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第6話 初日からのスパークも程々に




ようやく学園です。


中途半端なキャラやクラスのキャラもここでしっかりと紹介します。

今回から次回にかけて色々とキャラクターが登場する予定です。




注)ここから先はちょっと今後の展開を少しだけ述べるので、先が一切知りたくないという方は飛ばして本編にいって下さい。







この小説には幾つかテーマが存在します。


まだまだ主人公が学校に慣れるまでは序章のようなものです。

普段の学園生活や学校行事をしたり、汐咲市を歩いたり。

ここでのテーマは『日常』『繋がり』です。



まだまだ当分先のはなしですが学校や街にもすっかり慣れて、キャラともすっかりお馴染みになってきたら、キャラクターストーリーというものが入ってきます。

登場キャラクターにも色々な事情があり、各々に物語があります。

それを主人公と絡めて掘り下げていく話がキャラクターストーリーです。

ここでのテーマは『絆』『信頼』です。


更に『過去』や『真実』などほかにも大まかなテーマにそったものが色々とありますがそれはまたいずれ。



妖怪退治は物語と大きく関わったり、ただの仕事と話だったりと色々ですが、その折々に月ノ宮家という家柄が徐々に見えてくるようにしたいのでちょくちょく挟む事もあると思います。逆に暫く無いことも。



こんな感じで進んでいく小説です。

まだまだ未定の部分も多いですが、今後とも『月ノ宮家の諸事情』をよろしくお願いいたします。

 

月曜日。


月ノ宮兄妹の汐咲学園への転校初日である。

兄は高等部、妹は中等部。

今日から晴れて二人は学園の生徒となるのだ。



転校初日は勿論、どんな人間だって緊張する。

新しい場所に、誰も知り合いが居ない場所に、既に出来上がったクラスに、たった一人で飛び込んでいくのだ。


前日は寝不足になる者もいるだろうし、食事が喉を通らない者もいるかもしれない。

そうでなくても当日の朝はいち早くに目が覚めて転校の事で頭がいっぱいになるに違いない。


だと言うのに当の兄、月ノ宮駿はと言えば……


「ぐぅ……」


自室で思い切り眠りこけていた。

現在の時刻は7時半過ぎ、転校生どころか普通の学生ですら起きている時間だ。

彼は緊張や不安とかそういうものは全く感じていないようだった。

今もぐっすり夢の中という……


「むにゃ……静、恋人なんてお兄ちゃんは認めないからなぁ……むにゃ」


しかも何か見た夢について寝言で叫んでいたりと馬鹿丸出しだ。

一体どんな夢を見ているのか。


と、パタパタと階段上がってくる音が聞こえてきた。


「兄さん」


そして兄を呼ぶ声と共に妹、静が部屋に入ってくる。彼女は青いエプロン姿で先程までキッチンにいたのだろうと予想出来る。


「……ぐぅ」


彼女の声に反応して起きたのかと思ったら、彼はただ寝返りをうっただけだった。相変わらずすやすやと夢の中だ。


「兄さん、もうすぐ8時ですよ。起きて下さい」


静は布団で丸くなっている彼の側まで来ると、掛け布団の上から揺すって声をかけた。


「ん……もう5分」


「ダメです」


「じゃあ3分……」


「起きて下さい」


駿は寝ぼけまなこでまだ寝たいと交渉をするも彼女はキッパリと却下してゆく。


「朝ごはん出来てますよ。食べないんですか?」


「……食べたい」


「じゃあ、起きて下さい。兄さん」


「……うん」


朝ごはん。

その言葉を聞いてむっくりと身体を起こす駿。

いつもの真っ直ぐな黒髪は所々跳ねていて二重瞼もトロンと眠そうに、身体もフラフラと揺れている。


「ふふ、本当に兄さんは朝が弱いですね」


そんな彼の姿を見た静は口に手を当てて微笑む。

普段より口数も少なく反応も素直なその様子が何だか可笑しかった。


「………」


「兄さん?

