第21話 一週間経てば取り敢えず生活も落ち着いてくる筈
今回は新君と湊ちゃんをプラスした学校という事で、いつもと変わらない一日の順を追っていく流れのお話です。
ただ、駿や静も学校に慣れてきたのでそろそろ一日の順を追っていく流れの話から一つのイベントに絞っていく話になっていくと思います。
生徒会、茶道部、クラスのドタバタとか色々。
取り敢えず体育祭まではグダグダやっていくと思うので、よろしくお願いします!!
駿と静が汐咲学園に転校してきて、今日で一週間。
始まりの月曜日である。
休みから心機一転、気持ちを切り替えて学業に勤しむ始まりの日でもある訳だが……
「うへ〜、こんなんじゃ英語の宿題終わらねーよ……」
朝の一年A組の教室では、
早速相也が机に向かって深々と嘆息をついていた。
「ま、確かに多かったもんなあの宿題」
「とはいえ、日頃からしっかりと宿題をやっていれば終わらない量ではありませんよ」
その様子を見ながら朝の生徒会を終えた駿と悠一は席に座っている。
「って、悠一はともかく!!
駿までやってんのかよ!?」
「その反応は何だよ」
「いやだって、提出物とか忘れてた事多かったじゃん」
「まぁ、確かに……」
駿が宿題をやってきた事にあからさまに驚いてみせる相也。
確かに彼はあまり提出物を毎回きっちり出す優等生タイプではない。
「昨日の夜は静と一緒に勉強させられてたから、終わっちまったんだよ」
「かーーっ!!」
その言葉に相也はペシペシと膝を叩いて立ち上がる。
「あの静ちゃんと夜、一つ屋根の下で寄り添ってお勉強!!」
「いや、全然違うからさ。逃げようとしたのにダメだったんだよ」
「言い訳無用!!
今や男子層に人気急上昇中の彼女と夜もイチャイチャってか!!」
「だから違……って、え?」
やたらハイテンションで叫ぶ相也に駿はため息をついて否定しようとしたが、引っ掛かる言葉があった。
「人気急上昇中?
何だそれ?」
そう、“人気”という言葉に首を傾げたのだ。
全く覚えが無いというかのように。
「ん?知らないのか?」
「何が?」
「静ちゃんの人気」
それに対して相也はさも当然という表情をするも、すぐに思い出したように首を振る。
「あー、そっか。
お前まだ来て間もないからな。ちょっとこっち」
「?」
相也は手招きして悠一の机の前に椅子を持ってきて座った。
駿もその二人の机の前に腰をおろす。
「中等部の男子には彼女、今人気急上昇なんだぜ?な、悠一」
「そうですね。
男子生徒が彼女の話をよく耳にします」
相也の言葉に悠一もコクりと首を縦に振ってみせる。
「何でまた……」
「何でって……お前なぁ」
怪訝な表情のままの駿にため息を一つ、相也は話を続けた。
「中等部でもトップクラスの美人でしかも転校生。
清楚で可憐でおしとやか。
聞き上手で男女分け隔てなく接する優しい性格とくりゃ……」
「まぁ、色々な方から人気が出てくるのは当然ですよね」
「………」
そうなのだ。
彼女は今や中等部の男子達の中でもかなり話題になっている。
転校生、という位置も狙いやすいとの事で尚更だ。
「中等部では既にファンクラブが出来始めてるって話だ。
それだけじゃない、高等部の奴等の中にも紹介して欲しいって奴が何人もいるくらいだからな」
中等部では人気どころかファンクラブが、更に高等部でも注目され始めているときた。
「……そっか。
まぁ確かに静は最高に可愛いし、ずっと抱き締めていたいくらいの妹だからな」
「「………」」
いつも通りのシスコン発言に取り敢えず顔を見合わせる相也と悠一。
「けど、それとこれとは話が別だ。
まず中等部の野郎共全員と高等部で静に目を付けた奴を血祭りにあげねーとな。
んじゃ、ちょっと行ってくるわ」
「待て待て待て!!」
ガタッと椅子から立ち上がって出口に向かう駿をギリギリの所で引き留める相也。
「冗談に聞こえないから!!」
「何言ってんだ。俺はいたって真剣だ!」
「尚悪いわっ!!」
何とか引きずり戻して席につかせる。
「まだラブレターとか告白とかされた訳じゃないんだから早まるなって」
「じゃあ告白してきた奴を片っ端からなぶり殺しに……」
「だからそっちの方に持っていくなって」
物騒な話を持ち出す彼にやれやれとため息をつく相也。
(静ちゃんの事になると性格が一変するな、駿は……)
(それだけ彼女の事が大切なんでしょう。
それに、飽きなくて面白いですよね)
(いや、そういう問題?)
