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第30話 運動日和で道場日和


今回は晴香同様、あるキャラクターの事が少しだけ分かるお話です。


ちょっと急ぎ過ぎた感が否めない文章かもしれませんが、どうかよろしくお願いいたします。


後書きにはまたまたプロフィールも載せたので。



では、始まります!

 

  

 



日も空高くに上がる日曜日の午前中。


とある道場ではひゅん、ひゅんと空気を割くような音が繰り返されていた。


「ええい!!

まだ腕が固い!!小手先で竹刀を振らずに腕全体を使わんか!!」


老人の声だろうか、道場内にそんな檄が飛ぶ。

どうやらこの音は竹刀を振り降ろす音のようだ。


「くっ……!!」


その言葉に反応するようにひたすら竹刀を振っている人間が一人。


「小僧!!まだまだいけるぞ!!」


老人の声が指すその人物。それは……


「無茶言うなっ……」


月ノ宮駿だった。

彼は道場で何故か胴着姿でひたすらに竹刀を振り降ろしているのだ。


(ああ……何で俺はこんな場所でこんな事やってんだろ……)


掲げては降ろす、掲げては降ろす。

そんな動作を繰り返しながら、ふと駿は頭を冷静にしてそう考える。



何故彼がこのような状況に置かれているのか。

それは今から時を少し遡る……




 




 

第30話 運動日和で道場日和

 




 




「ふわぁ……」


日もまだそう高くなっていない朝。

駿は生欠伸を一つ、のろのろと汐咲の海岸沿いを歩いていた。


灰色のパーカーと、青いズボンという私服姿。

本日は学校がお休みの日、日曜日である。


「うん、朝って爽やかなんだな……」


日曜日にしては珍しく早起き。高く澄み渡る青空に、きらきらと光る海を見て、彼は朝の爽やかさを感じていた。

といっても一般人は活動を始めている時間帯なのだが。


朝から目が冴えてしまった彼は、何の気なしに街を散歩する事にしたのだ。


静は茶道部の活動が今日だけ例外的にあるらしく、朝から学校に行っている。

それは前日に駿も聞いており、今朝は作り置きしてくれた朝ご飯を食べた。


お昼も作り置きしておくと言っていた彼女だったが、それは流石に大変だから大丈夫だと彼は断っていた。

だから今日のお昼はコンビニのお弁当になる予定。


身体に悪いと心配する静だったが、それくらいどうってことないと半ば無理矢理彼女を学校に送り出した後、散歩に出掛けている朝だった。


「にしても日曜日の学生っのは暇だよなぁ……

昼からはどうすっか」


学生の本分は勉強という言葉は彼の頭からは完全に抜け落ちているようである。


「久しぶりに途中で終わってたゲームでも………」


砂浜をぼんやりと眺めながら、誰に言う訳でもなくそう呟いていると……


「………ん?」


不意に何か視線のようなものを感じた。

海を眺める彼の横から確かに見られている感覚が。


「…………」


振り向くと、老人が一人立っていた。

立って彼の顔をじっと見つめていた。


白髪のオールバックに中々厳つい顔立ち、鋭く生気の宿った瞳、口元に生えた立派とさえ思える白い髭。かなり年齢はあるようだがそれよりも若く見える。


「小僧……」


老人はゆっくりと口を開く。低くそれでいてはっきりした声で……


「良い()をしておるな……」


「……はい?」


意味不明な言葉をかけてきた。

駿は唖然とした表情でやや口元をひきつらせる。いきなり何を言い出すのだこの老人は、と。


しかし老人はそんな反応には構わずに続ける。


「ワシには分かる。その瞳に隠された強く真っ直ぐな信念。そして誇り。


小僧、お前は普通の人間とは違う強さを持っている……」


「………」


朝の爽やかな海岸通りで、くさいセリフを堂々と言ってのける老人。


何か宗教の勧誘だろうか。


(春だからなぁ……)


