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第25話 実家からの電話は総じて長い



今回は電話です。


本編のゴールデンウィークの予定が決まります。



では、始まります!!


 


「うーむ……暇だ」


夕方。

駿はリビングのソファーに寝転がり、ぼんやりと時計を眺めていた。


(こんな時は静と話すに限るんだけど、生憎今は居ないし……)


静は10分程前に買い物に出掛けていたので、現在自宅には彼一人。

だらだらと暇を持て余しているのだ。


静に言わせれば勉強すべきらしいが、彼にはそんな気はさらさら起きない。


「暇だ……」


取り敢えずもう一度声に出して自分が暇である事を確認するも、返ってくるのは時計の針の音ばかり。


(しゃーない。

夕飯まで寝るか……)


暫くくるくると視線をさ迷わせていたが、すぐに飽きた彼は惰眠を貪る為に身体を横に向ける。


(………静とイチャイチャする夢でも見よう)


夢は見ようと思って見れるものなのか。

相変わらず馬鹿な事を考えながら、目を閉じようとした時だった。


「お?」


突然鳴り響いた電話の音で、彼は寝転がっていたソファーから身体を起こした。




 




 

第25話 実家からの電話は総じて長い

 




 




「はい、もしもし。月ノ宮です」


駿は受話器を取ると電話に出る。


『もしもーし、駿?』


「義母さん?」


すると聞こえてきたのは、彼の母親の声だった。

意外な人物に彼は少し驚いた様子。


「どうかしたのか?何か用事?」


『あら、用事が無いとかけちゃダ・メ?』


「いや、そんな声で言われてもさ……」


『もう、反応が薄いわね〜お母さん悲しいわ』


やけに色っぽい声色に駿はため息混じりに返す。

まぁいつも通りのやり取りの様なので特にツッコまなくても話を進むのだが。


『まぁ冗談はそれくらいにしておいて。

来月のゴールデンウィークなんだけど、二人とも予定はあるかしら?』


「ゴールデンウィーク?」


ああ、と駿は壁に掛かっていたカレンダーに目を向ける。

今は四月下旬で、本当にもう少しで五月のゴールデンウィークがやってくる。


因みに今年のゴールデンウィークは5連休だ。


「いや、特に予定は無いけど」


『そう。良かったわ』


彼の言葉に電話越しの声は安堵したように息をついた。何だろうと受話器を持ったまま首を傾げるも、母親の声は続く。


『だったら、二人とも本家に帰ってこない?』


「本家に?」


『そう。今年は休みも長いから、こっちでゆっくり出来ると思うわよ』


それは帰省の提案だった。

ゴールデンウィークに月ノ宮本家に帰って来ないかという。


『それに勿論、私もお父様も二人の顔を見たがっているからね』


「ジジイは静の顔をみたいだけだろ」


『そんな事無いわ。

お父様だって口ではそう言ってても、心の中では駿の心配もしてる筈だわ』


(あり得ね〜)


駿は電話越しだが思い切り顔をしかめて首を振った。

それだけは絶対無いな、と。


『とにかく、どう?帰って来れる?

あ、なんだったらお友達とかも連れてきて良いわよ』


「まぁ、そうだな。

俺は良いと思うよ。静にも聞いてみないと分からないけど」


ようやくこの街の生活にも少しずつ慣れてきた所だし、ここらで一旦帰省するのも良いかもしれない。そう思いゆっくりと頷く駿。


『そう!

分かったわ、決まったらまた電話してね』


「はいよ」


受話器の向こうからは嬉しそうな声。

やはり息子と娘の顔を見れるのは親にとって一番嬉しい事なのだ。


『あ、そうそう。

綾姫(あやめ)ちゃんにも電話、替わるわね。今、呼んでるから』


「え、綾姫に?」


もう用件も無いだろうと思ったが、彼女はそう言ってきた。

“綾姫”という言葉を聞いて駿は首を傾ける。


『そうよ。

ずっと心配しててくれたんだし、幼馴染みで許嫁でしょう?

声くらい聞かせてあげなさい』


「許嫁は“元”だ、“元許嫁”!!