再び顔を見合わせる二人。
今回は珍しく相也がツッコミ役になっている。
「とはいえ、あまり大事にすると静さんにも迷惑がかかると思いますよ?」
「う……それは」
落ち着いた悠一の言葉に痛い所を突かれたような表情をする駿。
「ですから血祭りにあげる時は僕にも声をかけて下さい。お手伝いしますから」
「いや何でそーなるの!?」
かと思ったら、彼は一転して駿に手を差し伸べてきた。
「助かる、是非頼む」
「ええ、お任せを」
「やめい!!
今のお前らはマジでやりそうだから!!洒落にならんから!!」
必死にツッコむ相也をスルーしてガッシリと握手する駿と相也。
「「という冗談は置いておいて……」」
「息ピッタリだなぁオイ!!」
何だか遊ばれている感の否めない相也。
因みに駿の方は割りと本気だったりする。
「とにかく、そういう話があるって事は頭の片隅にでも入れておく程度してはどうですか」
「ま、まぁまだ告白だとかそんな話は無いっぽいからな。そんなに気にする事は無いって。最近の男子は奥手な奴が多いし」
「…………」
何とかそうまとめる悠一と相也。
対して駿は考えるように怪訝な表情を崩さない。
「そんなに気になるなら静ちゃん本人に聞けば良いじゃん」
「え、いや……流石にそれは……」
流石に本人に直接聞くのは何というか、ちょっと躊躇われる話題だ。
もしかしたら怒られるかもしれない。
「ま、だったらあまり深刻に受けとんなって。
その時になったらまた考えりゃいいだろ、兄貴?」
「はいはい、分かったよ」
ちょっとおどけて言って見せる相也に駿も仕方なく肩の力を抜く。
「その時になったらどうやって潰すか考えるよ。
生き埋めか行方不明か、或いは」
「そういう意味じゃねーよ!!」
相変わらず物騒な話は尽きなかったが。
「朝から随分と賑やかだな」
「「「?」」」
と、教室の扉の方からそんな声が聞こえてきた。
見ると、男子生徒と女子生徒の二人教室に入ってくる。
「おー、新に湊ちゃんじゃん!久しぶりー」
「おや、新に湊さん。
おはようございます」
「悠一、相也。
おはよう」
「おはようございます、悠一君、相也君」
それは黒髪の男子、朱月新とポニーテールの女子、朱月湊だった。
確か二人も彼等と同じA組と言っていた。
その事を思い出した駿が立ち上がると、それに気付いた新が彼の方に顔を向ける。
「やっぱり駿か。
一日ぶりだな」
「そっか、二人とも同じクラスだったんだよな」
「はい、おはようございます駿君」
三人はお互いに挨拶を交わす。
「あれ、駿と二人って知り合い?」
「ああ、実は……」
その様子に当然疑問を抱く相也達。
なので新の方から先週の土曜日にあった事を簡単に説明した。
「へぇ、なるほど〜」
「それはまた偶然でしたね」
話を聞いた二人は少し驚きながらも頷いた。
同じ日、同じ時刻に兄妹と姉弟が互いに出会うとは、世間は狭いなと。
「しかし、ブラコンとシスコンな朱月姉弟がこのタイミングで戻って」
相也がそう言い終わらないうちに、新と湊のハイキックが炸裂していた。
「誰がシスコンだ……」
「誰がブラコンですか……」
思い切りひっくり返る相也。悠一は『相変わらず息がピッタリですね、と感心している』
「い、いきなり何すんだよ!!」
「「変な事を言う相也(君)が悪い(です)」」
胸を押さえて起き上がる相也に二人はサラッと返す。
「だ、だって二人ともそうだろ?
