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第4話 学校見学は効率良くいきましょう



今回から時間がかかりました。

独り暮らしになってまだバタバタしているので、次回の更新も少しかかるかもです。



因みに今回のタイトルは言い訳です。

結構描写省略したので思い切りその言い訳という感じです


いつにも増して読み辛いかとは思いますが、よろしくお願いします。


では、始まります!




 

 

明日から通う事になる汐咲学園にやってきた月ノ宮兄妹は生徒会長である女子生徒と書記の男子生徒に学園を案内される事に。


「あ、そうだ。

案内する前にうちの学園の全体図を書いたから、渡しとくね」


「え、香坂先輩が?」


「そだよ。

絵は苦手なんだけど、無いよりマシかな〜って思って」


もみじはそう言うと、おそらく先程書いたのだろう線がぐにゃぐにゃと曲がったりしているかなり簡素な見取り図を駿に手渡した。


挿絵(By みてみん)


「えっとね、一生懸命描いたんだよ。ちゃんと頑張って描いたんだけどこれが限界というか……」


「ドーナツを食べながら描いていた方が生徒会室に居たような……」


「悠君、それは内緒!」


悠一の言葉に慌てて彼女は人差し指を口に当てる。

ほとんど内緒になっていないが。


「じゃあ、案内する前に簡単に説明するね。

右の北側校舎が高等部校舎、その反対にある南側校舎が中等部の校舎だよ。

それでその二つの校舎を繋いでいる天井が吹き抜けの四角い建物があってそこの一階がテラス、つまり学食になってるの。

それで一番上にある西側の校舎には先生達の職員室や事務室、各教科室があって、その建物の最上階には生徒会室があるんだよ」


「なるほど」


手書きの歪な地図とはいえ、全体図があるとその説明だけでもだいぶ分かりやすくなる。

駿は彼女の地図を見ながら話を聞いて頷いた。


「よし、まずは右側の校舎にいってみよー!」


もみじはそれを見ると正門から右側に指を突きつけて元気よく進んでいくのだった。



 



 

第4話 学校見学は効率良くいきましょう

 



 



汐咲学園高等部校舎。


学園の正門から入って敷地内を右側に歩くと見えてくる三階建ての大きな長方形の建物とその後ろに隣接する二階建ての建物がそれである。

真新しさすら感じるその二つの校舎からは毎回しっかりと手入れがされている事が窺える。


「さぁ、学園見学隊の諸君!

ここがうちの学園の高校生用の校舎だよ」


もみじ生徒会長率いる学園見学隊は四階建ての校舎の正面、下駄箱が並んだ玄関の前までやって来ていた。


「見学隊といっても、たった二人しかいませんけど」


「いーの!

こういうのは雰囲気が大事なんだから」


先頭にノリノリな様子のもみじとそれにツッコむ悠一が並んでいて、その後ろには駿と静が続いている。


「それで香坂先輩、何で校舎が二つも?」


「あ、うん。

それは案内しながら教えるから。

それより……」


「?」


目の前の校舎を見上げて尋ねる静にもみじは頷いて答えるとそのままグッと身を乗り出して彼女の顔を覗き込んだ。


「苗字じゃなくて、もみじって呼んで?」


「え、でも……」


いきなりの提案に静は戸惑う。

初対面の、しかも先輩を名前で呼ぶのは相手に失礼ではないかと彼女は考えたのだ。


「その方が仲良くなれると思うし、ね?静ちゃん。

えっと……会長命令だよ!」


「………くすっ。

分かりました、もみじ先輩」


しかし、人懐っこい笑みを浮かべたかと思うと、ビシッと人差し指を立てて会長命令という真面目な言葉を言うもみじに、静は思わずクスリと笑いを溢して名前で呼ぶ事を承諾した。


「うん、よろしい!

