第10話 その展開は得てして唐突である
今回は二話同時投稿しました。
放課後と帰宅後の二話です。
といっても、二話目はおまけ程度のお話ですが。
どうか両方ともよろしくお願いいたします。
では、始まります!!
「二人とも、生徒会に入らない?」
「「………え?」」
それは唐突に。
呼ばれて生徒会室に来た二人に、生徒会長であるもみじは突然そう口を開いたのだ。
“生徒会に入らない?”
その意味を理解しかねる兄妹は暫く首を傾げていたという。
第10話 その展開は得てして唐突である
「えっと……生徒会に、ですか?」
「うん!」
困若干惑気味の静にもみじは元気良く頷く。
やはりまだ話が見えない。
「会長。順を追って説明しないとお二人共困っていますよ。
というか、僕も初耳なので説明をお願いします」
「あ、そうだね。
ゴメンゴメン」
どうやら悠一も会長の考えは知らなかったようで、駿達を連れて来たらしい。
もみじは可愛らしくペロッと舌を出して駿達に向けて両手を併せる。
(ぐはっ、何と可愛らしい仕草……!!
これはどんな男子でも全力で許しざるを得ない!!)
馬鹿が勝手にダメージを受けていたがそれは置いといて、もみじは続ける。
「さっき、私達生徒会は私と八雲ちゃん、悠君の三人だって言ったよね」
「はい」
「それって、とっても少ないと思わないかな?」
「それは……」
もみじの言葉に静は曖昧な返事で返す。
素直に頷くのはいささか失礼に当たると考えたのだ。だがやはり、生徒会がたった三人というのは少ないもので。
生徒会執行部と言えば会長に副会長、書記に会計と四つくらいは役割があって、書記と会計は学校にもよるが二名ずつ位が妥当な所だろう。大体六名といった所か。
しかしこの学園の生徒会は三名……
「ホントはね、私達の他に後二人居たんだけど、ちょっと前に止めちゃったんだ」
「そうだったんですか。
でもどうして二人も?」
「うん。やっぱり皆都会が好きみたいだから。
都心の方に引っ越しをしちゃったんだよ。
ここはまだまだ田舎の方だからね」
少し前まではこの生徒会にももう二人程役員が居たようだ。
だが、ここは都心からは大きく離れた沿岸の街。
設備はしっかりとしていて綺麗な街並みだが、日本の中心から見ればまだまだ田舎と見られてしまうのだろう。
若者ならば少なからず都心に憧れるもの。
この街を好きな人は沢山いるが都心に行きたがる人も同じくらい多いのだ。
「勿体無いですね。
凄い良い街なのに」
駿はそれを聞いてポツリとそう呟いた。
それは素直な感想。まだこの街に来て間もないが、周りの人々の人柄や街の空気、風景を見ただけでもここは素晴らしい所だと。
まだ知らない事も多いのに、自然とそう思ってしまう。
静も微笑んで『私もそう思います』と頷いた。
「駿君や静ちゃんがそう言ってくれて私も嬉しいよ!私もこの街、大好きだから」
「私もよ〜」
「僕もですよ」
その言葉にもみじは本当に嬉しそうに目を輝かせる。テーブルに座っている八雲と隣に立っている悠一も頷いてみせた。
「あ、それで話を元に戻すね。
二人が抜けちゃった生徒会だけど、今も何とか頑張ってやってるんだよ。
悠君は毒舌だし、八雲ちゃんはふわふわ〜ってしてるし、おやつパーティー楽しいし」
「仕事に関する事が一つも無いですがそこは敢えてツッコまないようにするっス」
ニコニコと微笑んで言うもみじに駿は若干苦笑してみせる。
この話を聞いただけでもこの生徒会はかなり愉快なのだと思う。
「でも、前に居た二人の分まで仕事が増えてちょっと大変かなーって思ってたんだ。
だから、そろそろ新しく役員を集めようって考えたの」
「それで……俺達を?」
「そーゆう事!
