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第27話 ボケと占いとツッコミと柄杓と



もっとテンポの良いギャグが書きたいと思っている今日この頃です。


今回はあのキャラと駿が出会います。


では、始まります!!

 


 

昨日とは打って変わって快晴な汐咲市の朝。

汐咲学園高等部一年A組の教室では……


「だから!!

俺は女の子の下着姿をどうしても見てみたいんだよっ!!勿論ブラとショーツのセットでっ!!」


今日もいつも通りのアレな相也の姿があった。

周りの女子の白い視線をものともせず、教室で高らかに宣言している。


「相変わらず朝っぱらから沸いてんなぁオイ」


「気にするな駿。

コイツの馬鹿さは今に始まった事じゃない」


机の前に立っている彼を見て呆れたように顔を見合せる駿と新。


「うるせぇ!!

静ちゃんの下着姿を見まくってる駿や湊ちゃんの下着姿を目に焼き付けまくってる新に俺の切なる気持ちが分かるかっ!!ちくしょう羨ましーーーっ!!」


「「何を言ってやがるっ!!」」


ダブルパンチが相也に炸裂。彼は倒れるように顔面から机に突っ伏した。

ちょっと離れた席では湊が顔を赤くして俯いている。


「人を変態みたいに言うな馬鹿」


新は拳に息を吹きかけると、軽く振ってみせる。

確かに相也の発言は周りに色々と誤解を生みかねないので当然の対処だ。

一方……


「静の下着姿は俺だけのもんだ。オメーが想像すんな」


「いや怒る理由そこ!?」


駿はというと、相也に負けず劣らず変態的な事を堂々と宣っていた。

因みに静の下着姿は駿のものでも無い。


「で?

コイツは何だってこんな事を叫んでたんだ?」


「だから、いつも通りだって」


机に突っ伏したまま動かない相也を見て尋ねると、新は肩を竦めて一言。

特におかしいテンションという訳では無く、今日も相也の平常運行らしい。



「あれ?悠一は?」


相也(こいつ)の馬鹿話に呆れて教室出ていったよ」


そういえば悠一がいないなと辺りを見回すと、新が扉の入口の方を親指で指してみせた。


駿はなるほどと頷くと時計に目を向ける。

休み時間が始まって既に5分経過しており、残りは10分だ。


「俺ちょっとトイレ行ってくるから、相也の事任せた」


「ああ、了解」


彼は未だに机に突っ伏したままの相也を新に任せて、教室を後にした。



(トイレ、トイレっと……)


廊下を行き交う生徒達とすれ違いながら、やや早足で目的地に向かう。


トイレは各階の一番端にあるのだが、A組からは一番遠く、その間に同学年の全ての教室の前を通過する事になる。


(ん……?)


と、窓際の廊下に制服姿の少女が一人立っているのに彼は気が付いた。


紫陽花(あじさい)色の綺麗なショートカットに、同じく澄んだ紫色の瞳。

片手に持った文庫本に目を落としつつ、少しだけ開いた窓からの風がその少女の髪をさらう。


(…………)


何か幻想的な光景だった。

こう、普通のものは触れてはいけないような何か。


(っと、目的を忘れていた)


暫く少女に見入っていた駿だが、本来の目的を思いだし再び早足で進む。

そうして少女の前を通りすぎようとした時……


「………そこの道行く青年」


彼女はポツリとそう呟いた。、廊下に広がる喧騒の中での小さな呟きだったのにも関わらず、彼の耳にはハッキリと聞こえる。


「………?」


“道行く青年”