どうかしたんですか?」


徐々に目が覚めてきたのか、彼は一回目を擦って隣に顔を向けた。

ジッと見つめられて不思議そうに首を傾げる静。


「いや、朝一番に静の顔を見れて何て自分幸せなんだろうと……」


まだ眠たそうだが彼はのほほんとそう言ってみせた。

その表情からも分かる通り彼に他意は無いようで素直な感想のようだが……


「な、何言ってるんですか……!!

もう、いつまでも寝ぼけてないで早く下に降りてきて下さい!!

朝ごはん冷めちゃいますから」


その言葉に彼女は頬を一気に赤らめると、くるりと背を向けて慌てたように部屋から出ていった。


(相変わらず可愛いなぁ……うん、ホント目に入れても痛くないというのはこの事だ)


そんな後ろ姿を見送りながらぼんやりとそんな事を考えるシスコン馬鹿。


そのままベッドから降りて立ち上がると、入口の側の壁に掛かっていた制服を手にとった。

制服は白いワイシャツに黒いブレザー、紺色のネクタイと黒いズボンという至って普通のものだ。


「ご飯の前にシャワー浴びてこよ……」


それらの制服を引きずりながら、彼は部屋を後に一階のバスルームに向かっていった。



・・・・・・・



「ふぅ……」


「あ、おはようございます兄さん」


ブレザーを腕に掛けたワイシャツ姿の駿がリビングにやって来ると、テーブルに座っていた制服姿の静が挨拶をしてきた。


「おー、おはよ……!?」


「?」


挨拶を返そうと顔を向けた彼は驚いて目を見開いた。いきなりの反応に彼女は小首を傾げる。


「ぐはっ……!!」


「え?え?

兄さん!?大丈夫ですか!?」


かと思ったら駿はいきなり胸を押さえてその場にうずくまってしまったので、静は慌てて彼に駆け寄った。

一体どうしたというのか。突然の心臓の痛みか、或いは何かの発作か。

否、コイツは超ド級のシスコンであるからして。


(これは……これは静の制服姿……!!

ぐはっ、何つー破壊力だ……!!)


ただ単に妹の制服姿に悶え苦しんでいただけだった。


「兄さん?」


「あ、ああ……大丈夫だ。ありがとう」


支えられるようにして何とか立ち上がる駿。

心配そうに覗き込む彼女に大丈夫と伝えて離れた。


(いや、それにしても可愛すぎるな……その可愛さたるや危うく現世から離れる所だった……

恐るべし学園の制服、汐咲学園万歳!!

作者及びスタッフ一同の皆様、本当にありがとうございます!!)


テーブルにつく彼女を見ながら一人頷く駿。

最早馬鹿を通り越してやっぱり馬鹿に戻ってくるくらいに救い様がない。

つーかスタッフって誰。


彼女は襟と手首に入っている朱色ラインと胸元に付いている橙色のリボンが特徴的な白いセーラー服に、チェックのはいった赤のスカートという汐咲学園の制服姿だった。

もみじが来ていた制服と微妙に色が違うのは中等部仕様といったところか。


先程はエプロンをつけていたので制服姿だった事に気が付かなかったのだ。


「兄さん、食べないんですか?」


「ああ、悪い悪い。

いただきまーす」


ずっと立ったままの駿に彼女がそう声をかけると、彼は急いで椅子に座って両手を併せた。


テーブルには白いご飯に焼き鮭、お味噌汁に漬物、梅干し、海苔といった純和風の朝ごはんが並んでいる。


「いや〜、毎朝静の朝ごはんを食べられるなんて幸せだな。

生きてて良かった……」


「もう、兄さんったら大袈裟なんですから」


箸を動かしてそう感想を述べる彼にクスリと笑って続ける静。


「でも、たまには兄さんがご飯作ってくれると嬉しですよ」


「良いけど、カップラーメンかカップ焼きそばになるぞ?」


「何でその二つに分けたんですか……」


どうやら駿はあまり料理はしないらしい。

何故かラーメンと焼きそばに分けた、しかも両方ともインスタント食品というその言動に彼女は呆れつつも……


「うん、美味い!めっちゃ美味い!!」


「そんなに急いで食べなくても、まだ時間はありますから大丈夫ですよ」


『美味しい』と言ってご飯を食べてくれる兄の姿にやはりクスッと口元を緩めるのだった。




 