新は湊ちゃんに言い寄る男共を追い払ってるし、湊ちゃんは新がモテて告白される時は落ち着きが無くな……」
「「余計な事を言うな(言わないで下さい)!!」」
「ぶべらっ!!」
今度はダブルローキック。
敢えなく相也は地面にひれ伏せさせられた。
彼の扱いが気の毒なのは気のせいでは無い気がする。
「つーか相也」
「うう……駿。
慰めてくれるのか……?」
「いや、そうじゃなくて」
足を摩りながら泣く泣く立ち上がろうとする相也に駿はちょいちょいと机の上を指差してみせた。
「お前、英語の宿題ほったらかしていいのか?」
「あああああ!!
忘れてたぁーー!!」
多分今までで一番大きな嘆き声を上げて、机に覆い被さる勢いで座る相也。
「朝から賑やかだねー!」
「というか、今の叫び声は一人しかいないだろうがな……」
今度は二人の女子生徒が教室に入ってきた。
明るい笑顔の晴香とため息混じりの紫だ。
「あ、ミナミナにあっ君だ!お帰りー!」
「朱月に湊、久しぶりだな。元気そうでなによりだ」
「あ、紫ちゃん、晴香ちゃん。おはようございます」
「神代、天城、おはよう」
晴香達は新達に気付いて挨拶をした。
姉弟も二人に気付いて笑顔で返す。
「しかし随分と騒がしかったな。特に篠田の奇声は廊下まで筒抜けだったぞ」
「「あ、ははは……」」
鞄を机の上に置くて口にする紫に、新と湊は思わず苦笑い。
悠一はいつも通りだと肩を竦めてみせる。
「あれ?
しのっち、泣いてる?」
「泣いてるな」
「泣いてなんかないやい!!」
晴香と駿の言葉に相也はひぃひぃ言いながらペンを動かしていた。
・・・・・・・・
お昼休み。
駿、相也、悠一、新の男四人は学食で買ったパンを手に机を囲んでいた。
今日は教室でお昼ご飯である。
「しかしアレだね〜。野郎四人で昼飯とか色気ないよね〜」
「食事にんなもんいらねーだろ」
ため息を吐くかのように呟く相也。
駿はそう返して、千切ったパンの欠片を口に放り込んだ。
「んな事ねーよ。
可愛い女の子がいるってだけで飯の美味さは何倍にもなるだろうさ!誰しも心の中では密かにそう思ってる筈だ!!なぁ皆!?」
「だったら、中庭にいるあの女の子達の輪の中に入ってこいよ」
ガタッと立ち上がって三人に問いかける彼に、新は親指で窓の外を指してみせた。
一階の窓から見える中庭では丸ベンチに5〜6人の女の子が仲良くお弁当を食べている。
「出来るかーー!!
そんな勇気と度胸があればとっくに彼女の一人や二人、作っとるわっ!!」
((力説されても……))
今にも机を叩かんばかりの気力を見せる相也だが、そんな事を堂々と言われても困る。
「まぁ、相也はヘタレですから無理ですね」
「誰がヘタレだっ!!
モテるお前には俺のセンシティブな心は分かるか!!」
「はいはい」
「流された!!」
とまぁこんな感じで男四人はワイワイと昼飯を食らう。
因みに晴香、紫、湊は学食に行っている。
晴香が『今日は女の子だけで』と言ったのが理由だ。
「しかしお前らは本当に羨ましいよなー」
「「?」」
パンを一切れ、口に含みながら相也は駿と新の二人に目を向けた。
パックのお茶をストローを啜りながら首傾げる駿達。
「だってよー、新にはあんな美人なお姉さんがいるしさ。駿にはめっちゃ可愛い妹がいるじゃん?
だーー!!もうめちゃくちゃ羨ましい!!」
「ふっ、まあな……
俺は最高に幸せな兄だからな」
「お前のそういう所、素で凄いと思うよ……」
ペシペシと膝を叩いて羨ましさを表現する相也。
駿は得意満面でそう言ってみせるのに対し、新は色々な意味で感心していた。
色々な意味で。
「それで?
結局相也は何が言いたいんですか?」
「俺も可愛い姉か妹が欲しい!!
この二人みたいにシスコンと呼ばれてもいいから欲しい!!