駿は上体を反らせて空を見上げた。

その青はどこまでも広がっていたという。


「お前の奥底に隠された力、ワシなら引き出してやれるぞ……」


「………」


老人はギラリと鋭い瞳を光らせて駿に一歩、にじり依る。今気付いたが、老人の服装は薄い朱色の半纏だ。白髪のオールバックとはあまり似合わないが。


「強く、なりたいか小僧?」


先程より更に低く決めの言葉に入ったようで、瞳にはグッと力が込められる。

その言葉に駿は……


「いや、遠慮する。

それじゃ」


背を向けて片手を挙げると、そう断った。

知らない人や怪しげな人にはついて行ってはいけない。初等教育では誰でも必ず習う基本的な教訓である。


「そうか。

それは残念」


「ああ、悪いな」


老人も諦めたらしい。

こういう相手は意外としつこいのが常なのに珍しいなと思いながらも駿は歩きだそうとする。


「なら、お前さんのこの財布で我慢とするか」


「は?」


が、その引っ掛かる一言に思わず振り返ってしまった。


見れば老人の手には四角い白い財布が一つ。

それは紛れもなく、駿の所有物だった。


「な!?

いつの間に……」


「ふっ、脇が甘いぞ童」


慌ててつい今までソレが入っていたパーカーのポケットを探る。


(嘘だろ……)


ポケットは見事に空。

というか、老人は一体いつ財布を掠め取ったのか。

目の前で話していたというのに。


「ふっ、返して欲しくば……」


「なっ……」


一体この老人は何者なのか、そう考える前に老人はひょいと通りの柵に飛び乗った。凡そ老人とは思えない程軽やかな動きで。


そして……


「ワシを捕まえてみろーーい!!」


「へ?」


一気に細い柵の上を駆け出し、駿の前からかなりの速度で離れていったのだ。

駿の財布を持ったまま。



「だあぁぁぁぁ!!」


叫び声を上げて駿が追いかけるのは、それから約一秒後の事だった。




15分後……



「ぜぇ……ぜぇ……」


駿は地面に座り込んで苦し気に息を切らしていた。

ずっと全力疾走していたとなれば、それは息切れくらいはする。

寧ろ、15分全力で走りきる事が出来た駿はかなり体力がある方だと思う。


「何じゃ小僧、もうバテたのか?」


だと言うのに、老人は息切れどころか汗一つかいていない。


(化け物か、このジーさん……)


彼は正直ショックだった。確かにスポーツ選手のように抜群に体力があるわけでは無いが、まさか老人に劣るとは……


「まぁそれでもワシに離され無かったのは中々。

もう家の前だしの、結果オーライじゃ」


(家の、前……?)


老人の言葉に息切れしながら何とか顔を上げる。

すると、彼の視線の先には大きな瓦屋根の一軒家があった。


否、大きいのは家ではない。隣接するように設けられている建物だ。

一階建てで横に長い瓦屋根の建物。


「ここがワシの家、道場じゃ」


「道場……?」


それは道場だった。

一軒家に隣合う形で大きな道場がその敷地内にあったのだ。


「ほれ、財布を返して欲しければついてこい童」


「………なろっ」


トテトテと歩いていく老人。駿は顔をしかめながらもその重くなった身体を起こすして、のろのろとその後に付いていく。



「神代、道場……?」


「左様」


道場の入口の前までやって来ると、やたら立派な木札が目に止まった。

『神代道場』と達筆な筆文字で書かれている。


(神代?

神代って……)


その文字に何か引っ掛かりを覚え首を傾げる駿。

そんな彼に構わず、老人はガラリと引戸を開けて中に入っていく。



「帰ったぞー」


「あぁ、お帰りお祖父(じい)ちゃん。

今日は少し長かったんだな」


「うむ、道場を継げるような骨のある若者を探しておってな」


中からは女性の声。

“お爺ちゃん”と言われている事から孫娘なのだろうか。


「また誰かを無理矢理連れてきたのか……」


「いや、今回は中々見込みのある男だぞ」


「はぁ……そういう意味じゃない。相手の都合も考えろという意味だ」


老人の声に呆れたように返す女性の声。

すぐに足音が駿の居る入口の前までやって来る。


(つーか、この声って……)


