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第35話 ぶらり月ノ宮帰省旅行



帰省開始です。


この帰省編で今まで電話だけだったキャラクターもどんどん登場します。

また、今回は前々から自分が考えてた妖怪も一体出てきたり……



とにかくやりたい事が盛りだくさんの帰省編です。

では帰省編第一話、始まります!








 

 

5月2日 午前8時半

汐咲駅前広場


「30分前か……ちょっと早かったか?もう少し寝られたな」


「兄さん、私達は早く来て皆さんを待っていないといけませんから30分前くらいは当たり前です」


本日も快晴な汐咲市。

駿と静が駅の前にある広場、噴水の前で立っていた。

駿はシャツの上から黒いパーカーと青いズボン、静は白いレースのブラウスに薄桃色のスカートと二人とも私服姿だ。



今日からゴールデンウィークの五日間、二人は実家である月ノ宮本家に帰省する事になっている。そしてその帰省に駿達の友達も一緒に誘っており、今二人は彼等を待っているのだ。


集合時間は9時。

駿達は案内する側という事で早めに集合場所に来ている。


ダメダメな兄はまだ寝れるとか宣っているが、しっかり者の妹はそれをたしなめるように注意している。

この構図を見るだけで、兄妹の日常の関係も見てとれる程だ。



「おーい!」


「「?」」


暫く待っていると、不意に二人の方に向けられた声が聞こえてくる。

見ると広場の向こうから二人の男子、相也と悠一が歩いて来ていた。


相也は青いトレーナー姿、悠一はジーパンとシャツ、上には前の開いたチェック柄の上着を羽織っている。


「あ、篠田先輩と相良先輩ですね」


「ホントだ」


相也はこちらに向かって手を振っていて駆けてきた。


「おっはよ〜駿、静ちゃん!」


「駿、静さん、おはようございます。今日はよろしくお願いしますね」


一日の始まりはまず挨拶から。という訳で相也は朝早くにも関わらず元気良く、悠一は丁寧に頭を下げてみせた。


「ああ、おはよ」


「おはようございます、篠田先輩、相良先輩」


駿はいつも通りに、静は両手を併せて優しく微笑んで挨拶を返す。


「他の皆さんはまだいらっしゃらないのですね」


「そうだな、まぁもう少しで来ると思うぞ。晴香は何となく遅刻してきそうな気がするけど」


周りを見回して尋ねる悠一に駿は同じように広場の向こうを眺めてそう答えた。


広場の真ん中にある噴水の音の周りにも休日の朝だからかまだ人が疎らである。


「僕もそう思います。

流石、似た者同士ですね」


「どういう意味だよっ」


「クスッ、確かに兄さんと晴香先輩って似てるかもしれませんね」


「ちょっ、静まで」


意味深に笑う悠一に駿はすかさずツッコむも、隣の静もクスリと微笑んで同意してみせる。

なるほど、うっかり者だったり無駄に元気だったり授業中よく寝てたりと、似ている部分は多いのだろう。



「今日は確か、乗り換えが多いんでしたよね」


「ああ。取り敢えず都心までは電車で行って、そこから新幹線で二時間くらいだな。んでまた私鉄に少し乗るんだ。

あ、切符渡すよ」


駿は今日の大まかな移動手段を伝えつつ、指定席の番号が書かれた新幹線の切符を手渡した。


「ところで悠一」


「はい?」


「相也はさっきから何をしてるんだ……?」


切符を渡した後、駿が相也の方に顔を向けて首を傾げた。何故なら彼はギュッと目を閉じながら両手を握り締めて足踏みをしているのだから。


「ああ、彼なら『朝から静ちゃんの笑顔を見れて幸せだ』と悶えています」


「相変わらず幸せな奴だな……」


「駿も大差無いと思いますがね」


全く悠一の言う通りで、ほとんど同じ台詞を駿も言っていたりするのだが。



「皆〜!」


「待たせたな」


更に数分後。

広場の奥から晴香と紫、元気良く手を振る瑠璃が歩いてきた。