『相也』って呼ばれたい!!『兄さん』って呼ばれたいんだーー!!」
欲望全開、馬鹿丸出しの高校一年生だった。
二人の環境を見れば気持ちは分からなくもないが。
「誰がシスコンだっ」
「痛っ!」
ポカッと相也の頭を小突く新。
対して駿は……
「そんなに誉めるな。
でも出来れば超ド級のシスコン以上と言ってくれると……」
「「………」」
やはり馬鹿丸出しだった。、いや、妹馬鹿全開だった。
・・・・・・・
お昼でお腹も膨れ、体温も下がりがちな眠たい時間帯も頑張って授業を受けてようやく放課後に。
「毎回毎回省略し過ぎじゃね?」
「何の話をしているんですか?」
天井を見上げて呟く駿ににこやかにツッコむ悠一。
「んにゃ、なんでも。
それより、放課後は生徒会だよな」
「ええ。ですが僕は少し職員室に用事があるので、生徒会室には先に行っていて下さいますか?」
「ああ、分かった」
少し時間のかかる用事なのか、悠一の言葉に彼は軽く頷いてみせた。
「さて、取り敢えず教室を出よーぜ」
「だね」
相也と晴香も立ち上がって四人は窓側から教室の出口に向かう。
「新、今日から剣道部ですよね?」
「ああ。だから姉さんは先に帰ってて。
帰り道には気をつけてよ」
少し離れた席から新と湊が会話をしながら三人の方に歩いてきていた。
新は剣道部所属なのでこの後練習なのだ。
「朱月、練習前に久しぶりに打ち合うか」
「おう、ソイツは望む所だ。悪いが負けない」
「ふっ、今回は勝つ」
後ろからきた紫の言葉に彼は大きく頷いてみせた。
心無しか視線に火花が散ったような気が。
「では、皆。
また明日な」
「姉さんも気をつけて」
紫達は一行に別れを告げて、一足早く剣道場に向かっていった。
駿、相也、悠一、晴香、湊の五人も教室を出て廊下を歩き始める。
「朱月は部活には入ってないのか?」
「ええ、私は炊事の用意やお風呂の用意をしないといけないので……」
「そか……」
確か朱月姉弟は二人暮らしで家事を分担しているといっていた。
不意に彼の頭に浮かぶのは疑問。
“どうして二人暮らしなのか”
(………いや、今聞く事じゃないよな)
口まで出かかったその言葉を押し戻す。
その環境に何かしら事情があるのは明白だが、それをこちらから聞くのは野暮というものだ。
自分達の状況もまた然りなのだから。
「ミヤミヤとゆっ君はこの後生徒会だよね」
「っと、そっか。
んじゃここでお別れだな」
晴香と相也の言葉で一行は立ち止まる。
少し先に行くと帰宅生徒の向かう下駄箱だが、駿達はこの後は生徒会なので校舎から西側校舎に向かわないとならない。
二人の言葉を聞いた湊は両手を併せて駿の方を見た。
「駿君も生徒会に入ってたんですか。
凄いですね」
「まぁ、成り行きで……」
本当に成り行きだから別に凄くはないのだが。
とにかく駿と悠一は帰宅する晴香達三人と別れる事に。
「じゃ、また明日ね!ミヤミヤ、ゆっ君、しのっち。
ミナミナ、一緒に帰ろ?」
「俺も一緒に帰らせてくれよ!?」
「クスクス」
三人はそんなやり取りを交わしながら下駄箱へ。
駿と悠一はそのまま階段を上がり高等部校舎を移動して西側校舎へ。
「では、また後で」
「おー」
悠一は少し職員室に用事があるとの事で、駿は先に生徒会室に向かう為に一人、廊下を歩いて行く。
さて、のんびり歩いて階段があるホールまでたどり着くと……
「兄さん」
「あ、静」
同じく生徒会室に向かう静と出会った。
彼女は中等部校舎からこの西側校舎に直接来たようだ。
「これから生徒会ですよね?」
「他に部活も入って無いからな」
静はゆっくりと寄ってくると、彼の横に並んだ。
三階にある生徒会室を目指して、二人は肩を並べて階段を上がっていく。
(そういや今朝の話……)
隣を歩く静を見て、彼は不意に今朝の出来事を思い出す。
“男子には彼女、今人気急上昇なんだぜ?”