勿論駿君もだよ?」


「あ、はい。

もみじ先輩」


彼女は満足そうに頷くと駿にもそう言った。

きっと普段からかなり社交的な性格なのだろう、男女問わずに仲良くなれそうな方だと駿達は思った。


「では、僕の事も苗字ではなく“汐咲の断罪守護者(ヘルガーディアン)”と呼んで下さい」


「長いよ」

「長いです」


もみじに続いた悠一の言葉には駿と静が二人同時にツッコんだ。真面目そうに見えて意外とボケる人のようだ。


あまり時間がある訳ではないので一行は三階建ての校舎の入口へ。

下駄箱の並んだ玄関を抜けて、一階の廊下にやって来る。


「この三階建ての校舎は一年生から三年生のクラスがあるんだよ。

一階は一年生のクラス」


もみじが廊下の先を指差すと、確かに教室が続いていてそれぞれの入口に『1年A組』『一年B組』等と木製の札がかかっているのが見えた。


「駿君もこの校舎の一階に転入してくるんだね。

もうクラスは聞いてるのかな?」


「いえ、それは多分明日だと思います」


もみじの問いに駿は軽く首を振ると廊下に続く各教室に目を向ける。

一番手前にA組のプレート。そこからBCと続いていき、最後はE組と書かれた教室に。

どうやら一年生のクラスは五つあるようだ。

E組の奥には空き教室が一つ。

そして一番奥にはトイレがあり、校舎一階となっている。


「二階と三階も学年が違うだけで後はほとんど同じだから、そこは省略させて貰うね。因みに二階が二年生、三階は三年生だよ。

次はこっち!隣の建物だよ」


上の階は一階と同じ作りらしいので省略。

もみじを先頭に一行一階の廊下から横に続く通路を歩いて隣接する二階建ての建物に。


「この建物は?」


「ここは高等部校舎の一部ですが、クラスの教室はありません。

先程見た三階の校舎が本館、ここは別館といった所ですね」


隣の建物に来た所で先程から気になっていたのか静が首を傾げて尋ねた。悠一はそれに対してニコリと微笑んで答える。


「ここには音楽室や視聴覚室、家庭科室、技術室、美術室、パソコン室といった部屋がある校舎なんですよ」


「なるほど、だから別館か」


彼の説明に駿も納得したように頷いた。この校舎は実習教科室が集まった建物で校舎は本館と別館に分かれているのだ。


「では、中等部もここと同じような感じなのですか?」


「うん。

構成はほとんど同じだね。中等部別館には同じように音楽室や家庭科室があるから。左右が反対なだけ」


静の言葉にもみじは大きく首を縦に振ってみせる。

先程貰った全体図を見る限り、高等部校舎と中等部校舎は全く同じ造りのようだったので


「今から反対側の中等部の校舎を案内しようと思うんだけど」


「いえ、造りが同じなら大丈夫です。

今の案内だけで大体分かりました」


「え?良いの?」


「はい。それに先輩達の休日の時間を長く使わせてしまうのは申し訳ないですから」


中等部校舎の案内を大丈夫だといって遠慮する静。

造りが今見た高等部校舎と変わらないからという理由もあるが、どうやら自分達の為に長い時間をとらせるのは悪いというのが本心のようだ。


「そんな事気にしなくていいのに。

静ちゃん、とっても優しいんだね」


「いえ、そんな事……」


そう言ってニッコリと笑うもみじに静は慌てて手を前で振って返そうとするが……


「まぁ、俺の最高に可愛い妹ですからね。

このくらい当然ですよ」


何故か真っ先に隣の駿が答えていた。無駄に自信満々で一人頷いている。


「兄さん!!」


「あはは、駿君シスコンさんだ」


「人前でここまで断言出来るのはある意味素晴らしい才能だと思いますよ」


そんなシスコン全開の彼にそれぞれ違った反応をする三人。

静はいつも通り兄の暴走を止めようとする一方、もみじは可笑しそうに笑っていて、悠一に至っては違う意味で感心していたり。


「じゃあ、次は学食に行ってみようか」


そんなやり取りも一通り済んだ所で、再び見学を再開する事に。

もみじの言葉で一行は一旦高等部本館に戻り、そこから学食があるという建物に向かっていく。


高等部本館は中等部本館、そしてもう一つの建物と建物を挟んで繋がっている。

正方形の真ん中が空いたその建物、そこに学食があるのだ。


「ここが学園の食堂。

食券を買って周りの売り場で食べたい物をもらうんだよ」


周りは壁に囲まれているが天井が無く吹き抜けとなっており、見上げれば空の水色が目に飛び込んでくるテラスのようなお洒落な学食だ。

テーブルと椅子がいくつも並んでいて、周りには学食のお店がそれを囲んでいる光景だ。

今日は休日なので全てシャッターが降りているが。