晴香は白いトップスの上に明るいオレンジ色のカーディガン、白いミニスカートから見える綺麗な足が特徴的だ。


紫は無地のシャツにラフなパーカーを羽織っており、下は青いショートデニムでスラッとした足がよく分かる。


瑠璃は可愛らしい赤いワンピースに小さなリュックを背負っている。ニコニコと微笑んでいる様子はさながら小さな天使のようで。


「何だか女性陣の皆さんは描写がやけに細かくないですか?」


「誰に言ってんだお前」


悠一の謎のツッコミ ―いや的確なツッコミとか言うな。ハッハッ、何の事やら― は置いておいて、女子達も各々私服姿である。


「晴香先輩、紫先輩、瑠璃ちゃん、おはようございます」


「おっはよ」

「ああ、おはよう」

「おはよう、静お姉ちゃん」


三人の前に出て静が微笑んで挨拶をすると、三人とも挨拶を返した。

これで女性陣のメンバーは皆揃った事になる。


「おおっ、紫ちゃん達の私服姿!!何てレアだ、是非もっと見た………へぶっ!?」


「済まない、手が滑った」


いつの間にか紫達の前に駆け寄っていた相也だったが、言い終わる前に紫の蹴りを食らってふっ飛んでしまった。


「ぶべらっ!!」


「おー、飛んだ飛んだ」


そして見事に駿達の前に落下、奇声を上げて地面に激突。駿は感心したような声を上げた。


「おはよ。ミヤミヤ、ゆっくん」


「駿、相良、おはよう」


「駿お兄ちゃん、今日はよろしくお願いします!」


晴香達は駿と悠一(相也は前でぶっ倒れている)の前に来る。瑠璃はニッコリ微笑んで駿に手を差しのべてきたので、彼も笑って『よろしくな』と握手をしてみせた。


「遅くなったな、晴香が中々家から出て来なくて」


「えっと、着てく服を選んでたらちょっと時間かかって……」


悠一達より到着が遅くなった原因と思わしき理由が服を選んでいたからと説明する晴香。

それに対し駿はというと……


「服なんてどれでも変わらないんじゃないか?」

女の子には決して言ってはいけないワードbest3


「ミヤミヤって本当にデリカシー無いよね〜」


「痛たたた!?

つねるなって、頬が痛い!!」


晴香はジト目で駿の目の前まで来ると、彼の頬をギュッとつねった。

今のような台詞は本当に女心が分かっていない鈍感野郎だからこそ吐けるものだ。


「ふおぉ……!!

もうちょっと右!右!」


「「?」」


と、何故か地面から奇妙な声が聞こえきた。いやに力の籠った声で二人が下を向くと……


「天城後少し!後少しでマジで見えるから!天国が見えちゃうから!!」


「「…………」」


地面に転がっていた相也が目を見開いて二人の方否、彼の視線は晴香の足から上の方に熱っぽく一直線に向かっている。

彼女は今ミニスカートで、相也は地面に転がっているのだ。彼の言う通り晴香がもう少し右に移動すると……


「「………」」


「ぶべらっ!?」


駿と晴香は転がっている変態一名を無言で蹴り抜いた。有無を言わせず変態は吹き飛んで頭から地面に着弾する。


「って、天城は分かるけど何で駿まで!?」


「何かムカついて」


「酷く辛辣!?

俺達友達だよね!?」


蹴られた相也はそのまま体育座りをしてしまい、瑠璃に慰められるという情けない構図に。


「ともかく、ミヤミヤはもっと勉強した方が良い。

まずは服の誉め方から!」


「い、いや……」


「はい、テイク2!

さっきのもう一回やり直しね」


「テイク2って何だよ!?」


駿のツッコミに構わず彼女はちゃんと視界に入るように一歩下がってみせた。


「で、この服似どう?」


「あ〜、うん。似合ってるよ」


「うわ、テキトーな返事ね。もっと具体的に!」


「具体的にって……」


突っ込まれるとは思っていなかった駿は、改めて彼女を見つめる。

白いトップスからは彼女の胸がはっきりと見てとれるし、オレンジ色のカーディガンは更に明るめの印象。短めのスカートも細い足と良く似合……


「に・い・さ・ん?

晴香先輩のどこを見ているんですか?」


「痛たたた!?