 

第6話 初日からのスパークも程々に

 




 




汐咲学園は中高一貫の学校である。

一番下の中学一年から一番上の高校三年までの6学年、各学年に40人程度のクラスが大体5〜6クラスと数多くの生徒が通っている。



「沢山の生徒さんがいらっしゃるんですね」


「だな〜」


学園の正門に続く並木通りを歩いている静と駿は同じく学園へ向かう周りの生徒達を見てそんな感想を洩らした。


彼等と同じくらいの背の生徒やそれ以上の生徒は勿論、かなり小さな生徒達も二人の横を通過していったりする光景はやはり転校してきたんだなと改めて感じさせられる。


「最初に職員室に向かうんですよね」


「ああ、多分な」


静の言葉に足を進めながら頷く駿。

二人がまず向かう先は西側校舎にある職員室だ。

そんな訳で並木通りを真っ直ぐ歩いていると……


「だーれだ?」


「おぅ!?」


不意に彼の視界が真っ暗になった。

そして女の子の声と共に背中には柔らかい感触。どうやら後ろから抱き着かれたようだ。


「……誰?」


「あ、ひどーい。

私の事忘れちゃったの?」


突然の事に駿が訳も分からず聞き返すと、少し膨れたような声が返ってくる。


「商店街でデートしたでしょ?」


「………天城か?」


「正解ー!

さっすがミヤミヤ!」


パッと視界が急に明るくなり、塞いでいた両手が離されたようだ。

駿が振り向くと、そこには笑顔で左手を腰に当てている制服姿の天城晴香がたっていた。


彼女の制服は静とは色が微妙に異なり、セーラー服のラインは赤で胸元のリボンは桃色だ。


「もう、すぐに思い出してよ。人に言えないような事をした仲でしょ?

あ〜んな事やこ〜んな事とか」


「してねぇ!!

つーか会ったの一昨日が初めてだろ」


「強がっちゃって。

ホントは覚えてる癖に」


「オメーな……」


わざとらしく微笑むと人より大きな胸を彼の腕に寄せて近づいてきた。

100%からかっているだろうその様子に駿はため息をついて離れようとするが、


「……兄さん?」


「………」


隣で笑顔の静がそう声をかけてきたのでピタリと止まってしまう。

彼女の笑顔は笑顔なのだが中身は全く笑っていない事は明白。というか駿には黒いオーラすら感じられる程だ。


「あ、あの……静さん?」


「ご紹介と、あんな事やこんな事とはどういう事なのか詳しく教えて下さいね?」


「………」


恐る恐る言葉をかけるも表情だけは笑顔の彼女に簡単に弾かれてしまう。


「おやおや?