「空が見える学食なんて素敵ですね」


「はい、それは先代の生徒会長のアイデアで室内にある時より随分と好評だそうなんですよ。

周りは壁に囲まれていますから、冷たい風なんかも無いですしね」


学食から上空を見上げて言う静に悠一は周りを見て付け加える。


「でも、雨の日はどうするんですか?」


「そこも心配いりません。雨天時には吹き抜けを透明な天井が覆ってくれる事が出来ます。冬なんかは寒いので毎日天井を付けたままですね」


なるほど、雨の日や冬にはこの吹き抜けに天井が出来るという。

その辺の心配は予め考慮されているようだ。


「じゃあ次は、この建物から先生用の建物に移動だね」


もみじがそう言って一行は四角い建物からまっすぐに繋がっている校舎に移動する。

そこも三階建ての建物で高等部、中等部校舎よりは少し小さくなったような校舎だった。


四角い建物の一階からこの校舎の一階に入るとすぐにもみじが口を開く。


「この校舎は主に先生達がいる校舎だよ」


「職員室があるんですか?」


「それは勿論だけど、各担当の教科室や大きな会議室なんかもあるんだよ」


周りを見回しながら尋ねる駿に彼女は人差し指を立てて補足しながら続ける。


「一階は事務室や予備会議室、校長室、担当教科室なんかが並んでいて、二階は広い職員室や本会議室が二つ、保健室、生徒相談室があるんだよ。

今日は休日だから先生達もほとんど居ないけどね」


「先生方の部屋だけでも沢山あるんですね」


彼女の説明に静も驚いたように廊下の先を見つめる。何せ教職員だけでこの大きな西側校舎を丸々一つ使っているくらい部屋があるのだ。


「この学園は中等部と高等部で生徒数も多いですからね。会長の歪な地図では分かりにくいかもしれませんが、この学園はかなり広いですし」


「うわっ、本人の前で辛辣だよ悠君」


悠一の言う通り、中高一貫で生徒数も相当なのでそれを考えれば頷ける。

確かに地図ではそんなに広くは見えないものの、実際歩いてみてかなり広い学園だという事は二人とも実感していた。


「因みに、この校舎の最上階には生徒会室があります。学園内で何か困った事があれば遠慮なくいらして下さい」


「生徒会室……」


この西側校舎の三階には汐咲学園生徒会室があるという。悠一が上を指差したので駿も釣られて上を見上げる。


「じゃあ、ついでに生徒会室に行こっか」


再びもみじが一行を引率するように前を歩いて、校舎の階段を上がっていく。

職員室や保健室等が見える二階を通って三階に続く階段へ。


「あ……」


「静?どうしたんだ?」


「先生方にご挨拶した方が良かったでしょうか……?」


三階への階段を上がっている途中、静が何かに気づいたように声を洩らす。

駿が尋ねると彼女は後ろを振り返ってそう口にした。


「いや、転入するのは明日だからその時で良いんじゃないかな」


「うん、それに今日は休日だから先生達も居ないから大丈夫だよ」


少し考えるように答える駿にもみじも頷いてくれたので彼女もそうですねと納得した。


そうして一行はようやく最上階の三階に。


「はい、ここが汐咲学園生徒会室だよ!」


階段の周りはゆとりのある広場のようになっていて、そこから廊下を右に少し進んだ所に茶色い大きな扉があった。

観音開きのその扉をもみじはそう言って元気よく開けてみせた。


「おお、これが学園の全てを牛耳る影の支配組織と言われているあの生徒会のアジトか……!!」


「兄さん、もう少し分かりやすいリアクションにして下さい」


生徒会室の中に入った駿は驚く素振りをしてみせるがすぐに静からダメ出しをくらう。


生徒会室は学園の教室二つ分程もあるかなり広い部屋だった。

まず目を引くのは生徒会役員がいつも座っているであろう長テーブルと黒板。

壁際には二つのソファーがあり、周りには本棚がいくつも並んでいる。

何故か食器棚まで置いてある。

一番奥は大きな窓、その先には小さいながらバルコニーも広がっている。


「いや〜、かなり立派な部屋ですが……何故か恐ろしく生徒会室って感じがしませんね」


「あはは、そんな事無いよ。

ここではちゃんと生徒会のお仕事をしたり、皆で仲良くお茶会をしたり、皆で談笑したり、おやつパーティーをしたり、のんびりと和んだりするんだよ」


「仕事の割合少ないっスね……」


ツッコミ所は多々ある生徒会室だったが、ニコニコと満面の笑みで答える生徒会長に負けた駿はそれだけ呟いた。



「それにしても……

八雲ちゃん、居ないね」


「そうですね。

今朝はソファーの方で二度寝をしていましたが……またフラフラと出ていかれたんでしょうか」