現在進行形でその言葉は一人にしか当てはまらない。

駿は足を止めて窓の方に顔を向けると、確認の為に自分自身を指差す。


『今呼んだのは自分の事か』と。


少女はコクリと首を縦に振ってみせた。

文庫本をそっと閉じると、その無表情な瞳は彼に向けられる。


「えっと……俺に何か?」


「………」


取り敢えず呼び止められたので、尋ねてみる事に。

少女は暫く彼の顔を見つめている。


「?」


「いや、そこで首を傾げられても……」


かと思うと、彼女は見つめたままくいっと小首を傾けてみせる。尋ねたのにその反応はちょっと困る。


なのでもう一度少女に尋ねる事に。


「えっと、何か用があって声をかけてきたんじゃないのか?」


「………あ、」


少女は無表情ながらも僅かに声を洩らす。

どうやら思い出したらしいのだが、


「……特に無い」


「………」


無いらしかった。

暫し二人の間に流れる沈黙。廊下の喧騒がやたら大きく聞こえた。


「じゃあ、俺はこれで……」


あまりこの少女に関わらない方が良さそうだと判断した駿は、サッと片手を上げて歩き始めようとしたが……


「でも、月ノ宮駿には話がある」


次の一言でずるぅと顔面から盛大に転けた。


「それを世間一般には用があると言うんだっ」


鼻っ面を押さえながら立ち上がる駿。


「ってか、ちょっと待て。

何で俺の名前を知ってるんだよ?」


「私の名前は霧生奏」


(聞いちゃいねぇ……)


彼のツッコミに少女は自己紹介で答えた。

今のは答えたという表現が正しいのかは微妙だが。


というか、駿に話しかけてきたその少女とは奏であった。


「クラスは高等部一年B組、茶道部所属。

特技は情報収集」


「いや、聞いてないから」


「?」


「“?”じゃなくてさ」


自己紹介の追加をする彼女に駿は困惑したように返す。奏は小首を傾けるも、また口を開く。


「月ノ宮駿。

年齢、今年の5月18日で16歳。

身長171cm、体重54kg、血液型はO型。

生活は基本的に明るい方。面倒がりだが困っている人間は放っておけないタイプ。極度のシスコンがたまに傷……」


「待て待て待て!!

ツッコミ所は多々あるがちょっと待て!!」


と、今度は駿の自己紹介を始める。

奏が駿の自己紹介を、だ。


何からツッコんで良いのか分からないが、取り敢えず彼女の他人紹介をストップさせた。

再度首を傾げる奏。


「何でアンタ、俺の名前知ってるんだ?

というか、名前だけじゃ無くて他の事まで……」


「得意なのは情報収集。

貴方の事も調べた」


「………」


答えになっているようでなっていない。

だが、それを聞くとまた話が拗れそうな気がしたので敢えて触れないでおく。




「……で、俺に何か?」


本来聞くはずの『話かけられた理由』を今一度彼女に尋ねる事に。

すると奏は綺麗な紫色の瞳を少しだけ細めて……


「貴方には、これから災厄が訪れる気運がする……」


「はい?」


唐突にそんな事を口にしてみせた。当たり前だが、駿はきょとんとした表情で尋ね返す。


「占いも得意……」


「………」


それによって彼女が言う災厄の気運とやらを占ったのだろうか。

というか、何故そんな事を初対面の駿に話すのか。


「私の部活には貴方の妹がいるから……」


「そういや茶道部って言ってたな、アンタ」


「そう……茶道部の参謀。情報操作、人海戦術が得意」


果たして茶道部にそんなものが必要なのかはやはり触れないでおく。

瞳の奥がキラリと光ったのが怖かった、というのも理由の一つだ。


「とにかく、静が世話になってるな」


「………」


大切な妹が部活で世話になっているので、ちゃんとお礼を言っておく。

奏はそんな彼をジッと見つめて一言。


「………私に惚れると火傷する」


(意味が分からん……)


本当に意味が分からなかった。

取り敢えずお礼を受けたんだと無理矢理納得して、顔を戻す駿。



「だから、その災厄から身を護る術を特別に教えてあげる……」


「はぁ……」


繋がりは縁とでも言いたいのだろうか。

部活で同じ静の兄という縁で、勝手に占いをしてくれただけの話だった。


(テキトーに聞いてさっさとこの場を離れよう……)


この少女とはあまり関わらない方が良さそうだ、駿はそう考えると奏を見る。


「それで?

俺はどうすればその災厄を逃れられるんだ?」


「今から行くお手洗い。

一階では無く、三階の方を使う事」


「え?」


「そうすれば何事も無く無事でいられる」


何故今から駿がトイレに行こうとしているのが分かるのか、それは置いといてだ。

奏はちょいちょいと今いる廊下から天井を指してそう言った。


一階のトイレは危険で、三階のトイレは安全らしい。


「以上、占い」


「………」


奏は再び文庫本を開いて視線を活字にさ迷わせる。


「大層な占いどうも」


「どういたしまして」


駿がややため息混じりに言うと、彼女は本を読みながらそう返した。




さて、奏と別れた彼は一階のトイレの前までやってくる。


(確か一階のトイレには災厄があって、三階のトイレは安全だとか言っていたな……)


見ず知らずの怪しい女子生徒に勝手に占われた結果を思い浮かべて、一人トイレの前で思案する駿。


(しかし、占いの言いなりになるのも何だかなぁ……)


素直に従うのは何となくだが、癪な気がする。

そもそも彼は占いはあまり信じない質だ。

別段嫌いという訳では無いのだが。


(一階は危険で三階は安全……)


もう一度奏の言葉を思い浮かべる。


(ならば……!!)