背中痛っ!?」


いきなり背中に痛み。

振り向けばいつの間に後ろに居たのか、静がニコニコと微笑んで彼を見つめていた。ついでに背中をつねっていたり。


(何故さっきからつねられてばかり……?)


一人心中で首を傾げるリア充(爆発しろ、つーかモゲろ1mくらい)……いや、駿は置いておいて。


「でも、お姉ちゃんが家から遅れた本当の理由はお寝坊さんだったからだよね」


「わわ!?瑠璃、ダメだよ。それは内緒!」


晴香が遅れた本当の理由が暴露されたりもしたが、それも置いておいて。



「これで、後は一騎さんだけですね」


「そうだな、もう少しで来るのでは……」


時刻は8時45分。

後はもう一人のメンバーである一騎を残すのみ。悠一の言葉に紫も頷きつつ、辺りを見回すがまだ広場には見当たら無い。


『残念だったなっ!!

俺は既にここに居るぜ!!』


「「!?」」


筈だったが何か上から声が聞こえてきた。

それは間違い無く一騎の声で、一同が上を見上げると……


「………何やってんのお前」


「ハッハッ!!

どうだ駿!!流石のお前でも、まさかお前達が来る20分前から既に俺がこの巨大噴水のてっぺんに立っていた事とは気が付かなかっただろう!!

今回はお前の敗北だな!!」


広場の中心、汐咲駅のシンボル的な巨大噴水にあるモニュメントのてっぺんに一騎が立って高らかに叫んでいたのだ。

しかも彼によると、駿達がくる20分も前から居たというでは無いか。


「ああ、お前が救いようの馬鹿だって事はよく分かった」


「早く降りて来れば良いのに……」


何故ずっと噴水のてっぺんにいたのか。彼の行動は一同には一向に理解出来なかった。無論、駿にも。


「ほっ!!」


彼は噴水から大きく飛び上がり華麗に着地する。


色々とツッコミ所は多々あるが、取り敢えずこれでメンバーは揃った。

駿はメンバーを見回して確認をすると、前方の汐咲駅に目を向ける。


「んじゃ、行きま」


「よーし、ミヤミヤ達の実家に向けてレッツゴー!」


「あ、ちょっと。台詞取らないで」


こうして、月ノ宮兄妹とその仲間達のゴールデンウィークが始まるのだった。





 




 

第35 ぶらり月ノ宮帰省旅行

 




 




汐咲駅から電車で都心の中心部へ。

都心の一番大きいと思われる駅はこれでもかという位の人で溢れており、流石都会だとこれだけでも痛感させられる。


「お姉ちゃん、人がいっぱいだね〜」


「迷子になるからちゃんと手繋いでるのよ」


小さな瑠璃が人混みに流されないようにしっかりと手を握る晴香。


「で、何でお前も俺の手を握ってるんだ?」


「えっと、何か私も迷子になっちゃいそうで」


「迷子って……」


その晴香も駿の右手をちゃっかりと握っていたり。


「てか、紫まで何故俺の腕を掴むんだ?」


「ひ、人混みに酔った……恐るべき大都会。やはり一筋縄にはいかんな、だが負けない!」


「紫が珍しくボケに回ってる!?お前は上京したてのOLかっ!!」


更に紫も彼の左腕を掴んでいたり。


「相也は別に良いだろ!?

服の裾掴むな重い!!」


「都会にも自分にも負けないさ!何故なら俺には故郷に残した」


「今すぐ故郷に帰れ!!」


何か相也まで服の裾をギュッと掴んでしまっていて。


「袖口とは手首が出る部分の名称であり、『カフ』とも称される……」


「悠一君!?

この状況でお前までボケだしたら収集つかねーよ!!」


悠一まで服の袖口を握っている始末。


「つーか皆普通に歩け頼むから!!身動きとり辛い事この上無い!!」


「駿ーーっ!!

あの人混みに向かって逆流勝負だっ!!」


「一人で行って勝手に流されろっ!!もう沖縄くらいまで流されてしまえっ!!」


一騎の宣戦布告は時と場所を選ばずに相変わらず意味不明。


(で、出遅れました……)


駿の手や腕を掴めなかった静はちょっとだけガッカリ。



とまあ都会の駅で色々あったが、一行は何とか目的地に向かう新幹線に乗る事が出来た。


「何で俺達と女の子達が別の車両なんだよっ!!」


「仕方ねーだろ?

