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第40話 その男、従兄弟につき

 


Q:駿のシスコンは治りますか?


A:正直分かりませんが、

彼女とか出来ればもしかしたらシスコン度が薄れるのかもしれませんね。

まぁこんなシスコン野郎を貰ってくれる女の子なんてそうは居ないでしょうが







という訳で二日目後半です。今回は新キャラを絡ませる為だけの回ですので、本格的に屋敷の外を見て回るのは三日目以降になります。


故に今回はいつも以上にグダグダです。最近話にメリハリが付けられずちょっと悪戦苦闘してます。

お見苦しい回で本当にすみません、これからはもっとしゃんとした描写を書いていきたいと思います。


では、よろしくお願いいたします!!

 

 


「んじゃ、行くか」


「「「ちょっと待て!!」」」


屋敷から山道を降りて下町を色々と見て回る事にした一行。

バス停に来たバスに乗り込もうとする駿を晴香、紫、相也が慌てて呼び止めた。


それもその筈、つい今しがた起こった出来事に一同は驚愕せざるを得ない。


「ん?どうかしたのか?」


「どうかしたのかって!!

い、今!!バスに人が!!人が轢かれたぞ!?」


相也はバスと駿を交互に見ながらオロオロとジェスチャーをしてみせる。


つい数秒前。

バス停に向かって走ってくる白髪の青年がいたのだが、ちょうど到着したバスに激突して吹っ飛んでいってしまったのだ。

彼等の目の前で、交通事故が起こったのである。


にも関わらず駿は何事も無かったかのようにバスに乗り込もうとするので、慌てて引き留めたという訳だ。このままスルーしてしまっては色々と破綻してしまう事間違いない。



「おっ、月ノ宮ん所の兄ちゃんか。久しぶりだなぁ」


「ああ、久しぶり。運転手のジーさん」


運転席から白髪頭の老人が顔を覗かせてニカッと笑ってみせた。

かなり歳はいっているようだが、彼がこのバスの運転手のようだ。狭い地域のバスだからか駿とは顔見知りらしい。


「ところで、俺のバスは今何かにぶつかんなかったかい?」


「あー、気のせいだろ。

もう年だし耄碌(もうろく)してきたんじゃねーのか?」


駿はそう言ってヒラヒラと手を振ってみせる。

耄碌どころか目の前で一人の青年がこのバスに吹っ飛ばされたのだが。


「カッカ、そうかそうか」


(((え〜……)))