果たして彼の出した答えは…


「二階のトイレを使う!!」


駿は誰に言う訳でも無く高らかに宣言すると、階段を駆け上がっていった。

そうして二階の男子トイレに。



数十秒後……


「ふっ……」


無事に用を済ませた駿は、トイレ内の手洗い場の前で軽く口元を緩めてみせた。


「所詮は占い……運命に打ち勝とうとする人間の意思の前には脆く崩れさるのみだ……

ビバ、人類の勝利」


訳の分からない事を鏡の前で口にしながら言い知れぬ勝利の余韻に浸る。

そうして蛇口を捻った瞬間……


「ぶっ……!!」


とんでもない量の水が一気に吹き出して駿全身を覆ったのだった。




 




 

第27話 ボケと占いとツッコミと柄杓と

 




 




キーンコーン……

三時間目終了のチャイムが鳴って、お昼休みが始まる。


「さてと……」


駿は勉強道具を机の中に乱雑にしまって席から立ち上がった。


「ねぇ、ミヤミヤ」


「ん?」


すると、隣に座っていた晴香が彼に声をかけてくる。


「何で制服びしょびしょなの?」


「………」


彼女の言う通り、駿は見るも無惨にずぶ濡れだった。まだポタポタと制服から水が垂れている。


「クールビズだ」


「まだ春だよ?」


「トレンドファッションに目覚めたんだ。俺は常に皆の流行の一歩手前を行く事にしてるんだ」


彼はそう言ってずぶ濡れの身体でそくさくと教室の扉から廊下に出る。



(さて、取り敢えず着替えるか……)


自称トレンドファッションに目覚めた男は早くもその決意を捨て去る事にした。


(保健室辺りで代わりの着替えを貰えれば……)


彼は濡れて重くなった制服のまま、やや急ぎ足で西側の校舎へ。

周りからやや奇異な視線を受けつつも、一階の保健室に。



「ありがとうございました」


数分後、何とか替えの制服を借りて着替える事の出来た駿はお礼を言いながら保健室の扉を閉める。

彼の右手にはビニール袋、中には濡れた制服が入っているのだろう。


(やれやれ……せっかくの昼休みが少し潰れちまった……)


ビニール袋を手に、駿は再び教室に戻る為に歩き始める。財布は鞄に入れっぱなしなのでそれを取りにいかないとならない。


(………)