四つまとまった指定席は別の車両じゃないと取れなかったんだから」


新幹線の席は、駿達の男性陣が5両目の後ろ四席。

静達女性陣は3両目の前四席という割り振りになっていた。新幹線内での2時間半、男女で別の車両での移動という事になる。


「く〜っ!!

新幹線で女の子達と楽しくお喋りしたかったのに〜!!」


「ま、相也の場合は向こうから拒否されると思いますけど」


「サラッと酷い事言わないでくんない!?」


5両目では悠一と相也、駿と一騎が隣り合って座っていて向かい合わせの状態になっている。


「別に良いじゃねーか。

男だけで盛り上がってこうぜ!」


「お前は女子が居ると緊張してドモるから好都合だったな」


「放っとけ!!」


一騎の言葉に駿がさらりとツッコミを入れたのと同時、新幹線がゆっくりと動き始めた。



 

【別に勝負じゃ……】


「そういや、お昼は皆駅弁買ってたけどどんなの買ったんだ?」


新幹線が動き始めてから間もなく、不意に駿が他の男子三人に尋ねた。

もうすぐお昼時である。


「俺はこれ!

牛飯弁当、498円!!」


「僕は幕の内ですよ。

550円、まぁ駅弁にしては安いでしょうね」


相也は牛飯弁当、悠一は幕の内弁当をそれぞれ取り出してみせた。


「駿は?」


「サンドイッチ2パック。計300円」


「駅弁じゃねーのかよっ!!」


駿のお昼はコンビニでも売ってそうなサンドイッチだった。安上がりで邪魔にならないが、せっかくの新幹線でサンドイッチというのも何だがなぁといった感じである。


「フッ、緩いなお前達……その程度の値段か」


「「?」」


と、一騎が不敵に笑ってバックから自分の買ったと思われる弁当を取り出す。


「俺は黒毛和牛使用のステーキ弁当!!破格の1500円だ!!

俺の圧勝、独壇場だなっ!!」


「………あ、そ」


話を振った事を少しだけ後悔する駿だった。




【無垢故の残酷さとか】


「やっぱり、女の子が揃ったら恋バナしかないよね!」


3両目の前、向かい合わせの四席には晴香、瑠璃、静、紫が仲良く談笑しながら座っていた。

そんな談笑の中、晴香がピッと人差し指を立ててみせた。


「恋バナ、ですか?」


「別にそれだけという訳じゃ無いだろう……」


首を傾げる静に紫は考え込むように付け足す。

恋バナ、つまり一般的に言う恋愛話である。


「ではでは、好きな男性のタイプから!

