第1話 海の見える街
はい、第1話です。
タイトルかなり悩んだ結果、こんなつまらないタイトルになってしまいました。題名って考えるの難しいですね。
今回は主人公と妹が登場します。
あらすじにある秘密とは近々明らかになるかと。
一応学園バトルコメディーなるものを予定しているこの小説です。
どうかよろしくお願い致します。
では、始まります。
第1話 海の見える街
『間もなく〜汐咲駅、汐咲駅。お出口は左側です。
お降りの方はお忘れものの無いようにお願いします』
昼間。
お昼が少し過ぎたまだ日も高い時刻。
時折ガタンと揺れる電車の車内で男性のアナウンスが鳴り響いていた。
乗客は疎らで各車両に立っている人が二三人、座っている人が五六人ぐらいか。私語も筒抜けになるであろう静かな車内である。
そんな電車に二人の人間が壁際の席に隣り合って座っていた。
「兄さん、起きて下さい。もう駅に到着しますよ」
「う…ん……?」
それは青年と少女の二人。どうやらこの駅で降りるらしく少女が隣の青年の肩を軽く揺すって声をかけていた。青年は眠っていたようだがそれでうっすらと瞼を開ける。
青年はストレートの黒髪が首の半分より下くらいまで伸びていて、どちらかというと女性よりともとれる端正な顔立ちに綺麗な琥珀色の瞳が特徴的だ。
細身な体つきで無地のTシャツの上に白いパーカーを羽織っており下は青いズボンを身に付けている。
肩から下げる水色の鞄を膝の上に乗せていた。
一方、隣の少女は淡い藍色のワンピースに白いカーディガンを羽織っている。
綺麗な紺色の髪を腰まで伸ばしており美しく整った容姿に青みがかったの瞳。
胸は小さな方だが無いわけでは無く服の上からでも分かる程度にはある。
彼女は小さなポーチを腕に下げていた。
「ふわぁ……
ようやく着いたか……結構長かったな」
「そうですね。
まぁお爺様の本家はずっと西の方ですから」
青年が席から立ち上がりグッと伸びをすると、少女も続いて立ち上がり頷いてみせた。
そうして二人ともドアの方に歩いていく。
「新居の方はどうなってるんだ?どの辺にあるのかとか」
「家は海沿いにある商店街の近くにあるそうです。
不動産の方と駅前で待ち合わせしていますから大丈夫です……というか先程も同じ説明しましたよ、兄さん」
「そっか……そうだったな、悪い悪い」
青年の問いに彼女はそう答えて少し困ったように頬を膨らませる。
少女が言った“兄さん”という言葉からこの二人が兄妹であるらしい事が分かる。
『汐咲駅〜、汐咲駅〜』
と、電車が駅のホームに到着してドアが開いた。
二人は並んで車両からホームに足を踏み出す。
「へ〜、結構大きな駅なんだな」
「この街の代表的な駅ですからね。
街中を走る電車や都心への電車なんかも通っているらしいですよ」
青年はキョロキョロと周りを見回して感嘆の声をあげると少女は隣で駅案内の看板を見ていた。
汐咲駅はホームが四つ、八つの線路がある比較的大きな駅だった。
丁寧に手入れをされているのか綺麗なホームには販売店、立ち食い蕎麦屋、待合室があり、ホームから階段を上がると大きな本館に出る。
本館は二階建てで二階には駅専用の本屋やコンビニ、街の案内や専用の切符を買う窓口、軽い朝食等をとれる喫茶店、コーヒー専用等のお店もある。
「何だか小さな空港みたいな駅だな……流石都市って感じだ」
「向こうはホーム一つの田舎でしたからね」
彼はまだキョロキョロとしているが少女は苦笑混じりに答える。
「つっても、俺達小さい頃はこの街に住んでたんだよなぁ?義父さんや義母さん達と」
「本当に小さい時でしたからね。私はほとんど覚えていません」
「ま、俺もだ。
つーか小さい頃は本家に居る時より色んな場所をじいちゃんに連れ回された記憶の方が遥かに多いわな」
二人は言葉を交わしながら駅本館を歩いていき、階段を下って一階にやって来た。
一階はトイレや券売機、コインロッカー、駅員の窓口等がしか無いので比較的スペースがありゆったりとした空間が広がっていた。
おまけに出入り口である改札口を抜けるとすぐに外なので風が駅内に入り込んできて気持ちが良い。
二人は改札を抜けると駅の入口の前で立ち止まり目の前に広がる。
「ここが汐咲市か……」
「綺麗な街ですね」
駅の前は円形の広場があり中心には噴水とモニュメントが。
その周りにはベンチも置いてある。
そしてその広場の向こうには住宅やお店といった建物が並んでいる光景が見える。
二人の視界には目立ったビル等の高層の建物は見当たら無い。
この駅前広場からでも地平線に海が広がっている光景が見られる事から、この街が海に面している事は明らかだ。
