の生徒が紫の後ろにいる事に気付く。


「あ、君は……」


「………」


よく見ると、それは昨日剣道場の側で出会った女の子、確か九条という娘だ。

綺麗な顔立ちに黒く澄んだ瞳。肩にギリギリ届かないくらいのさらさらとしたストレートでライトブルーの髪が特徴的な美少女。


彼女もまた胴着姿だ。

紫は紫で似合っているが、彼女は彼女でまた似合っている。


こんな美少女に出会えたのは男子にしてみればかなり幸運なのだろう。

形は覗きを疑われるという最悪な出会いだったが。


「あ、彼女はこの間の九条だ」


紫は一歩引いて紹介するように彼女に手を向けてみせた。

そういえば昨日は自己紹介すらしていない。

そう思い出した駿は彼女の方に顔を向ける。


「えっと……月ノ宮駿だ。

高等部一年A組、つっても今日からだな。

取り敢えず、よろしく」


「………」


そうして簡単な自己紹介をしたのだが、彼女はプイッと顔を横に背けた。

あからさまな拒否だ。

その反応に彼は思わずムッとしてしまう。


「九条!」


「……はい」


紫が注意するように声をかけると、彼女は渋々といった様子で無愛想な表情のまま駿の方に顔を向けた。


「……九条(くじょう)柊奈(ひな)です。

よろしくお願いします先輩」


「あ、ああ……よろしく」


しかし一転、ニコッと笑って自己紹介をする柊奈。

先程の態度から恐らく作り笑いだろうが、それでもその綺麗な笑顔にはドキリとさせられるものがある。

駿はややぎこちない口調で返していた。


「では紫先輩、私は先に剣道場に行ってますね」


「あ、九条!」


紫は止めようとしたが、彼女は踵を返して二人の前を後にした。


「済まない。

九条が失礼な態度を。本当は良い奴なんだが……」


「いや、気にしてねーよ。まぁ、昨日の事が原因だとは思うけど。俺が悪かったしな」


後輩の非礼を謝る紫に苦笑混じりに返す駿。

確かに昨日の一件は疑われて当たり前のものだ。

疑われるような行動をとってしまった彼に非があるのは言うまでもない。


「それより部活、あるんだろ?

もう行った方が良いんじゃねーか?」


「いや、しかし……」


失礼があった以上そのままこの場を去る訳にはいかない、そう彼女の顔には書いてある。

かなり律儀な性格なのだろう。


「大丈夫だって。

気にしてねーから」


「………そうか。

そう言ってくれると助かる」


その言葉が本心だと理解したのか、紫は安堵したように口元を緩めてみせた。

後輩の事はそれだけ大切に思っているようだ。


「じゃあ、また明日」


「うん」


駿は紫と別れ、中等部校舎に向かって足を進める。


帰宅で正門に向かう生徒が行き交う中、彼はやや早足で校舎に向かう。

しかし、彼が校舎に入る事は無かった。


「……静?」


何故なら、校舎から出てくる彼女を見つけたからだ。

彼女の隣には今朝、同じクラスに連れていってくれたあの女子生徒、東雲藍がいた。


二人は何か話すとお互い可笑しそうにクスクスと笑い合ったりしている。


(良かった……静も学校に馴染めたみたいだな)


その様子を見た駿はホッとしたように息をついた。


彼女にとってもこの学校が楽しい場所になってくれるか今日も不安だったのだ。だが、今の光景を見ただけでもその心配は不要だと安心した。


(しかし……)


しかし、妹の隣にいる藍を見て納得したように一人首を縦に振った。

彼女は今朝はオドオドとした様子だったが、今は楽しそうに笑っている。

晴香の言う様に、普段は明るい性格のようだ。


(邪魔しちゃ悪いな)


せっかく友達になったようなのに、自分が割って入るのは野暮だろう。


そう思い口元を緩めると、こっそりとその場を去る駿。

肩に担いだ鞄を揺らし、帰宅に向かう生徒達の流れに乗って正門へ。





「兄さん」


「?」


と、正門を抜けた所で彼の後ろから聞き慣れた声が聞こえてくる。

振り返ると案の定、両手で鞄を持った静が隣までやって来ていた。


「静?」


「兄さんの姿が見えたので。もう、帰るなら一言言って下さいよ」


不思議そうに首を傾げる駿に彼女は微笑んだかと思うと少し頬を膨らませてみせた。


「あ、えっと……友達は良いのか?」


「藍ちゃんなら茶道部があるというので、たった今別れてきました」


彼女は茶道部に入っているらしい。なるほど、よく似合いそうだ。



駿と静は肩を並べて散ってきた桜が彩る並木道を歩いて行く。


「クラスはどうだった?」


「ええ、皆優しい人達で楽しいクラスだと思います。

友達も何人か出来ました」


「そっか。良かった」


そう言って微笑む彼女に駿は再びホッとしたようにそう呟く。


「兄さんはどうでしたか?」


「そうさなぁ……」


今度は静が尋ねる。

駿は並木道の上に広がる木々を見上げると、暫し考えるように間を置いて一言。


「賑やかな生活になりそうだな……」


木々から零れる太陽の光がその言葉を確信させる。

まだまだ彼の学園生活は始まったばかりだ。



「今日のご飯は何が良いですか?」


「静の作るものなら何でも!!どんな一流レストランよりも美味しいからな!!」


「ふふ、本当に兄さんは大袈裟なんですから」


空に向かって声をあげる駿としとやかに微笑む静。

二人はゆっくりと帰路につくのだった。




 

駿

「ようやく後書きに登場する事が出来たぞ!!」


柊奈

「何で私までここにつれて来られないとならないんですか……

しかもよりによってこの人と」


駿

「ねぇ、何で俺に対してそんなに刺々しいの?」


柊奈

「覗きの現行犯ですから」


駿

「だから違うって言ってるだろ!?ってこのやり取り、本編でもした気がする……」


柊奈

「早く進めて下さい。私、部活の練習に戻らないといけないので」


駿

「くっ……何だか素直に従うのは癪だが、仕方ない。

後書きを進めよう。

えっと教室の描写が分かりにくいので一応見取り図をパソコンで書いたとらしいです」


 

挿絵(By みてみん)


駿

「まあ大体平面図にするとこんな感じの教室という事で。

見にくいかもしれないけど、青が俺の席です。赤が神代で黄色が天城。

茶色が悠一の席で、その前のオレンジが篠田って奴の席だそうです」


柊奈

「では、次は次回予告ですね」


駿

「なんだ、意外とちゃんとやるんだな」


柊奈

「勘違いしないで下さい。嫌々なのは先輩と一緒だからです。仕事はちゃんとやります、台本にも書いてあるし」


駿

「台本とか言っちゃダメだから!!」


柊奈

「次回は学園二日目のようですね。基本的に最初は一日単位で話が進むので」


駿

「聞いてないよこの娘……

まぁ、二日目は色々長くなるみたいだな。昼休みや放課後もあるし。

まだ見ぬ汐咲市の有名スポットにも足を運ぶ予定だ」


柊奈

「では、次回もよろしくお願いします」






駿

「というかな、あの一件は誤解なんだって。

偶々音が聞こえたから何事かと……」


柊奈

「私は部活があるのでこれで……」


駿

「せめて最後まで聞こうよ!?」





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