大体その話はジジイが(すめらぎ)家と勝手に決めたもんだし、とっくの昔に終わったのは義母さんも知ってるだろ」


『はいはい』


やや語気を強める彼にクスクスと可笑しそうに返事をする母。


『まぁ、私は勿論静の味方でもあるけど、綾姫ちゃんも娘みたいなものだから彼女の味方でもあるわ。だから駿、二人のどちらを選ぶにしても真剣な気持ちで接しないとダメよ?』


「相変わらず物凄く誤解しているみたいだから言っとくな。

静は妹だし、綾姫(あいつ)は幼馴染みだよ。

ただ、それだけだから」


『分かった分かった』


駿は額を押さえてため息混じりに口を開くも、受話器越しの母は相変わらずクスクスと笑っている。

本当に彼の言葉が届いているかは怪しい所だ。



『あ、綾姫ちゃんが来たから替わるわね。

私はまた出掛けるから、後は二人だけでゆっくり話してて』


「あのなぁ……」


母親の声はそう言い残して一旦途切れた。

かと思ったら……


『お電話代わりましたわ、綾姫ですの』


今度は違う声が聞こえてきた。綾姫と呼ばれる女の子の声のようだ。


「よぉ、元気か?」


駿は取り敢えず先程の会話を忘れて受話器に話しかける事に。


『そ、その声は、駿様ですの!?』


「はい?」


しかし電話越しの声はいきなり驚いたものに変わる。まるで電話の相手が彼だと知らなかったかのように。


『はわわ……!!

えっと、まずは髪を……って電話なのに整えても仕方ありませんわ!!

だったら、えっと……!!』


「……綾姫?大丈夫か?」


何故かいきなり慌て始めるその声に駿は恐る恐る声をかける。


『はっ!?ご、ごめんなさいですわ!!

お知り合いからの電話としか聞いていなかったので、まさか駿様だとは思わなかったんですの』


「あ、そうなのか」


やはり、電話の相手が駿だとは知らなかったらしい。

それならば確かにあの反応も合点がいかない事も無いが。


「あ〜、何か間が悪かったか?」


『いいえ、そんな事はありませんわ!!

寧ろ駿様の声を聞けて嬉しいですの!!』


「なら、良いんだけど……」


あの慌てぶりから良くない事をしたのかと思ったが、何かマズかったようでも無く、取り敢えず安心。



「んで、元気か?」


『ええ、お陰様で。

何不自由なく健康で過ごさせて頂いておりますわ』


「そっか、そりゃ何よりだな」


綾姫の声を聞いて彼は一人頷きながら返す。


『で、でも……その、駿様がいらっしゃらずに寂しいというか……本当は静さんでは無く(わたくし)が駿様のお世話をしたかったですのに……ゴニョゴニョ』


「ん?悪い、よく聞こないんだが……」


『な、何でもありませんわ!!』


ぼそぼそと呟くような彼女の声までは聞き取れなかったが。


「ところで、本家の方は?特に変わった事は無かったか?」


『ええ、特にこれと言っては……あ、でも』


「うん?」


『相変わらず怜夜(れいや)さんが色々暴れてと大変ですの。

特に、駿様と静さんが出られた後は荒れておられて。

『何故軟弱な駿が静さんと二人きりになれるのか』とか『静さんに相応しい男になるために更に強くなる』とかで所構わず奥義だ必殺技だ、と……』




結構困ったような彼女の声に思わず駿はこめかみを押さえて長いため息をつく。


「はぁ……あの馬鹿か」


『純粋で全く悪気が無いのは分かりますけど、お屋敷の片付けがちょっと大変ですわ……』


向こう側からもややため息のような声。

確かに聞く限りは中々大変そうだ。


「悪いな綾姫、迷惑かけて」


『そんな、謝られる事ではありませんわ。

それに駿様達とは長いお付き合いですもの、もう慣れてますの』


「そっか……」


クスリと笑うそんな彼女に駿は軽く口元を緩めた。

先程母親の言葉にもあったが、二人は幼馴染みだという事らしくその付き合いも長いようだ。


「ま、でもあの馬鹿にはちゃんと言っといた方がいいな。屋敷にいる?いたら呼んできてくれねーか?」


『はい。

今お呼びしてまいりますわ。

あ、それと静さんにもよろしくとお伝え下さいまし』


「ああ、分かった」


一旦受話器から声が途絶える。駿はチラッと玄関の方に目を向けるが静はまだ帰ってきていないようだった。


暫く待っていると電話の向こう側から、ドタドタと慌ただしく走るような音が聞こえてきた。

そして……


『駿、貴様ぁぁぁああ!!