陽気に笑って納得してしまった運転手に相也達は呆れたように肩を落とす。


「とにかく、さっさとバスに乗ろう」


「え、でも……」


晴香は駿と青年が消えていった方を交互に見て困惑したような表情を浮かべる。



「最近この辺りに出没する不審者だろ。気にすんな」


「ああ、不審者だな。

間違いない」


「ちょっ、イッくんまで!」


先程と全く同じ説明をして再びバスに入っていこうとする駿に、何と一騎まで同意して頷いてみる始末。

二人とも無理矢理片付けようとしている事は火を見るより明らかだ。



「だ〜れ〜がぁ〜!!」


「「!?」」


と、その時。

どこからともなく低い唸り声が彼等の元に聞こえてきたのだ。


相也達は辺りを見回すが道が続いているだけで人の姿は見当たらない。

かと思いきや。


「誰が不審者だぁ!!貴様らぁぁぁ!!」


「うわっ!?」

「きゃ!?」


突然、バスの下からヌゥッと白髪の青年が叫びながら姿を現したのだ。

それは紛れもなく、先程バスと衝突したあの青年であった。故に晴香達は驚きのあまり後ろに飛び退いてしまう。


「はぁ……やっぱり出て来やがったか」


「ホント、相変わらずの頑丈さだよな……」


驚愕する一同を余所に、駿と一騎は呆れたような困ったような視線をバスの下に向ける。


二人は案の定この青年とも知り合いらしい。確かに先程、彼は駿の名前を叫んでいたし、駿の知り合いならば一騎とも知り合いである可能性が高い事は容易に想像がつく。


「当然だ。

俺は月ノ宮流の格闘術を体得しているんだ。貴様らと違ってこの位でくたばるか」


青年はのそのそと下から這い出すと、肩や腰に付いた砂ぼこりを払いながらのっそりと立ち上がった。



首の真ん中まで伸びた白髪に精悍な顔付き。

目を引く黄金色の瞳はギラリと鋭い光を宿している。

身長は一騎と同じくらいあるが、体格は彼よりもガッシリとしているのが特徴的だ。


波模様が入った黒い上着は和服のような生地が使われている珍しい物で、下は所々切れ目の入った灰色の長ズボンを身に付けている。

「つーかバスに吹っ飛ばされたのに、何でそのバスの下から出てくんだよ?」


最もな疑問。

確かに彼はバスに吹き飛ばされた筈だが。


「何、簡単な事だ。それは俺が俺であり俺たる所以だからな」


「………一騎、通訳頼む」


「済まんがさっぱりだ。

というか、付き合いはお前の長いんだから」


青年はニヤリと口元を緩めてそう言ってみせるが、全く理由になっていないその説明に駿と一騎は顔を見合わせて再度呆れる。


「駿、やはり知り合いだったのか?」


「ああ、残念ながらな。

出来れば今すぐ赤の他人になりたいくらいだ」


隣の紫が尋ねると、駿は大袈裟なため息ついて額に手を当てた。そして渋々といった様子で白髪の青年に手を向ける。


「コイツは月ノ宮怜夜。

見ての通り馬鹿みたいに頑丈で喧しいヤローだ」


「え、月ノ宮って……」


“月ノ宮”

よく知っている、というか駿と全く同じ苗字に晴香は小首を傾げて駿を見つめる。


「ああ……」


彼は彼女の言わんとしている事を察してゆっくりと頷いてみせた。


「コイツは俺と静の、従兄弟(従兄妹)だよ」




 




 

第40話 その男、従兄弟につき 




 




山道を下るバス。

時折カーブを曲がるとガタンと車内が揺れる。


「ほぅ、駿のクラスメートだったんだな」


そんな車内の奥の方の席では白髪の青年、月ノ宮怜夜が相也や晴香達と向かい合って話をしていた。

互いに自己紹介を終えて簡単な身の上も分かると、怜夜は腕を組みながらフッとに微笑してみせる。


「ね、レイくんはミヤミヤとはどんな従兄弟なの?」


「れ、レイくん?」


彼の前の席に座っていた晴香がそう尋ねた。しかし、いきなり飛び出した謎のワードに怜夜は困惑したように首を傾げた。


「彼女は人の事をあだ名で呼ぶ癖があるんだ。彼女の無礼を許してくれ」


「センスゼロで不快に思われるかもしれませんが、お気を確かに」


「ちょっ、ゆかりんにゆっくんまで!」


故に紫と悠一は申し訳無さそうに謝りフォローをしてみせる。


「皆酷い……!!

私は、皆で仲良くする為を思っただけなのに……!!」


「って、おわっ!?」


晴香はうるうると涙を浮かべると(勿論嘘泣き)踵を返して隣の駿の腕にひしっと抱き着いた。

柔らかい胸の感触やら甘い香りやらに駿は慌てて顔を赤くしてしまう。


まぁここまではいつも通りのふざけ合いなのだが。


「「…………」」



そんな状態でお互いに目が合ったものだから、駿と晴香はハッとしたような表情になる。


二人の頭を過ったのは言うまでもなく、今朝の二人きりの和室での出来事。

誤って晴香の着替え中に駿が部屋に入ってしまい、何やかんやで下着姿の晴香を押し倒してしまうという事態になってしまったのだ。一歩間違えば本当に大変な事になっていたかも知れない。