まずはゆかりん!」


「私か?」


しかし晴香は構わず話を進める。


「タイプかどうかは分からないが、強い人が良いな。

軟弱な奴はダメだ」


「バッサリ……何か、ゆかりんらしいね」


「強いって、具体的にはどんなものですか?」


苦笑混じりの晴香に続いて静が尋ねると、紫は軽く頷いてみせる。


「最低でも、私より強くはあって欲しいな」


「「…………」」


どう反応をして良いのか分からない二人は取り敢えず顔を見合わせた。

紫より強いとは、これはまた難題である。


「じゃあ、次はしずちゃんね!」


「わ、私ですか?」


「しずちゃんの好きなタイプは?」


静は少しだけ慌てたような素振りを見せたが、小さな息を吸って気持ちを落ち着かせる。


「そ、そうですね……

やっぱり自分の事を、その、ちゃんと見てくれる方でしょうか……」


「ふむふむ、それから?」


「えっと……自分の気持ちに正直な方とか……」


聞いた晴香は意味深に口元を緩めてみせた。


「それって、もうそんな人がいるって事かな〜?」


「そ、そんな事ありません!!そういう晴香先輩はどうなんですか?」


「私?」


深く突っ込まれそうになった静は慌てて話を移す。

晴香は少し考えるように頬に手を当てると、口を開いた。


「私はやっぱり明るい人、一緒に居て楽しい人が良いかな。ずっとこの人と一緒居たいって思える」


「何だ、晴香にしてはまともな答えだな」


「ちょっ、どーゆう意味よゆかりん!」


どんな答えを期待していたのか、肩を落とす仕草をしてみせる紫にすかさずツッコむ晴香。

その相変わらずなやり取りにクスリと微笑むと、静は瑠璃の方に目を向けた。


「瑠璃ちゃんは、好きなタイプとかありますか?」


「えーとね、私は……

あ!分かった!」


瑠璃も考えるように上を見上げるが、すぐに思い付いたように



「何だかんだ言っても男の人は顔とお金!」


「「「え………」」」


幼くも満面の笑みでそう言ってみせた。ただただ、天真爛漫な笑顔で。


「って、前にテレビで言っってたよ」


「「「………」」」




【男が四人揃ったら】


「野郎四人が揃ったらやっぱりコレだよな!」


男子四人席では相也がそう言って自信満々にバックから何かを取り出してみせた。


「ジェ○ガ!!」


「いや何でジェ○ガ!?」


彼が取り出したのはあの有名なゲームだった。組み立てられたタワーを倒さぬように一部を抜いて上に重ねていくパーティーゲームの定番である。


「面白ぇ!!

今回の勝負はこれだな駿!!」


「ジェ○ガにおいて右に出る者は居ないと謳われた僕の腕の見せ所ですね」


(二人ともやる気満々だし……)


一騎と悠一は既にスタンバイが出来ているらしく、やる気十分だ。


「それじゃあ、始めよーぜ!」


こうして男達による壮絶なジェ○ガ大戦の火蓋が今、切って落とされ……


「……なぁ、新幹線揺れるから出来なくね?」


「「「………」」」


3秒で終わった。




【悩みの多いお年頃】


「うーん……」


席に座る晴香はいつに無く真面目に考え込んでいる。時に腕を組んだり、額に手を当てたり、頬杖をついたり。


「晴香先輩、さっきから一体何を悩んでいるんですか?」


「ああ……」


その様子に晴香が隣の紫にそっと尋ねると、彼女は理由を知っているのかため息をついた。


「授業中に寝ているのがバレないポーズを探しているんだそうだ」


「………」


少女の悩みは多い。




【出来る奴と自販機】


「あ、俺ちょっと自販で飲み物買ってくるわ」


ちょうど飲み物が無くなった一騎は席を立って自販機のある3両と4両の間に歩いていった。


(むっ!?)


自販機のある場所に来ると、ちょうど前方から紫もやって来た所だった。

恐らく彼女も自販機に飲み物を買いに来たのだろう。


「「………」」


自販機は一台。

一騎と紫からの自販機の距離はほぼ等しい。


二人は暫し視線を交わした後、


((!?))


同時に足を踏み出したが、あまりにもピッタリなタイミングだったので二人とも慌てて引っ込めた。


((!!))


今度は先に譲ろうと一歩横に避けようとしたが、それもまたピッタリだったので急いで元に戻った。


((出来る……!!))


二人の視線はぶつかり合い何故か火花が散った。

次にどちらがどう行動するかを、相手がどう出るかを先に読んだ者がこの戦いを制する……


「あ、私コーラにしよ!」

「お前、揺らすなよ?」


「「あ………」」


いつの間にかやって来ていた晴香と駿に先を越されていた。





『下田〜、下田です。

お忘れ物がございませんようにお気をつけ下さい』


新幹線では色々あったが、二時間半という長い時間をかけて一行はようやく目的の駅に到着した。


「ふぃ〜、長かった〜」


「んー、外の空気は美味しいね〜」


新幹線を降りるや否やグッと伸びをする相也と晴香。

駅から見える景色はまだまだビルや都会のような建物はあるものの、連なる山々や森林などが沢山見える。汐咲市と違い山に囲まれた内陸部である為、潮風こそ無いものの空気は綺麗に澄んでいてとても気持ちが良い。