“中等部では既にファンクラブが出来始めてるって話だ。
それだけじゃない、高等部の奴等も情報を知って紹介して欲しいって奴が何人もいるくらいだからな”
(………)
それは相也が今朝話していた静の男子達の評価の事である。
(確かに贔屓目を除いても、静は美人で優しくて性格は勿論、気立ても器量も良い。勉強もスポーツも家事だってそつなくこなせる、文句無しの才色兼備な妹だ)
隣にそっと目を向けながら自分の妹の事をわりと客観的に評価する駿。
確かに人気が出ない理由は無い。
(ああ……何か軽く落ち込んできた)
それに比べて自分ときたら、そう考えると思わず肩を落としそうにもなる。
何から何まで正反対なのだから。
「兄さん?」
「あ、え?」
気が付くと彼女は少し不安そうに彼の方を見つめていた。
「どうかなさったんですか?具合でも……」
「あ、いやそうじゃ無いんだ。ちょっと気になった事があるような……」
「気になった、ですか?」
具合が悪いのかと心配する静に彼は慌てて否定してそう口にするが……
(って、ちょっと待て)
ハッと気付いて思い留まる。そして心の中で自問自答。
(彼女に直接聞くのか?
いや、それ以前に何て聞けば良いんだ?
いやいや、それ以前にそんな事をいきなり聞いて良いのか?)
“ラブレターを貰ったのか”
“告白をされたのか”
そんな話をいきなり彼女にしても。
何の前触れも無く尋ねる事はどうしてか、やはり躊躇われる。
(………何だか怒られそうだし、本人に聞くのは止めておこう)
暫く考えて、彼は心中でそう結論付けた。
今、そんな話題はしないでこおくと。
ただ兄として、妹が変な男に言い寄られないように気をつける気持ちは今まで以上持っておこうとも考えておく。
とはいえ……
「兄さん?」
「え……?」
「いえ、ですから気になった事があると……」
“気になった事”
彼女にそう口走ってしまったのは事実な訳で。
駿が心の中で話を自己完結させた事など知る由も無い。
「あ、あ〜……
えっと、さ」
故に、今求められるのは上手い誤魔化し方だ。
とにかくテキトーな他の話題を振れば良い。
だというのに……
「や、八雲先輩って、恋人とかいるのかな?」
「………」
コイツは誤魔化し方も最悪だった。
咄嗟に考えるとはいえ、よりにもよってそんな話を持ち出してくるとは。
「……居なければどうするつもりなんですか?兄さん?」
グッと顔を覗き込むようにして尋ね返す静。
ジーっとジト目で彼を見つめてくる。
「い、いや……今のは間違いというか、咄嗟に出てきてしまった言葉というか」
駿は狼狽えながらも何とか今の失敗を何とかフォローを試みようとするも……
「へぇ、兄さんは咄嗟にそんな事ばかりを尋ねるんですね」
「う……」
グサッと言葉が矢のように胸に突き刺さり、一刀両断された。
「………兄さんのばか」
彼女は聞こえないくらい小さな声でそっと呟くと、プイっと顔を背けて先に階段を登っていってしまう。
「あ、静さん?
すみませんちょっと待って……いや、あのホントごめんなさい」
その後を慌てて追っていく情けない兄だった。
因みに……
口にしてみて、意外と純粋に気になる話ではあったので。
駿が八雲本人に直接聞いてみると……
「八雲先輩って恋人とかいるんですか?」
「いないわよ〜」
にこやかにそう返してくれたとか。
相也
「にしても、いつもと変わらん話だったなー」
晴香
「そろそろ話の形式も変えてくると思うけど……」
相也
「ま、毎回毎回一日の流れじゃつまんないもんな」
晴香
「それにしても、やっぱり静ちゃんはモテるんだね〜」
相也
「この話、今後の学園で色々と入ってくるから今回冒頭に入れたんだと」
晴香
「主にミヤミヤのシスコンな暴走に関する話だと思うけど」
相也
「だろーねぇ……
ま、賑やかで留まってくれれば良いけど」
晴香
「それで?
次回は何の話?」
相也
「掃除の話」
晴香
「え?なにそれ?」
相也
「ま、一日の流れじゃなくて一つの出来事に絞った話みたい」
晴香
「何かへんな事に話を絞ってない?」
相也
「いーのいーの!
そんじゃま、次回もよろしくお願いしまーす!」