彼は道場の中から聞こえくる声に聞き覚えがあった。しかもほぼ毎日聞いている声だ。


「すみません、私の祖父がご迷惑を………」


その声の主は申し訳なさそうな様子で、中から顔を出した。


「「………あ」」


そして、二人の声が同時に洩れる。


道理で聞いた事のある声だった訳だと驚きながらも納得する駿。


「月ノ宮?」


それは神代紫だった。

胴着姿の彼女は目を丸くして駿を見つめる。


(神代道場って、そういう事だったのか……)


木札を見た時の引っ掛かりが解けた。

しかし、まさか彼女の家に道場があるとは驚きだ。


「取り敢えず、中に入るか?経緯は大体検討がついているが……聞こう」


「あ、ああ……お邪魔します」


入口で話す訳にもいかないので、紫は駿を道場の中に入るように促す。

彼は断る理由も無いので―そもそも財布を取り返さないといけないので―従って中に入っていった。







「なるほど……」


外から射し込む朝の日射しが磨かれた床に反射して眩しくもある道場内。

その真ん中に紫と駿が座って向かい合っていた。


駿がここまで来た経緯(いきさつ)を話すと、彼女はやれやれとため息をついて頷いていた。


「悪かったな、月ノ宮。お祖父ちゃんが迷惑をかけた。

戻ってきたらすぐに返させる」


「あ、いや……大丈夫だからさ。頭上げてくれ」


「そうか、済まない」


紫は丁寧に頭を下げてきたので、思わず両手を体の前に出してパタパタと振る。

彼はあまり謝られるのは得意ではないようだ。


その祖父はというと、一旦隣の一軒家に行ってしまっている。少ししたらまた道場に戻ってくるらしいが。



「しかし、道場か……」


「うん、街の小さな道場だけどな。昔からあるそうだから、歴史は少々長いらしい」


駿は空気を変える為に道場内を見回して尋ねると、紫は少し相好崩してみせた。


「やっぱり、剣道の?」


「ああ」


当然だとばかりに頷く。

見れば奥には竹刀が何本もあり、面や籠手などの道具もある。

彼女が胴着姿なのもついさっきまで練習していたからだろう。


「今は若い人なんて道場にはあまり来ないからな。元々そこまで大きな街でも無いし、来るのはお年寄りの方々がほとんどだな」


「そうなのか……」


昔はどうだったのかは知らないが、確かに現代においては道場にあしげよく通う子供達というのはあまり見た事が無い。


「だから最近は若い人の入門が貴重なんだ」


「じゃあ、あのジーさん……」


「ああ、お祖父ちゃんはよく若い人をここに連れて来るんだ。無理矢理、な」


紫は心底困ったようにため息をつく。

なるほど、今朝駿に声をかけてきたのも若い人間を入門させようとする勧誘だったのだろう。



「ってか、お前のジーさんもの凄く元気な。

まさか全力疾走しても全く追い付けなかったぞ」


「そうだな、一応ここの師範だし同世代で比べるとかなり体力はある方だと思うが……」


(いや、体力があるとかそういうレベルじゃねーだろ……)


さして気にする様子も無く答える紫だが、駿は人間という生き物の底知れなさに直面していた。



「痛っ!?」


不意に彼の後頭部に何かが飛んできて当たった。

振り返ると床には白い財布、駿の財布が落ちている。

そしてその視線の先には先程の老人、紫の祖父だという老人が立っていた。

彼が財布を放り投げたのだれう。


「何じゃ鈍いの……気配を察して居合い斬りで真っ二つくらいせんか」


「んな事出来るかっ」


お札まで真っ二つになってしまうではないか。


「お祖父ちゃん……

毎回言ってるが、無理矢理人を連れて来るのは」


「勧誘と言え、勧誘と。

お前と共に道場を引っ張っていく若人が必要だろう」


紫が立ち上がって老人に近づいていくと、たしなめようとするも老人は軽く首を振る。


「それに、そこの小僧が是非と言うからの」


(んな事一言も言ってない……)


駿は財布を拾うとようやく整った息で腰を上げる。


「じゃあ、俺はこれで」


「ああ、本当に迷惑をかけたな」


財布を取り返して目的は達成したので、駿は道場をお暇をする事に。


「待てぃ小僧!!」


「「?」」


が、老人がクワッと目を見開いて叫んだ。効果音が出るのではないかというくらい、目が見開かれている。今にも目からレーザーが出てきそうでかなり怖い。


「剣術の型はまず素振りじゃ小僧……」


「いや、何の話を……」


「素振り、していけ」


にじり寄る老人の見開かれた瞳がギラリと光る。一切瞬きをしていない為か、みるみると目が充血していく。

とてつもなく怖い(ホラー的に)。


「………ああ」


色々な意味で有無を言わせない眼力。

後ろの紫が何か言う前に、駿は頷いてしまっていた。



 



「まだまだぁ!