「こっからもう少し電車に乗った先のド田舎が実家のある場所だ」


「皆さん、もう少しですよ」


「「「おー!」」」


『下田』というこの県では比較的都会寄りの駅から、電車を乗って更に西の方に進んでいった駿達。


約40分後、電車は下田駅から比べ物にならないくらい小さな駅に到着した。

ホームは一つしか無く、行き帰りの電車が一台ずつ停車するスペースのみ。古ぼけた屋根とベンチが二つ、奥に古めかしい駅長室がポツンと存在している。


「おお〜!!」


「綺麗……」


しかし、そんな寂れた駅だが周りに広がる光景は素晴らしかった。

360度どの方向を見ても雄大な山々が連なっていて、澄んだ青空の下そよぐ風が木々の囁きを奏でているようだ。ビルや高い建物はほとんど見当たらず、田園広場や森林等の美しい緑が永遠と続いている。


「な、田舎も田舎だろ?」


「とても自然環境に溢れた場所ですね」


肩を竦めてやや可笑しげに言う駿だが、悠一は周りを眺めながらそう言った。

皆も同じような気持ちのようで、呼んで良かったと一安心だ。



さて、小さな駅から今度はバスに乗る事に。このバスも電子マネー等の機器が使えない古いバスで、ますますこの近辺が田舎だと感じさせられた。


「ミヤミヤ達の行ってた学校ってどんな学校だったの?」


「そうだな、後で色々と案内するよ」


木々の続く山道を走っていくバスの中では他愛の無い会話をしながら、大体20分くらい経って目的のバス停に到着。

これでようやく乗り物移動は終わりである。



「よし、到着。

あの向こうに見えるのが、」


バス停を降りてすぐ、駿が前方を指差してそう言ってみせる。


「わーっ!!駿お兄ちゃんのお家大きい!!」


「ひゃ〜、本物のお屋敷じゃねーか!」


それは普通の家からはかけ離れた広さ、それは相也の言う通り広大なお屋敷であった。


小高い丘に坂道が続いていて、登っていくと巨大な門がどっしりと構えている。その門からまた並木道のように真っ直ぐ道が続いていて、奥にお屋敷が永遠と広がっているのである。


「屋敷とは聞いていたが、まさかここまで大きいとはな……」


「戦国時代のお城跡みたいだね〜」


バス停から歩いていって門が聳える丘の近くまで行けば行くほど、屋敷を含めた敷地全体がいかに広大なのかがひしひしと感じられる。

晴香の言葉通り、まるで城の跡地のようだ。紫も驚いて見上げている。



一行は坂道を登って巨大な門の前までやって来た。


「ほぇー、デカイ門だな」


「ますますお城みたい……」


門は巨大なお寺とかによくあるような屋根付きの大層立派なものだった。これを見ただけでも、このお屋敷がどれだけ古く歴史があるものなのかが窺える程だ。



「あら?」


駿達が暫く門を見上げて突っ立っていると、門の側から一人の女性が箒を片手に近づいてきた。


「駿様に静様ではありませんか。お帰りなさいませ」


「あ、白雪さん」


青みがかった白く透き通るような綺麗な髪を腰まで伸ばし、白い和服を着た齢にして20代くらいの女性だ。

それはそれは美しく整った容姿に淡く青い瞳、そしてまるで雪のように白く滑らかな肌が特徴的な美女である。


「お、おおお……!!」


「相也?」


その女性が何か言う前に彼女を一目見た相也がわなわなと震え始めた。


「ふおぉぉぉぉ!!」


「どうやら、目の前の女性に相也のいらぬスイッチが入ったみたいですね」


かと思うといきなり奇声を上げ始める。それに対して悠一はやれやれと肩を竦めてそう言った。要するにモロに彼の好きな女性のタイプだったようだ。


「えっと、ミヤミヤ?

そちらの方は?」


「ああ、この人は……」


そんな馬鹿は放っておいて、晴香が代表して目の前に現れた女性について尋ねる。駿は彼女に手を向けて紹介しようとするも……



「まぁ、皆さんは優良様がおっしゃっていたお二人のお友達ですね。

いつも駿様がお世話になっております。

私は雪女の……」


「だあぁぁぁ!!」


女性は勝手に自己紹介をしようとしたのだ。

駿はいきなり大声をあげてそれを遮り、女性の手を掴んで一同から離れた場所に引っ張っていく。


(白雪さん!!