こちらの可愛い女の子は?ミヤミヤの恋人?」


「いや、妹だ」


晴香は駿の隣に気付くと、離れてそう尋ねたので彼は一歩引いて静に手を向けた。

『恋人』という言葉に静がピクッと反応したのは二人とも気付いていない。


「あ、えっと……月ノ宮静です」


「なるほどなるほど。妹さんか〜

私は天城晴香。よろしくね、しずちゃん」


若干戸惑いながらも頭を下げて挨拶をする静に晴香はニッコリと親しみやすい笑顔で挨拶を返した。

因みに勝手に『しずちゃん』と命名。


「それで……あの、兄さんとはどういう……」


「ああ、こないだ話したろ。この街に来た時に商店街を案内してくれたんだ」


「あ、その時の……」


彼の言葉で静はようやく納得したように頷いた。

おかしな言い回しも何とか誤解だと理解して貰えたようだ。


「その節は兄がお世話になりました」


「いやいや、それほどでも」


ペコリと丁寧に頭を下げる彼女に晴香は両手を振って返す。


「いや〜、立派な妹さんだねミヤミヤ」


「というか、会って早々紛らわしい言い方をするなって」


「あはは、その方が面白くなりそうだなーって」


「はぁ……」


やれやれとため息をつく駿におかしそうに笑う晴香。

と、登校中の周りの生徒達に気付く。


「あ、そっか。

二人は今日から転校なんだよね」


「はい。それで職員室に向かおうと」


静はコクりと頷いて学園の方を向くと晴香は思いついたように人差し指を立ててみせた。


「だったら、私が案内してあげるよ。

先生が職員室にいるとも限らないから、この学校沢山先生の部屋あるし」


「え、でも……よろしいんですか?

HRとかも遅れてしまうかもしれませんし、ご迷惑では……」


転校生はHRの終わりに紹介されて教室に入るのが一般的だ。

それに付き合っていたら遅刻になってしまうのではないかと心配する静。


「ううん、大丈夫大丈夫!

転校生って色々不安だろうから力になりたいし、それに朝のHRより楽しそうだな〜って」


「絶対後ろのが本音だろ……」


彼女は好奇心旺盛なタイプだなと思いつつその回答に駿は呆れる。


「ふふ、それではお願いします天城先輩」


「先輩か〜、何だか良い響きだな〜

うん、任せて!」


ただ、その様子で晴香の人柄が分かったのだろう。

静がクスリと微笑んでお願いすると、晴香はそれに応えて大きく頷いてみせた。



学園の職員室付近は似たような部屋が多いので迷いやすい。

一回見学はしたが、転校生はいきなり何処に行けば良いのかすぐには分からない。

だから当日に案内は非常に助かるのだ。


という訳で二人は晴香と一緒に学園の職員室に向かう事になった。


「それじゃ、行ってみよーー!!」


「朝っぱらから元気だな……」



・・・・・・



一行は正門から中庭を通って中心の吹き抜けの建物に入り、西側校舎へ。

そして校舎の二階の真ん中にある職員室の一つの扉の前までやって来た。


「ちょっと待ってて。

担任の花ちゃんに転校生が来たって話してくるから」


「あ、はい」

「悪いな」


晴香はそう言って片手を上げると、職員室に入っていった。

静と駿は二人、廊下に残される。


「ところで、先程言っていた話ですが……天城先輩に一体何をしたんですか?」


「いやいや、アレはアイツなりの冗談だから。

んな事する訳ねーだろ?」


「本当ですか……?」


「本当だって!!」


ジト目で見つめてくる彼女に慌てて両手振る駿。

そんな会話をしていると、ガラリと職員室の扉が開いた。


「ごめんなさいね〜、待たせちゃった?」


そして、中からそんな声と共に黒いレディーススーツを着た女性が出てきた。

20代半ばだろうか綺麗に整った容姿に深緑の二重の瞳の美人だ。艶のある黒い髪は肩まで伸びている。

左手には『生徒名簿』と書かれた冊子を持っている事から彼女が教師だと分かる。


彼女の後ろからは晴香ともう一人の女子生徒も続けて出てきた。

この女性教師は晴香がさっき言っていた担任なのだろうが、女子生徒は一体誰なのか。


「えっと、転校生の月ノ宮君とその妹さんよね?」


「あ、はい。そうですけど……」


女性教師は駿達の前まで来ると自分に手を向けてみせた。


「話は聞いてるわ。

お兄さんの方は高等部一学年、妹さんの方は中等部三学年よね。

私は花崎(はなさき)紗香(さやか)、高等部一年A組の担任よ」


簡単な自己紹介をしつつ駿に顔を向けて続ける。


「そんでもって、これからは月ノ宮君の担任になるわね」


「え?って事は……」


「ええ。君は一年A組よ」


駿の入るクラスは一年A組という事らしい。

紗香の担任しているクラスだ。


「私と同じクラスだよ、ミヤミヤ!改めて、これからよろしくね」


「あ、そうなのか。こちらこそよろしく」


因みに晴香とも同じクラス。ニッコリと微笑む彼女に軽く会釈を返す駿。


「それで、妹さんは中等部の三年C組なんだけど……担任の先生がもう教室に行ってるみたいなの。

だから、偶々職員室に来ていた彼女について行って貰える?

