第3話 正門は学校の顔なんだとか昔校長先生が言ってた
今回は学園見学前編です。といっても見学自体は次回ですが。
何故か二つに分けてしまいました。
今のところ主人公らしい活躍が何一つ出来ていない駿。
多分近々活躍する予定があるような気がします。
それが兄妹の秘密に関わる話になりますね。
それでは、今回もよろしくお願いします!!
「兄さん……
起きて下さい、兄さん」
「う…ん……?」
麗らかな日差しにチュンチュンとどこかで鳥がさえずりを奏でている朝。
自室のベッドでぐっすりと眠っていた駿は自分を呼ぶ女の子の声と揺すられる感触でうっすら瞼を開けた。
すると、彼の目に入ってきたのは……
「……静?」
そう呟いてゆっくりと身体を起こす。ベッドに横になっている彼のすぐ側に彼の妹である静が腰を降ろして彼の方を見つめていたのだ。
「……どうしたんだこんな早い時間に?いつもよりかなり早いけど……」
壁にかかっている丸い時計に目をやると午前7時半。
駿はまだ眠たそうな目を擦ると首を傾げてみせる。
“いつもより早い”という言葉から、彼は毎回も妹に起こして貰っている事が伺える。
「もしかして、忘れてるんですか?
今日は午前中に学校を案内して頂く約束があるんですよ?」
「あ……そっか、そういやそんな事を言われたような……」
「もう、兄さんったら……」
彼女は少し怒ったように頬を膨らませる。
明日から月ノ宮兄妹はこの街の中高一貫の学校に転入するので、しっかり者の妹は当然下見をしておいた方がと考えた。
そこで彼女がその旨を学校に伝えた所、何と休日にも関わらず案内してくれるという。
ただ休日で午後は難しいらしく、なるべく朝早くの方が良いとの事。
よって午前9時に学校の正門で待ち合わせと約束をした。
それを昨日の夜、晩御飯を食べている時に彼女が駿に話したのだ。
「けど、ここから学校まで歩いて15分くらいだろ?こんなに早く起きなくても……」
「学生だったら普通に起きている時間です」
駿がそう言って再びベッドに横になろうとするので、静は呆れたようにジト目を彼に向けて続ける。
「いつまでも休みが続いてると思っていたらダメですよ、兄さん」
「うぅ……」
「それにお世話になる方をお待たせする訳にはいきませんから、こういう時は余裕を持って行動しないと」
「……分ァった分ァった。俺の負けだ、起きるよ」
彼女の最もな言い分に返す言葉が無い駿。
彼は降参だとばかりに両手を上げてベッドから降りて立ち上がった。
「じゃあ静、朝の挨拶として愛の抱擁を……」
「しません!!」
かと思ったらいきなりとんでもない事をいって両手を広げてみせたので彼女は赤くなって顔を背ける。
「馬鹿な事を言ってないで、早く着替えて下に降りてきて下さい。朝御飯出来てますから」
「あ……」
ベッドから立ち上がると、静はそれだけ言って部屋を出ていった。
そんな彼女を見送ると、駿はベッドの横にある収納ボックスから普段着を取り出す。
彼の部屋は7畳程の広さで、大きな窓が南側に小さな窓が南側にある。
北側の壁の方にはベッドが置かれていてそのすぐ隣に洋服等様々な物をしまっている収納ボックス。
東側の窓の前には簡素な木製の机、それに隣り合うように本棚が。
机の反対側には両開きタイプの押し入れ。半開きになっている中には服や他にも収納ボックス等色々なものが入っている。
「えっと……」
駿は灰色のシャツに白いパーカー、青いズボンの着替えを持つと寝間着姿のまま自室のドアのノブに手をかける。
日曜日の朝。
月ノ宮駿は可愛い妹に起こされるという羨ましい形で始まるのだった。
しかし、ただ可愛い妹という訳では無い。可愛くて愛らしくてしっかりしていて優しくて時々拗ねたりする所とかも可愛すぎて、自分にとっては世界一の妹だ。こんな妹に毎朝起こして貰えるなんて夢みたいなライフスタイルだろう?勿論、毎日が最高に幸せだ!!」
たった一人しかいない室内で誰に向かってか高らかに叫ぶ馬鹿が一人。
どうやら言葉が心に押さえきれずいつの間にか口から飛び出していたようだ。
「……シャワー浴びてこよ」
彼はシンとした室内を見回すと、ポツリとそう呟いて部屋を後にしたのだった。
第3話 正門は学校の顔なんだとか昔校長先生が言ってた
汐咲学園はこの街にある大きな学校だ。
中高一貫の為に敷地は広く、それこそこの街で一番大きなショッピングモールの半分くらいはあるかもしれない。