ややサイズの大きい制服の着心地に多少なりとも違和感を抱きつつ、北側校舎へ戻っていく。


「ん……?」


と、また廊下の窓際で文庫本を手にしている少女に出会った。

紛れも無く先程の少女、霧生奏だった。


「………あ、」


奏も彼に気付いたようで、本越しに目が合う。

暫く見つめ合う二人。


「占い、守らなかった……」


「うっ……」


が、パタリと本を閉じた彼女の言葉に言葉を詰まらせる駿。


「二階のトイレを使って、蛇口が破裂した挙げ句に全身がずぶ濡れ……」


「うぐっ………」


しかも災厄の詳細までバレバレだった。

この際何故という疑問は考えない事にする。



「でも被害が最小限で済んだのは幸運。もし一階を使っていたら、それこそ本当に大変な事に……」


「………」


意地を張って一階を使っていたら本当にどうなってしまっていたのだろう。

二階で妥協しておいて良かったと駿は内心安堵した。


「私の占い、当たる……

だから無下にしたらダメ」


「あ、ああ……そうだな、悪かった」


キラリと彼女の瞳の奥が光を帯びる。

先程の散々たる結果もある事だし、素直に謝っておく事にした。


「では、占い……」


どうやら再び占ってくれるらしい。

駿は背筋を伸ばして今度はちゃんと聞く事にする。


「お昼休みの災難の予兆。

特に黄色い髪を後ろで束ねた茶道部副部長の日向という女子生徒には気を付けた方が良い……」


「ああ、分かった」


何やら具体的な占いだったが、彼はコクリと首を縦に振っておく事に……


「何素直に頷いてんねんオノレはぁっ!!」


スパコーン、と大きくも心地良い高さの音が廊下に響き渡った。


「くおぉぉぉ……」


そして、気付けば後頭部を押さえて廊下に蹲る(うずくまる)駿の姿が。


「ったく、何してるかと思ったらこんなトコにおったんかいな奏」


「私はいつも、自由気まま……」


蹲る彼を跨いで奏の隣にやって来たのは、黄色い髪を後ろで束ねた高峯日向だった。女子なのに高身長で、制服越しにも分かるかなり大きな胸が特徴的だ。


「ところで、そこで蹲ってる奴は何やねん」


「日向がツッコミを炸裂させた人……」



駿を見て尋ねる日向に奏はポツリとそう答える。

日向の手には柄杓。先程の音はこの柄杓が駿の後頭部に直撃した音のようだ。



「そか、まあどうでもエエわ。それより、はよ部室に行くで。運ばんといかん荷物もあるからな」


「………」


日向はすぐに背を向けると、奏を連れて歩きだそうと……


「って、ちょっと待てぇ!!」


当然の事ながら、起き上がった駿に呼び止められた。いや、叫び止められた。


「何や、ウチら今から用事があんねんけど」


「いきなり人の頭をぶっ叩いといて素通りするのがこの街では当たり前なのかっ」


「叩いたと違う、ツッコミを入れただけや。自分がツッコミ甲斐のある発言するからやで」


向こうの言い分としては、叩いたのでは無くお笑いよろしくツッコミを入れただけだという。


「それは素通りする理由にならねぇ、ってかそもそも柄杓はツッコミの道具じゃねー」


「ツッコミの道具や」


「即答すんなよっ!!」


間髪を入れずに答える日向に駿は思わず叫んでツッコみ返した。


「ほほう」


「?」


日向は興味深い声を洩らし、駿の表情をまじまじと見つめる。


「自分、中々ええツッコミしとるな。それにリアクションもええ」


「はい?」


かと思ったら、不意にそんな事を言い出す始末。

奏といい日向といい、全く会話の流れが読めない。


「中々素質あるで自分。

気に入ったで」


「何のだ」


日向のお目がねに敵ったようだ。何のかは知らないが。


「日向、この人は月ノ宮駿と言って……」


「おお?