キョロキョロと室内を見渡して首を傾げる彼女に悠一も顎に手を当てて考える。


「えっと……」


「あ、ゴメンね。

お友達がいると思ったんだけど、今は居ないみたい。

また今度紹介するから」


何の話か分からない静達が不思議そうな顔をしているのに気付いたもみじはそう説明した。


先程も話に出ていた女子生徒を紹介したかったようだが、今は居ないようだ。

一体どんな方なのか気になるが、それはまたの機会のお楽しみという事で。



「それじゃあ次は……といきたい所なんだけど」


「そろそろ時間のようですね」


さて続いての案内という所でもみじは残念そうに声のトーンを落とす。

悠一も左腕に付けた時計に目を向けた。


「これから少し生徒会の仕事があるの。

本当はもう少し早く終わると思ったんだけど、思ったより時間がかかっちゃったから……」


「あ、そうだったんですか」


「グランドとか体育館も案内してあげたかったんだけど……本当にゴメンね」


両手を併せて駿達を申し訳なさうに謝る彼女。

しかし二人もとんでもないと手を振って答える。


「そんな、こちらこそすみませんでした。

忙しいのに私達の為に時間を使って頂いて」


「体育館とかは今度自分達で見ておきますから、大丈夫ですよ」


「うん、ありがと」


二人のフォローで良かったと再び微笑むもみじ。

と、隣の悠一が一言。


「まぁ、昨日会長がおやつパーティーだとか言って遊ばなければ終わっていた仕事なんですけど……」


「ゆ、悠君!!

過去ばかり振り返っていては前には進めないんだよ!」


「たまには過去を見つめ直して頂くと僕としては非常に助かりますよ」


どこまでもマイペースな生徒会長のようだ。

そんな二人のやり取りに思わず苦笑する駿と静。


とまぁそんな訳で、駿達はこの生徒会室で二人と別れる事に。


「では、今日は本当にありがとうございました」


「うん、また学校でね!」

元気よく手を振る生徒会長と丁寧に頭を下げる書記にお礼を言って、二人は校舎を後にした。



「静、これからどうする?」


「昨日届いた開けてない荷物もありますから、私は帰って家の整理をしたいと思います。兄さんは?」


「そうだな……だったら俺はもう少しだけ回ってみるよ」


「分かりました。

では、あまり遅くらないように帰ってきて下さいね」


二人は肩を並べて西側校舎から中庭を通り、正門の前まで歩いてきた。

そうして静は学校の外に、駿はまだ学園に残るというのでここで一旦別れる事に。


「それでは、また後で」


「ああ」


駿は門から出ていく彼女を見送ると、くるりと体の向きを変えて前方に見える大きな校舎を見つめる。


(とは言ったものの、見て回るっても一体どこにいこうか……)


先程校舎内は大体案内された。グランドや体育館は今わざわざ見る必要は無いような気もする。というか地図で場所も分かったし学園生活が始まっても迷う心配は無さそうだからその時に行けば良いのではないか。では何処に行こうか、等と腕を組んで考えていると……


(……ん?)


ここからでは小さいが、右側の方から何やら声のようなものが聞こえているのに気付いた。


(何だろう……)


気になった彼は正門から右側に向かってやや早足で歩き始める。


「あれは……」


するとすぐに彼の前に見えてくる建物の姿が。

入口と思われる扉の横に『剣道場』と書かれた札のある木造の道場だった。

昔からあるような貫禄のある造りながら小綺麗な外装は大切に使われている事が窺える。


先程の声はこの中から聞こえてきていたようだ。


(部活か……)


駿は何とはなしに中の様子が気になった。

しかし別段剣道に興味があるとか、入部してみたいという訳ではない。

故に正面から入るのは流石に気が引ける為、道場の横にある小さな窓から少し様子を窺おうと近付いていく。


(よっと……)


そして、身を乗り出して窓を覗き込もうと……


「覗きですか?」


「おわぁ!?」


突然後ろからかかってきた声に仰天した彼は間抜けな叫び声を上げて思い切り転けた。

足元にあったバケツがけたたましい音を立てて転がる。


「!?」


が、彼はそんな事には構わず尻餅をついたまま慌てて振り返る。

すると、そこには胴着姿をした女の子が立っていた。


「え、えっと……」


「………」


美しくすっきりとした顔立ちに綺麗に整った黒い瞳。

肩にギリギリ届かないくらいのさらさらとしたライトブルーの髪が特徴的な美少女である。

胴着姿なので分かりにくいが華奢な体つきのようで、スタイルは恐らく良いのだろう。


「現行犯ですね。取り敢えず職員室に行きますか?」


「ち、違っ……!!