それを思い出した途端に、駿は勿論晴香までみるみると顔が赤らんでしまう。


「あ、えっと……

ごめんね……」


「い、いや……」


ぎこちない様子で離れる二人。

今朝の出来事からそんなに時間は経っていないので、今の状況は相当に恥ずかしいに違いない。


幸い、他の皆は怜夜の方を見ていたので二人の些細な様子には気付いていない様だった。


「あ、えっと。

それでレイくん、さっきの話だけど……」


「ん?ああ……」


まだ僅かに赤らんだ表情で、改めて尋ねる。空気を変えるというのがこの場合真意だったりするのだが。

ともかく怜夜は再び腕を組み直してゆっくりと頷いてみせた。


「俺は優良さんの甥にあたる。母が優良さんの妹だからな」


「へー、んじゃ年は?」


「駿と同じだ。

まぁ精神年齢は俺の方が遥かに高いがな」


彼は駿の母、優良の妹の子供だという。つまりは甥という事になり、そういう系譜での従兄弟らしい。



「しかしそうか、クラスメートとなると大変だろう。コイツは迷惑ばかりかけるだろうからな」


「オメーにそれを言われるのはこの上無い屈辱だなオイ」


「フッ、貴様とは従兄弟の腐れ縁とはいえ長い付き合いだからな。否応がでも分かるという事だ」


「いや、だからオメーが言うなってつってんだろ」


すかさず駿がツッコむが怜夜はその言葉を全く理解していないようで相変わらず微笑したまま。


「大体、何だってオメーがついて来てんだよ?

さっさと屋敷に行きゃいいだろーがっ」


「なに、とうとう静さんに見放された貴様を慰めに来てやったんだ。心配するな、後で静さんとはたっぷり二人きりの時間をとるつもりだからな」


同じく下町へ向かうバスに乗る怜夜に駿は屋敷の方向に指を突き付けてみせる。駿達は屋敷の近くを少しばかり見て回るのが今日の予定だが、彼は先程知り合ったばかりで一緒に行動する理由も無いと。


すると怜夜は小気味良く口元を緩めて手をヒラヒラと振ってみせた。どうやら彼は静が居ないのは兄を避けているからだと勘違いしているようだ。


「だから、静は家で予定があるってんだろ。

大体オメーなんかに静を渡せるかっ!!」


「ハッハッ、強がるな強がるな。兄離れの時期が来ただけの事だ。

む、そうか。貴様は近々未来の義兄になるかもしれんのだな」


(コイツ……!!)


理由を説明するも怜夜は幸せそうな表情でさぞ愉快そうに駿の肩をポンポンと叩いてみせる。

駿の言葉等全く届いちゃいない。


(また随分と変わったタイプだな、彼は)


(ああ、それも静ちゃんにゾッコンだな。

流石静ちゃん、狙ってる奴は学園に留まらずか〜)


そんな様子を見て、紫と相也は顔を見合せる。

彼の性格を知っている訳では無いが、何となく把握は出来てしまう。流石駿の従兄弟なる人物である。


「まぁまぁ、これも何かの縁って事で。怜夜さんも一緒に」


ポンポンと肩を叩いてそう言う悠一。駿は至極面倒そうな表情を隠さないが、そんな彼の耳元に晴香はそっと口を寄せた。


(今、レイくんが屋敷に行ったらしずちゃんと二人になっちゃうよ?)


(う……それもそうか)


彼女の言う通り、今怜夜に屋敷に行かれては何かと面倒ではある。それに恐らく今の怜夜には何を言っても無駄だろう。


駿は内心ため息をつきつつ、彼女の言葉に頷いてみせる他はなかった。

確かに自分の居ない間に溺愛している世界で一番可愛いのは勿論、そりゃもうずっと抱き締めていたいくらいの最高の妹に手でも出されたら堪ったものではないからな」


「ミヤミヤ、声に出てるよ……」


「あー、まぁ気にするな」



いつの間にかバスは山道を下っていて、窓から見える景色は低い木造の建物が多くなってきていたのだった。







目的地のバス停に降りた一行は、昔ながらの木造の一軒家がポツポツと並ぶ道を歩いていた。

一軒家の周りには必ずといって良いほど田んぼや五月の緑があり、懐かしくも和やかな景色を思わせる。


まだお店や商店街のような場所は見当たらないが、ここも下町と呼ばれる場所の一部だという。


「へ〜、何だか昭和の風景って感じだね」


周りの景色を眺めながら晴香は微笑む。


季節感溢れる五月の爽やかな風はさらさらと彼女の髪をさらい、白いミニスカートと薄手のカーディガンの涼しげな彼女の服装はこの場所によく似合っているように思える。


「昭和の景色なんて知らねーだろ?」


「良いの、こういうのは気持ちが大事なんだから。

もう、ミヤミヤのばか!」


そんな感想を素直に述べる訳も無く、平然とツッコむ駿に頬を膨らませるとジト目を向けて反論する晴香。


「馬鹿とは何だ、馬鹿とは!少なくともお前より成績は良い筈だぞ」


「あ、酷い!