よくのうのうと電話など寄越せたな!!』


「………」


物凄いボリュームで男の声が突き抜けてきた。駿は受話器を耳から少し離す。


「ったく、喧しいんだよオメーは……電話くらい大人しく話せ」


『そんな事はどうでもいい!!それより駿、貴様何もしていないだろーなぁ!?』


「何が?」


その声は電話越しでも分かる程エネルギッシュで且つ怒っている。


面倒くさそうに尋ね返すと、更に大きな声は続く。


『静さんと二人きりなのを良い事に、嫌がる彼女に無理矢理あんな事やこんな事を……ぐはっ、今想像して鼻血が。

いかんいかん!!

清楚な静さんになんて想像を……!!いやしかし、そんな彼女があられもなく乱れる姿は………ふおぉぉぉ!!

っていかんいかん!!

と、とにかくだ!!変な事をしてはいないだろうな!?』


(ジジイといいコイツといい、馬鹿しかいねーのか屋敷の男には……)


向こう側で勝手に盛り上がっている男の声に、駿は心底呆れたようなため息をつくと受話器を耳に戻した。


「ある訳ねーだろ、俺と静は兄妹なんだよ。

年中頭沸いてるテメーが考えるような事は起きねーから安心しろ」


『ふっ、そうだろうな。

兄妹では恋愛対象になどならんか。つまり貴様は静さんから見て対象にすらなっていないという事だな。

俺とした事が、初歩的なミスを……』


駿の言葉を聞いた途端、急に声のボリュームが大人しくなり、まるで有利になって自分が数段上にいるかのような口調になった。




『しかし、従兄弟である俺はバリバリの対象!!

ここに、俺と貴様の決定的な差が存在する訳だ!!

永遠に埋まる事の無い差がな、はっはっは!!』


「ふざけんな。テメーみてぇなヤローに静を渡せる訳ねぇだろーが」


「ふっ、嫉妬か駿。

醜いぞ貴様の魂は!!」


(相変わらず面倒くせぇ……)


頭を掻きながら口元をひきつらせる駿。

声の主である怜夜という男は駿の従兄弟だという。


「とにかく、だ。

何も無ぇって分かったら屋敷で技とか使って暴れんのは止めろ。

綾姫にも迷惑がかかるだろーが」


『む?

そんな事を俺はしていたのか?』


「無意識かよ……」


きょとんとした返答に呆れを通り越してやっぱり呆れる駿。


『そうか。それは申し訳無い事を。後でしっかりと謝り、以後気をつけよう』


「ああ。そうしてくれ……」


至って真面目な声色が受話器から返ってくる。

最初の叫びから考えると頭のおかしい人間だと思えるが、今の返答からして根は真面目な人間のようだ。



『しかし、貴様から電話をかけてくるとは珍しいな。

俺という存在に恐れをなして敗けを認めにきたのかと思ったぞ』


「まぁ、テメーの存在自体知らないでおくに越した事は無ぇんだけどよ……」


駿は今日何度目かのため息を一つ、受話器を持ち直した。


「義母さんから電話があったんだよ。

ゴールデンウィークに帰って来いってさ」


『なるほど、優良(ゆうり)さんからか……

って待て、ゴールデンウィークに戻って来るのか!?』


「いや、静に聞いて大丈夫ならだけど」


まだ決まった訳では無い。

駿一人で決定出来る話では無いから当然だが。


『そうか、という事はあと一週間強で静さんと運命の再会が果たせる訳だ』


「いや、だからまだ……」


『こうしてはおられん!!