この娘も同じ三年C組だから」


今度は静の方に顔を向ける紗香。

彼女の後ろから先程の女性生徒がおずおずと出てきた。


「あの……えっと、東雲(しののめ)(あい)って言います。

よ、よろしく」


「あ、月ノ宮静です。こちらこそよろしくお願いしますね」


彼女と静はお互いに丁寧挨拶をして頭を下げた。


すこしウェーブのかかった銀色の髪を肩まで伸ばしていて、パッチリと大きなライトブルーの瞳が似合う可愛らしい容姿。

制服は静と同じ朱色のラインの入ったセーラー服だ。


彼女はおどおどとしていて、まるで何かに緊張しているかのように見える。

初めて会う転校生にか、或いはもっと別の何かか。


「で、では教室まで案内しますね」


「あ、はい」


彼女が静を教室に案内してくれるので、駿とはここで一旦お別れになる。


「では兄さん、また後で」


「いた仕方がない。天が俺と静を引き離し、それが宿命ならば甘んじて受け入れ……」


「兄さん……」


「悪かったって、冗談だよ」


大袈裟に別れを悲しもうとする兄だったが、妹のため息で直ぐ様普通に戻る。


という訳で藍と静は南側校舎に向かっていった。



「何だかあの娘、えらく緊張してるけど大丈夫か?」


そんな二人を見送った後、駿がそう口を開くと隣の晴香がちょっと苦笑しながら答える。


「あー、藍ちゃんね。

ちょっと理由があって今はあんな感じだったけど、普段は活発で凄く親しみやすい娘だから大丈夫」


「へぇ、そうなのか」


先程のオロオロした様子はやはり何か理由があったようだ。

しかしそんな姿を先に見てしまうとどうしても活発というイメージが想像しにくくなってしまうのだが。


「それじゃ、天城さん。

彼をA組まで連れていってあげて。そしたら今日の遅刻は見逃してあげるわ」


「あはは……それはありがたい」


「会議があと少しで終わるから。私が行くまでは彼は教室の側に居て貰って」


紗香がそう言うと晴香は了解の意を伝える。


「じゃあ、教室の前まで行こっかミヤミヤ」


「ああ」


紗香が職員室に戻ったのを見て、彼女は駿と一緒に一年A組の教室へと歩き始めた。



西側校舎から高等部校舎に向かうために吹き抜けの建物へ。


「ところで、学食って安いのか?」


二階の廊下を歩いていた時、不意に駿がそう尋ねた。恐らくこの建物の真ん中に学食があるから少し気になったんだろう。


「そりゃ、学食っていうくらいだから学生に見合った値段なんじゃない?

他の学校の学食と比べた事無いからわからないけど」


「うーむ……」


晴香の言葉を聞いた彼はポケットから財布を取り出して考えるように


「最近財布が寂しいとか?」


「まぁな……最近つーか年中だけど」


そう言って再び財布をしまおうとした時、どこからか吹いてきて風に財布の中の一万円札が一枚ひらりと持ち去られてしまった。


「あ……」


そしてそのお札は何故かこのタイミングで開いていたダストシュートの中にひらりと落ちていく。


「あああああああ!!」


直ぐ様駿はダストシュートの前まで駆け寄る。

しかし目先に広がるのは暗闇のみ。


「俺の諭吉が!!諭吉が!!」


「って、ちょっと!?危ないって落ちちゃうよ!!」


駿はお札の肖像画の人物の名前を叫びながら頭からダストシュートに突っ込もうとする。

晴香は慌てて引き止めようするも彼は必死で首を振る。


「止めるな天城!!