「兄さん、不動産の方がいらっしゃるまでに少し時間もありますからこの汐咲市の紹介パンフレットに目を通してみてはいかがですか?」
「……そうだな。
今日から住む訳だし、少し見ておくか」
少女の提案で青年は肩に下げた鞄からパンフレットを取り出すと、目を通し始めた。
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【ようこそ、汐咲市へ!】
この街は日本の沿岸のとある県内にある港町です。
人口はそれほど多く無く、面積も決して大きい訳ではありませんが住民の皆様からも良い街だとお声を頂いております。
【汐咲市の特徴】
・海の見える街
目の前が海であるこの街は文字通り“海の見える街”
海沿いに並ぶ商店街やそこから広がる住宅街。
どこか古風な感じを残すその町並みは、まるで外国の港町のような気分が味わえる筈です。
・設備、施設
地方とは言いますが施設や設備はしっかりとしたものが揃っています。
・爽やかな日常
海を眺めながら駅に向かうも良し、海岸沿いを自転車で通学するも良し。
潮風の薫る外は貴方に清々しい日々を与えてくれるでしょう。
【施設の紹介】
一部の施設を紹介します。
○ショッピングモール
この街唯一の巨大な施設です。日用品屋、雑貨屋、服屋、本屋、玩具屋、電気屋等あらゆる買い物をする事が出来ます。
映画館等の娯楽施設もこのモール内にあります。
○汐咲学園
街にある中高一貫の学校です。
自由な校風とのどかな環境が特徴です。
○総合病院
街の総合病院です。
○汐咲港
船が出入りをしている港です。
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「色々あるって事は分かった……以上」
途中で飽きたのか青年はパンフレットをやや乱雑に畳んで鞄にしまった。
「兄さん……」
「平気だって。住めば都って言うし、その内慣れてくるさ」
テキトーにまとめた青年に呆れたような視線を送る少女。
と、そんな二人に近づいて来る男性の姿が。
「あの〜」
「「?」」
黒いスーツ姿に黒の単髪、少し気の弱そうな眼鏡の男性だった。
「月ノ宮様でいらっしゃいますか?」
「ええ、そうです。えっと不動産の……」
「はい。
僕は坂本と言います」
男性は不動産の社員だったようだ。
少女が頷くと坂本は丁寧に頭を下げて挨拶をした。
「えっと駿様は……」
「あ、俺が月ノ宮駿です。んで、こっちが妹の月ノ宮静です」
彼は手帳を開くと名前を確認する為に青年に顔を向けた。
青年、駿は自己紹介と妹である静の紹介をして二人で会釈を返す。
「はい、ご確認致しました。では早速、ご自宅の方にご案内致しますね」
「「よろしくお願いします」」
坂本は笑顔でそう言うとでは早速と歩き始めた。その後を駿と静もついていく。
「さ、お乗り下さい」
駅前広場の脇に止めてあった白いミニバンの前まで歩いていくと、ドアを開けて二人に乗るように促した。
坂本が運転席に、駿と静は後部座席に乗り込んだ。
ミニバンはゆっくりと動き始める。
「ご兄妹だけで越されて来たんですか?」
「ええ。
両親は海外でお仕事をしているので」
運転をしながら尋ねる坂本に静は答える。
「そうですか……それは大変ですね」
「いえ、二人で生活とかはもう慣れてるんで。
ただ新しい場所というのは不安がありますね」
彼女はそう言って窓の外で流れる景色にふと目をやった。
住宅街を行き交う人々が楽しそうに会話をしたりしている。
「そういう事ならご安心下さい。
この汐咲市は良い街ですよ。確かに都心に比べたら高層ビルなんかも無くて田舎っぽいですが、そんな雰囲気がまた良いというか」
運転席で話す坂本は前を向いているので詳しくは分からないが心なしか目が輝いているようだ。
彼もこの街が好きなのだろう。
「はい、私も素敵な場所だと思います」
「でしょう?」
そんな彼の様子にクスリと微笑んで静が頷く。
「まぁ、それ以外にも不安はあるんですけどね」
「?」
しかし隣の駿は顎に手を当てて考えるような仕草でそう呟いた。
何が不安なのかと首を傾げる坂本に彼は続ける。
「勿論、静の事です。
この通り、うちの妹がもうホント可愛くて可愛くて……目に入れても痛くないのは勿論、もうずっと抱き締めていたいくらいの可愛さなんですが。
そんな彼女に新しい地で悪い虫が寄ってこないかもう心配で心配で……
まぁそんな輩がいたら市中引き回しをした挙げ句に煮えた鉛を飲ませてやりますが……とにかく新天地は危険がいっぱいな訳です。
もし恋人なんて出来ようものなら……恋人ォ!?許しません!!お兄ちゃんは絶対に許しませんんん!!