駿達の自宅から右に続く住宅街通りの道を真っ直ぐ歩いた先に十字路がある。
その十字路を右に、もしくは左に行けばまた住宅街の通りにはいるが、真っ直ぐ行けば周りから住宅が少しずつ減っていき喫茶店やコーヒーショップ等の小さなお店が疎らに建っている道に入っていく。
その道を暫く進むと左手に沢山の木々に囲まれた長い並木通りが広がる通学路に出る。
春に咲き誇る桜もヒラヒラと舞い散る綺麗な道がずっと続いており、そこを進んでいくと汐咲学園の正門が見えてくるのだ。
「ふわぁ……眠ぃ」
「兄さん、学校の人の前ではしゃんとして下さいね」
学園の前は敷地を囲む柵と大きな白い石柱が両側に建っている正門があり、右側の柱に『汐咲学園』と名前が書かれている。
その正門の前に駿と静の二人が立っていた。
シャツのに前を開けた白いパーカーを羽織っている駿は柱に寄りかかりながら欠伸を一つ。
そんな兄の様子を隣で注意をする静。
胸元に小さなリボンの付いた白いブラウスに髪の色と合った紺のカーディガン、白いスカートが風にひらひらと揺れている。
「待ち合わせって、確か9時だったよな」
「はい。
後、10分くらいですね」
彼の問いに彼女は左手に着けた細い腕時計を見て答える。約束の9時まではまだちょっと時間がある。
二人は今よりも少し前にこの場所に到着していたから既に幾らか待っている事になる。
「うーん……
まだ寝れたな。やっぱもう少し遅くに出ても良かったんじゃ……」
「ダメです。兄さんに任せていたら絶対に遅刻しちゃいます」
未練がましくそう言う兄だが、妹は首を振ってバッサリと切り捨てる。
「朝が特に弱いですから。起こさないとずっと寝てますよ、兄さんは」
「う……それは」
とはいえ、そのお陰で毎朝妹に起こして貰うというシチュエーションを堪能出来ている訳だが。
「これからは一人で起きられるように努力を……」
「多分兄さんには無理だと思いますけど」
「何を!」
駿の言葉にクスクスと可笑しそうに笑いを溢す静。
そんなやり取りをしているとあっという間に約束の時間に。
「おーい!」
「「?」」
ちょうど時計の長い針が5の所を回った頃、正門で待つ二人に後ろからかかってくる声があった。
振り返ると制服姿の女子と男子が正門に歩いてやってきた。
「連絡を頂いた方ですよね?」
「あ、はい。
月ノ宮です」
男子がそう尋ねたので静は頷いて返す。
門にやってきた二人はどうやらこの学園の生徒のようだ。
女子の方はふんわりとした橙色の髪を二つの黒いリボンで結んだツインテール、童顔で可愛らしい容姿をしている。
襟と手首に入っている赤いラインと胸元に付いている桃色のリボンが特徴的な白いセーラー服に、チェックのはいった赤のスカートを身に付けている。
これは恐らくこの学校の制服なのだろう。
かなり小柄な体型で身長は140cm前後。
中高一貫の学校だから中学生なのだろうがそれにしても小柄だ。
一方男子の方は高身長で170cmはある。
サラサラとした茶色がかった黒のストレートヘアを短く切り揃えており、穏やかで美しい顔立ちに黒フレームの四角い眼鏡をかけている。
服装は学校の制服だろう、無地の白いYシャツの上から黒いブレザーと紺のネクタイ、黒いズボンという姿。
「遅れてゴメンね〜
ちょっと仕事の整理に手間取ってて……」
「おや?遅れた理由は偶々見つけたアルバムを捲るのに夢中だったからのような……」
「わわっ、それは言っちゃダメなんだよ悠君」
ツインテールの女の子は何やら謝ろうとするも隣の男子の言葉に慌てて両手を振って中断する。
「えっと……?」
しかし、目の前の二人に未だ状況がよく呑み込めていない駿達。
一体二人は何者なのか。
「あ、そっかそっか。
まだ自己紹介してなかったね」
その様子を察したのか女の子は自分の胸元に手を向けてみせる。
「私は香坂もみじ。
この高等部二学年で学園の生徒会長だよ!」
「「ええ!?」」
何と彼女は生徒会長だったのだ。しかもこんなに小柄なのに高校生、駿より一つ上にあたるのだ。
当然の事ながら二人は驚きの声をあげる。
「あれ、何で驚いてるの?」
「いや、まさか先輩だとは思わなくて……」
首を傾げるもみじに思わず思った事を口にしてしまう駿。
本人を前にして失礼な言葉である為に静が注意しようとしたが、もみじは全く気にした様子は無く笑ってみせた。