いきなり何を言ってんですか!!)


(あら、私はただ自己紹介をしようとしただけですよ?)


(雪女って、いきなり自分の正体明かさないで下さいっ)


ひそひそ話の限界の音量でツッコミを入れる駿。


そう。何を隠そうこの白雪と呼ばれた女性、かの有名な妖怪雪女なのである。

何と人間では無いというのだ。


(皆、うちが裏で仕事をしてるって知らないんですよ。だからそういう事は隠しておいて欲しいというか……)


(あら、そうですか……

それでは仕方ありませんね)


月ノ宮家が代々裏で妖怪に携わる仕事をしてきた家系だという事実を知っているのならば、彼女が雪女だと聞いても何ら不思議な事は無い。

しかし晴香達は全く何も知らないのだ。いきなり雪女と言われても何が何だか分からないだろう。


駿が理由を説明すると白雪は残念そうな表情をしたが、すぐに手をポンと打ってみせる。


(では、古くからこの家でお仕えしている雪女という紹介に致しましょう。

脚色して300年前くらいか良いかしら?)


(いやだから!!脚色する部分間違ってますよ!!

肝心の“雪女”って部分が残ってるじゃないですかっ。しかも300年って明らかに人間じゃ無いし)


(では、20年前からお仕えしている雪女で)


(それじゃあまんまの紹介でしょ!?

正直に言っちゃダメなんですよ!)


にこやかに宣う彼女に次々とツッコむ駿。


(相変わらず我が儘な人ですね〜

小さな頃から私がお世話をしてあげたというのに、全く誰に似たんだか)


(少なくともアンタに似てるとは思いたく無いですね)


二人のやり取りはどこか慣れているようで、彼女の言葉からも長い付き合いである事が窺える。


(分かりました。

では、私は駿様の欲望を満たす為だけに奴隷と化した雪女、という紹介で譲歩してあげましょう)


(俺を困らせて楽しいっすか!?)


(ええ、その瞬間が最高にゾクゾクしますわ)


即答された。

満面の笑み、いや満面の黒い笑みで。

サディスティックな笑顔全開だった。


(とにかく、頼みます。

今回は協力して下さい)


(やれやれ、仕方ありませんね)


必死に頼んだ末に何とか承諾を得たので、駿は再び白雪と皆の前に戻ってきた。


「えっと、この人はこの屋敷のお手伝いさん。

昔からお仕えして貰ってて、小さな頃は世話になったりした人だよ」


白雪(しらゆき)と申します。

皆さん、いつも駿様がお世話になっております」


駿の紹介に白雪は丁寧に頭を下げて挨拶をしたので、一同も釣られて会釈を返す。


「って、何で俺だけ?」


「静様は他人にご迷惑をかける方ではありませんから当然です」


「俺は迷惑かけるのが当たり前みたいに言わないで下さい」


駿の言葉を華麗にスルーして、白雪はサッと門の前に移動する。


「それでは、本家にご案内致しますね。

皆さん、どうぞ私の後に続いて下さい」


「あの〜、ナチュラルスルー?」


さて、一行は彼女に続いて門の中に。

屋敷まで続く並木道を真っ直ぐと。


「あの……白雪さんってミヤミヤじゃ無かった、駿君が小さな頃からこのお屋敷にいらっしゃったんですよね?」


「はい、そうですよ」


並木道を歩く途中、不意に晴香が質問をすると白雪は優しく微笑んだ。


「だったら、駿の昔の話とか色々と知っていそうだな」


「それは、ちょっと興味がありますね」


「私も聞きたーい!」


紫の言葉に同意する悠一と興味津々な瑠璃。

白雪も口元を怪しく緩めて軽く頷いてみせる。


「ええ、それはもう。

生きてるのが苦痛になるくらい恥ずかしいエピソードから首をくくらずにはいられないくらい恥ずかしいエピソードまで、数多くありますわ」


「恥ずかしいエピソードだけ!?相変わらず質悪いなこの人!!」


駿のツッコミはまたもスルー。白雪は一見優しい笑みを浮かべて一同に振り返る。


「お聞きになりたかったら、後で私の所までいらして下さいね」


「止めてください!!」


そうこうする内に、一行の目の前には大きく大きく広がるお屋敷が姿を現し始めた。


「では、私は掃除がありますのでこれで。

また後でお会い致しましょう」


白雪は再び頭を下げてその場をゆっくりと後にしていく。一同は彼女にお礼を言ってお屋敷の真ん中、玄関と思われる場所まで歩いてきた。


「し、白雪さんって!!