もっと腕全体を使わんか!!」


という訳で、駿は老人の喝を受けつつひたすらに竹刀を振っているのである。


(何故あの時頷いてしまったのか……)


ただ両腕を上下に素振りをしながら、彼は後悔をする。別に剣道に興味がある訳でも無いのに何故昼前からこんなにひたすらに汗を流さないとならないのか。


さっさと帰っていれば家でだらだらと……


(それも悲しい構図ではあるけどな)


自身の自堕落さにもちょっとだけ虚しさを覚える。

やはり何か目的を持って毎日を過ごさないとダメなのだろうか。


「よしっ、今回はここまでで良いだろう」


「はぁ……」


老人の叫び声が止む。どうやら道場の練習はこれで終わりのようだ。


(結局素振りしかしてねーぞ……)


かれこれニ時間半。

ずっと素振りをさせられていたのだ。ただひたすらに。


「つか、もう無理……」


流石に疲れる。肩も腕も足も感覚が無くなる程張っている。

駿はバタリと力無くその場にへたり込んだ。


「ふむ、この長時間の素振りについてくるとは中々やるの。

今まで連れてきた奴等は皆、最初の数十分で逃げ出したのだが……」


「はぁ……そりゃ、どうも……」


へたり込む駿の前にひょこひょことやって来た老人はカッカと愉快そうに笑う。


老人は今日のように様々な若者を連行してきてはひたすらに素振りをさせているらしい。駿は顔も知らない今までの犠牲者達に少し同情した。


「喜べ小僧、合格じゃ。これからはいつでも好きな時に来て良いぞ」


(断固断るっ……)


「カッカッ」


ポンポンと肩に手を置かれる。無理矢理にでも否定したい彼だが、全身の疲れがそれをさせてはくれない。



「さて、ワシはまた新たな勧誘をしてこようかの」


(………)


老人はぜぇぜぇと息を切らせる彼の前を軽やかに横切り、道場の入口から外に出ていってしまった。


「ぐぁ……」


間抜けな声を一つ、道場の床に大の字で寝転ぶ駿。

床の冷たさが疲れた手や足に心地良い。



ピトっ……


(………ん?)