あれは俺の全財産なんだ!!」


「いやいや、ここ二階だけどこれは地下まであるんだよ!?」


このダストシュートは地下まで続いているらしい。

という事は結構な高さになるが。


「あ!!

あった!!蓋のはしっこに引っ掛かってた!!」


「あ、ホントだ!」


よく見ると、お札はダストシュートの蓋の奥の奥に挟まっていたのだ。

中に落下してはいなかった。

しかしお札が挟まっている場所は廊下から見てかなり奥の方で取るのは物凄く困難そうだ。


「ぬおぉぉぉ……!!」


「ちょっとミヤミヤ!!」


駿は右手を精一杯伸ばしてそれを取ろうとする。

思い切り身を乗り出すその姿勢に晴香は危ないと引き戻そうとした。


「よしっ………取った!!」


その前に彼の右手が挟まった一万円札を取り戻す事に成功。

しかし喜びも束の間、その安堵が油断を招き


「あれ……?」


彼は叫び声も上げる間もなく、狭いダストシュートの中に落下していってしまったのだ。


「えーーーっ!?

ちょっ、嘘でしょ!?落っこちゃったよ!?」


あっという間に目の前から消えてしまった事に青ざめる晴香。

直後、物凄く大きくて鈍く生々しい打撃音が暗闇から響いてきた。


「うわっ……今明らかにヤバい音したよ……」


彼女は恐る恐るダストシュートの中に広がる暗闇を覗き込む。


「お、おーい……

聞こえる?ミヤミヤーー!」


そう叫ぶも下の暗闇からは何の返事も返ってこない。


「あわわ……大変。転校初日にミヤミヤがまさかの不慮の事故で……

と、取り敢えず早く成仏出来るように合掌しとこう」


あまりに突然の出来事に彼女も色々と混乱しているようだが取り敢えず両手を合わせて合掌。

彼はこうして17年という短い人生に幕を降ろしたのだった。


「か…勝手に……殺すな……」


「きゃっ!?」


と、突然ダストシュートの暗闇からヌゥと手が飛び出してきて蓋を掴んだではないか。

ホラー過ぎるその光景に悲鳴をあげて飛び退く晴香。


「俺だ、俺……」


「もしかして……み、ミヤミヤ!?」


「ああ……当たり前だろ」


その声にはっと気付いて尋ねる彼女に、ダストシュートから飛び出した腕はヒラヒラと振って答えた。


「良かった、生きてたんだね……

今完全に灯火が消えたと思った……」


「いや、ヤバかった……

三途の川の一歩手前まで来てた。船漕ぎのおっさんが手招きしてた……」


腕しか現れていないが、駿は何とか生きていたようだ。ここから地下まで頭から落ちて無事とは一体どんな身体をしているのか。


「とにかく引き上げてくれないか?