これは、あの、その……つまり……」


だが、そんな美少女もスッと目を細めて静かな口調で彼に。

彼が覗きをしたと疑っているのだろう。

しかし無実を訴えようとするも、どう説明して良いか分からずにしどろもどろになってしまう。


「今の時間はちょうど部活も終わって女子の皆が着替えている所でしたが、そんな剣道部に他の用が?」


「………」


“まずい、非常にまずい”

彼の頭の中では緊急事態のアラームが鳴り響く。


女子の皆、つまりこの道場にいるのは女子だけ。

きっと女子剣道部の練習だったのだろう。

しかも着替え中という最悪なタイミングに建物の横の窓から中の様子を窺おうとしていた男子。この状況下で“覗き”以外の可能性が彼女に考えられるだろうか。


否、仮に彼自身が彼女の立場だったとしてもこれは覗きだと確信するであろう。

恐らく言い訳をすればする程悪化するという完全に詰み状態だ。


(冤罪事件って、こんな風に起こるんだな……)


ぼんやりとそんな事を考えながら諦めかけた時……


「一体なんの騒ぎだ?」


「「?」」


幸か不幸か、道場の窓から見知った顔が現れた。

それは赤い髪をポニーテールにした女の子


「おや?君は確か……月ノ宮か」


「神代……?」


神代紫であった。

つい昨日会ったばかりなのでお互いすぐに名前を思い出す。


「紫先輩のお知り合いですか?」


「ああ、昨日会ったばかりなんだけどな。

しかし何故がこんな所に?」


少女が不思議そうに尋ねると紫はコクリと頷いてみせたがすぐに首を傾げる。


「今、この人が道場を覗こうとしていたので……」


「ほぅ……」


少女は駿に手を向けてそう言うと、紫の目もみるみると細くなってゆく。


「どういう事か詳しく説明してもらおうか」


「………」


彼女のその迫力に駿はただ黙って頷くのみだった。




・・・・・・・




「つまり……

今日学園の見学に来たのでこの道場の事も何も知らず、声が聞こえて何となく気になったので窓から様子を窺おうとした所、彼女に声をかけられたと……」


「仰る通りでございます」


剣道場の前。

制服姿の紫の前で正座をしている駿。

彼女の事態を整理する言葉に彼は土下座せん勢いで頷いた。

彼は紫に事実を何とか伝える事は出来たようだ。

しかしそれを信じるかは別問題な訳で……


「……そうか。どうやら本当の話のようだな」


「え?」


と思いきや、彼女はあっさりと信じたようだ。

その反応に駿は勿論、紫の隣にいた少女も驚いた様子。


「良いんですか?」


「彼の目は嘘を言っていない。それは確かだからな」


彼女は驚いて尋ねるが、紫ははっきりと頷いてみせた。


「でも……」


「九条、後は私に任せてお前は早く着替えて来い。

ミーティングの準備をするように皆にも言っておいてくれ」


「……分かりました」


九条と呼ばれた少女はまだ釈然としない表情だったが、渋々道場に戻っていく。



「すまない、彼女にも悪気は無いんだ。疑った事を許してやって欲しい」


「いや、こっちこそ悪かった。そもそも俺があんな場所に居なきゃ良かったんだ。助けてくれてありがとう」


少女が去ると紫は律儀に謝罪をしてきたので、彼は自分が悪いんだと言ってお礼と共に頭を下げた。


「しかし、神代が居てくれて本当に助かった。でなけりゃ今頃入学取消しになってたかも……」


「大袈裟だな、君は」


ホッと安堵する駿の様子に紫はクスリと笑う。


「そういえば、神代は高校一年生だよな?