更に頬にもひんやりと冷たい感触が伝わってきた。

床の冷たさでは無いようだ。


「大丈夫か?」


「………神代」


視線を上げると紫がペットボトルを頬に当ててくれていた。

もう片方の手にもペットボトルがあるという事は貰っても良いのだろう。


「ああ、ありがと」


上半身を起こしてペットボトルを受けとると、渇いた喉に一気に流し込んだ。

冷えたスポーツ飲料水は疲れた体に再び生気を与えてくれる。


「度々済まないな、また迷惑をかけた。立てるか?」


「あぁ、大丈夫大丈夫……って訳でも無さそうだな」



心配そうな表情の紫に手を差し出されたので、素直にその手を取って何とか立ち上がる駿。

とはいえ中々に疲労感は彼の身体中を包んでいる。それは表情を見れば一目瞭然だ。



「少し風に当たった方が良いな。気分が良くなるぞ」


「ああ、そうかもしれない」


紫について一旦道場を出る。そのまま二人は隣の一軒家の前にある門を潜って家の敷地に入った。


「大きな家だな」


「まぁ、曾々祖父の代からあるらしいからな」


一軒家といっても、軽いお屋敷のような純和風の建物。この街の中では大きな家に分類されるだろう。


中庭と思わしき開けた場所に出ると紫が足を止める。

そよ風に揺れる芝生の音が心地良い。


「そうだ月ノ宮、昼はどうするんだ?」


「ん、ああ……今日は特に決まってねーけど」


歩きながら尋ねられた彼は何故そんな事を尋ねられたのか疑問に思いながらも返す。

今日は静が学校で居ないので、お昼はコンビニ弁当か何かにしようと考えていたのだが。


「ついさっきお弁当を作ったんだが、なんなら食べていくか?お祖父ちゃんが迷惑をかけたお詫びも兼ねて」


「マジでか」


彼女の言葉に駿の瞳がキュピーンと光る。

財布は中々に厳しく、お昼代が浮くというのはかなり大きい。


「いや、お前が良ければの話だが……」


「是非頼む」


即答。

回答時間にしてコンマ二秒。早押しクイズなら一番乗りだ。


「そうか。

だったらここで少し待っていてくれ」


「ああ」


紫はそう言い残して早足で庭から家に向かっていく。駿は取り敢えず芝生の上に腰を降ろして待つ事にする。



5分後……


「待たせたな」


「ん……」


紫はお弁当を持って庭にやって来てくれた。

お弁当は幾つかおにぎりの入ったものと、唐揚げやだし巻き卵などお弁当の定番といったおかずが入ったものだった。

見栄えもかなり良く、それだけで美味しそうだ。


「何だか悪いな神代……」


「いや、午前中は散々祖父が迷惑をかけたからな。

こんなものでお詫びになるなら」


「そか、ならお言葉に甘えて……いただきます」


両手を併せる彼と隣に紫はお弁当箱を挟んで座った。

風に揺られ、芝生がさらさらと涼しげな音を奏でている。


「あぁ、そうだ。私の事は名前で呼んでくれ。苗字だとここでは色々とややこしいんでな」


「ああ、そっか……」


ここは神代家なのだから、神代=家の人間全員を指す事になる。確かにそれはややこしいかもしれない。


「んじゃ、俺の事も名前で。妹もいるし、こっちも苗字だと被るからさ」


「うん、それならば対等だな」


二人はお互いの呼び方を確認し合い、中庭でお昼をとる事にした。

いつもとはちょっと違う環境でのお昼ご飯。


お弁当は実際かなり美味しかった。

運動をした後だからお腹が空いているのを差し引いても、かなり丁寧に作られていて味付けも絶妙だ。


「口に合うか?」


「ああ、感動に咽び泣く程美味い」


「妹の事に限らず、何かと表現が大袈裟だな君は……」


呆れつつもクスリと口元を緩める紫。まんざらでも無さそうな反応だ。


(俺の周りは料理が出来る人ばかりなんだなぁ……)