ど、どんな男性がタイプなんですか!?」


「もう居ないからな」


「うそん!?」


「今までお前は何を見てたんだ?」


ここで先程までトリップしていた相也がようやく目を覚ました。

が、白雪がもう居ないと知ってすぐに落胆して肩を落とす。正直な青年である。



「あらあら、駿に静!

おかえりなさい」


「「?」」


と、扉が開いてまたも女性が一同の前に現れた。

綺麗な紺色の髪を伸ばしていて紅い着物姿。

容姿は静にそっくりで、まるで彼女を大人にしたような美しい女性だ。


「まぁ、あなた達が二人のお友達ね。

いつも駿と静がお世話になっています、今日は来てくれて本当にありがとう」


「「え、えーと……?」」


出てくるなりいきなり挨拶をする女性に晴香はやや困惑したような表情。

それに気付いた女性は頭を上げて


「あら、ゴメンね。

自己紹介がまだだったわね。

私は月ノ(つきのみや)優良(ゆうり)

駿達の……」


「あ、お姉さんですか?」


「あら〜♪」


相也が分かったとばかりに答えると、優良はそれは嬉しそうに両頬に手を当ててみせた。


「へぇ〜、ミヤミヤにはこんな美人なお姉さんが居たんだ」


「妹だけかと思ってたぞ」


「これは僕も意外でした」


晴香、紫、悠一も意外だったと驚いたように駿とその女性を交互に見る。

まさか妹の他に姉が居たとは、と。



「フフ、でも残念。

皆の推理は間違ってるのよ。さぁワトソン君、真実を話してあげたまえ!」


「誰がワトソン?」


しかし、優良は楽しそうに口元を緩めると駿に向けてそう指示を出す。

ワトソン君かどうかは置いといて、彼は優良に手を向けた。


「あー、この人は俺達の母親だよ。お姉さんじゃ無くて、お母さん」


「「「お、お母さん!?」」」


衝撃の一言に相也達は思わず一歩仰け反ってしまう。

悠一でさえ、先程より更に驚いたように目を丸くしていた。


「だ、だって……!!

どう見てもお姉さんだろ!?

子持ちの母親になんて……」


「お、恐るべしミヤミヤの実家……不思議がいっぱいだよ……」


優良は言うまでもなく美人だが、年齢も20代の女性にしか見えない程若々しい。相也達が間違えたのも無理は無い、というかそう思うのが当然だろう。

到着して僅か、早くも一行は月ノ宮家の不思議に直面してしまった。



驚いている一同の前にとことこと出てくると、優良は小首を傾けてニッコリと微笑む。


「改めて皆、月ノ宮本家にようこそ!」



こうして、駿と静の実家である月ノ宮本家での五日間が幕を開けるのだった。





まさかの雪女の登場です。

まさか本家に妖怪がいました!

一体何故か!?それは物語が進むにつれて明らかになるかと。



今回は少ししか出なかったので、ちょっと話してみましょう。



白雪

「雪女の白雪です、よろしくお願い致します」


年齢は?


白雪

「人間からすれば、300歳くらいでしょうかね」


おばあちゃんですね。


白雪

「何か?(鬼黒)」


ひぃ、ごめんなさい!!

ご趣味は?


白雪

「駿様を困らせる事でしょうか。

特に困っている駿様に手を差し伸べるとみせかけて、土壇場で突き放す時は最高に幸せですね。

フフ、思い出しただけでもゾクゾクしてきた……」


駿

(最低だ……)


中々凄まじいご趣味ですね。性格が透けて見えるようだ……




次回は彼女も活躍予定です!

そして幼馴染みなあのキャラクターや、熱血野郎二号も出現したりと大忙しな次回になります。


では、次回もよろしくお願いいたします!!

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