彼女が帰ってくるまでに更に技を磨き、強く相応しい男にならなくては……!!』


電話の向こう側では全く話を聞かずに一人で盛り上がっていた。


「おーい、聞いてんのか馬鹿」


『はっ!!

悪いが話している時間も惜しい!!

俺は今から修行をしに山に向かい月ノ宮流奥義を更に高める!!』


「んな事は聞いてねーよ」


『ふっ、次会った時はお前など片手で捻り潰せる程になっているだろう。覚悟しているがいい』


「…………」



そう言い残して、ガチャっと一方的に切られる。

しかしすぐにまた電話が鳴り響いた。


『ああ、忘れていた。

そ、その、静さんによろしくと伝えておいてくれ』


「………」


今度こそ電話を切られる。ツーツーと電子音だけが向こう側から聞こえてくる。



「はぁ……やっぱ帰りたくねぇ……」


ゆっくりと受話器を置くと、駿は深々と息をついた。




・・・・・




「本家に、ですか?」


「ああ、ゴールデンウィークに帰って来ないかって義母さんが」


台所で晩御飯の支度をする静とテーブルにコップやお箸を並べるなりして手伝う駿。

彼は先程あった電話の内容を伝えていた。


「何なら友達も連れて来てもいいとか言ってたぞ」


「なるほど……」


話を聞いた彼女は一旦手を止めて頷く。


「それは良いですね」


そうして嬉しそうに微笑んでみせた。

彼女もゴールデンウィークの帰省には賛成のようだ。


「久しぶりにお母さんやお爺様、皆様にも会いたいですし」


「ま、静が賛成なら決まりだな」


駿は並べたコップにお茶を注ぎながらコクコクと首を縦に振った。

静もご飯が完成したようでお皿に盛り付けをしている。


「ああ、後綾姫と怜夜からも電話があった。

静にもよろしく伝えといてくれって」


「綾姫さんと怜夜さんが?」


「ああ」


お皿をテーブルに運びながら聞き返す静。

途中で受け取った彼はそれらをテーブルに並べながら答える。


「お二人とも、お元気でしたか?」


「綾姫はいつも通り元気そうだったな。怜夜の面倒さはいつにも増してやがったけど……」


席についてダルそうにグテーと体を伸ばす駿。

そんな様子を見てクスクスと笑う静。


「怜夜さんはとにかく真っ直ぐな方ですからね」


「良くも悪くも猪突猛進なんだよ、あの馬鹿は」


クスリと微笑む彼女に駿は軽く首を振ってみせる。


(まぁ、その真っ直ぐさは全てお前に向かってるんだけどな………相変わらず気付いてないみたいだけど)


彼は静に視線を向けると、内心でそう付け足す。

が、すぐにそんな思いも振り払った。


「それより早く晩御飯食べよう」


「はい」


二人は席に着いて晩御飯を頂く事に。



とまぁそんな訳で、

月ノ宮兄妹はゴールデンウィークに本家に帰省する予定をたてたのだった。


人数はまだ未定。




 

まさか電話だけで一話丸々使ってしまうとは。



今回はまた月ノ宮側に二人キャラクターが出てきました。電話越しですが。



一人目は幼馴染みで“元”許嫁と称する『綾姫』

話し方が特徴的です。

実は前作にも登場していたキャラクターだったりします。


容姿は帰省した時に明らかになります。

また、駿との経緯もいずれ。



二人目は従兄弟称する『怜夜』

良くも悪くも猪突猛進なキャラクターです。


容姿は特徴は同じく帰省した時に。

また、電話越しに奥義がなんちゃらとか言っていましたが、それも含めて帰省時に明らかになります、多分。


電話でも叫んでいた通り、静に一途な感じですね。

色々な意味で馬鹿真っ直ぐな奴です。



二人は、ゴールデンウィークに登場します。

ゴールデンウィークの月ノ宮本家は今、駿と静の他にメンバーを考えているのでまだ完成はしていませんが。



次回は志摩君が色々と頑張るお話です。

どうかシスコン兄貴に勘づかれることなく頑張って欲しいです!



ではでは、次回もよろしくお願いいたします!!

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