しみじみと思う。

因みに彼の得意調理はカップラーメンだ。

今時小学生でももっとマシな物を作れるというのに。



「にしても、意外だったな。紫の家がまさか道場だとは……」


駿は不憫な考えを振り払うように、くるりと顔を家の方に向ける。

家に道場があるクラスメートは中々珍しい。


「私の“家”か……」


「?」


しかし、紫の反応は予想外なもので。少しだけ表情に陰りが差したような、そんな気がした。


「私の家は……いや、私の実家はここでは無いんだ」


「………」


そして恐らく、それは多分当たりだ。

彼女の言葉でそう予感せざるを得なかった。


「ここの家は私とお祖父ちゃんだけだな。

実家の方には両親がいるが」


が、彼女が自ら語り出したので止める訳にもいかずに黙って聞くことにする。


「父は完全な権威主義でな、自分の思い通りにならないと気が済まない質の人間なんだ。自分の会社も部下も母も……無論、我が子もな」


彼女の瞳はスッと細められる。


「幼心にも私はその考えがどうしても納得出来なかった。だからここに、祖父のいるこの街に来た。

そして祖父の道場でずっと剣道を習ってきた……」


「………」


やや重苦しくなる雰囲気。先程までは心地良かった風の音も今はややぎこちなく感じる。


「あ……」


そんな空気に彼女も我に返ったようにハッとする。


「す、済まない……こんなに話をするつもりは無かったんだが」


「いや、俺も悪ぃ。

突っ込んだ事聞いちまった」


「いや、私が……」


恐らく初めて見せる彼女の動揺だった。

何故彼女は自分から話してしまっていたのか、彼女自身も分からないようでそれが動揺に拍車をかけているように思える。



その後、少しぎくしゃくとした雰囲気は残るものの二人は先程のように昼食を共にしたのだった。





「じゃあ、今日はご馳走様」


「いや、こちらこそ色々と迷惑をかけた」


さて、お昼も終わり駿は自宅に戻るため門の前で紫と向かい合っていた。

紫の祖父が戻って来たら色々と面倒そうなので胴着から私服に着替えた後、退散する事にしたのだ。



「また気が向いたら、寄っていけ。胴着姿は中々様になっていたぞ」


「そいつはどうも。

まぁ、考えとくよ」


ニヤリとわざとらしく不敵に笑う彼女に、肩を竦めて返す駿。

彼はそのままお昼過ぎの空を見上げてみせる。


「こういうのは、あの馬鹿の方が向いてると思うんだけどな……」


「?」


「向こうにいた時にやたら勝負事を持ち込みたがるそれはそれは面倒臭い奴がいてさ。そいつは剣道もかなりやってたから、こういう道場とか好きそうでさ」


駿の知り合いにはそのような人間もいるらしい。

彼の言葉からは何となく長い付き合いではあるようだ。


「ほぅ、それは中々興味深い。是非とも一手相手をしてみたいものだ」


「関わらないに越した事は無いタイプだと思うがね、俺は……」


駿はまだ知らない。

その話をしている人物が、近々意外な形で彼等の前に現れる事になろうとは。



「じゃ、また学校でな」


「ああ、明日な」


お互いにそう言い合って別れる駿と紫。

またいつの日かこの道場に足を運ぶ事があるのだろうか……


(うっ……)


踏み出した足がやけに重い。しかも痛い。


(こりゃ、明日は絶賛筋肉痛だな……)


運動をする筋肉と彼の仕事で使う筋肉はまた違うのだと思い知らされた日曜日だった。






 

神代(かみしろ)(ゆかり)


【性別】

 女

【性格】


【年齢】

15歳

【身長】

167cm

【スリーサイズ】

B77 W55 H86

【好き】

剣道、運動、

【得意】

剣道、運動、統率力、

【嫌い】

父親、決め付ける事、諦める事、不正

【苦手】

祖父の暴走、勘違い


【備考】


主人公のクラスメートでメインヒロインの一人。


綺麗な赤い髪をポニーテールにしており、整った容姿と鋭い深紅の瞳で可愛いというよりはカッコいい美人に分類される。


基本的に曲がった事が嫌いで正義感に強い性格。

しかし融通が効かないという事は無く、臨機応変に周りの状況をよく見る事が出来る。

実はかなりの負けず嫌いでもある。


剣道部に所属しており、実力は勿論部員からの信頼度も厚い。


実家は汐咲市とは別な場所にあるらしいが、父親と何やら確執があるらしく今は祖父の道場に身を置いている。

道場では若者の入門が極端に少なく、祖父の勧誘と称した暴走に最近は悩み気味。


後、女性らしい体の発育の事でも悩みがあるとか。







「よし、取り敢えず作者は死ぬ覚悟が出来ているんだな」←スリーサイズ発覚により


晴香

「お、落ち着いてゆかりん!っていうかその日本刀どこから!?」


「ああ、落ち着いて叩き斬る」


駿

(毎回思うがどうやってスリーサイズなんて調べてるんだろう?)


伽藍

「いやいや、これはある方からの情報で。名前は駿、っと危ない危ない……」


駿

「作者てめぇっ!!

何思わず言っちゃった感出してんだよ!!」


「駿、介錯はしてやる。楽に逝かしてやるから大人しくしていろ」


駿

「無実だぁぁぁ!!」




伽藍

「まぁ、今回はちょっと無理矢理感はありましたが紫のお話でした。

これも紫のストーリーに関わるさわりの部分という事になりますね」


晴香

「え?後ろで起こっている惨劇は無視するの?」


伽藍

「次回は久々にバトル展開と投稿されたオリキャラがちょっとだけ出たりします。よろしくお願いいたします!!」



駿

「こ、これも……我が天命……」


晴香

「ああっ、ミヤミヤがとても大変な事に!!」



どう大変なのかは置いといて、次回もよろしくお願いします!!

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