それで部長をやってんのか?」


「?」


「いや、さっきミーティングがどうのとか指示をしてたから」


駿の言葉を理解したのか、彼女は『ああ』と首を縦に振って答える。


「女子剣道部は中等部と高等部が一緒の部活なんだが、生憎高等部の人数が非常に少なくてな。一年生は六人程いるが二、三年生はいないんだ。

だから私達一年生が最高学年になる。部長という役割は無いが指示は基本的に私達がする事になっているんだ」


「なるほど……」


駿は昨日晴香に聞いた話を思い出す。

紫は剣道部で一番強いのだ、と。

それ程の実力があるのならば部長という役職こそ無くてもリーダーのようになるのだろう。


しかし今時珍しい部活だ。中等部と高等部が一緒というのはまだ分かるが、二年生や三年生がいない運動部というのは中々聞いた事が無い。何かあったのだろうか。


「じゃあ、さっきの女子生徒も中学生か」


「ああ、九条の事か。

彼女は中等部三年生だな。私が中等部二年の時に入部してきたんだ。

実力は相当なものだぞ。

中学生の中では県内でも上位にいる程だからな」


「へぇ……!!

そりゃ凄いな」


紫の言葉に駿は素直な感想を述べる。

あの少女はかなりの実力者のようだ。彼は剣道の事はよく分からないが、県内上位と言われればその強さが並みでない事は否応がにも理解出来る。


「っと、そろそろミーティングが始めなくては……

すまないが、今日の所はこれで」


「ああ、色々と迷惑かけて悪かった」


「また、学校でな」


そろそろミーティングを始める時間だという事で、駿と紫は互いに挨拶をして道場前で別れた。



「俺ももう帰るか……」


正門まで戻ってきた彼は立ち止まってグッと伸びをすると、そう呟いて歩き始める。


「……ん?」


正門を出て並木通りを歩いていたその時、無機質な着信音が彼の上着のポケットから鳴り響いた。


「はい、もしもし」


『兄さん』


彼が携帯に出ると電話の主は静からであった。


「静か、今から帰るよ」


『あ、そうだったんですか。

先程僅かですが気配を感じたので、そのご報告をしようと思って』


「気配?」


電話越しの彼女の言葉に思わず顔をしかめる駿。


『はい。恐らく下級ですが早めに対処するに越した事はないので、今日の夜中は出れる準備を』


「……分かった」


駿はそう言って携帯を切ると、右手をグッと握りしめて暫くそれを見つめる。


そして拳で鋭く空を切ると、再び並木通りを歩き始めたのだった。






 

もみじ

「む〜……」


悠一

「おや?

何やらご機嫌斜めの様ですね会長」


もみじ

「当然でしょ!!

あの学園の地図、本当は作者が書いたのに本編で私が書いた事にされちゃったんだよ?

これじゃまるで私が絵が下手みたいじゃない!」


悠一

「ああ、その事ですか」


「大丈夫ですよもみじ先輩、きっと皆さん分かってくれます」


もみじ

「本当……?」


悠一

「とはいえ、会長に絵心が無いのは事実ですからねぇ」


「そうなんですか?」


もみじ

「そ、そんな事ないよ!!」


悠一

「この前会長に猫の絵を描いて貰ったのですが、それが全く理解出来ない絵だったのですよ」


もみじ

「うわっ、悠君酷い!!」


悠一

「酷くありませんよ……

実際、学園の生徒100人にその絵は何に見えるかとアンケートをしたんですが……」


「アンケート、ですか?」


悠一

「半数以上の方が怪獣。

30%の方が未確認生命体。15%の方がアート?と首を傾げる始末です。

2%の方は辛うじてネコ?と答えはしましたが」



「……先輩、何を書いたんですか?」


もみじ

「ネ、ネコだよ!

ほら、最後の2%はネコって言ってるし」


悠一

「と言っても……その方々は会長の無理矢理言わされたようなものですが……」


もみじ

「うう……」


悠一

「そこも会長の萌えポイントの一つなんでしょうね。

完璧な存在より何かしら欠けていた方が惹かれる要素になるものです」


もみじ

「うぅ……!!

今に見てなさいよ悠君!!

いつかピカソもびっくりな絵を描いてみせるんだからーーーっ!!」


「あ、先輩……!!

行っちゃいましたね……」


悠一

「おやつの時間になったら戻ってくるでしょう。

それより、そろそろ次回の予告をしましょうか」


「あ、はい。

次回は私達月ノ宮兄妹の秘密が少し明らかになります」


悠一

「ここまで一向に活躍のみられない主人公の見せ場もあると思いますよ」


「それでは、次回もよろしくお願いしますね」




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