って事は噂の静ちゃんの兄貴かいな」


奏が手を向けて紹介すると、日向は手をポンと打ってみせた。

噂って何だよと思ったが取り敢えずその辺はスルー。



「そかそか、そら偶然やわな。

まさかこんな形で出会うとはな」


「こんな形っていうか、アンタがいきなり柄杓で殴ってきただけだろ」


「アレはツッコミや。

殴る時は金属バットを使うわ」


「………」


凄く怖い事をさらっと宣う日向。

彼は攻撃がツッコミで良かったと心底思った。


「ウチは高峯日向。

奏と同じクラスで茶道部の副部長をしとる。よろしくな」


「ああ、それは静がお世話になってまして……

俺は静の兄の月ノ宮駿」


日向の紹介に彼女も茶道部だと、何故かお礼だけは丁寧になる駿。

殴られたり怒ったりツッコんだり頭を下げたり、忙しい奴である。



「ほな、行こか二人とも」


「は?」


日向は再び背を向けると歩き始める。

その後に続く奏だが、駿は訳が分からないという表情。


当然だ、二人とは先程出会ったばかりで特に約束をしていた訳でも無いのだ。


「行くって何処に?」


「そんなの決まっとるやないか。部室や!」


サッと振り返った日向はビシッと彼に指を突きつけた。


「何の?」


「茶道部の」


「どうして?」


「部活の用具を運ぶんや。ただこれがかなり重くてな、男の自分に頼もうっちゅー訳や」


さも当たり前のように言ってのける日向。


「帰る」


駿は踵を返すとそくさくとその場から離れる為に歩きだそうと……


「待たんかいっ」


「ぐっ……」


後頭部を鷲掴みにされた。逃亡失敗。


「何いきなり逃げようとしとんねん」


「それを言うなら、何で俺がそんな手伝いをする事になってんだっ」


駿は頭を掴まれたまま彼女の言葉に反論する。


「面白い構図……」


「笑ってないで助けてくれ」


奏は僅かに口元を緩めながらその様子を眺めている。


「か弱い女の子二人が重い道具を運ぼうとするのを黙って見過ごすいうんか、自分は?」


「知るかっ、それが部員の仕事だろ」


今回は全くもって駿が正論だ。

彼は何とか掴んでいる手から抜ける。


「俺は昼飯を食いにいくんだ。手伝いなら他を当たってくれ。じゃあな」


そうして片手を上げると更に早足で教室に戻ろうと……


「エエねんか〜

せっかく静ちゃんの茶道部和服姿を見せる機会作ってやろう思ったのに」


「!!」


その言葉を聞くや否や、くるりと振り返りスタスタと日向の前まで戻ってくる。


「詳しく話を聞こう」


臨機応変な奴だった。


「茶道部では二ヶ月に一度、お茶会いう和服に正装して地域で行うイベントがあるねん。それに自分も特別に参加させてやるいう話や」


「マジでか」


「大マジや」


グッと親指を立てて頷く日向。


「他のお茶会イベントは無理やけど、地域お茶会は高齢者と茶道部のみの参加や。

けど素人のお年寄り方も沢山おるん、自分一人くらい何とかなるわ」


「なるほど、静の和服姿が見放題という訳だな」


「せや」


駿の瞳はまるでスポ根漫画の主人公並みに煌めきを宿していた。


「けど、無料(ただ)でっちゅー訳にはいかへん」


「条件は?」


「ウチらが茶道部で時々使う特に重い用具を運ばんといかん時に手伝ってくれたらええ。

心配せんとも二週間に一回あるか無いかの話やから」


という事らしい。

地域お茶会に特別参加の代わりに時々必要な重い茶道用具を運ぶのを手伝えと。


「どや?」


「無論、交渉成立だ。

静の違った和服姿が見られるなら毎日の労働だって惜しくない」


「おお、話が分かるな自分!」


ガシッと握手をし合う二人。ここに奇妙な交渉が成立した。


「やっぱりシスコン……」


奏はいつの間にか取り出したメモ帳にサラサラと何かをメモしていた。



 


・・・・・・・


 