英語は私の方が出来るわよ!それに社会学だって」


「いーや、無い無い。

社会学って……」


「な、何よその目は!

見てなさいよ、中間テストで絶対見返してやるんだから!」


かと思いきやたちまち口論になる二人。しかも口論な内容は成績はどちらが上かという小学生レベルという。


「相変わらず仲が良いですね、お二人は」


「二人とも五十歩百歩のような気がするが」


やれやれと肩を竦める悠一と一騎。

特に一騎の言葉は言い得て妙で、全く持ってその通りである。どんぐりの背比べとも言う。


「全く仕方のない奴等だな。どちらが上だの下だのと、友達として情けないよ俺は」


「因みに、お前が一番成績は悪いからな」


(うっ………)


相也も余裕ぶった表情でそれっぽい事を宣ってみせるが紫の鋭い指摘に内心ダメージを受けていたり。


「ほほう……」


そして、何故か怜夜は駿達の様子を見てニヤリとしてしたとか。




さて、そんなやり取りをしながらもお昼前の温な田舎道を歩いていった。

暫くいくと、先程屋敷でも言っていた商店街のような場所にやって来た。


瓦屋根のガッシリとした木造のお店が並んでいて幾ばくか地元民が行き交う。

舗装された道路など無く土が剥き出しの大通りの両脇に店が並ぶ光景貫禄すら感じられる。


「随分と古くからあるお店ばかりのようですね……

薬局では無く漢方薬のお店とは。しかも薬でも幾つかお店が分かれているみたいです」


「和菓子だけでも結構ちらほらあるな。饅頭屋に団子屋、水飴屋に……うっ、漢字が読めん」



数々の建物は外見から入口には暖簾が掛かっていていかにも老舗らしい。

また中身も最近のお店のように一ヶ所にまとまった便利なお店では無く、いくつもの目的に合わせて店があるものだ。


今、悠一達が挙げたお店は彼等の近くにあった一部に過ぎずまだまだ色々と昔からあるお店が並んでいる。


「確かにこの辺は先代の時代からあったものがそのまま今に受け継がれているというからな。

元々田舎で戦時中も集団疎開用の場所だったからな、戦争の被害はほとんど受けなかったそうだ」


怜夜は辺りを見回しながら一同に振り返って説明をする。なるほど、そういう経緯があるのならば今尚健在していても不思議ではない。


「下町か。なるほど、そう呼ばれる理由もこの景色を見れば納得だな」


「何だか懐かしいような雰囲気もするね。日本人だからかな?」


「いや、ちょっと違うと思うが……」


紫と晴香も周りの老舗店舗の数々や古めかしい様子を眺めて各々頷く。


「ま、回るっても特に見所がある訳でも無いけど。

取り敢えず昼飯だよな」


「そういや、もう昼時か。

今日は時間が経つのが早い気がするな」


グッと伸びをしながら空を見上げる駿の言葉に一騎もお腹を擦ってみせた。


太陽は空に既に高々と昇っている、というより屋敷を出たのが朝御飯を食べてから暫く経ってからだったので時間的には当然なのだが。

行きたがっていた瑠璃もお昼寝してしまい少し気の毒だったので、また明日にでも外に連れていってあげようという話もあったがそれはまた別の話。


「そうだね、私もお腹空いちゃった」


「あー、聞いたら俺も。

何でも良いから食べたい気分」


晴香と相也の言葉もあって、せっかく下に降りてきたのでまずはお昼をとる事にする一行。


「それなら、美味い蕎麦の店があるぞ。案内してやろう」


「「?」」


すると、隣から怜夜が相変わらずの腕を組んだ格好でスッと前に出てきた。


「今日の昼は全て俺が奢ろう。いくらでも食っていってくれ」


「え?ホントに!」

「マジでか!!」


しかも彼は全員分のお昼を奢ってくれるという。それを聞いた晴香と相也は嬉しそうに顔を見合せる。


「良いのか?