「あはは、よく言われるよ。でもでも、見た目と違って多分心は広ーい会長さんだから、よろしくね!」
「あ、こちらこそよろしくお願いします。
俺は月ノ宮駿って言います。
こっちが妹の静です」
「よろしくお願いします」
駿と静は軽くお辞儀をして挨拶を返した。
「うんうん、駿君に静ちゃんね!」
もみじは二人の顔を交互に見ると胸の前で両手を併せてニッコリと微笑んだ。
なるほど確かに彼女は小柄で高校生には見えないが、この笑顔はとても魅力的でかなり癒されるものを感じる。
きっとこの学校には彼女のファンクラブがいくつもあるのだろうと駿は思う。
「そしてもしファンクラブがあったら俺も入ろう」
「兄さん?」
最後の思いはついつい口から出ていたようだ。
不思議そうに首を傾げる静に慌てて何でもないと首を振る駿。
「僕は相良悠一です。
高等部一学年で生徒会の書記をやっています。
よろしくお願いします、お二人とも」
「ああ、よろしく」
「よろしくお願いします」
続けてもみじの隣の男子が穏やかな笑みを浮かべて挨拶をした。
「本来なら会長と副会長がお二人を案内する筈だったのですが、何分副会長が就寝中で起こすのも可哀想だったので代わりに僕が会長にご一緒する事に」
「八雲ちゃん、まだ朝なのに『今日はお天気が良いからお昼寝日和ですね〜』って言ってかと思うとすぐに寝ちゃったもんね〜」
((お昼寝……?))
悠一ともみじによると、どうやら本来来る筈の副会長は朝なのにお昼寝中らしい。
一体どんな副会長なのかと内心で首を傾げる二人。
「ま、とにかく今から私が駿君と静ちゃんが楽しい学園生活を送れるようにこの汐咲学園を案内してあげるからね!」
「「よろしくお願いします」」
「はいは〜い、会長さんに任せなさい!」
頭を下げる二人に対して、もみじはポンと胸を叩く仕草をすると早速駿達が立っている正門に手を向けた。
「じゃじゃ〜ん、まずはここ!
汐咲学園の名所その壱、入口の正門だよ!」
「いや会長、それは見れば分かりますし別に名所でも何でもないですよ」
自信満々に言うもみじにすかさずツッコミを入れる悠一。
「何言ってるの!
この素晴らしい正門を語らずして汐咲学園は語れないよ!」
「じゃあ、どのように素晴らしい場所なのか説明してみて下さい」
「え?そ、それは……えっと、えっと……あの、その……」
そこまで言うならば何か理由があるのだろうと尋ねる悠一だが、一気に自信が何処かに飛んでゆき言葉に詰まるもみじ。
「出来ませんよね?」
「うぅ、悠君の意地悪……」
肩を落として彼女は敢えなく負けてしまった。
かと思ったらパタパタと駿の元に駆けてきた。
「そんな事ないよね駿君。この正門は名所だよね?ね?」
(ぐはっ……!!
そんなつぶらな瞳で上目遣いされては……!!)
そして上目遣いで何故か駿にそう尋ねた。
彼はいきなり話を振られた事より何か違う意味でダメージを受けている様子だ。
とはいえ、当然今日初めて来た彼にそんな事は分かる筈もない。
なので普通ならば答えらないのだが。
「勿論、この正門は汐咲学園の顔です!!俺が保証します!!」
この男は普通では無かった。どうしようもない馬鹿だったのだ。
そんな訳であっさり首を縦に振る駿は何の根拠があってか保証するとまで言い出した。
「ありがとー!!
流石駿君だね!」
「いえいえ、当然の事をしたまでです」
もみじはニッコリと微笑んでお礼を言う。
何を持って流石なのか、何において当然なのか、今日初めて会った人間同士がする会話では無い。
「なるほど。中々面白いお兄さんみたいですね」
「すみません……お恥ずかしい所を」
そんな彼の様子を見てクスリと笑みを溢す悠一に静は申し訳なさそうに頭を下げた。
「会長、コントが一通り済んだら早く案内の方を」
「あ、そうだった。
それじゃあ、次は学園内の案内だね!」
「まずは高等部校舎からの方が良いと思いますよ」
もみじがそう言って正門から学園内の方向をビシッと指を差すと、悠一はブレザーの胸元にあるポケットから手帳を取り出してそう助言をした。
こうして、小さな会長とクールな書記の案内で駿と静の学園見学が始まるのだった。
次回は学園案内とまた新しいキャラクターが登場します。
個人的に一番お気に入りのキャラクターです。
次回もよろしくお願いします!!