茶道部の和室。

青畳が敷き詰められ、障子から覗く光が落ち着いた雰囲気を醸し出す部室だ。


「ふぃ〜、今回は楽やったな」


「ええ……」


引き戸を開けて、その和室に入ってくる日向と奏。

二人の手には恐らく茶道部用の道具だろう、紙袋が一つずつあった。


その後ろから……


「よっこらせ……っと」


駿が沢山の紙袋と、何やら大きな木箱を抱えて和室に入ってきた。

そしてドサリと重々しい音をたてて、運んできた荷物を畳の上に置く。


「はぁ……」


駿もドッカリと畳の上に腰を降ろした。同時に溜め込んでいた息も一つ。


「ご苦労さん、助かったわ」


「お疲れ様……」


日向と奏は彼を労うように声をかけた。


「しかし自分、凄いな。

まさかあそこまで荷物をいっぺんに運べるなんて。

優男に見えたけど、実は結構力持ちなんやな」


「力持ちかは知らんが、人並みには鍛えてるからな」


腕や足の疲れもすぐに回復したのか、駿はすっと立ち上がってみせた。



「さてと、んじゃ要件は済んだし俺行くな」


「何処に?」


彼が開いた引き戸から出ようとするのを、奏が呼び止める。


「昼飯だ、昼飯。

もう昼休みも半分終わってるからな」


時計に目を向けると、時刻は既に12時半。

後30分程で授業が始まる。


「何や、それならここで食べてき」


「え?」


しかし、そんな彼に日向がかけたのは意外な言葉だった。


“ここで食べていけ”と。

確かに彼女はそう言った。


「ここでって……」


そう尋ねる間もなく、日向はちゃぶ台の前に座ってその上に緑色の風呂敷を置いてみせる。


「お弁当やて」


「日向の特製……」


風呂敷をほどくと、そこからは三段に重ねられた黒い重箱が姿を表す。

おせち料理とかでよく見る感じの重箱だ。


どうやらお弁当らしいが、これをお昼ご飯にしろという事か。


「食ってき。今から戻って学食に行ったって時間無いで、多分」


「……良いのか?」


「どうせ二人で食べても余ると思うから。

寧ろちょうど良かったわ」


日向と奏はちゃぶ台の前に座って割りばしを手にしている。

茶道部だけに、既にお茶の用意も万全だ。


「だったらご馳走になろうかな」


駿もゆっくりと畳に腰を降ろす。

勧められているのに無下に断るのも気が引けるし、何より昼飯代が浮くのはありがたかった。


重箱には彩り豊かな料理が幾重にも並べられている。おむすび、だし巻き卵焼き、豚カツ、肉じゃが、きんぴらごぼう、煮干しのごま和え等々……



「随分と豪勢な弁当だな。いつもこんなに作ってるのか?」


「ちゃうちゃう。今日は偶々や。気分とノリで重箱を選んだだけの話や。

でもきっちり詰めないと寄ってまうから、こないな量になった訳やな」


唐突にお弁当が重箱になる気分とノリとは一体何なのだろうか。


「日向は時々変なスイッチが入るから……」


「自分にだけは言われとうないわっ!!」


カポーンといつの間に持っていたのか柄杓でツッコミを入れる日向。


(まるで鹿威しの音みたいだ……)


どこか心地良いその木製の音に改めて和室を感じる駿。


いつまでもそんなやり取りをしていたら昼休みも終わってしまうという事で、三人はお弁当を食べ始める事に。


「お、卵焼き美味いな。

肉じゃがもさっぱりした味付けながら味が染み込んでいて、抜群に美味いぞ」


「せやろせやろ。

自分、中々エエ奴やないか」


日向のお弁当、おかずはどれも美味しかった。

これだけ種類がありながらも、一つとして手が抜かれていないようで。

駿は味は勿論その料理の質にも素直に驚く。


「自信作は豚カツやで。

食うてみ自分」


「う、美味い……!!」


言われた通り、豚カツを一口、駿は目を丸くして思わず声を洩らしてしまった。

お弁当の豚カツの筈なのに衣は揚げたてのようにサクッとしていて、また中の肉はふんわりとした食感、かと思いきやしっかと身が締まっている。


「………」


不思議で仕方がないという表情で箸で掴んだカツを見つめ、また一口。

サクッと、そしてフワッと。


「企業秘密やからな」


「そうか、高峯コーポレーションもこの豚カツの秘密は明かせないのか」


「せやな。今の時代はどこも不況で美味しい技術は盗られるからな。うちの会社が受け継いできた先祖代々の味を守っていかんと……」


一人頷く日向の隣でモグモグと豚カツを頬張る駿。


「って、誰が高峯コーポレーションやねん!!」


ノリの良い奴だった。


カポーンと心地良い音。

柄杓の痛くない部分で叩かれるとこんな音がするのか。だとすると、先程駿が後頭部に食らったのは角の部分か。


「どうでも良いが、何故霧生まで俺の頭に手を置いてるんだ?」


「ダブルノリツッコミ……」


「いや乗ってないだろ」


柄杓と一緒に奏の手も駿の頭に。『なんでやねんっ』と言う時の裏拳みたいな感じで。


まぁそれは置いといて、再び箸を動かす三人。



「高峯は料理が得意なんだな」


重箱の中身もほとんど無くなってきて、お腹が膨れてきた頃。

駿は空になった重箱を見つめてそう呟いた。


「意外やろ?」


「ああ、物凄く意外だ」


スパーン。

先程の心地良い音とは打って変わって鋭く痛々しい音。


柄杓が駿の側頭部を的確に捉えていた。


「角は痛いぞ……」


「ど阿呆!!

そこは『そんな事は無いさ。確かに周りの皆なら普段の君からは想像出来ないかも知れない。でも僕は驚かないよ。君が本当はどういう女性か、知ってるからね』って言うのがマナーやろっ!!」


「初対面の人間に無茶な要求をするなっ」


「男ならそんくらいの一つや二つ、初対面の女の子に片っ端からするくらいの気概を持たんかいっ!!」


(無理だ……)


頭を擦りながら叫び声をあげる日向に訴えるもバッサリだ。


「なんでやねん……」


「………」


ペシッと奏の手が彼の頭に当たる。

駿はもう何も言えなくなって、再び箸を動かし始める。


和やかな和室には、テンションの高いツッコミとボケボケな会話が飛び交うのだった。




・・・・・・・




「昼飯、ご馳走さん。

美味かったよ」


授業開始5分前。

駿と日向、奏の三人は廊下を歩いていた。


女子二人はB組で駿はA組なので、B組の教室の前まで来たら本日はお別れだ。


「ほんなら、またな。

ちゃんと約束は守ったるから」


「ああ、分かってるよ」


昼前に成立させた約束を思い出して頷く。


「気を付けた方がいい……」


「ん?」


と、今度は奏がそっと彼に声をかけてきた。


「貴方は色々と厄介事が集まってきやすい体質のようだから……」


「……それは占いか?」


「勘」


第六感は曖昧で時々予測出来ない答えを出すというが、ここまでキッパリと言われてしまうと逆に清々しいものがある。


「特に女難の厄介事が多そう……」


「………」


駿はちょっと肩を落としながら、A組の教室に戻っていったのだった。

 