そんな私達にまで……」


「構わんさ、今日の俺は実に気分が良いんだ。

なに、遠慮しなくて良い」


申し訳無さそうに尋ねる紫に怜夜は顔の前で大きく手を振ってそう言ってみせた。なるほどその表情からは本当に気分が良いらしいが。


「そういう事でしたら、お言葉に甘えて。ありがとうございます怜夜さん」



「ありがとね、レイくん」

「サンキュな!!」

「ありがとう」


悠一を始め、皆はちゃんとお礼を言って怜夜にご馳走になる事に。

駿と一騎だけがきょとんとした表情で顔を見合せているのだった。






お昼はすぐ近くのお店であった。


「美味し〜!

このお蕎麦美味しいね、ゆかりん」


「うん、久しぶりに食べるがこれは美味しいな」


「汁もダシがきいててよく合っていますね」


怜夜の言う通り蕎麦屋で古い建物ながら老舗と呼ばれるに相応しい味で、麺一本一本が丁寧に打たれているそのお店の蕎麦は皆にも非常に好評だった。しかも田舎だからか値段も安いときたものだから驚きである。

また食べに来たいと思えるお店を見つけただけでも、外に散歩に出た甲斐があるというものだ。



「どーいう風の吹き回しだ?オメーが皆に奢るなんて」


お蕎麦を食べ終えて、店を出る前にお手洗いに入った駿は洗面台で隣に立つ怜夜に訝しげな表情を向ける。


「フッ、さっきも言った通りだ」


怜夜は水道水を掬って顔を洗うと、鏡に写った自分の姿を見ながらそう言って口元を緩める。


「そういや、気分が良いとか言ってたなオメー」


更に隣の洗面台で手を洗っていた一騎が尋ねると、怜夜はコクリと大袈裟な程大きく頷いてみせた。


「その通り……

実に気分が良いのだよ俺は」


「だから何なんだよ、気味悪ぃな」


答えになっていないと駿は訝しげな表情のまま洗い終えた手をハンカチで拭う。確かに答えになっていないで気分が良いと言われても本人以外は理解出来ないのも当然だ。


かと思いきや、怜夜はニタリとした顔で駿の肩をバシバシと叩き始めた。


「いや〜、何たって駿が恋人を連れて来るんだからな。めでたいめでたい!!」


「は?」


怜夜の言葉に駿は目が点になる。コイツは何を言っているのだと。

今確かに“恋人”と彼は口にしたが全く身に覚えが無い。


しかし、駿のそんな反応を見ても怜夜はからからと笑って肩をポンポンと叩く。

そしてこんな事を口にしたのだ。


「惚けるなって。

あの天城という女の子と付き合ってるんだろ?」


「んなぁ!?」


次の瞬間、足を滑らせ目の前の鏡に激突する駿。その様子に驚く一騎だが、構わず駿は怜夜に詰め寄る。


「ち、ちょっと待てぇ!!

誰がそんな事を言った!!」


「照れるな照れるな。

バスや先程のやり取りを見てれば誰でも分かるさ。

いやー、これで俺も心置き無く静さんとお付き合い出来るというものだ」


「んな訳あるかっ!!

何を一人で勘違いしてやがる!!」


「ハッハッハ!!