静はずっと俺が……」
「兄さん!!」
静は真っ赤になりながら声をあげて終いには叫びだした彼の言葉を止めた。
でなければ彼はいつまでも話し続けただろう。
「あはは……
中々愉快なお兄さんですね……」
「すみません……」
ご迷惑をと頭を下げる彼女に思わず苦笑いの坂本。
完全に引いているのは誰の目にも明らかだ。
「あれ?坂本さん、何でそんなに顔をひきつらせてるんですか?もしかして具合でも悪いんじゃ……」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
駿以外は。
あまつさえ体調が悪いのかと尋ねる始末。
「でも……」
「兄さんはもう黙っていて下さい」
「ええ!?」
ピシャリと妹に怒られて驚きの声をあげる兄。
「ははは……」
運転している坂本は確信した。
彼はとんでもないシスコンなのだと。
・・・・・・
「では、これが鍵です。
荷物はもうすぐ到着しますので」
「あ、はい」
駅から車で10分程度。
住宅街の端にあるとある家の前に三人は立っていた。
二階建ての赤い屋根が目立つ一面白い壁の一軒家だ。
玄関や家の周りには庭もあり、小さな門の隣には既に『月ノ宮』と表札も。
住宅街の端なので周りが他の家に囲まれている訳では無いが、道を挟んで向かい側には様々な一軒家が並んでいるのが見える。
「歩いて数分で海沿いに出ることが出来ます。
海沿いの長い商店街がありますので、ご利用下さい。少し遠くにはなりますが街で唯一のショッピングモールもありますが、この辺の皆様は生活用品は大抵商店街でお買いになられますよ」
坂本は家から左の方に手を向けながら話す。
なるほど、見れば向こうの方に海が広がっているのが分かる程近くほのかに潮風が香ってくる事も。
海の目の前には商店街があるらしくこの家のすぐ近くのようだ。
「それでは、僕はこれで。
何かありましたらうちの不動産にお越し下さい。
地図をお渡ししておきますので」
「ご丁寧にありがとうございました」
坂本は丁寧に頭を下げると名刺と地図を重ねて静に渡す。
二人がお礼を言うと彼はもう一度頭を下げて車に乗り込みその場を後にしていった。
「さて……荷物が届くまでどうするか」
坂本の車を見送った駿は腰に手を当てて家の方に振り返る。
そう。今日は引っ越しの当日なのでまだ荷物等の片付けをしなくてはならないものが届いていないのだ。
その間どうしようかと考えていると……
「兄さん、少し街を回ってみたらどうですか?」
「え?」
静がそう提案した。
駿は少しきょとんとするがすぐに彼女の方に顔を向ける。
「一緒に?」
「いえ、私は家で待っています。
業者の方が来た時に留守だと失礼ですから」
彼女はそう言って両手を胸の前で併せた。
しかし一人で留守番という状況を考えて駿は心配そうに彼女を見る。
「でも、一人でなんて大丈夫か?
知らない人が訪ねてきた時とか初めての場所で怪我とか、もしかしたら静が一人でいる時に地震が起こったりして……」
「もう、兄さんは心配し過ぎです。
大丈夫ですから」
「うーん……」
そんな彼に静はため息をつきながらも口元を緩めて返す。
それでもまだ不安なのか腕を組んで考えていたのだが……
「今日からここで生活するのですから、色々と見ておいた方が良いと思いますよ。明日は私も一緒に回ってみますから」
「………そうだな。
分かった、少し回ってみるよ」
彼女の最もな言葉についに首を縦に振った。
明日は彼女も一緒に街を回るというのが承諾の決め手となったのだろうか。
「んじゃ、また後でな静」
「はい、兄さんもお気をつけて」
静は家の玄関の方に、駿は取り敢えず商店街がある海沿いに向かって歩き始めたのだった。
いきなりのシスコンぶり。
こんな主人公ですみません。
彼はこれだけで無く他にも色々と残念な奴なのですが、何卒よろしくお願いします。