 

今回は日向、奏と駿が出会いました。


駿

「妙に危険なコンビだったな……危うく自分を見失うところだったぞ」


日向

「どういう意味やねん!!」


「危険……」


日向

「そして何で自分は嬉しそうやねん!」


コーン!


「心地良い音……」


柄杓のツッコミを定番化しようかと思ってます。



どうでもいい話ですが、

二人は性格からスタイルまで全く違います。

奏の胸はぺったんこですが……


駿

「ああ、ありゃ絶壁だったなぁ」


「今日、貴方は死ぬ」


駿

「すみませんでしたぁ!!」


日向はかなり大きいです。多分ヒロイン勢の中でも一番大きいかと。


駿

「確かにな、あれはかなりのものだったぞ」


日向

「お?何や何や、ウチのに興味あるんかいな」


駿

「無いと言えば嘘になるな。八雲先輩とか晴香も大きいしな、確か」


日向

「ホンマ素直な奴やな、自分」



「へぇ、そうなんですか……」←ニコニコ


駿

「!?」


いつの間にか駿の背後に静ちゃんが……


「日向先輩の胸が大きくて良かったですね、兄さん」


駿

「やっ、違うんだって!!

これは作者の誘導尋問みたいなもんで……

確かに大きいのは魅力的だけど」


「では兄さん、胸の大きな女性の方と末永くお幸せに」←プイっと顔を背けて去っていこうと



ガシッ!



駿

「静!!」←静の両肩に手を置いて抱き寄せる


「きゃっ……///」


日向

「何や二人の周りにピンク色のオーラが見えるんやけど」


「ここが正念場……」


ピンク色のオーラはイチャイチャしてる時に発動します、多分。


駿

「確かに大きな胸もそれは魅力的だと思うし、その逆もまたそうなんだろうけど………俺が一番好きなのは」


「ふぇ!?///」


ピンク色が更に増してきた。後書きで何やってんだこの兄妹は全く、羨ましいっ。


日向

「自分も少しは気持ち隠せな」


「そしてクライマックス……」


未だに超至近距離て見つめ合う二人。


駿

「俺が一番好きなのは、他人のではなく静のおっ」


日向

「言わせるかドアホォォォォ!!」



スパコーン!!!!



ナイスヒット。


日向

「オノレは一体どこまで変態に堕ちるつもりやねんっ!

後書きだからって何でもしてええ訳ないやろっ」


駿

「痛たたた……いやだから、俺の素直な気持ちを伝えようと……」


日向

「んなアホな伝え方あるかぁ!!」


「はぅ…///」


「静、真っ赤になったまま戻ってこない……」


日向

「ホンマや……」


「ここは王子様の口付けで意識を戻すのが良策」


駿

「よし、俺に任せろ!」


駿は静の両肩に再び手を置き、優しく抱き寄せて頬に手を当てて……


日向

「オノレが眠れェェェ!!」


駿

「フライングニール!?」


日向のハイキックが後頭部を直撃、そのまま地面に突っ伏した。

変態没す。


日向

「ったく……後書きになった途端に壊れよってからに。このままだと続かなくなるで、ホンマに」


「そろそろ次回予告」


あ、そうでした。

次回はリンクス様のリクエストのお話です。

リクは砂糖を吐かせるほど超甘々な駿と静にしてくれ、との事でした。


「砂糖を吐いたら見せてね日向……」


日向

「吐せるかっ!!」



どんな話かは次回という事ですが、頑張って甘々にするつもりです。


静ちゃんみたいな娘は一回デレるとかなり甘えちゃうタイプですね。

デレデレになっちゃいます。抱擁とかキスのおねだりをしてくるかと……ぐぼはっ!!(←鼻血)


日向

「何自分で言ってダメージ受けとんねん」



次回もよろしくお願いします!!




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