あの駿が遂になぁ」


事実無根だと訴える駿の言葉は全く。どころか怜夜はますます気分が良さそうに笑う始末。何の躊躇いも無く全力で勘違いに突っ走っている。


「だから違うってんだろっ!!大体お前と静が付き合う訳ねーだろ、絶対に認めねぇ!!」


「フッ、駿よ。自分が幸せだからと言って他人の幸せを邪魔してはいかんだろう。静さんと俺は赤い糸で結ばれた運命なのだ。そう、まるで」


「その腐りきった脳をまず治療しろ、つーか寧ろお前の人生やり直せ」


駿の辛辣なツッコミを爽やかな笑顔で弾くと、怜夜はくるりと踵を返してトイレを後にする。


「お前の恋人や仲間にも挨拶を終えた事だし、俺は一足先に屋敷に戻って静さんと語らいをしてくるとしよう。

では、さらばだ!」


バタンと閉じられた扉を見つめて呆然とする駿と一騎。


「何なんだよアイツは……何処まで馬鹿なんだよ……」


「いつも通り勘違い全開だったなぁ……相変わらず、殊静ちゃんの事になるとお前同様にフルスロットルだ」


盛大にため息をついてガックリと肩を落とす駿と苦笑混じりに肩を竦める一騎。



「というか放っておいて良いのか?」


「あ?」


「怜夜のヤツ、静ちゃんの元に帰ったんだろ?」


「はっ!!」


駿は思い出したように目を見開いて顔を上げると、間もなく駆け出してトイレから出ていった。


「させるかァ!!

静と二人きりになんてさせるかァァァ!!」


シスコン全開の叫び声を上げながら。


一人残された一騎は再び洗面台に戻って


「なるほど、怜夜は駿に恋人が出来てライバルが減ったと勘違いしたからあんなに上機嫌だった訳か」


誰に言う訳でも無く鏡に向かってそう呟く。


「けど、もし本当に駿に恋人が出来たらアイツのシスコンが少しは大人しくなるのかねぇ……」


シスコンでは無くなる駿。

そんな日が来るのかと聞かれれば、彼を知る人だったら口を揃えてあり得ないと言うだろう。

ふとそんな一騎であったがすぐにふるふると首を振って、駿達を追いかける為に皆の所に戻った。


「ああ、駿なら走って出ていったが……何かあったのか?」


「あ、ああ。そうか……」


しかし案の定、駿も怜夜も既にお店を出てしまった後だった。

話によると怜夜が走り去った後を追って駿も一瞬で駆けていったとか。何があったのか尋ねる間も無かったという。


駿は静の事になると驚異的な能力を発揮するので、恐らく今から追い付くのはほとんど不可能に近いだろう。


「仕方ない、今日の所は屋敷に戻ろうか。この辺の駿(あいつ)の学校とかは明日回ってみよう」


それを考えて一騎は頭を掻きながらそう結論を出した。この調子だと色々と大変だろうから、後日出直そうと。


「そだね、そろそろ瑠璃も起きちゃうし。今日は戻った方が良いかも」


「だな、色々と話せただけでも楽しかったしな!」


「そうですね」


晴香や相也達も賛成をしたので一行は予定より早いが引き返す事に。



ほとんど下町を回れてはいない今日だったが、それでも何だかんだと賑やかな午後を送りつつ屋敷に戻っていったのだった。





・・・・・



因みに



「はぁ……はぁ……」


「ぜぇ……ぜぇ……」


あれ以降ずっと姿を見せなかった駿と怜夜だったが、日もすっかり暮れた夜にようやく屋敷の玄関に戻って来た。


二人は肩で息を切らしながらよろよろと玄関の前に手をついて倒れ込む。


「二人とも、一体何処に行ってたの?」


「「………山頂」」


晴香がそっと尋ねると、二人は揃って遥かに前方にある高い山のてっぺんを指さしたとか。






すみません、今回もまた後書きの座談会はカットします。質問も次回に回すのでご了承下さい!





今回は駿の従兄弟の怜夜なるキャラクターが登場しました。


怜夜のウザさ(笑)のインパクトが強すぎて、自称ライバルである一騎が若干影が薄くなったかなと。

それくらい鬱陶しいキャラクターです、怜夜は。


駿がシスコン野郎ならば、怜夜は勘違い全開野郎ですね。



さて、そんな怜夜ですが次回はそこそこ活躍するかもです。次回は久しぶりに妖怪退治を予定してます。

未知数の怜夜と一騎を加勢させたいなと。


そして、優良さんの力もほんの少しだけ明らかになるかもしれません。




妖怪退治はちょっと久しぶりなので時間がかかるかも分かりませんが、

次回もよろしくお願いいたします!!




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