一人じゃ這い上がれそうにないんだ」


「う、うん!」


晴香はダストシュートから伸びた腕を掴んで思い切り引っ張る。



「はぁ……はぁ……

助かった、ありがとう」


「ううん。それより大丈夫?ミヤミ……」


何とか駿本体を廊下に引っ張り出す事に成功した彼女は息を切らしている彼に声をかけようと……


「………」


「……ん?どうした天城?」


したのだが、彼の顔を見て暫し思考を停止する。

そしてその後……


「み、ミヤミヤだよね……?」


「当たり前だろ?」


そう尋ねた。

勿論返ってくる言葉


「いや、顔が……」


晴香は彼の顔を見て表情をひきつらせる。

が、イマイチ何を言いたいのかは彼に伝わっていないようだ。


「っともうこんな時間か!!ヤバいな、もう先生が来てる……」


駿は腕時計を見ると慌てて立ち上がる。


「早く教室に急ごう」


「その前に保健室、というか今すぐ病院に行った方が……」


「何言ってんだ、早く行こう」


彼は背を向けると廊下を早足で歩き出す。


「あ、ちょっとミヤミヤ!!」


その後を晴香が慌てて追っていくのだった。







「えっと……大体の連絡事項はこんなもんね。

後は転校生君の事だけど」


高等部一年A組の教室。

教壇に立つ担任、花崎紗香が生徒達にHRを行っていた。

大方の連絡事項は片付いたようで後は本日の一大イベント、転校生を残すのみだ。


教室内もざわざわとその転校生の話で持ちきりだ。

とはいっても、一体どんな転校生なのか誰も知らないようで話の中身と言えば、『男か女か』『カッコイイのか可愛いのか』というものだ。


と、そんな中で一人の男子生徒が手を上げた。


「センセー!

その転校生って男子?それとも女子?」


「篠田君、そういうのは見てみてのお楽しみって事にしといた方が面白いと思わないの?」


篠田と呼ばれた男子に対してため息を吐きながら返す紗香。


その男子生徒は明るく快活そうな雰囲気で大きな黒い瞳と首の下まで伸びて少し横に広がっている赤みがかった茶髪が特徴的だ。


「いやいや、男か女かくらい分からないと。出迎える側としても心の持ち様が変わってくるじゃん。だからお願いしまーす」


「仕方ないわねぇ。

転校生は男の子よ」


彼女の言葉におおっと湧く教室。取り敢えず性別という一番分かりやすい情報を得ただけでも


「んじゃ、その男の子ってカッコイイ?センセーのタイプ?」


「そうねぇ……結構可愛らしい容姿だったわね。

整った顔立ちだったし、背もあったしね。

私としてはもう少しがっしりとしてて凛とした顔立ちなんだけど爽やかな好青年とかが……って何言わせるのよ!!」


再び篠田が質問すると紗香は頬に手を当てて答える。聞かれて不用意に自分のタイプも喋ってしまったりする辺りは彼女も少し天然なのかもしれない。


彼女の言葉に今度は女子陣が色めきたった。

そりゃカッコイイ男の子とくればそういう反応になるのは至極当然であるが。



「しかし天城さん、遅いわね……寄り道でもしてるのかしら?」


紗香はコホンと咳払いをするとわざとらしく腕時計に目を向けて話を反らす。


と、ちょうどその時……


「遅くなりました〜……」


ガラリと後ろの扉が開いて晴香がそろそろと教室に入ってきた。


「何してたの?

私の方が先に教室についてたわよ?」


「いや〜、ちょっと色々ありまして」


「それで?ちゃんと彼は扉の向こうにいるのね?」


「え、ええ……まあ一応」


どうも歯切れの悪い彼女を疑問に思うも時間が無いので紗香は教室の扉に手を向ける。


「まぁ良いわ。

それじゃ入ってきて貰おうかしら。

転校生君、どうぞ」


その声と共にゆっくりと前の扉が開いた。

そして教室に入ってきたのは……



「あ、どうも……」


制服が酷く汚れ、あまつさえ顔面全体にモザイクトーンが貼ってある月ノ宮駿だった。



((((何か変なの入ってきたァァァァァァァァァ!!))))



その瞬間、教室中の生徒の思いが一つになったという。




 


晴香

「今回からミヤミヤとしずちゃんは学園に転入だね」


「不安もありますけど、楽しい学園生活になると良いと思います」


晴香

「大丈夫!

しずちゃんなら絶対楽しくなると思うよ♪

それにとっても可愛いからきっとモテモテだって。

あ、実は既に本命の人が居たり?」


「///」←フルフルと首を振る


晴香

「という訳で、転校初日からスパークしまくってるミヤミヤだけど、次回はもう少し落ち着くと思うよ」


「兄さんがご迷惑をおかけして、本当にすみません」


晴香

「ううん、全然オッケーだよ♪

次回は主に学園の人達とミヤミヤの話になるみたいだね。前にちょこっと出てきた剣道部の女の子とか、クラスの男子とか」


「皆さん、次回もよろしくお願いします」




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