駿君鋭いね!」
駿の言葉に大きく首を縦に振るもみじ。
確かにたった三人で生徒会の仕事をこなすのはかなりハードだろう。というか今までやってこれたのが凄いと思う。
「でも、勝手に役員なんて決めて良いんですか?
そういうのって、何か選挙とかがあるんじゃ……」
「ううん。
生徒会は会長と副会長は選挙だけど、後の役員は会長にどうするか一任されるの。選挙にしても推薦にしても」
なるほど、校風にも自由と自主性というだけあってそういう所も生徒が任せられるらしい。
しかし、駿と静を誘うにしても疑問は残る。
「ですが、私達で良いんですか?まだこの学園に来て間もないですから、学園の事もよく分かりませんし……」
そう。
この二人は三日前に学校に来たばかり。まだ右も左もよく分からない状況なのだ。
そんな二人が学園を統括する生徒会に入って大丈夫なのか。
静の疑問も最もである。
「だから、だよ!」
「「え?」」
だが、もみじはふるふると首を横に振ると、二人を交互に見てニッコリと微笑んだ。
「転校してきたばかりの二人だから、お願いしたいのですよ」
「「?」」
“転校してきたばかりだから”
その言葉の意味する所が分からずただキョトンと首を傾ける兄妹。
「あ、でも別に強制してる訳じゃ無いからね。
勿論無理なら断ってくれて良いよ?」
「「………」」
もみじは両手を振ると慌ててそう付け足した。
しかし、二人は顔を見合わせると軽く頷き合って……
「分かりました。こんな私達でよければお手伝いさせて頂きたいと思います」
「ホント?」
答えたのは静だが、その意思は兄も同じのようでもみじの問い掛けに頷いている。
「ありがとね!
駿君、静ちゃん!」
「あ、いえ……そんな」
彼女は満面の笑みを浮かべて静の左手と駿の右手を両手で包み込むとお礼を言った。
「これで仕事も分担出来るし、駿君や静ちゃんと楽しくお話ししたり、今までよりもっと楽しくおやつパーティーが出来るね!」
「後半の方が本音のような気がしますけれど?」
「えへへ」
喜んでそう口にする会長に悠一の冷静なツッコミが入る。
どうやら図星だったようでもみじは恥ずかしそうに笑ってみせた。
「可愛らしいんで全然オッケーですもみじ先輩!!」
「ありがとー!駿君!」
「兄さん……」
駿はまた顔をだらしなく緩ませてそう言うと、もみじは彼に天使のような笑顔を向けてくれる。
すかさずジト目の静が彼を注意するように声をかけたのだが。
因みに“全然”は否定文で使うものだ。
「二人は何か部活に入る予定はある?」
「いえ、俺はまだ考えてないですけど……」
話変わって、彼女は二人にそんな事を尋ねた。
駿は全く考えていなかったのか首を横に振るが……
「えっと、一応茶道部に見学にいこうかなと。
お友達に誘われていて」
静は違うようだ。
友達、恐らく初日に出来た女の子だろう。
彼女も確か茶道部といっていたか。
「そっかそっか。
でも大丈夫、基本的に毎回放課後にあるけど部活がある時は抜けて全く問題無いし、普段の仕事は比較的少ないからすぐに終わるからね。
忙しいのは体育祭とか文化祭とか、行事の前とかかな」
部活に入っていると生徒会は大変ではないかという心配も無いようだ。
「はい。でも茶道部も頻繁な部活では無いようなので大丈夫だと思います。
分からない事も多いですが頑張ってお手伝いさせて頂くので、兄共々よろしくお願いします、もみじ先輩」
丁寧に頭を下げると微笑む静。
これで本人達の意思も決まり、もみじの推薦もあって晴れて二人が生徒会に入る事になったようだ。
「ありがとー!!
うんうん、やっぱり静ちゃんは良い娘だね!
きっと素敵なお嫁さんになるよ」
「そ、そんな事ありません……!!」
もみじは静の両手をとって改めてお礼を言った。何故かお嫁さんという単語まで飛び出してくる。
それを聞いた静が誰を見ていたかはご想像にお任せしよう。
因みに……
(静が茶道部か……
という事はいつもとは違う和服姿の可憐な静が!?
これは絶対見に行かなくては……!!)
駿は相変わらずのシスコン全開だった。
「それじゃあ、早速駿君と静ちゃんの仲間入りを祝してお茶会にしよー!」
「ふふ、私もお茶会は大好きよ」
という訳で早速始まったのは生徒会のお茶会だった。もみじの掛け声に八雲は嬉しそうに両手を併せる。
いつもこんな調子なのか、二人は慣れた手付きで棚からカップを並べたり、クロスを広げたりと用意したりしている。
「仕事は良いのか?」
「ええ、今日は特にありませんから」
本日は生徒会の仕事は無いようだ。
駿がそっと尋ねると悠一は軽く頷いていてみせる。
「基本的に放課後は暇な事が多いですから。朝で終わるものがほとんど。
大変なのは先程も言った行事前と大きな休みの前、新学期の前等ですね。
ですから、用事がある時は顔を出して頂くだけでも大丈夫です。
ですが忙しい時は是非、お願いしますね」
「ああ」
「分かりました」
基本的に生徒会役員としてこの部屋に入ればそれでオーケーのようだ。
まぁ毎日死ぬ程忙しい活動をしていたらそれはそれで大変だが。
「いや、毎日先輩方と楽しくお話ができるなら喜んで生徒会役員として毎日活動するさ!!」
「じー……」
「も、勿論静とも!」
目をキラキラさせてそう宣う駿だが、ジト目の静に視線を送られて慌てて訂正。
本当にアレな兄貴である。
「兄さんがご迷惑をおかけしないように、私も出来る限り来ますから」
「ははっ、まさかそんな……」
キッパリとそう言う静に若干目を反らしながら苦笑する駿。
存在自体が迷惑にしかならない奴が何を言う。
「それはあんまりじゃありませんか!?」
「兄さん?」
「駿?」
「いや、何でもない」
天井にツッコミを入れた彼は悠一と静の不思議そうな視線をコホンと咳払い一つ、誤魔化した。
「因みに、俺達はいつから生徒会に行けば?」
「明日というのは急過ぎると思いますから、明後日の朝からお願い出来ますか?」
「分かった。明後日からだな」
恐らく手続きとか書類のあれこれとかもあるのだろう。
二人が生徒会役員として顔を出すのは明後日からのようだ。
「準備出来たよー!」
「ふふ、とっても楽しそうね〜」
と、長テーブルの方からもみじが手を振っていて、八雲が楽しそうに頬の側で両手を併せてした。
テーブルの上にはコースターに乗ったカップが五つ、花柄の包みが敷かれたバスケットの中にはクッキーがあった。
お茶会の準備は万端なようだ。
という訳で悠一、駿、静はテーブルの席につく。
八雲に続いてもみじもゆっくりと座った。
「ではでは、駿君と静ちゃんの生徒会入りを祝して……かんぱーい!!」
かと思ったら、彼女はサッとティーカップを掲げてみせた。
というかお茶会の席で乾杯って。
「かんぱ〜い」
「会長、紅茶の席で乾杯は無いと思いますよ」
ニコニコと微笑んで乾杯の言葉に乗る副会長の八雲とやはり冷静にツッコむ書記の悠一。
「確かに……でも何でだろうな」
「ふふっ……」
彼のツッコミに納得しつつもその理由に首を傾げる駿と可笑しそうにクスリと笑う静。
というか……
「あの、俺達は一体何の役職なんですか?」
「それはなってみてのお楽しみだよ駿君!」
こうして、賑やかな放課後は過ぎていくのだった。
次回予告は次のおまけの後書きで!